人間になりたいうた   作:ギークヴォルフ

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第1話

武器を振るうことは、もう息をするのと変わらない。

 

亡者が襲ってくれば斬った。

勝手に入り込んできて、私を殺そうとする闇霊も斬った。

 

殺されないためには、そうするしかなかった。

 

誰かが守ってくれることを、私はあまり期待していなかった。

いつからそうなったのかは、覚えていない。

 

最初からだったのかもしれない。

 

モーティスは何もしなかった。

 

何もしないくせに、やたらとうるさくて、私の邪魔ばかりした。

だから殺した。

 

うるさいのも、静かなのも、どちらも大して変わらないと思っていた。

 

でも、殺したあとになって分かった。

 

静かなほうが、ずっと楽。

 

ロードランでは、私の言葉で誰かを傷つけることも、怒らせることもない。

 

私のせいで、誰かの大切なものを壊してしまうこともない。

 

やっぱり、話さないほうがいい。

 

 

…あの時どうすればよかったのかは、今でもよく分からない。

 

 

 

上級騎士の鎧の下で、乾いた血が皮膚と鎧をベッタリと癒着させてる。剥がそうとすると、皮膚ごと持っていかれそう。

 

あんまりにも痛いときは、敢えて死んでも良い。どうせ蘇るから。

 

さっき黒騎士の斧槍を盾で受けた時だと思う。指先の爪が潰れて、割れてる。

 

……指先。

 

左手の指先は、毎日手入れをしてた。なんでだっけ……

 

何か武器?を持つ為だった?重さは……少なくともこの鉄の大剣(グレートソード)よりは軽かったと思う……。

 

昔の事は、霧みたいに朧げ。

 

少なくとも、かつては痛いのも、死ぬのも嫌だったはず。それでも、気づけば慣れてた。

 

……少し違うかも。失った、かな。

 

痛いことを嫌がる理由も。

死ぬことを怖がる理由も。

 

私だけじゃない。皆、少しずつ……

 

青ニートも。

ロートレクも。

パッチも。

 

青ニートは何度でも亡者になる。

 

私も、ああなるのだろうか。

 

考えてみたけど、あんまり怖くなかった。

 

それよりも、何を失ったのか分からなくなったり、あの不死人を忘れたり。それは、少し困る気がした。

 

 

 

 

……あ。

 

 

 

 

白く濁った霧の門。その手前の灰の中に、それがあった。歪で、でも見慣れたサイン蝋石。

 

指先が、微かに震える。

 

血でバリバリになった手袋を剥ぎ取って、剥き出しの指で、その光に触れる。

 

 

 

──霊体を召喚しています──

 

 

 

光の粒子が集まって、そこに、一人の不死人が召喚される。

 

王刃の腰巻きだけを身につけて、全身からどす黒いソウルの滓をボタボタと発散させている。

 

名前も、素性も知らない。

 

不死人が右手を胸に当てて、小さく頭を下げた。

 

それを見つめて、私も同じように大剣の柄を額の前に掲げる。

 

何度やったか分からないけど、お互い必ずやってる。

 

不死人が不意に、草紋の盾を虚空から取り出す。

 

だから私は鉄の大剣をしまった。

 

代わりに取り出したのは、結晶のデーモン大斧。致命の一撃に特化させるから……。

 

指輪をメバチに換装する。そして呪術の炎を灯して、自分の胸に打ち込む。

 

体力がどんどん削れる。

 

不死人が霧を潜って、私も直ぐに続く。

 

 

同時に、真っ黒な燃え殻になった大王グウィンが、火の剣を振り回して跳躍してくる。

 

 

──速い。

 

 

前を走る不死人に高速の斬撃が襲いかかるのを見ながら、一歩下がった所で暗月の紫光を大斧にエンチャする。

 

グウィン。見飽きた顔。みなみちゃんより見た。

ただの予定調和。ただの、惰性。

 

ガキン、と硬い音が響く。

 

不死人の弾き技(パリィ)が綺麗に決まって、グウィンの体勢が大きくのけぞる。

 

 

 

 

──今。

 

 

 

 

滑り込むように前転。一瞬で間合いを詰める。

 

無防備に晒されたグウィンの胸元。全てのソウルで特化させた筋力で、大斧を突き立てる。

 

ベキベキと肉が、骨が、ソウルが砕ける、重くて、鈍い感触が両手に伝ってくる。

 

メバチのお陰で、一撃では終わらせない。

 

更に強力な二撃目を、力の限り振り抜く。

 

飛び散る火の粉。汚れた私の頬を熱く照らして、開いた傷口がジリジリと焼ける。

 

死んだ。灰になって崩れ落ちるグウィンの背後で、役目を終えた不死人の身体も、静かに白い光になって透け始めてる。

 

 

消える瞬間、不死人がほんの少しだけ、こっちを振り返った。

 

 

ポツン、と地面に黒い精が落ちる。

 

それを見つめて、光になって消えていく幻影に向かって、私は静かに大斧を掲げた。

 

落ちた黒い精を拾い上げる。手のひらの中で、それを無造作に握り潰す。

 

体力が一気に戻ってくる。

 

少しだけ、あったかい。

 

これが、人間性なのかもしれない。

 

……よくわからないけど。

 

 

グウィンを殺したから、すぐにまた巻き戻る。お礼参りも済ませてる。

 

神の怒りも結晶の錫杖も、もう何個も持ってて。 だから別にやらなくてもいい。

 

ロートレクやパッチは毎回殺しに来る。だから先に殺す。でも、

クラーナやレア様は違う。むしろ助けてくれる。

 

呪術の火を分けてくれるし、誓約を結んでくれる。

 

 

 

昔は、殺したくなかったような気がする。

 

 

 

 

 

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