無自覚にヒロインを沼らせるソシャゲの凡人(自認) 作:ヘルダイバー睦月
そろそろ確信を持って言えるのだが、どうやらこの世界は俺が前世ちょっとだけやっていた現代ファンタジーソシャゲ「リミナル・アルケミー」の世界に酷似しているのだ。
タレントと呼ばれる人々を使役して、様々な異界を探索する。
主人公はスポンサーと呼ばれる錬金術師なわけだが……。
まぁ、流石に5歳児ではなかった。
つまりあと10年は原作が始まるのに余裕があるわけだ。
と言ってもこの世界は恒常的に異界やら異変が発生するみたいだからな……。
止めようと思って止められるもんでもないんだよな。
基本、拠点の治安維持が目的のゲームだったし。
そもそもちょっとだけしかやってないから、大して内容知らないし。
俺の原作知識無双、早速終了である。
したかった……! 原作知識無双……!!
なんてことをハチに愚痴っていたら、「とりあえず勉学に励めば良いのでは?」とありがたいことを言われた。わかってるってばよ……。
さて、ふわふわ銀髪錬金術師のスノウ・グレイトフル教授に認められた俺は、なにやら準備をして列車に乗ることになった。
ただの列車ではない。大陸横断鉄道である。
「アイリス錬金学院はセントリアという大国にあるのさ」
列車の部屋に荷物を持ち込んで、ようやく一息ついた師匠が言う。
曰く、セントリアはこの近隣にある国々の中央にあり、中立地帯となっているそうだ。そういう細かい設定は知らないから助かるね。助からない?
「へぇ~~何時間ぐらいかかるんですか?」
「1~2日程度だよ」
「日単位なんだ……」
スーツケースを列車の網棚に置いて、ソファに座る。
与えられた部屋はさながらホテルの一室であった。
寝台特急というものに近いだろうか。ミステリーならば一事件起きそうだ。
そういえばベッドは2つだけど……。
「師匠、もしかして同室なんですか?」
「なにか問題ある? ませてるなぁ」
ベッドに座りながらニヨニヨと笑う師匠。そりゃあ俺はまだ5歳児だけどさぁ。
この人何歳なんだろう。見た目通りの年齢じゃないことはたしかだが……。
「部屋でゆっくりしていてもつまらないね。食堂車にでも行ってみようか」
「おお! 面白そうですね!!」
「色々頼んじゃお!!」
というわけで、俺たちは食堂車へ向かうことに。
置かれている複数のテーブルはさながらレストランのような感じ。
まだ列車も出発していないのにお客さんもそこそこにいた。
「いいですね。師匠は何頼みます?」
「ん~~? 僕は冷たいものにしようかな」
「じゃあ俺は朝食になりそうなもので」
そんなわけで適当に師匠に頼んでもらうと、キッシュというパイみたいな食べ物とドリンクがやってきた。師匠は……朝っぱらからパフェのようだ。ちゃんと飯を食え。
もくもくと食べる……あまり会話がない!
なんだよ、5歳児から話題振らなきゃいけないのかよ。
「学院ってどんなところなんですか?」
「ん~~? 愉快なところだよ」
「ど、どんな風に」
「危ないものがいっぱいあるよ」
それは愉快と言えるのだろうか。
この師匠、もしかして変な人なのか?
プレイした範囲内では出てこなかったからわからない……。
もっとやっておくべきだったな、あのソシャゲ。
などと考えながら、キッシュを食べていると……。
「はい、あ~~ん」
……突然、パフェが乗ったスプーンをこちらに差し伸ばしてきた。
それ、口をつけたやつじゃないんですか。関節キスでは……。
「あ~~ん?」
小首を傾げてくる。何だよ、食べろってことかよ。
仕方ないので口を開くと、スプーンをそのまま突っ込まれた。
「美味しいかい?」
そんだけニコニコと微笑まれたら気にすることもできない。
俺は「ほぃひぃです」とだけ言って、口の中のアイスを飲み込んだ。
甘い。苺のすっぱさもあり、最近の果物をふんだんに使ったパフェだと理解できた。
やがて列車が出発し、ゴトンゴトンと定期的に響く音と、窓を流れる景色が続いた。すっかり食事を終えた俺たちは食後のドリンクを飲みながらそれを見つめる。
すっかり街中を過ぎると、田畑ばかりが窓の外に広がっていた。
異変が始まったのは、そんな頃だった。
突然、視界の色が無くなり、モノクロになる。
俺と師匠だけが残り、他の観客たちは消え失せた。
まるで始めっからいなかったかのように。
「へぇ、いまどき僕を狙うような命知らずがいるとは思わなかったよ」
師匠がそう言うと、車両の扉が開き、歪な黒服どもが入ってきた。首から下は成人男性のそれだが、頭部はまるで黒い風船のようになっており、パンパンに膨らんでいる。次の瞬間、それは更に膨れ上がり、巨大な爆発を生み出した。
「でも、こんな程度じゃやられてあげないね」
しかし、師匠にも俺にも傷一つなかった。
気づけば俺と師匠の周りには氷のドームが作られており、それによって爆風が防がれたからだ。幸い、車両にも何のダメージもなさそうだ。
「な、なんですか!?」
「刺客だね。学院の教授となれば狙う者も多いんだよ」
そう言って、師匠はテーブルにあったティーポットを掴むと、地面にそれを流した。
もしかして毒でも入っていたのかと思ったが、違うようだ。
師匠は次に手からメダルを一枚、足元の水たまりに落とした。
「────錬成」
水たまりから現れたのは氷の豹。
その大きさはハチの約2~3倍程度といったところか。
かなり大きく、人すら上に乗れそうだ。
「それじゃあ、早速授業だ。教えてあげるよ。錬金術師の戦い方ってやつをね」
次々と扉か出てくるさっきの風船男。
しかし、氷の豹が飛びかかったと思えば、それらは氷像になり、そして豹自身によって砕かれた。
「錬金術師というのは基本的に従者を駆使して戦うものだ」
師匠が立ち上がる。どうやら着いてこいと言っているようだ。
俺もハチを影から出しつつ、ついていくことにした。
ハチがどれぐらい戦えるかはわからないが、5歳児よりはマシだろう。
「師匠、それでこの空間は?」
「異界、結界、リミナルスペースとも言うね。最近の子に合わせるならば”領域”とでも呼ぶべきかな? ああ、とはいえもちろんいくつかの効果があるけれど────取り込まれたからと言って詰むほどではないよ」
某漫画と違って必中必殺ではないのは助かった……! まぁ、あんな爆弾男どもを突っ込める辺りかなり不利な状況なのかもしれないが……。
雪豹を先頭に進んでいくと、並んでいる部屋からまた爆弾男が出てきた。
今度はちゃんと武装している……っていうか奥にガトリング砲持っているやつがいないか? 撃つつもりか、あいつ……!!
「下がってて」
ドドドドドドド!! と数多の弾丸が射出される。
その直前に師匠がメダルを数枚、雪豹に飛ばした。
雪豹の形が作り変えられ、現れたのは氷の障壁。
それがガトリングの弾丸を全て防ぎ切る。
れ、錬金術師ってクソ強いな!?
「じゃあこれ、返すね」
師匠の手からメダルが射出される。
投げたのではなく、射出。何かしらの術なのか。
それが障壁に入ったかと思えば、今度は埋まっていた弾丸がまるで時間を巻き戻すかのように爆弾男たちへと撃ち出される!
「フゥン、向こうも銃弾なんて効かないようだね」
しかし黒服がぼろぼろになっただけですぐさま元の体勢に戻る爆弾男たち。
それを見て、師匠はパチンと指を鳴らした。
次の瞬間、銃痕から凍りついていき、爆弾男たちはまた氷像になってしまった。
障壁が雪豹へと戻る。これでもうこの車両は終わったか……?
「ざっとこんな感じ。理解できたかな?」
「いやいやいや、ハイレベルすぎて……」
「次の車両は任せちゃうよ」
「ええ!?」
『ふん、任せておけ』
ハチはやる気満々だが、俺はちょっとばかし心細い。
とりあえずメダルを生成しておいて……。
そもそも俺、メダル射出できないんだよな。
あの射出する術教えてほしい……!!
爆弾男鉄道編、次回に続きます
セントリア アイリス錬金学院があるらしい。中立地帯を謳う大国だそうだけど……。
大陸横断鉄道 国家間を移動する車両。なかなかに便利だが移動に数日かかる。