フェリックス・ミッターマイヤーは庭師になった   作:シロン茶

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フェリックス・ミッターマイヤーは士官学校を卒業する

士官学校の回廊。

冬の光が磨かれた床に反射し、冷たい白の帯をつくっていた。

正装の青年たちが整列する中、アレクとフェリックスは並んで歩いていた。

 

アレクの軍礼装は、若き皇帝の威厳を誇示するように金糸が光を弾き返し、

その横でフェリックスの最先任候補生章は、今日限りの役目を終えるように静かに冷えていた。

 

アレクは前を向いたまま、氷片を転がすような声で言った。

 

「……教官どもが、お前に無礼を言ったそうだな」

 

その横顔は、彫像のように整って、硬い。光を受けた金の睫毛が、わずかに震えている。

 

「言うな。エリックからすべて聞いている」

 

フェリックスは横目でエリックを見た。

卒業後は侍従としてアレクに仕える男だ。おそらく、教官たちに「陛下を見捨てるのか」と迫られた件だろう。

 

フェリックスは沈黙で応じた。アレクは鼻で笑った。

 

「片腹痛い。予がいつ、お前に守ってもらいたいと泣きついた? 予をそんな弱い主君に見せているのは、教官たちの節穴か。それともお前の過剰な倫理観か」

 

フェリックスは息を呑み、慎重に言葉を選んだ。

 

「士官学校を出ながら軍人にならない者は、非難されて当然です。……アレク、君がこれから独りで背負う宇宙の重圧を思えば、僕の選択は“逃避”に分類されるものです」

 

アレクは足を止めた。

冬の光が彼の横顔を切り取る。

 

「逃避だと? 違うな、フェリックス。それは“誠実”という名の残酷さだ」

 

アレクの瞳は、氷原のように冷たかった。

 

「士官学校の入学は、お前に選択肢などなかった。現に一年遅れて予に合わせて入学し、卒業している」

 

「……僕は、名誉をいただきました」

 

「フェリックス。今日まではまだ同期生だ。その口で追従を言うな」

 

アレクは歯軋りするほど強く言った。その声の奥に、かすかな震えがあった。

 

「大公キルヒアイスは、父上の半身として宇宙の果てまで連れ回された。あの方に別の夢があったのか、父上は問いもしなかった」

 

フェリックスは、アレクをまじまじと見つめた。今はまだ、これが許される。

 

「予は、お前にそうなってほしくなかった。お前の中に軍略ではなく“庭”を育む夢があるのなら、予がそれを奪う権利などどこにもない。……たとえこの先、予が広大な宇宙で独りになろうともだ」

 

アレクはゆっくりと向き直り、フェリックスの右手を取って、自らの手を重ねた。その手は温かいのに、どこか必死だった。

 

「お前の軍服は、予が脱がせてやる。これは皇帝としての、最初で最後のお節介——あるいは、予の矜持だ」

 

フェリックスは小さく頭を下げた。

 

「ありがとうございます、マインカイザー」

 

その呼び名に、アレクの睫毛がわずかに震えた。若き皇帝は顎を引き、父譲りの不敵な笑みを浮かべた。

 

「五年後だ。最高に心地よい木陰を用意しておけ。予はそこで昼寝をするために、この宇宙を平和に保ってみせる」




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