数日後。
休み時間になると、教室のあちこちで小さなグループができ始めていた。
「百済くん」
また、遠慮のない明るい声。
龍は顔を上げる。
そこにはエリカが立っていた。
「……何?」
「何って、話しかけちゃ駄目だった?」
少し悪戯っぽく笑う。
龍は小さく首を振った。
「そういうわけじゃない、けど」
「ならよかった」
エリカは自然な様子で龍の前の席へ腰掛ける。
その様子を、隣の席の氷華は静かに見ていた。
龍が会話に戸惑いながらも言葉を返している。
それだけで、少し嬉しくなった。
「百済くんって、休み時間いつも静かだよね」
「そうかな」
「そうだよ」
龍は少し困ったように視線を逸らす。
「入学してから何日か経ったけど、あんまり話してないじゃない」
「別に話すことがないから」
「そういうものかなあ」
龍は返答に困った。
何を話せばいいのか、まだよく分かっていない。
すると、
「千葉さん」
後ろから声がかかった。
振り返ると、
「あ、吉田くん」
「次の授業の連絡、先生がしていたよ」
「本当?」
「うん」
「ありがとう」
そう笑ったあと、エリカはふと思いついたように話しかける。
「吉田くんも少し話していかない?」
「僕が?」
「うん。同じクラスなんだし」
幹比古は少しだけ戸惑った顔をした。
だが断る理由もない。
「君は本当に強引だよね」
「それ、よく言われるんだけど」
「自覚あるんだ」
そう言って、幹比古は二人のそばまで歩いてきた。
「改めて、吉田幹比古です」
「……百済龍」
龍が答えると、幹比古は小さく笑った。
「それは知ってるよ」
「そう」
そこで会話が止まる。
微妙な沈黙。
エリカが思わず吹き出した。
「君たちさ。もっとうまく会話できないの?」
「千葉さんが上手すぎるだけだと思う」
「そう?」
「そうだよ」
幹比古が苦笑する。
龍は二人のやり取りを黙って見ていた。
不思議な感覚。
嫌ではないのに、どう接すればいいのか分からない。
そんな龍へ、幹比古は視線を向けた。
目が合う。
龍は首を微妙に傾げながらその視線を受け止めていた。
(何だろうな……)
弱そうに見える。
それなのに、そうとも言い切れない気がした。
理由は分からない。
それでも幹比古は、もっとこの少年を見てみたいと思った。
「百済くんってさ」
エリカがまた話しかける。
「好きなものとかない?」
「……好きなもの?」
「そう」
龍は少し考えた。
答えようとして、口を開く。
だが、言葉は出てこない。
「…………」
龍は小さく首を横に振った。
「……ないの?」
「……分からない」
エリカは一瞬だけ目を瞬かせた。
だが深くは聞かなかった。
「そっか」
代わりに笑う。
「じゃあ、そのうち見つかればいいね」
軽い調子だった。
だからこそ、龍も何も返せなかった。
「……そうかもしれない」
それだけ答える。
エリカは満足そうに頷き、幹比古はそんな二人を見て苦笑した。
静かにその様子を見守っていた氷華は、気づかれないように小さく笑った。