フェリックス・ミッターマイヤーは庭師になった   作:シロン茶

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フェリックス・ミッターマイヤーは公園を作る その3

夜明け前のハイネセンは、底冷えのする闇に包まれていた。熱という熱をすべて奪い去られたようだった。

 

旧ラグプール中央刑務所跡地・第三工区。

作業員たちは誰一人声を出さず、息を止めたまま一点を見つめていた。投光器の冷たい白光だけが煌々と輝き、すべての自動作業は停止している。

フェリックス・ミッターマイヤーはゆっくりと穴に近づいた。

現場主任が、苦渋を滲ませた顔で待っていた。

 

「……十二体目ですよ、設計主任」

 

黒く炭化した人骨が、掘り返された地層から露わになっていた。焼損した手首に、溶けかけた識別タグが溶着している。

 

作業員たちは、穴から数メートル離れた「目に見えない境界線」の向こう側で立ち尽くしていた。誰も近づこうとしない。

 

「センサーがロックをかけてまして」

 

現場主任の声は掠れていた。

 

「自動作業ができません。また工程が遅れますが、その……」

 

恐る恐るといったふうに言い訳する現場主任へ、フェリックスは淡々と言った。

 

「分かっている。君のせいではないのだから、無意味な説明をしないでくれ」

 

一人の若い作業員が耐えかねた叫びのように言った。

 

「土がまだ熱い。触ると指先が焼けるんだ。三十年経ってるのに、死者の無念が土に熱を残してるんだ」

 

フェリックスは無言で穴に降り、膝をついた。手袋を外し、素手で泥を掴む。確かに、微かな残熱があった。それは化学反応の残滓に過ぎない。

 

「ここはまだ、上を歩いちゃいけない場所なんです……」

「掘り返しちゃいけなかったんだ」

 

「おい、何を言っている!」

 

現場主任が一歩踏み出しかけた。

 

「君は下がっていてくれ」

 

フェリックスは立ち上がり、冷ややかに命じた。

 

「安置所へ移送。記録班は位置情報と三次元解析データを残せ。自動システムは当該区域を完全ロック。手作業で進める」

 

命令は正確で、感情を一切含まなかった。

作業員たちの間に、重く冷たい沈黙が落ちた。現場主任が、絶望に近い目でフェリックスを見下ろした。

 

「……あんたは、本当に血が通ってるのか? 皇帝の命令さえ遂行できれば、俺たちが何を恐れてるかなんて、どうでもいいのか」

 

フェリックスの眉が、わずかに、しかし硬く跳ねた。

 

「ここはまだ『燃えたまま』だ。ならば、物理的にその熱を取り除くしかない。機能する空間を作るのが私の仕事だ。工区の責任者を呼べ」

 

フェリックスは泥のついた手をハンカチで拭った。

 

第三工区は、いつの間にか「呪われた区画」と呼ばれるようになっていた。

掘るほどに、過去は増えていく。刑務所が大火災に包まれたとき、誰も囚人たちを助けなかった。人の居る場所に使うはずのない消火剤が大量に撒かれた。灰と共に地中に沈んだままの罪が掘り出されていく。

 

公園工事は最初から完全公開の形をとっていたが、フェンスの外側ではハイネセン市民たちが、現場を完全に無視していた。視線を向けず、足早に通り過ぎ、存在そのものを「空白」として扱う。怒号はなく、ただ静かな忌避だけがあった。それが、かえって現場の人間たちの精神を削っていた。

 

「…………あそこを掘り返すなんて、通る風を吸うだけで、病気になりそう」

 

フェンスの外を足早に通り過ぎる市民のそんな言葉が、風に乗って現場に流れ込むこともあった。

 

雇用を生むはずの工事だったが、作業員は帝国本土から補充するしかなかった。

市井の食堂すら、現場の人間を嫌がった。




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