翌朝、授業の始まる前に校長室を訪れる
「ーーなるほど。確かにブランシュが一高を狙っていることは確かなようだ」
「でしょう?ですから一刻も早く対策を」
「それはもちろんだ。少し話さないか?復学してから君と話す機会がなかったと思ってね」
「授業に支障のない範囲でしたら」
手招きされた対面型のソファーに座る。向かい側には校長が座った
「こんな職についているとね、生徒の情報が耳に入ってくる。もちろん君のもだ」
「失踪中、何をしていたかですか。」
「君はその期間、何を見て何を学んだ?少なくともその実力は全てを修行に注ぎ込んだからと言って早々得られるものではない」
「それに関してはあなたの耳には入っているでしょう?曼荼羅にいたと」
「知っているとも、だがそれで納得できないというのも分かるだろう」
それはそうなんだよな。それで納得してるやつらがおかしいだけで本来ならこうなるのが自然だ
「誰にも話さないと約束していただけるのでしたらお話ししますが」
「分かった。約束しよう」
「人でない者たち、ですかね。彼らの強さ、生き方、技術。それらを見て学んだとき私の世界はひっくり返りましたよ」
あそこでの生活はまさに次元が違ったと、一言で語るならそうなる。むしろそうとしか表現できないかもしれない
「にわかには信じがたい話だ」
「それでも事実です。妖怪たちの社会、神の在り方、あの世に月の都。ほんと常識とはかけ離れたことばかりでそれでいて妙に人間臭い」
ふと時計を見るとそろそろホームルームが始まる時間だ
「ーー君はなぜここに戻ってきた?」
「いつかは帰りますよ。でもここではやり残したことがあるんで」
「千草、達也くん」
昼食が一段落したとき、何気ない口調で摩利が声を掛けた
「二年の壬生をカフェで言葉責めしたお言うのは本当か?」
「話しはしたがしてない」
吹き出しそうになるのを堪えながらそう返す。
「俺は言いたいことを言っただけ。達也がどうかは知らないけど」
「言いたいこととはなんだ」
「あの程度の剣でどうして魔法だけが全てじゃないなんて言えるんだろうなって」
「あの....程度?」
「あぁ、いや、あの程度は言い方が悪いな。剣しか知らないのにどうして魔法以外の価値を話せるんだろうなって」
「魔法だけが全てじゃない、その考えには肯定するよ。でも彼女は槍も、薙刀も、手裏剣も知らない。それでどうして魔法以外の価値を肯定できるんだろうなって」
俺は少なくとも現代の魔法には当てはまらない、それでいてこの世界のどんな魔法師をも超える者たちを知っている。
だから魔法だけが全てじゃないと言い切れる。でも、彼女は違うだろ
「ーー壬生先輩は非魔法クラブで連合を組むと言っていた」
達也が口を挟む。あの後そんなこと話してたのか
「詳細は聞いたか?」
「いや、あまり要領を得なかった。なのに風紀委員会への反感や、一科生と二科生の対立構造への結びつけ方が整いすぎてるように感じた」
「まるで誰かがたきつけてるみたいにか、そうだろうな。壬生先輩はブランシュとつながってる」
「根拠はあるのか」
「剣道部部長司甲の義兄、司一はブランシュ日本支部のリーダーだ」
達也と深雪の顔が固まる。あずさは事情を聴かされていないのかよく分からないという顔をしている。
「ブランシュってのは魔法能力による社会差別の撤廃を目的とした反魔法団体だ」
「反魔法、ですか!?」
「表向きはね。魔法師が優遇されていると主張し、その是正のために活動していると嘯く。実体は大亜連合がバックについてテロ行為を行ってるヤバい組織だよ」
「そもそも魔法師が優遇されているなんてのは間違ってるだろ。少なくとも単純な優遇とはいいがたい」
「そうなんだよ達也。正しいことも言ってはいる、だから騙されるやつも出てくる。壬生先輩の考えはきっと正しいものだ。でも正しい考えを持った人間が必ずしも正しい行いをするとは限らない」
「正しい痛みが間違った方へと導かれる」
「そういうことだ。そしてそれは阻止したい」
放課後、俺はなぜか生徒会業務の手伝いをしている。達也の方が適任なのだがあいにく壬生先輩との密会中である。
「どうすっかな」
ブランシュへの対処において、1つの大きな問題に直面している。
ブランシュのアジトが何故か見つからないのである。目星をつけている場所はいくつかあるのだが、どこも拠点と言えるほどの物がない。
念のため本家の方から感知部隊を呼んだのだが、忙しいらしくこっちに到着できていない
「どうすっかな」
「お前が悩むとは珍しい」
「摩利、お前には俺がお花畑にでも見えてるのか?」
「あぁ、随分とした楽観主義者だ」
「殴り飛ばすぞ」
「お、落ち着いてください」
俺の独り言をきっかけに、今ここで喧嘩が始まろうとしている
慌てたあずさが止めに入るが無駄だ。冷やかしに来たこいつを殴らないと気が済まない
「千草、摩利。ここで喧嘩するのは辞めて」
「会長!」
「喧嘩なら風紀委員室でやって」
「会長!?」
七草の言葉にあずさは表情を二転三転させる。
そんな面白い反応をするからからかわれるんだろと思いつつもさすがに迷惑をかけるのは気が引けるので摩利には文句を言う程度で済ませておく
「あぁ!」
あずさが悲鳴を上げたので何事かと問うと、焦ったように返事をしてきた
「今日の作業に必要な物を買ってくるのを忘れちゃって」
「も~、あーちゃんったらおっちょこちょいなんだから」
そう言いつつもあまり咎める様子がないのを見るに日常茶飯事なのだろう。
「でも、それ作業に必要なんだろ?だったら買い出し行かないと」
「こういう時のための男手だ。お前が行け」
めんどいからと断ろうと思ったが、冷静に考えて書類の方がめんどくさい。
「いいよ。行ってくる」
買い出しを済ませたところで菫子から通話がかかってくる
「どうした?」
「ほのかと雫と英美。あ、英美は私の友達ね。達也が狙われたことに怒って男子生徒を尾行してて」
「ブランシュの構成員をか?危険すぎる。すぐに辞めさせろ」
「できると思う?」
「ーー無理なんだろうな。とりあえず通話は繋げといて。すぐに向かう」
端末の位置情報から見るにそこまで遠くはない。それに並の魔法師4~5人程度ならば菫子一人でどうにかなる
目立たないよう
「見つけた」
路地裏へと入っていく一高の制服を着た男子生徒とそれを尾行する集団。上から見ている分にはちょっと面白い
見守っていたのもつかの間、菫子を除いた三人が苦しみだす。
「ーーキャストジャミング!」
そんなものまで使える相手、ってことはマジでブランシュの構成員か
「念力 テレキネシス電柱!」
菫子が周囲の電柱をサイコキネシスでなぎ倒し、相手を牽制する。
「董子!マンホールだ!」
そう叫び、降下する。
「ハイドロキネシス マンホール!」
「雷遁 雷絶波」
マンホールごと吹き上げられた水。それを浴びた相手に追撃で雷絶波を放つ。
「千草さん?」
雷絶波が相手の生体電気を乱したことによってキャストジャミングが解除されたらしい。
三人の意識が回復する。
「逃げろ。あいつらは俺たちが引き受ける」
とはいえ雷絶波の影響で相手側は呼吸困難にまで陥ってるはずだ。多分、大丈夫だろう
「あれ!」
ほのかが指さした方を見ると先ほど雷絶波をくらったやつらに呪印が発現し、体を覆う。
「前言撤回、どうやら大丈夫じゃなかったらしい」
異形化+融合の呪印か。奴らの体が混じり合い、黒い不定形な人型を形成する
「キモイ以上の言葉が見つからないんですけど」
「適切だと思うぜ。その表現」
さぁてどうするか