フェリックス・ミッターマイヤーは庭師になった   作:シロン茶

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サイドストーリー:フェリックスと父親たちの話

士官学校の放課後。

裏庭の隅にある実験用花壇は、夕陽に照らされていた。

 

「……ああ、俺まだ課題あるのに」

 

エリックが、スコップで土を放り投げながら嘆いた。

 

「オーベルシュタイン元帥の「草刈り」の再評価についてレポートかあ。めんどくさー。“効率化の極致で合理的です”以上!とか、まとめとけば良いのかなあ」

 

アレクが横で苦笑する。

ちなみにアレクは激励に来ただけで、庭仕事を手伝う気はさらさらない。

 

その時、一株一株の根の張り具合を真剣にチェックしていたフェリックスが、泥のついた顔を上げた。

 

「……あの表現は、語彙の選択として著しく不適切だ」

 

「始まったよ」

 

エリックが大きくため息をつき、アレクがニヤニヤして耳を傾ける。

 

フェリックスは立ち上がり、きれいに草をむしったあとの花壇を指差した。

 

「いいか。『草刈り』とは、再生を前提とした高度な管理行為(マネジメント)だ。過密を解消し、資源配分を最適化し、全体の生育をブーストする。重要なのは“何を残すか”という設計思想だ」

 

フェリックスの口は止まらない。

 

「そういう意味で、あれは管理ではない。単なる『排除(デリート)』だ。園芸で言えば、土壌ごと剥ぎ取る行為に等しい。その後、そこには何も育たなくなる。あれを草刈りと呼ぶのは、園芸学への冒涜だ」

 

エリックとアレクは、苦笑しながら肩をすくめた。

 

 

「……フェリックスが、オーベルシュタインの草刈りを“雑な排除”だと一蹴したそうだな」

 

憲兵総監ケスラーが、苦笑混じりにグラスを傾ける。

ミッターマイヤーは、いたたまれないように眉間を押さえた。

 

「ああ、すまん。あいつは……その、ちょっと理屈が過ぎてるだけなんだ。本人は語彙の定義に否を言っただけのつもりで……

とにかく、課題に出されたそうだから、今頃ちゃんと調べて青くなってるさ」

 

ケスラーは、ミッターマイヤーのしどろもどろが、かつて双璧の片割れの芳しくない噂話について、一生懸命に弁明していた頃と全く変わらないことに気づき、笑った。

 

まだ十五年。

子どもたちには昔話でも、ノイエラントには今も緊張があり、現地は立ち直っていない。

 

「平和ボケってやつなのか」

「それとも青いなと言うべきか」

 

ミッターマイヤーは、独り言のように付け加えた。

 

「……まあ、あいつなら、息子に何を青くさく言われても、『お前の言う通りだ』と鼻で笑ったさ」

 

ケスラーは静かに頷いた。

 

戦争を知らない世代が育つ光景を、大人たちは複雑な気分で眺めている。それでも、その無邪気さを守るために払った代償を、彼らは忘れたことがなかった。

 

 




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