悪役令嬢の私が追放された先の世界で機械人形に乗って無双しますわ~! 作:エスカド
コルーシェ軍の後方に鎮座する小型輸送艦『ナウィクラ』。
その艦橋の暗がりの中で、アーグリアの重鎮であるフィンドレーは、脚を組みながら戦況モニターを見つめていた。
「ふむ……キャロルが『レタリア』と接敵したようだな」
フィンドレーは立体表示された戦域マップと、キャロルが駆る『ウェーレ』のメインカメラ映像を同期させて確認する。
「この期に及んで『レタリア以外に同様の機動を見せる存在が出てこない』という点を見ると、やはり再現性のない稀有な例か……」
フィンドレーをはじめとするコルーシェ上層部、およびアーグリアの技術陣は、レタリアという少女を『セルディアが極秘裏に造り上げた強化人間』として認識していた。
セルディア自警団長であるグレインが凄腕のパイロットであることは以前から聞き及んでいたが、レタリアの存在はそうした域を超越していた。本来ならば人間が耐えられるはずのない高機動マキナを、生身の身体で操りこなしているという報告を受けていたからだ。
普通の人間にそのような真似は不可能だ。強化人間の規格のように、骨格や内臓、場合によっては血液そのものすら人工物やナノマシンに置き換えなければ説明がつかない。
しかし、セルディア側に存在する「その領域の技術」がレタリアただ一人にしか適用されていないのであれば、彼女は偶発的に生まれた奇跡的な産物に過ぎない可能性が高い。
「ならば、最悪セルディアの持つ強化人間技術そのものは期待したほどの内容ではない可能性もあるか……。諦めをつける分には困らんな」
そう呟きながら、フィンドレーは手元の操作パネルで一つのホログラムウィンドウを開いた。
そこに映し出されたのは、カプセルの中で眠るように静かに目を閉じている、アッシュグレイの髪をした少女の姿だった。
「とは言え、想定通り純粋な戦力としてはこちらが劣勢……。やはり『保険』は必要か」
フィンドレーはコンソールを操作する。
ホログラムウィンドウの中で横たわる少女の周囲に、蒼白いサインとライトが点灯し始めた。
◆◆◆
一方、激戦が繰り広げられる宙域。
レタリアは正面に向かい合う青緑色の重装甲機『ウェーレ』から、刺すような凄まじい圧迫感と殺気を覚えていた。
「ロフィは……ロフィはどこにいますの!?」
押し寄せるプレッシャーに怯むことなく、レタリアは毅然とした声でキャロルへと問いかけた。
『眠っているわよ! あなたのせいで……あなたのせいで使い物にならなくなったもの!!』
スピーカー越しに、キャロルが憎悪に満ちた声で吐き捨てる。
『アレがあればこちらがもっと優勢を保てていたのにッ!!』
叫ぶと同時に、ウェーレの肩部ユニットから極太のフォトンレーザーが照射された。
キャロルの駆るウェーレは、かつてレストフルやコルーシェで遭遇した際には武器らしい武器すら持たない偵察・電子戦用の細身の機体だった。だが今のその姿は、大火力を強引に盛り込まれた増加武装で固めた完全な別物と化していた。
「その程度の攻撃で、わたくしを捕らえられると思わないことですわ!」
レタリアは追尾するように伸びるフォトンレーザーの射線を、最小限の機動で回避。
かわされたレーザーの光条は、背後に漂っていた小惑星のデブリを一瞬で真っ赤に融解させて消滅させた。
『はぁ……はぁ……っ! くっ……システムの負荷が……!』
通信越しに、キャロルの荒い吐息と苦悶の喘ぎが漏れ聞こえてくる。
「そのマキナにも……あの『インペラティヴシステム』が組み込まれていますの!? なんてことを……!」
キャロルの乱れた言動、そして機体から伝わってくる精神波動の大きな乱れを感じ取ったレタリアは、襲い来るフォトンレーザーの追撃を疾風のごとくかわしながら叫んだ。
『すべてはフィンドレーのためよ! 忌々しい……! あなたのような偽物の強化人間が、好き勝手に!』
キャロルの叫びと共に、ウェーレの全身の全門砲火が一斉に開かれた。
広宙域へ容赦なく撒き散らされる広拡散弾幕。そしてその密度の中で、正確にアーデンのコックピットを貫くべく放たれるフォトン光弾。それら二種の弾幕が複雑に交差し、アーデンのあらゆる逃げ場を完全に塞ぎ込もうとする。
しかし、レタリアの魔力は、その弾幕の中でも自分が突破すべき軌道を描き出していた。
「何か勘違いをしておられますわね……! わたくしは強化人間ではありませんわ!!」
レタリアは極限の制動で弾丸の隙間をすり抜けながら、左腕のフォトンライフルをウェーレへ向けて即座に連射した。
アーデンの放った高エネルギー弾がウェーレの胸部装甲に直撃し、眩い火花と装甲の破片を散らす。だが、重厚に重ねられた追加装甲に阻まれ、致命的な打撃を与えるには至らない。
『あなたのような人間が存在するはずがないでしょう!? R1を誑かし……私たちの夢を阻む悪魔め!!』
「何を言っておられますの……!? 訳が分かりませんわ!」
支離滅裂なキャロルの言葉に困惑するレタリアだったが、だからといって目前の猛攻の手を緩めるわけにはいかなかった。
絶え間なく回避行動を続けるアーデンだったが、突如として強烈な衝撃がコックピットのレタリアを襲った。
「つっ……!」
これほどの高密度の弾幕と、正確に狙いを付けた複合射撃だ。いかにレタリアの感覚をもってしても、直撃を避けつつ完全無傷で回避し切ることは困難だった。
アーデンの増加肩部装甲の一部がフォトン弾によって激しく抉り取られ、爆風が機体を揺らす。幸いにも、アーデン本体へのダメージはほぼ無かった。
「……問題ありません! この程度、かすり傷ですわ!」
レタリアは即座に姿勢を立て直すと、スラスターを全開にしてウェーレの至近距離へと一気に肉薄する。
その瞬間、猛烈だった弾丸の雨がピタリと止んだ。
『知っているわ……! あなたは格闘戦が得意なのだと!!』
キャロルが狂気に満ちた声を張り上げると、ウェーレの両腕部に組み込まれた高出力ジェネレーターから、通常機の倍以上はあろうかという巨大なフォトンの光刃が爆発的に生成された。
『墜ちなさいっ!!』
キャロルは叫びと共に、巨大な光刃を纏わせたウェーレの両腕を、迫り来るアーデンへと力任せに振りかざした。
だが――レタリアの感覚は、キャロルのその大振りの予備動作すらも完全に捉えていた。
アーデンの右腕に凝縮されたフォトンが解き放たれ、ウェーレの光刃を遥かに上回る眩い輝きを解き放つ。
「グラーヴ・アークス!!」
迫り来るウェーレの刃を打ち払うが如く、アーデンは白き光の巨刃を横一文字に振るい抜いた。
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