「はぁーあ……すごい迫力だったなぁ」
水晶の街「エイドルド」。ここは水晶巣崖の素材が時々仕入れられることから、街のいたるところに水晶の光が反射する、煌びやかな雰囲気を纏っている。
しかし、今回の目的は観光ではない。俺――プレイヤー名「ハピエン」は、人通りの多い大通りを避け、薄暗い裏路地を抜けて人目につかない場所にひっそりと佇む、とある民家へと向かった。
「ごめんくださーい!」
扉を開けると、奥からヨボヨボとしたお爺さんが現れた。彼こそが、宝石匠(ジュエラー)のジョブを持つNPCだ。
『おや、お前さんは……確か、わしの初恋のキヨちゃんかね?』
始まった。いつも通りの重度なボケ老人NPCだ。会話は一ミリも噛み合わない。だが、俺が命がけで手に入れた「ローエンアンヴァ琥珀晶」を差し出した瞬間、その濁った瞳に職人の鋭い光が宿った。
彼はフガフガと意味不明な言葉を呟きながら、舐め回すように宝石を観察する。
「ふむ・・・。お主になら、宝石匠(ジュエラー)の秘伝を教えてやっても良いかもしれんのぅ。」
『転職クエスト【宝石爺さんの意志を継ぐ】を開始しました。』
・・・ついにだ。俺は、すぐさま作業台を借り、アクセサリー制作に取り掛かる。
以前から作りたいと思っていた、この世界を生き抜く上での必須アイテム。作れるかどうかはやってみないとわからないが...。
自身の職業「細工師」と「仕立工」の今まで培ってきた技術を総動員し、己が思い描く最高のアクセサリーを作る。その後ろ姿を、ボケ爺さんがフガフガと言いながら、しかし、優しい眼差しで、新たな一歩を踏み出した若者を応援する様に見つめていた。
「....できた」
【アイテム名「風土の共鳴珠」
効果:半径50メートル以内を、風の力によって索敵。地中を地の琥珀晶によって感知するアクセサリー。風による索敵のため、姿を消す魔物や魔法も見破ってしまう。クールタイムあり。】
ポーン、と軽快なシステム音が鳴り響き、視界に【宝石匠への転職が可能になりました】のウィンドウが浮かぶ。無事にクエストを達成し、出来上がった特製のアクセサリーを装備して、俺はホクホク顔で店を後にした。
――その直後だった。
「ねぇ君、見たことないアクセ付けてるね〜?」
……まさか。
ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには、すれ違った十人中十人が振り向き、二度見三度見するほどの、絶世(リアル)の美女が立っていた。
もちろん、このシャングリラフロンティアというゲームにおいて、美男美女を見かけることはさほど珍しくない。キャラクリの自由度が高いのだから当然だ。
しかし、俺は前世の原作知識で知っている。彼女は自分のリアルな姿をそのまま、一から手作業で再現したのだと。自分のことは自分が一番わかっているのだと言わんばかりの、一部の隙もない日本一のカリスマオーラ。
時には「魔王」、時にはカリスマモデル。その人物の名は、現・阿修羅会No.2――アーサー・ペンシルゴン。
(逃げるか?)
初めに頭に浮かんだのは、およそ他人との初対面で思い浮かべて良いものではない選択肢だった。でも仕方ないよね、魔王だし。いつ爆発するかわかったもんじゃない(そんな頻繁にはしてない、たぶん)。
ならば選択肢は一つ。彼女に背を向け、クラウチングスタートの姿勢をとり、遥か彼方へ――。
レッツ逃ぼ、
ガシッ、と容赦なく肩を掴まれた。
「な〜に逃げようとしてるの?」
耳元で囁かれる、極上の、しかし冷徹な美女の声。
……オワタ(泣)。