悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
「では、宜しくお願い致します」
シミュレーターの搭乗前、プリシラが洗練された仕草で、グレイン率いる自警団メンバーとレタリアへ向かって一礼する。
「ええ、こちらこそ。胸を借りるつもりで挑ませていただきます」
グレインも穏やかな笑顔で応じ、それぞれがシミュレーターポッドへと乗り込んでいった。
直後、自警団のシミュレータールーム中央に据えられたメインモニターへ、仮想空間の映像が一斉に投影される。
自警団・レタリア陣営の陣容は、デチューンが施されたグレインの『リーズ』、イーサンの汎用強化機『ルードカスタム・リバスト』、メリーの遠距離支援機『ルードカスタム・ブレイカーライン』、そしてレタリアの紫紺の相棒『アーデン』の4機。
対する本国軍チームの機体が画面に映し出された瞬間、観客席の自警団員たちからどよめきが沸き起こった。
プリシラの機体は、鮮やかなブルーを基調に純白のラインが走る美しく洗練されたシルエット。背部には大型スラスターが備えられ、手には高出力と思われる特徴的なライフルが握られている。
アデリナの機体は、一目見ただけではマキナと認識できないほど異質な形状をしていた。極厚の大型増設外装によって機体体積が通常の倍近くまで膨れ上がり、脚部すらも巨大なスラスターユニットと一体化している。まさに動く要塞だ。
そしてランセスの機体は、プリシラ機と同系のベースフレームを持ちながらも、背負った大口径ロングライフルと、両肩に鎮座する無骨で巨大な武器コンテナが目を引く特化型だった。
「えっ……!? あれって……本国軍のエース専用機『ラデュール』ですか!? まさか全員がラデュールだなんて……!」
モニターを凝視していたステシアが、思わず驚愕の声を上げた。
「そのようね……。ルードのように汎用性と拡張性を高めた設計ではなく、完全にパイロットの戦術に合わせた特注の専用アセンブル仕様といったところかしら。プリシラさんの機体が一番ベーシックな標準機に見えるくらいだわ」
ミレアも興味深そうに目を細め、画面上の機体データを分析している。
「本国の内製機、ここで得られる情報だけでも参考になるわね……」
戦場の舞台は、大小様々な岩石や宇宙船のデブリが点在する、見通しの悪い暗黒の宇宙空間。
互いに離れた初期配置から、静かに両陣営の機体が相まみえた。
◆
(――通信回線・接続完了)
『さて……相手は本国軍の精鋭。まずは慎重に先方の出方を窺いたいところだが……』
コックピット内で、グレインが静かに呟く。
「こちらから一気に攻め込んだ方が宜しいのではなくて? スピードならアーデンも負けませんわ!」
レタリアが意気揚々とフォトンライフルを構えかける。
『ダメよレタリアさん。 相手が乗っているのは本国軍の特機よ、安易な接近行動は危険――』
メリーが焦りを交えて諫めようとした――まさにその瞬間。
漆黑の闇を切り裂き、遥か彼方の視界外から、目も眩むような超高速の光の筋が一直線に走り抜けてきた!
『――避けろッ!!』
イーサンの鋭い叫びと同時に、極限の反射神経で4機が全方向へ爆発的に散開する。
直後、先ほどまで彼らが存在していた空間を、凄まじい熱量を秘めた光粒子が空間ごと焼き払っていった。
『超遠距離砲撃……!』
回避運動を取りながら、グレインが苦々しく唸る。
(感じ取れませんでしたわ……)
レタリアは冷や汗を流しながら、センサーと自らの直感が指し示す漆黒の空間の先を凝視した。
敵機はまだ光学カメラの視界にすら捉えられない。レーダーの有効全域のさらに外――アウトレンジからの狙撃。
何より恐ろしいのは、レタリアが持つ魔力をもってしても、攻撃が解き放たれる直前まで『敵の行動の起こり』すら捉えられなかったことだった。
◆◆◆
観客席のモニターの前で、ミレアは少なからず驚愕していた。
先ほどの砲撃に対するレタリアの回避行動――それは、彼女が普段見せるような『相手の殺気や行動の起こりを先読みして動く』ものではなかった。つまり、レタリアの魔力をもってしても、直前まで相手の攻撃を捉えきれていなかったのだ。
シミュレーターであっても、レタリアの搭乗時には彼女の魔力特性や知覚反応が仮想機体へと反映されていることは、これまでの取得データが証明していた。だが、今回はそれが機能していなかった。
(――アーデンシステムは、シミュレーターのプログラム上では完全に再現できていない。だからレタリア自身の実力も、あの超長距離では完全には発揮しきれない環境になっている……かしら)
ミレアは腕を組み、急速に思考を巡らせる。
そして、さらにもう一つの要因にも思い至った。
(そういえば……アーデンも、今回はシミュレーターに正確な数値を反映させていないわ。スラスターの瞬発反応だけじゃなく、フレームの追従性も装甲強度も……)
ミレアは固い表情のまま、モニターに映し出される漆黒の戦場を見つめ続けた。
◆◆◆
『今のは挨拶代わりだろう。来るぞ……!』
グレインの冷静な声が通信回線に響く。
『わざわざ自分の位置を教えてくれるなんて、ありがたいわ! あの狙撃手、即座に撃ち抜きます!』
メリーが手元のコンソールを素早く操作し、愛機ブレイカーラインの長距離スナイパーフォトンライフルを先ほどの砲撃が放たれた方位へ一瞬で固定した。
『いや、待て……今のは……メリー、撃つな!』
イーサンの制止の声が響く。――しかし、それよりも早く、メリーの指がトリガーを引いていた。
ブレイカーラインの砲身から放たれた光条が、闇を裂いて敵の射撃ポイントへと真っ直ぐに突き進む。
――直後。
メリーの一撃が到達するよりも早く、まるで最初から狙撃位置を完璧に読まれていたかのように、別角度から一閃の光が奔った。
眩い閃光とともに、メリーのブレイカーラインの頭部メインカメラが、今度は細く鋭いフォトン粒子によって一瞬で射抜かれた。
『なっ!?』
メリーの驚愕の声。
コックピット内に警告アラームと激しいエラー音が鳴り響く。
カウンターを狙った一撃の筈が、逆に狙い撃ちされてしまったのだ。
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