本当に、意味がわからないんだけど。
CiRCLEの近くにある、ちょっと古びた喫茶店。私は注文した抹茶ラテのストローを咥えたまま、数席離れた窓際のテーブルを、メニューの影からガン見していた。
そこに、彼がいる。
私の幼馴染。昔は普通に話せてたはずなのに、数年前にしばらく学校を休んでからは、なんだかいつも冷めてて、ぶっちゃけ何を考えてるのかよく分からないやつ。
昔みたいに普通に喋りたいのに、今の彼ってなんか壁があるっていうか……話しかけてもなんかスカされるし。
その彼が。
なんで、あの若葉睦ちゃんと同じ席に座ってるわけ……!?
頭の中が疑問符だけで埋め尽くされそうになる。
ともりんの元バンドメンバーで、いつもお人形みたいに無口なあの睦ちゃん。祥子さんやそよさんが、彼女を前にするといっつもドロドロに拗らせて自爆してる、あの若葉睦。
接点なんて、1ミリもないはずじゃん。
しかもあの二人、さっきから全然喋ってない。
お互いにスマホを見るでもなく、彼は冷めたコーヒーをすすってて、睦ちゃんは手元のノートをぼんやり眺めてるだけ。気まずそうにモゾモゾする様子すらなくて、ただ当たり前みたいに同じ空間に収まってる。
デート……じゃないよね? 喋りなよ、何でもいいから……。
見ているこっちの胃が痛くなりそうな沈黙のまま、15分くらいが過ぎた頃、彼が伝票を手に取って席を立つ。
彼は睦ちゃんの顔を見ないまま、右手を左胸に付ける様な、何かのジェスチャー?をした。
すると睦ちゃんも、表情はピクリとも変えないまま、自分の右手を額に近付ける様な、ごく短い返答の動きをする。
それだけ。
言葉は一言もなかった。
彼はそのまま最短のルートでレジへ向かって、睦ちゃんもその背中を追うことなく、ただ静かに座ってる。
……え?
私はストローを咥えたまま、完全に固まるしかなかった。
普通さ、バイバイくらい言うじゃん? せめて目が合うとかさ。
二人とも、全然相手のこと見てないのに……
恋愛とか、友達とか、そういう雰囲気では絶対になかったと思う。っていうか、もっと別の何か、みたいな……。
一言も喋ってないのに、去り際のあのちょっとしたジェスチャーだけで、お互いに全部伝わってるような、変にこなれた距離感。
「……なんなの、あの二人……」
ストローを咥えたまま、しばらく動けなかった。
昔みたいに普通に喋りたいって思ってたの、私だけだったのかな。
──っていうか、私のこと、もう幼馴染とも思ってないのかも。