ケツアゴの突撃隊が帰った後の夕方、ゲールの分隊が出勤したのに合流して出かける。先日の再教育から予備マガジンを多めに持って。
「総代、キャクストンから聞いていますが、今回の相手は突撃隊と聞いていましたが。本当ですか?」
「なんか、そうらしい。ガワはそうだったね。」
「しかし、先代指揮官にお会いするのも久しぶりです。」
「みんなはそうか。僕は週一回くらい会うけどね。」
「そうですよね。まぁそれはご家族の都合がありますからね。」
「あぁ。義父さんからすれば孫だからね。ここだ。ちょっと待ってて。」
小綺麗な喫茶店の前に店とは不釣り合いな10人が立ち止まる。彼らを外に待たせて営業終わりの店に入ってゆく。
「義父さん、営業終わりだろうけどいいかな?」
「総司、どうしました?随分と今日は護衛が多いですね。」
「やっぱり気づいていた?」
「えぇ。いつも二人、いましたね。」
「今日来たのは用があって。アウグスト・ヤンケの絵は持ってる?」
「ありますよ。今更、話題になるとは思っていませんでしたね。どうしましたか?」
「今日、寄越せと言う連中が来た。しかも、その見た目は突撃隊だった。白人社会主義団結党とか言う差別主義的な奴らが来た。」
「迷惑な話ですね。昔は私も優性論が染み付いていましたが、この街で皆と接している内に抜けました。我ながら恥ずかしい次第です。絵ですが家にあります。総司に必要なら渡しましょう。」
「いいの?」
「アウグスト・ヤンケの作品はほぼ戦災で失われています。私の持っている絵は地下壕を脱した後、シュタイナー閣下から預かったものです。」
「なるほどね。護衛を連れてきた。家まで送るし、預かるよ。」
「手間をかけさせて申し訳ない。」
「いいよ。これはこちらの都合だから。」
義父さんを囲うように人員を配置して、暗くなった通りを歩く。
「今日は親子で散歩かい?」
「この前の菓子は美味かったよ‼︎」
なんて声を街の人たちが声をかけてくる。義父さんもまた、街のみんなに愛されている。そうこうしている内に義父さんの家に着いた。街にの外れにある洋館だ。
「義父さんの菓子は人気だね。張も絶賛してた。」
「ありがたいことです。ここまでで大丈夫です。みんなありがとう。」
「ゲール、周辺警戒を。敵襲も考えられる。」
「了解です。リュウ、裏口を…」
「伏せろ‼︎敵襲‼︎」
ゲールの指示が終わる前に銃声と同時に、最後尾にいたリュウと呼ばれた青年が叫んだ。物陰に隠れつつワルサーとMP5が火を吹く。
「ゲール、全員排除していい。」
「諒解‼︎全員排除だ‼︎」
「撃て‼︎敵はそう多くないぞ‼︎」
「ざっと30人ってとこだ。落ち着け‼︎」
的確に応射する分隊に混じって、義父さんもルガーを抜いた。
「敵の練度はそう高くない。怯むな‼︎ここは我らの戦場だ‼︎」
「「「応‼︎」」」
義父さんのいた頃に訓練を受けた連中は笑顔すら見せている。なんつう人なんだ…なんて思いながらリロードし、二本目が撃ち終わる前に銃撃戦は終わった。
本当に練度も大した事はなかった。これで仕掛けてきたとは笑えてしまう。
「総代、敵は排除、こちらの被害は…ダイスラー邸に幾らかの被弾が。」
「義父さん、補修はうちでやるよ。」
「大したことありません。ベルリンと比べたらそよ風です。」
「ゲール、この程度はそよ風だってよ。」
「それはそれは…先代指揮官の経験と比べられてはたまりませんな‼︎」
一同がゲールの言葉に爆笑する。それはそうだ。ベルリンだの東部戦線だのと比べられてはどうしようもない。そんなやり取りをしていると、聞き覚えのある声が暗がりから聞こえた。
「これだけの人数を驚くべき練度だ…称賛に値する。」
「スタンフォードとやら。お引き取りいただくはずだったが。まだいたのか?」
「絵を手にするまでは帰れんのだ。絵を賭けて決闘を申し込む。」
「この状況で決闘を受ける事になんら利益を見い出せない。」
このデカブツは本当に頭が足りていない。さっさと消えてほしい。が、銃を抜いてないので口頭で答えてやる程度の理性はまだ持っていた。
「総司、絵ならば私が受けましょう。」
「義父さんが?」
「これは‘我等’の後始末です。後世に残すべきモノではない。」
「任せます。ゲール、武装解除。」
「しかし‼︎」
「大尉殿の仕事だ。銃を下げるんだ。」
「はい。おい、安全装置をかけろ。」
全員が安全装置をかけるのを確認して、ワルサーをホルスターに戻す。
「大尉とやら、勝てば渡していただけるのだろうな?」
「総司に託すと決めた。受け取るといい。」
「では、そうして貰おう。我が輩の使う獲物は鉄血帝国ルガー・スペシャル‼︎ルガー・アーティラリー・ロングをベースにフレームは硬質…」
このデカブツは行動する前に口上を述べないと何も出来ないのだろうか。実に不思議な生物である。聞く耳もない義父…大尉はルガーの残弾をトグルを少し引いて確認している。
「…この恐るべき銃を撃てるのは地球広しといえどこの我が輩だけよ‼︎怖いか?そうだろう‼︎怖くないは…」
向上を述べ終わる前に大尉のルガーが火を吹くと同時に、スタンフォードの立派な体躯が倒れ込む。
「なっ…卑怯ではないか‼︎」
「いいか小僧。ルガーは我が帝国の象徴であった。それをこの様な品性の欠片も存在しない物にしていることを心から恥よ。そして、撃たれる前に撃つことだ。来世の教訓にするのだな。」
乾いた銃声が響いて事は終幕となった。呆気ないというかアホらしいと言うか。本当に度し難い。
「なにが鉄血帝国か…もう鉤十字は翻る事はないのだ…二度と。」
「よかったの?」
「夢はいつか醒めるのですよ。」
「そう…大尉の夢は醒めた?」
「随分と昔に。」
護衛に四人を残し、絵を受け取った。呼んだトラックに通りのゴミを積み込んで処理屋へと送付する。
絵を受け取って事務所に戻った後に、金庫に仕舞う。仕舞える程のサイズで良かった。玄関ホールの大仰な絵だったらどうしようかと思っていたが、杞憂に終わった。
数日経って、訪ねてきたのはまた意外な人物だった。いつもどりに応接室で対面する。
「突然だね、ダッチ。今日の用向きを聞こうか。」
「アウグスト・ヤンケの絵、を探してるんだが心当たりはないか?」
「奇遇だね。何日か前に仮装した団体と揉めたね。」
「その絵を探し求めている人物がいてな。聞く所、ダイスラーの旦那が持ってると聞いた。」
「‘大尉’から預かっている。」
そこまで話すと、ルワンが入ってくる。
「総司、電話だ。ダッチと話がしたいと。」
「ここの電話に繋いで。」
「わかった。回すよ。」
そう伝えると、すぐに部屋の電話が鳴る。スピーカーでいいと言うので聞こえる状態にする。
『やっぱり君は優秀だったようだね。』
「今、おたくの言うところに来ているんだがね。尾行がいるとは聞かなかったな。」
『持ち主はそこに?』
「そうだな。預かっているそうだ。」
『では、現在の持ち主とやら。我々は現実的な…』
「絵はラグーン商会に引き渡す。大尉の言葉をお伝えする。‘夢はいつか醒める’だそうだ。」
『そうか…歳をとったのか。』
「以上だ。あとはそちらで。」
『明日、そこのジャングルバニー君の事務所に掛けるよ。』
電話が切れると同時にため息が出る。この電話の主も度し難い。
「ダッチ、随分不快だったろう?」
「この前話した時も似た様なもんだった。」
「絵は渡す。ダッチの心情に配慮、とかではない。義父にはもう必要ないそうだ。」
「どうやらそうらしい。その内、何かで返すとしよう。」
「期待しておく。」
絵を渡した後、ダッチを見送って事務所に戻る。自分の席に体を投げつけて、未決の書類を拾い上げる。モスクワは上々、ウラジオストクもいい感じに利益が出始めた。膝下のロアナプラは…多分、順調。巡回のローテは増やしたまま維持する様だ。
「ルワン、ダイスラー邸の補修は?」
「今週中に終わる。掃除屋の請求が来ている。少し高いが、数が多いから仕方ない。」
「ありがとう。オスカー、マニサレラには話してくれた?旭日重工の件。」
「話は通ってます。こちらも今週出る予定です。」
「いいね。人選と支度は?」
「予定通りエーカーの分隊が行く。装備は現地でオロホフ商会から受け取る算段だ。」
「キャクストンも順調だね。みんなありがとう。」
日常の決済書類と報告書に目を通していると、少し落ち着く。こうでいいんだ。そう思いつつタバコに火をつける。窓から見える日暮に気怠さを感じながら一日を終えていく。
「そう言えば、アレクを通してタイ陸軍から問い合わせがあった。」
「陸軍?アレクが付き合っているのは海軍じゃ?」
「あぁ。それなんだが、どうやら陸軍の砲兵部隊で事故があったらしい。部隊が消し飛んだそうだ。それでサンプルとしていつもの仕入れ先以外からの105mmの砲弾がいくらか欲しいんだそうだ。」
「なるほど…それはルワンからオロホフさんに問い合わせてみて。」
「わかった。こっちで用意しよう。」
「みんな他に何もなければキリのいいところで今日は終わろう。たまには早く帰ろう。」
定時前に家路についた事で家族との時間が増える。なんだかここ最近疲れることが多かった。
ブリッツ・スタンフォード。嫌いじゃなかったんだが。
仕事が忙しく、更新が滞りがちになると思われます。申し訳ありません。