劣等生と落伍者(Re:)   作:百済 影炎

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第十四話 小さな輪

 数日後。

 

 休み時間になると、教室のあちこちで小さなグループができ始めていた。

 

「百済くん」

 

 また、遠慮のない明るい声。

 

 龍は顔を上げる。

 

 そこにはエリカが立っていた。

 

「……何?」

 

「何って、話しかけちゃ駄目だった?」

 

 少し悪戯っぽく笑う。

 

 龍は小さく首を振った。

 

「そういうわけじゃない、けど」

 

「ならよかった」

 

 エリカは自然な様子で龍の前の席へ腰掛ける。

 

 その様子を、隣の席の氷華は静かに見ていた。

 

 龍が会話に戸惑いながらも言葉を返している。

 

 それだけで、少し嬉しくなった。

 

「百済くんって、休み時間いつも静かだよね」

 

「そうかな」

 

「そうだよ」

 

 龍は少し困ったように視線を逸らす。

 

「入学してから何日か経ったけど、あんまり話してないじゃない」

 

「別に話すことがないから」

 

「そういうものかなあ」

 

 龍は返答に困った。

 

 何を話せばいいのか、まだよく分かっていない。

 

 すると、

 

「千葉さん」

 

 後ろから声がかかった。

 

 振り返ると、吉田(よしだ)幹比古(みきひこ)が立っていた。

 

「あ、吉田くん」

 

「次の授業の連絡、先生がしていたよ」

 

「本当?」

 

「うん」

 

「ありがとう」

 

 そう笑ったあと、エリカはふと思いついたように話しかける。

 

「吉田くんも少し話していかない?」

 

「僕が?」

 

「うん。同じクラスなんだし」

 

 幹比古は少しだけ戸惑った顔をした。

 

 だが断る理由もない。

 

「君は本当に強引だよね」

 

「それ、よく言われるんだけど」

 

「自覚あるんだ」

 

 そう言って、幹比古は二人のそばまで歩いてきた。

 

「改めて、吉田幹比古です」

 

「……百済龍」

 

 龍が答えると、幹比古は小さく笑った。

 

「それは知ってるよ」

 

「そう」

 

 そこで会話が止まる。

 

 微妙な沈黙。

 

 エリカが思わず吹き出した。

 

「君たちさ。もっとうまく会話できないの?」

 

「千葉さんが上手すぎるだけだと思う」

 

「そう?」

 

「そうだよ」

 

 幹比古が苦笑する。

 

 龍は二人のやり取りを黙って見ていた。

 

 不思議な感覚。

 

 嫌ではないのに、どう接すればいいのか分からない。

 

 そんな龍へ、幹比古は視線を向けた。

 

 目が合う。

 

 龍は首を微妙に傾げながらその視線を受け止めていた。

 

(何だろうな……)

 

 弱そうに見える。

 

 それなのに、そうとも言い切れない気がした。

 

 理由は分からない。

 

 それでも幹比古は、もっとこの少年を見てみたいと思った。

 

「百済くんってさ」

 

 エリカがまた話しかける。

 

「好きなものとかない?」

 

「……好きなもの?」

 

「そう」

 

 龍は少し考えた。

 

 答えようとして、口を開く。

 

 だが、言葉は出てこない。

 

「…………」

 

 龍は小さく首を横に振った。

 

「……ないの?」

 

「……分からない」

 

 エリカは一瞬だけ目を瞬かせた。

 

 だが深くは聞かなかった。

 

「そっか」

 

 代わりに笑う。

 

「じゃあ、そのうち見つかればいいね」

 

 軽い調子だった。

 

 だからこそ、龍も何も返せなかった。

 

「……そうかもしれない」

 

 それだけ答える。

 

 エリカは満足そうに頷き、幹比古はそんな二人を見て苦笑した。

 

 静かにその様子を見守っていた氷華は、気づかれないように小さく笑った。

 

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