サンフェスを終えた吹奏楽部は、一息を突く暇も無く、夏にやってくるコンクールに向けての練習が始まる。
とその前に…
「そこは、この公式を当てはめて_」
「なるほど」
中間試験に向けての勉強会をしようと秀一に誘われて、男子三人で勉強会を開催していた。
秀一の家で
「工藤って頭まで良いなんてな。逆に何が出来ないか俺気になるわ」
「褒めすぎ」
「浩輔はなんでもできるからな。俺らの世代で一番有名人だもんな」
「秀一も秀一で言い過ぎ」
なんでこうも、二人揃って僕の事を褒めるのか。
いや、褒められる事は嬉しいんだ。
そして、中間試験は、学年10位という十分な成績で終えた。
「ああ…試験乗り越えたーーー」
試験期間を乗り越え、今日から部活再開。
植田さんが机に顔を押し付けて、屍のようになっていた。
「それにしても、オーディションなんて」
「今まで三年生が優先して出てたのにね」
先輩方がそう話している。
オーディションというのは、さっき滝先生が__
「今年はオーディションを行う事にしたいと思います。私がひとりひとりみなさんの演奏を聴いて、ソロパートも含め、大会に出るメンバーと編成を決める。ということです」
滝先生がそう言った事により、異質な空気が流れた。
そして、おまけに
「三年生が一年生より上手ければよいだけのことです。もっとも皆さんの中に、一年生より下手だけど大会には出たいという上級生が居るなら別ですが」
滝先生がそう言ってしまえば、反論できる者なんて居ない。
「楽譜貰って来たよみんな」
コンクールで演奏する課題曲と自由曲の楽譜を貰いに行っていた鳥塚先輩が戻ってきたことにより、話は一旦終了となる。
『課題曲が田坂直樹プロヴァンスの風 自由曲が堀川奈美恵三日月の舞』
「とりあえず聞いてみません?」
島先輩の言葉で、CDを掛ける。
聞いた感想を言うと、三日月の舞はかっこいい。最初に来たのはそれだった。
トランペットのソロパートがあるし、麗奈は気合が入ってると思う。
「クラリネットが目立つ曲ですね」
「うんうん、私頑張っちゃうよ!」
鳥塚先輩は物凄く気合が入っていた。
課題曲である『プロヴァンスの風』は、クラリネットが目立っている曲。そんな感想がやってくる。
それからは、課題曲。自由曲を中心に練習が始まった。
「葉月ちゃん、チューバ持って帰って練習?」
「すげえなあ チューバ持って帰るんだ?」
秀一と一緒に帰っていると、電車から降りてきた葉月ちゃん。
それもチューバを背負って、気合が違うなぁ…
「あ、うん。家でも練習したくて」
「そっか。オーディションがんばろうな」
「うん、葉月ちゃんも頑張ろうね」
葉月ちゃんにそう言うと、葉月ちゃんは駅から去って行った。
「僕も気合入れないとな」
「浩輔?どうした?」
「ううん、なんでもないよ」
そう、皆それぞれが目標に進みだした時、事件は起きてしまった。
*********
「先生、ここに置いておきますね」
僕は、クラスで集めたノートを職員室に持ってきていた
「おう、工藤サンキューな」
その時だった。
「……部活辞めます」
隣から流れたきたその言葉。
人それぞれ理由があって、その判断をしたんだろうと思い、その声がした方を向くと、そこには、葵さんが居た。
「…葵さん…?」
「どうかしたか?」
「いえ…」
理由は聞けなかったが、葵さんが部活を辞める。
それだけは分かった。これ以上、職員室に居ても仕方ないので、職員室を後にした。
そして、その日の全体練習の時、滝先生から告げられた。
「今日は全体練習ですが、その前に皆さんに言わなければならない事があります。サックスパートの斎藤葵さんが退部しました」
そう告げられた時、サックスパートから退部を嘆く声が聞こえてきた。
その中でも、晴香先輩は特にショックを受けていた。
「あ…蒼さん…」
「浩輔君…」
一人で帰っていると、偶然にも葵さんと会ってしまった。
「…時間…あるかな?」
葵さんにそう言われて、僕と葵さんは近くのカフェにやってきた。
「受験ですか…4月に言ってましたもんね」
「うん…晴香には申し訳ないんだけどね…」
晴香……ああ、部長さんか。
同じパートだった筈。
「…部長とは話したんですか?」
「ううん…ちゃんとした話は…辞めようと思ってるみたいな話はしたけど…」
「そうですか…」
オーディションをする。その事が辞める選択肢を強くしたのだろう。
「浩輔君」
「ん?なんです?」
「私が言うのもなんだけどね…私の事は気にせず、部活頑張ってね」
葵さんはそう言って、席を立った。
「はぁ…」
葵さんが部活を辞めるのは、別に変な事でもない。
部活を辞める。それは個人の判断だから、僕があれこれ言うものでもない。
でも、あんな言い方をされたら気になる物は気になる。それよりも今は…
「部長…何も無ければいいんだけど…」
同じパート…それも同級生が辞める。
晴香先輩は、特にショックを受けていた。僕がそう呟いた言葉は次の日に、現実となった。
「部長お休みですか…」
「うん、斎藤さんが辞めちゃったから…ショックが大きいんだと思う」
次の日、鳥塚先輩からそう聞き、僕は空を仰ぐ。
やっぱりかと…
「黄前さん 何かもたついてませんか?さっきからずっと音を取りこぼしています。ちゃんと集中して下さい」
僕よりも葵さんの事が気になっているであろう久美子は、練習中。先生からかなり怒られていた。
そして、何より部活の空気が重い…重すぎる…重すぎるのだった。