武器を振るうことは、もう息をするのと変わらない。
亡者が襲ってくれば斬った。
勝手に入り込んできて、私を殺そうとする闇霊も斬った。
殺されないためには、そうするしかなかった。
誰かが守ってくれることを、私はあまり期待していなかった。
いつからそうなったのかは、覚えていない。
最初からだったのかもしれない。
モーティスは何もしなかった。
何もしないくせに、やたらとうるさくて、私の邪魔ばかりした。
だから殺した。
うるさいのも、静かなのも、どちらも大して変わらないと思っていた。
でも、殺したあとになって分かった。
静かなほうが、ずっと楽。
ロードランでは、私の言葉で誰かを傷つけることも、怒らせることもない。
私のせいで、誰かの大切なものを壊してしまうこともない。
やっぱり、話さないほうがいい。
…あの時どうすればよかったのかは、今でもよく分からない。
上級騎士の鎧の下で、乾いた血が皮膚と鎧をベッタリと癒着させてる。剥がそうとすると、皮膚ごと持っていかれそう。
あんまりにも痛いときは、敢えて死んでも良い。どうせ蘇るから。
さっき黒騎士の斧槍を盾で受けた時だと思う。指先の爪が潰れて、割れてる。
……指先。
左手の指先は、毎日手入れをしてた。なんでだっけ……
何か武器?を持つ為だった?重さは……少なくともこの
昔の事は、霧みたいに朧げ。
少なくとも、かつては痛いのも、死ぬのも嫌だったはず。それでも、気づけば慣れてた。
……少し違うかも。失った、かな。
痛いことを嫌がる理由も。
死ぬことを怖がる理由も。
私だけじゃない。皆、少しずつ……
青ニートも。
ロートレクも。
パッチも。
青ニートは何度でも亡者になる。
私も、ああなるのだろうか。
考えてみたけど、あんまり怖くなかった。
それよりも、何を失ったのか分からなくなったり、あの不死人を忘れたり。それは、少し困る気がした。
……あ。
白く濁った霧の門。その手前の灰の中に、それがあった。歪で、でも見慣れたサイン蝋石。
指先が、微かに震える。
血でバリバリになった手袋を剥ぎ取って、剥き出しの指で、その光に触れる。
──霊体を召喚しています──
光の粒子が集まって、そこに、一人の不死人が召喚される。
王刃の腰巻きだけを身につけて、全身からどす黒いソウルの滓をボタボタと発散させている。
名前も、素性も知らない。
不死人が右手を胸に当てて、小さく頭を下げた。
それを見つめて、私も同じように大剣の柄を額の前に掲げる。
何度やったか分からないけど、お互い必ずやってる。
不死人が不意に、草紋の盾を虚空から取り出す。
だから私は鉄の大剣をしまった。
代わりに取り出したのは、結晶のデーモン大斧。致命の一撃に特化させるから……。
指輪をメバチに換装する。そして呪術の炎を灯して、自分の胸に打ち込む。
体力がどんどん削れる。
不死人が霧を潜って、私も直ぐに続く。
同時に、真っ黒な燃え殻になった大王グウィンが、火の剣を振り回して跳躍してくる。
──速い。
前を走る不死人に高速の斬撃が襲いかかるのを見ながら、一歩下がった所で暗月の紫光を大斧にエンチャする。
グウィン。見飽きた顔。みなみちゃんより見た。
ただの予定調和。ただの、惰性。
ガキン、と硬い音が響く。
不死人の
──今。
滑り込むように前転。一瞬で間合いを詰める。
無防備に晒されたグウィンの胸元。全てのソウルで特化させた筋力で、大斧を突き立てる。
ベキベキと肉が、骨が、ソウルが砕ける、重くて、鈍い感触が両手に伝ってくる。
メバチのお陰で、一撃では終わらせない。
更に強力な二撃目を、力の限り振り抜く。
飛び散る火の粉。汚れた私の頬を熱く照らして、開いた傷口がジリジリと焼ける。
死んだ。灰になって崩れ落ちるグウィンの背後で、役目を終えた不死人の身体も、静かに白い光になって透け始めてる。
消える瞬間、不死人がほんの少しだけ、こっちを振り返った。
ポツン、と地面に黒い精が落ちる。
それを見つめて、光になって消えていく幻影に向かって、私は静かに大斧を掲げた。
落ちた黒い精を拾い上げる。手のひらの中で、それを無造作に握り潰す。
体力が一気に戻ってくる。
少しだけ、あったかい。
これが、人間性なのかもしれない。
……よくわからないけど。
グウィンを殺したから、すぐにまた巻き戻る。お礼参りも済ませてる。
神の怒りも結晶の錫杖も、もう何個も持ってて。 だから別にやらなくてもいい。
ロートレクやパッチは毎回殺しに来る。だから先に殺す。でも、
クラーナやレア様は違う。むしろ助けてくれる。
呪術の火を分けてくれるし、誓約を結んでくれる。
昔は、殺したくなかったような気がする。