悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
「捉えましたわ!」
僅かにデブリが漂う宙域。レタリアの視界に、濃緑の迷彩塗装が施されたランセスのラデュールがはっきりと映り込んできた。
レタリアは即座にアーデンのフォトンライフルを構え、牽制の一射を放つ。
しかし、ランセス機はその光条を流れるような機動で悠々と回避してみせた。
そして次の瞬間――レタリアの視界から、ランセス機の姿が掻き消えた。
「っ!?」
超高速の移動による見失いではない。文字通り、視覚から消え去ったのだ。
直後、真上から気配を感じ取る。
レタリアはトレースモードの出力を限界まで跳ね上げ、爆発的な推力で後方へと緊急退避した。
間一髪で回避した瞬間、今度は左側から――そして間髪入れずに右側から、不気味な気配と共に強烈な光弾の雨が降り注ぐ。
「くっ……!? 何が起こっていますの!?」
メインモニターにも、肉眼の視界にも相変わらず敵機の影すら映っていない。センサーにはジャミングの影響でノイズが走っている。
(姿が見えず……けれど、気配は複数箇所から同時に迫ってきていますわ。……まさか!)
レタリアは全神経を研ぎ澄ませ、自身の魔力を空間全体へと集中させる。
アーデン本来の特殊システムが完全に機能しないシミュレーター環境下であっても、彼女自身の卓越した魔力感覚は、空間に蠢く微小な気配の揺らぎを確実に捉えていた。
「『こうがくめいさい』……ですわね!」
レタリアは最も近くで蠢く気配の座標へ向け、アーデンのフォトンセイバーを鋭く一閃させた。
何もないはずの空域をフォトンセイバーが切り裂いた瞬間、空間が歪み、小さな爆発が巻き起こる。
『大したもんだ。噂通りの恐ろしい勘をしてるな』
ノイズ混じりの通信から、ランセスの感嘆の声が漏れた。
「ランセス様……ですわね! コソコソと隠れて攻撃するなど、お覚悟なさいませ!」
レタリアは空間に潜む最大の気配へ向かって、フォトンライフルを瞬時に構え撃ち抜いた。
確実にランセス機の本体を捉えたはずの手応え――しかし、着弾点に起こったのは先ほどと同じ小さな爆破現象だった。
煙幕が晴れると、レタリアの全周を取り囲むように配置された無数の『小型浮遊砲台(タレット)』、そして光学迷彩を解除したランセスのラデュールが姿を現した。
周囲漂うデブリの中には、黒焦げになって沈黙したタレットの残骸がいくつも転がっている。
『ふぅ……さっきのミサイルでいくつも破壊されちまってね。君を完全に追い詰めるには手数が足りなくなっちまったよ』
ランセスは苦笑を混じえながらも、手にした細身のフォトンライフルのエネルギーチャージを開始する。
ただでさえ亜光速に近いフォトン弾を、高出力チャージによって極限まで初速を高めた特注の狙撃仕様。
放たれてから目視で回避することなど、物理的に不可能な一撃だ。
チャージが完了すると同時に、空間を貫く一閃が放たれる。
「当たりませんわッ!」
だが、レタリアは相手が引き金を引く「行動の起こり」を事前に察知していた。弾丸が銃口を離れるより前に回避機動を開始しており、光条はアーデンの装甲をかすめることすらなく空を切った。
『……なぜそこまでの完全回避ができるのか、俺には想像もつかないが……』
ランセスの呟きと同時に、レタリアの乗るシミュレーターポッドに激しい衝撃と警報音が走った。
「っ!?」
アーデンの左手に握られていたフォトンライフルが、唐突に爆発を起こし破砕された。
『タレットとの「同時攻撃」だ』
フォトンライフルの爆発に飲まれ、左腕に致命的なダメージが入った。
「アーデン! ……なかなかやりますわね……!」
左腕を使用不能になったアーデンと、ランセスのラデュールが向かい合う形となった。
『大抵の相手ならこれまでで3回は撃墜出来ているはずなんだがな。……これだけ仕掛けて左腕にダメージを与えただけとは、恐ろしいね』
ランセスがコックピットの中で飄々とした声を漏らす。
「シミュレーターとは言え、アーデン、ごめんなさいですわ……。ですが、次はこうは参りません!」
レタリアは全感覚を限界まで研ぎ澄ませる。
次に同じような不可視の同時攻撃が来たとして、それをすべて回避しきれるか? ――いや、手数と射線で埋め尽くされた状況で完全に避けるのは困難だ。ならば、取るべき道は一つ。
「早期決着、ですわよ!」
左腕から警報音を鳴らしながらも、アーデンはメインスラスターを全開にし、一直線にランセス機へ向かって猛然と突き進んだ。
『そう来ると思ったよ』
ランセスは冷静に予備動作を読み、潜ませていた別のタレット群の射線をレタリアの進行路上へ一斉に通す。直後、死角から光弾の雨が容赦なく降り注いだ。
「その弾丸そのものは、わたくしを止めるほどの威力ではありませんわ!」
レタリアは迫り来る複数の攻撃気配の中から、もっとも致命傷にならない射線を瞬時に『選択』した。
被弾面積を最小限に抑え、唯一の攻撃手段である右手のフォトンセイバーを護るように機体姿勢を限界まで捻りながら、一切足を止めずに前進し続ける。
ガガガガといった衝撃音が響き、すでに潰れていたアーデンの左腕にさらなる弾痕が刻み込まれていく。だが、レタリアもアーデンもそれを一切意に介さず、距離を詰め続けた。
『最小被弾のルート選び…!? おいおい、エスパーなのか……?』
被弾を恐れず最短領域を突破してくる異常な挙動に、ランセスが驚きと呆れを混じえながらフォトンライフルの引き金を引く。
「少しだけ……少しだけ避けて……!」
レタリアが念じると同時に、アーデンは最小限の推力で横へスライド移動。目視すら困難な極小の機動で狙撃の軸をすり抜けると、そのままラデュールの懐深くへと一気に飛び込んだ。
右手に握りしめたフォトンセイバーの光刃が、闇の中で爆発的な輝きを放つ。
「ふぉとんせいばー! ですわー!」
必殺の一撃が、至近距離からランセス機の上半身を斜めに一閃。
『……ふぅ、完全にしくじっちまったな。プリシラ中尉、アデリナちゃん、あとは頑張ってくれよ』
苦笑混じりの言葉を残し、ランセスのラデュールはシミュレーター上で撃破判定を受け、そのまま撃墜・脱落となった。
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