今月は更新がまばらだと思いますが、ちょうどよく配信もあることですし、気長にお待ちください。
「総代、マニサレラです。」
アンドラスがそう耳打ちするのを聞いて振り返ると、アブレーゴと手下がカウンターのメイドと向かい合っていた。どう言った会話か、爆笑している。顔見知りだろうか…人種的には同国人に見えるが。傘を持ち上げるのが見えた瞬間、汗が噴き出るのを感じる。傘じゃない。傘の先が銃口になっている。
「総員伏せろ、状況開始だ‼︎」
そう叫ぶとアンドラスの首を掴んで、目の前のテーブルを蹴り上げる。アブレーゴの手下が一人、銃声と共に吹き飛ぶが知った事じゃない。マニサレラの連中も応戦するが、メイドが尋常じゃなく強い。傷一つ負う事なく、次から次へとコロンビアマフィアに散弾を見舞っていく。正直、うちの連中よりも強いかもしれない。
「総代、どっちにつきますか?」
「いや。これは正直、巻き添え食ったと言った方がいいな。シレッと撤収する。」
「諒解です。おい、裏口から帰るぞ。退路の確保だ。」
「はっ‼︎」
アンドラスに指示を出して、ラグーンの方に向き直る。
「参加すんのか?しねぇのか?」
「期せずして銃撃戦が始まった。アクシズは撤収と決めた。」
「いいね。僕は賛成だ。」
「ダッチ、どうする?うちはこの状況、マニサレラの揉め事として知らん顔するけど。」
「いい案だ。うちも一緒に出ていきたい。この地雷はどうする?」
「よし。じゃあ裏口へ回ろう。とりあえずガルシア君も一緒に。」
そう言って情けなくも四つん這いで裏口を目指していると、偶然か必然かバオに見つかった。
「テメェらのダチは俺の店を何回ぶっ壊しやがんだ‼︎ラグーンとアクシズが一緒になるとロクなことがねぇ‼︎」
「ダチじゃねぇ‼︎知らねぇよこのタコ‼︎」
「レヴィ…やっちまったな…。」
「なんだよ総司、ダチじゃ…あぁ…チッ静まり返るんじゃねぇよバカ。」
「ラグーン‼︎テメェらなんでガキ連れてここに居るんだ‼︎ん?総司まで⁉︎」
「アブレーゴいろいろ聞きたい事がある‼︎一回銃を収めろ‼︎」
「結論を急ぐな‼︎」
なぜかこの瞬間、銃撃戦は鳴りを顰め、レヴィに叫び声は店中に響き渡ってアブレーゴに見つかっていた。こちらに歩み寄るメイドに警戒するアンドラスたちを制止しつつ状況を見極める。
「若…様…」
「ロベルタ…」
「怖がられるのも仕方ありませんね。旦那様が心配しています。帰りましょう。その方々は?」
感動の再会ではあるんだろうが、このままだと事が収まらない。そして、散弾の銃口はこっちに向きつつある。ので、ロベルタと呼ばれたメイドに声を掛けてみる。
「ちょっといいかな、メイドさん。」
「なんでございましょう?」
「いささか遅かったかもしれないが、この状況を終わらせる提案をしたい。若様を返して終わりってのはどうだ?」
「考えております。」
そこまで言った所で邪魔が入ってしまった。
「勝手に話進めるんじゃねぇよ‼︎」
叫びながら出てきたチンピラは次の瞬間、散弾を抱えて宙を舞う。自然な流れで銃口がこっちを向いた。アンドラスがプルプルしてるのが視界の隅に見える。無理かも。次の瞬間、ガルシアが目に前に飛び出た。
「ロベルタ‼︎ダメだ‼︎」
叫ぶが早いか飛んでくるが早いか、レヴィがガルシアの頭に銃口を突きつけた。決裂かも。
「ここに居る全員が、死んでるよか生きてる方が好きなはずだぜ?総司の提案に乗ればみんながハッピーさ。」
「考えております。」
「レヴィ、そりゃ悪党のやる事だよ。」
「じゃ他にどうすんだよ‼︎」
「考え終わりました。ご意向には添いかねます。」
そう言うとロベルタは聞きなれない言語を唱えつつトランクを持ち上げる。ロック曰く、スペイン語らしい。やっぱりただのトランクではない。
「サンタ・マリアの名に誓い、全ての不義に鉄槌を‼︎」
「総員カウンターに飛び込め‼︎」
「おい‼︎来るな‼︎来るなぁぁっ‼︎」
バオの絶叫を聞かなかった事にし、すんでの所でカウンターに飛び込むとグレネードが炸裂した。どれだけ武装してるんだあのメイドは。アフガンより怖い。振り返ると少し逃げおくれたのかレヴィが失神していた。
「ケサンがピクニックに思えるぜ‼︎レヴィは‼︎」
「ダメだ。脳震盪を起こしてる‼︎」
「もう無理だこの状況。裏口から逃げな。正面玄関は絶賛ベイルートだ。」
「あぁそうさせてもらう。おいレヴィ‼︎しっかりしろ‼︎ロック、ぼやぼやするな逃げるぞ‼︎走れ‼︎」
ラグーンの連中が裏口から出るのを確認してから、アンドラスを残して全員外に出す。ロックがガルシアを抱えていたので、とりあえずは大丈夫だろう。
「バオ、一回避難しよう。修繕はアクシズが…」
「当たり前だ‼︎防弾板も三分の一消し飛んでるんだぞ‼︎」
「アンドラス、バオを外へ。俺たちも帰ろう。」
「諒解。バオ、こっちへ。」
鉄風雷火とは正に。怪我一つなく店の外に出れたのは幸運だろう。キリストでもブッダでもアッラーでも今は感謝したいと思う。車に乗り込むラグーンの連中を見つけて声を掛けた。
「ダッチ、とりあえず逃げとくといい。しばらく沖で時間潰してくれ。」
「あぁあぁもう御免だ。プーケット沖で魚釣りでもしてくるぜ。ここは逃げさせてもらう‼︎」
次の瞬間、凄まじい爆風と共にイエローフラッグが吹き飛んだ。正確には半壊した。バオは色を失ってへたり込んでいる。ヤバい。ここまで来るとルワンにも怒られるかもしれない。
「あいつ、今ので死んだと思うかい?火の中から出てくる気がするんだ。」
「ロック、それはどうだろうか…とりあえず逃げるといい。」
「あるいはターミネーターかな。シュワルツェネッガーじゃないだけで。」
「なら尚更さっさと車に乗れ‼︎」
ラグーンの連中が走り去るのを見送って、バオを見やる。今回はアブレーゴが連れてきた厄災だ。マニサレラ・カルテルに請求書を回そう。
「アンドラス、みんな怪我はない?」
「えぇ。爆風によるかすり傷程度です。バオはどうします?」
「聞く耳があれば慰めてやれ。ついでにこの後、事務所で正座させられるであろう俺も。」
「それは…少々難易度が高いですね…え?」
「どうした?」
「総代、ロックのジョークは現実でした…あれを。」
アンドラスの指さす方を見ると、景気良く燃えるイエローフラッグからメイド服を着たターミネーター、もといロベルタが現れる。周りを見回すと分隊全員が顎が落ちんばかりに口を開けて唖然としている。出鱈目とはこう言う時に使う言葉だろう。
「先ほどのご提案に免じまして、皆様とのお話は若様を取り戻してからにさせていただきます。」
「あ、うん。」
「お車をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「え?」
「お車をお借りできませんかと。」
「申し訳ないが期待には添えない。」
「左様で。」
車を寄越せと言う言葉を断ったが、声が震えていなかったと思いたい。何せ今、不幸な誰かの車のガラスを正拳によってカチ割り、ハンドル下にアッパーを見舞ってエンジンを始動、走り去っていった。
「アンドラス、アレ人間か?」
「そうかもしれません。ラグーンを追っていますがどうしますか?」
「アレに追われては可哀想だ。助けよう。何人かラグーンを追跡させてくれる?で、事務所に連絡、キャクストンがいるはずだ。完全武装の一個小隊招集。一回戻ろう。」
「はっ‼︎」
事務所に戻るとキャクストンとレイが一個小隊と共に待機していた。久しぶりに完全武装の二人を見た気がする。
「ここ最近は訓練と軽装での対応ばっかだったからな。やっぱりライフルを抱えると身が引き締まる。」
「シェーンは事務仕事も多いからでは?」
「そうかもな。なんにせよ久しぶりの完全武装だ。心して掛かろう。総司、状況は?」
「現在、ラグーン商会はメイド型キリングマシーンに追跡され、港方面へ逃走中。沖にしばらく避難してもらう。」
「そのメイド型マシーンのスペックは?」
「マニサレラの連中でも比較的、荒事に慣れている15人が傷を負わせる事なく瞬殺された。うちの一個分隊には相当する個人だ。今回、書類の虚偽を見抜けず、ラグーンにはかなり危ない目を見て貰っている。それとメイド型マシーンはこちらの不手際からこの街に来た。よって出来るだけ若様と帰宅していただき、ラグーンは救う方針で行こうと思う。」
「なるほど。一個分隊相当の個人か。出鱈目だが資料を見る限り納得できる。」
「猟犬ね。軍に残っていたらこんなのを敵に回していたと思うと冷や汗ものだ。」
キャクストンとレイがリップオフから届けられた資料をデスクに放り投げる。ロベルタなるメイドはコロンビア革命軍の猟犬で、各所から賞金を掛けられていた。然るべき所に突き出せばしばらく遊んで暮らせる額の賞金首だ。
「ま、なにはともあれ、ラグーンには申し訳ないことをしたし、ラブレス家にも随分と迷惑をかけることとなった。ここは一つ謝意を行動で示すべきだろうな。」
「よし。占領地域における要人救出、武装集団の無力化…と言う理解で行く。どうだろうか?」
「いい線だと思う。ゲール、最新の状況を。」
「はっ。それが…」
「どうした?決着したのか?」
「それがラグーン商会は幾度か対象と交戦、ドックには到達できず、現在我が社の第三コンテナヤードにてラグーンのレヴィと更に交戦中。警備に付いていましたリュウの分隊が夜勤中の社員の避難誘導中。怪我人はなく、まもなく避難も完結します。なお、ダッチ、ベニー、ロック、ラブレスの少年は廃車寸前のプリムスにて息を潜めている状況です。」
「総司、状況が変わった。どう動く?」
「刻一刻と状況は悪化している。が、庭内にいると言うのは不幸中の幸いと言える。状況を拠点内に侵入した武装勢力の鎮圧に切り替える。催涙弾とゴム弾で鎮圧に切り替える。諸君、行こうか。」
ここまで格好をつけた所で落雷の如き轟音と同時に事務所が暗闇に包まれる。
「総員に告げる。あの馬鹿どもをブチのめしに行くぞ。」
一個分隊の爆笑が暗闇に響いた。