シスターフッドの大型犬ちゃん   作:ZK

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シオンの背景に少しだけ踏み込んでおくことにしたので初投稿です。




7.過去の影

 

 

 

 

出す物を迷いながら出して、トボトボと歩く私。今日は彼女のシフトが入っていたから、鉢合わせなくてよかった。

 

 

「……。」

私は、自分で思っていた様な人間では無かった。

私は、どうやらあ(・)っ(・)ち(・)側(・)の人間だった。

そんな人間に正義が守れるわけがない。

先輩は、そんなことは無いと言ってくださったけど、事をしでかした以上、迷惑をかけたくなかった。

自身の得物を見やる。結局、突撃しての接近戦ばかりできっとこの小(・)銃(・)は宝の持ち腐れだっただろう。先輩や他の狙撃手志望の子と違う銃を調達したのもマズかったかな。

…どっちにしろ狙撃手の距離からじゃ当てられなかったし、仕方ない。

「……。」

別に部活に、入っていなくても生きてはいけるし、学校生活だって問題はない。

なんなら暇な時間が増えて、良いように使えるかもしれない。

 

なのに、考えてしまう。

 

 

「明日から、どうしよう。」

どんな顔していれば良いだろう、クラスに元同僚がいるのに。あんな私を間近で見た彼女が、私をどう思うか。…正義感に溢れた彼女にとって、あんなところを見せた私を友人だとまだ思ってくれているのか。

 

 

「……すみません、大丈夫でしょうか?体調が優れない様ですが。」

 

ふと、声をかけられて顔を上げると、銀髪のシスターさんがいた。

 

「…え、あぁ、いえ…。」

 

大丈夫です。…そう言えなかった。

 

「…もしよろしければ、お(・)話(・)して頂けませんか。口にするだけで、軽くなる悩みもありますし、他の方に口外は決して致しません。」

 

シスターフッド。秘密が多くて、少し怪しいなんて言われている部活。

心の弱みにつけ込んだ悪徳なカルトを摘発した経験もあるので、本来ならこの場を去るべきなのだろう。

 

しかし私は、そんな気にならなかった。もしかすると、どこかで何かを諦めていたのかもしれない。

 

「えっと、では、迷惑で、無ければ……。」

 

そう返すと、シスターさんはその赤紫色の綺麗な瞳を閉じてニコリと笑うと、私がうなだれていた広場のすぐ前にある教会へ案内された。

 

「教会を訪れられたのは初めてですか?」

 

教会の中は、天井が広くて、神秘的で荘厳な雰囲気を放っていた。

「大聖堂はさらに大きくて、圧倒されますよ。」

そうして微笑んだシスターさんと、長椅子に座る。

長い銀髪、綺麗な赤紫の瞳の凛々しい顔…改めて綺麗な人だなぁというのが素直な感想だった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

「うーん……!夢か…。」

 

この湿度…たぶん今日は雨天…音的には少し強い雨…。

 

 

 

 

雨!?

 

布団を蹴っ飛ばして窓を開ける。洗濯物を干していたのだった。

 

「…はぁ〜」

 

土砂降りの中取り込んだが、部屋干ししていた下着以外の、部屋着を中心に全滅だ。

なお取り込む過程で、今着てた寝間着兼部屋着もダメになった。

大きなため息が部屋を満たす。

 

 

仕方ないので全て室内に干して、制服以外が全滅してしまった自分に着せるための服がどこかに無かったか捜し始める。

 

 

そんな時に、久しぶりに開けたクローゼットの片隅に置いてあった、細長い包みが目に入った。

 

「……。」

 

私は、まだ自分が服を見つけていないのに、それを取ってしまった。

 

包みを解くと、古風なボルトアクションライフルが顔をのぞかせる。木製の銃床は少し削れて傷もついていて、この手の小銃には珍しい10発マガジンは抜き取って、本体と共に包みに入っていた。

 

「……。」

 

久しぶりに、ボルトを動かす。…あの速射を、まだ身体は覚えているらしい。

 

懐かしいという感情と、しかし同封してあった刃の付いていない、示威用の銃剣。それを見た時、急激に追いつくように、前の記憶が思い出される。

 

「……いや、いや。今は、違う。だから、忘れろ、忘れろ…。」

 

私は首をふって、そう自身へ語るように呟きながら、包みを戻した。

ついでに開けた際に落ちていたらしい腕(・)章(・)もそれに包んで、私はそれをクローゼットにしまい込んだ。

 

「………行こうかな。」

 

私はおもむろに部屋着捜しを諦めて、今日は早く出ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

湿った雨の匂いに包まれた大聖堂。

早朝の静寂の中、私は廊下の窓から土砂降りの庭を眺めていた。

 

あの時のことが嫌でも思い出される。

 

「…シオン。何か気がかりなことがあるようですね。」

 

業務を手伝うために執務室へ来たら、サクラコ様にそう言われてしまった。

 

「え。な、なぜ…い、いえ、お気になさらず!」

 

「…ふふ、遠慮することはありません。お(・)話(・)しましょう。」

 

サクラコ様から椅子を促されて、そこに座る。

 

「えっと…サクラコ様、これはいつもの奴で…」

 

「えぇ。シオンの古(・)巣(・)のことでしょう。」

 

今朝見た物を思い出す。10発入りのボルトアクションライフル、そして黒地に赤字の腕章。…かつての私の、古巣での品だ。

 

「…やはり、自分の様な奴なんかがシスターだなんて、と怖くなってしまって。」

 

汗まみれの手のひらを見やる。が、一瞬、あの時のことを思い出してしまってやっぱり目をそらす。私は…

 

「来る時も、周りが気になって、またやってしまうんじゃないかと心配で、私の本質はやっぱり暴…」「シオン。」

 

サクラコ様に手を握られてハッとする。自分の手に食い込んでいた爪が外され、速くなっていた呼吸が落ちついていく。

 

「そうして悔やんでいることは、していないことよりも尊いことです。

それに…。」

 

サクラコ様はその赤紫色の目で私を見つめて続ける。あの時と同じ、澄んでいて、きれいな瞳。

 

「ここにいるのは、シスターフッドのシスター、シオンです。」

 

そうして示された鏡には、シスター服を着た私がいる。姿勢を正すと、垂れていた耳がピンと立った。

 

「今の貴女は、きちんとシスターフッドの一員ですよ。」

 

 

「…は、はい…す、すみません。何度もこんな話を…。」

 

「いえ。前よりは落ち着いてきています。…恐ろしさを知るからこそ、見えること、できることもあるのです。」

 

外の雨は酷くなっている。しかし、そう告げてくださるサクラコ様の言葉は温かい。

 

「力のあることは決して悪いことではありません。悔いることのできる貴女を、私は信頼しています。ですから、シオンも自分を信じてあげてください。」

 

 

あの時と同じ、澄んだ赤紫色の目に、私は少し肩が軽くなった気がした。

それと同時に、私は罪悪感から、傍目にはわからぬように小さく祈る。

 

(どうか善良さに付け上がり心の安定を求める私をお赦しください。)

 

サクラコ様と、こんな感じの話をするのは、何度もあった。だがそのたびに、サクラコ様は私を励ましてくれる。そうだと踏んだうえで、私は何度もこうして発作(?)を起こしているのかもしれない。

 

 

「それでは、仕事に取り掛かりましょうか。」

 

「は、はい!お手伝いします。」

 

鏡の中で椅子から立ち上がった私は、しかし少しばかり尾が左右に揺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

「大分遅くなったなぁ…。」

 

 

今日の大雨で寝床を失った数人が新たに救貧対象に加わって1夜を明かすことになり、その対応もあって随分遅くまで残るはめになった。

 

…しかし、そういうこともシスターフッドの務め。サクラコ様も残っていらっしゃったのですし、四の五の言っていられません!

…それに

 

 

「寝床が流された時はどうなるかと思ったけど、助かったよ…。」

 

「い、意外と、捨てたもんじゃないのかな…。」

 

 

そんな声を聞くと、気分も良くなる。私はシスターフッドのシスター足り得るかも、と思えたりして。

 

 

夜道の運転でも、少し機嫌良く帰途についていた。…が、突然爆発音が聞こえた。

…意外に近い?それにこの規模、ただの不良の花火にしては大きい。

 

ちょうど近くに教会があったのでそこの鐘楼に登らせてもらい、そこから屋根に出る。

 

「えーと、あれかな?」

 

見やった先には、ゲヘナと思しき黒っぽい制服の角付きの生徒4人が……マグロ?を抱えて逃げている。

 

「???」

 

どうやら正義実現委員会に追われて、爆発物を使いながら追手を撒こうとしている様だ。

 

……!あ、思い出しました。美食研究会とかいう集団だと聞きました。

 

こっちの教会やシスターに何かある前に加勢しようかと思った時、見覚えのある数人が現れた。

 

あれ、ハスミ先輩にヒフミさんたち補習授業部、それに先生が美食研究会に立ち塞がった。

 

 

「接敵!ヒフミとコハルは左右に展開!ハナコは後方で援護を!先生!指示を!」

 

アズサさんにそう言われた先生は、取り出したタブレット端末で指示をし始める。

 

先生の指示は相変わらず的確な様だ。相互掩護しつつ、的確に攻撃のタイミングを指示している。

 

ここから掩護射撃するには…遠い。それにあの様子なら、このまま押し切ることができそうだ。

 

そうだ、サクラコ様に先生の戦術指揮の手腕を報告するにはちょうど良いかもしれない。

 

あ、いや、でも勝手に撮るのはいけないでしょうし…やっぱり…でも言葉で説明出来るか怪しいし………

 

 

 

 

 

 

***

 

「お疲れさまでした、先生。そして補習授業部の皆さん、おかげさまで事態を無事に収拾することができました。」

 

戦闘が終了して、ハスミは改めて感謝を述べる。

 

しかし突然、何かに気付いたのか突然先生を庇い立てて近くの建物の屋根へ小銃を向ける。

 

”あれ?シオン?”

 

突然小銃を向けられたことにびっくりしたのか、屋根の上に立っていたシオンは飛び上がってそのまま闇夜に姿をくらませてしまった。

 

「…失礼しました。てっきり新手かと。」

 

小銃を降ろしてハスミが戦闘態勢を解く。

 

「あんなところでなにをしていたんだ?…まさか再戦のための下見か!?」

 

「あうう…やっぱり昨日のことじゃ…。」

 

 

「…シオンは先生との接点もあるでしょうし、先生を観察している可能性はあり得ます。」

 

”私を?”

 

「はい。私もシオン個人は信用していますが、彼女は今(・)は(・)シスターフッドの一員です。」

 

そう伝えるハスミの目線は、少しばかり逸れていた。

 

「シスターフッドは、私たち正義実現委員会、そしてティーパーティーでも手を出しづらい独立性を持った組織です。

政治的には中立を標榜していますが、無視できない力を持つ勢力なのもまた事実。『炊き出しやミサなどを通してシンパを増やしている』などの噂もあります。

多くは根も葉もないものですが、秘密も多く不透明なのは、正直確かなところです。」

 

「リーダーのサクラコさんはシオンさんに裏で粛正を担わせているという噂なんかもありますね♪」

 

「しゅ、粛清!?」

 

「ハナコちゃん!?」

 

「うふふ♪あくまで噂ですよ。それにシオンさんももう近くにはいないでしょうし。

……ところで、あの方々はどうなるのですか?」

 

そう冗談めかして笑うハナコは、シスターフッドから話題を逸らす様に、制圧した美食研究会へと話題を振り向けた。

 

 

騒がしかった夜は静寂を取り戻しつつあった。

 

 





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