「──でね、その、火がね……すっごく、赤くて、綺麗だったの」
おにぎりを両手で包むみたいに持って、ともりんが呟く。
「へー、キャンプ? ともりんがキャンプなんて珍しいじゃん。家族で行ったの?」
「ううん。お父さんとお母さんは、お留守番……。あのね、私が、あの、珍しい石を探しに、ちょっと遠くの河原に行ったら……そこに、睦ちゃんがいて」
「え、睦ちゃん!?」
サンドイッチを口に運ぼうとしていた私の手が、ピタッと止まる。
「睦ちゃん、自分でテント、張ってた。あとね……」
ともりんはおにぎりをじっと見つめたまま、少しだけ声を落として続けた。
「……愛音ちゃんの、幼馴染の人も、そこにいたの」
「──っぶ!!!?」
口に入れかけたサンドイッチを本気で吹き出しそうになった。
げほげほ、と激しくむせる私に、ともりんが慌ててティッシュを差し出してくる。
「ちょっと待ってともりん!! いま、なんて!? あいつがいたって!?」
「……うん。その人と睦ちゃん、二人で、キャンプしてたの……」
嘘でしょ。あの時の喫茶店の二人じゃん。一言も喋らないで、怪しいジェスチャーだけでバイバイしてた、あの意味不明な二人。
あれからずっと気になってモヤモヤしてたのに、まさか二人きりでキャンプに行く程だったんだ!?
「な、なになに……!?あの二人ってそういう関係だったの!? あいつ、睦ちゃんと付き合ってるとか、そういう……!?」
パニックになってまくしたてる私に、燈ちゃんは小さく首を横に振った。
「ううん……違うの。そういうのじゃなくて……。その人、ずっと、黙って焚き火の薪をくべてて……。睦ちゃんがお茶を淹れてくれて……言葉は、なかったんだけど、三人で、ずっと、飲んでたの」
「また沈黙空間!? え、それ…気まずくなかったの?よくそんな空間にいられたね!?」
「……全然、寂しくなかったよ。あ、ね、愛音ちゃん。その人がね、私に、石を……くれたの」
「え? 石、くれたんだ……?」
「うん。……ポケットから出して、地面に置いてくれたの……すっごく、変な石だった」
「あはは、ともりんが変な石って言うなら、よっぽどだね〜」
私には、全然わからないだろうけど……
「黒くて、ゴツゴツしてて……でも、なんだかとても不思議な感じがするの……」
燈ちゃんは、自分の制服のポケットから、大切そうにその石を取り出して置いた。
「私がね、これ、なんの石かなって、聞いたの。そしたら……睦ちゃんが、原盤の欠片って、ぽつりと言って……」
「……」
「篝火の前で、世界に三人しかいないみたいで。心が……その、カサカサしたところが、ゆっくり、あったかくなっていくのが分かったの。また、あの篝火に、還りたいな、って……」
燈ちゃんは机の上の石を見つめながら、ふわりと微笑んだ。
「あ、はは……! なんか、不思議なキャンプだね……!」
引きつった笑顔のまま、私は最後の唐揚げを口に放り込んだ。
「……愛音ちゃん?」
「 あ、そうだ!今度の土曜日さ、そよさんたちも誘って、みんなでパフェ食べに行かない!? ほら、駅前に新しいお店できたじゃん!」
「あ……うん。パフェ、食べたい……」
机の上に置かれた、黒い石。睦ちゃんが言うには、原盤の欠片。
──私は、その石に触れられないままだった。