君とボクの二度目の冒険 〜転生した少年と幼馴染の勇者が、魔王の孤独を救うまで〜   作:屠龍

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第四十八話 これからの事――一緒にいたい――

 第四十八話 これからの事――一緒にいたい――

 

 今までは別の部屋だった。

 けれど、あの夜以来、僕はミレーヌともっと一緒にいたいと思うようになっていた。

 もちろん、それだけじゃない。

 ミレーヌと一緒にいると胸の奥があたたかくなって、勇気が湧いてくる。

 折れかけた心が少しずつ戻っていくような、そんな気持ちになるのだ。

 

 でも、もし断られたら。

 そう思うと怖くて、僕は宿の廊下を落ち着きなく行ったり来たりしていた。

 部屋の前まで来ては引き返し、窓の外を意味もなく見て、また同じ場所へ戻る。

 さっきまで風呂に入っていたはずなのに、手のひらにはじっとりと汗がにじんでいた。

 心臓がうるさいくらい鳴っていて、胸の内側を誰かに小突かれているみたいだった。

 

 そんな時、ぽんと肩を叩かれる。

 振り返ると、セシルさんがにやにやと笑っていた。

 

 「よっ、ユキナ。何をそんなに悶々としてるのさ」

 

 「いえ、別に」

 

 そう言いながらも、僕は自分の考えを見透かされた気がして、恥ずかしくて顔を伏せた。

 セシルさんはそんな僕の顔を覗き込むようにして、楽しそうに笑っている。

 

 「ユキナはどうしたいのさ」

 

 「僕は、その……」

 

 「正直に言ってみな」

 

 「ミレーヌと一緒にいたいです」

 

 セシルさんの笑みが、少しだけ柔らかくなる。

 

 「他の誰かじゃなくて?」

 

 「はい。僕はミレーヌがいいです。ミレーヌが僕の隣にいてくれれば、それでいいんです」

 

 自分でも顔が熱くなっているのがわかった。

 胸が苦しいほど、ミレーヌと一緒にいたかった。

 ただ同じ部屋で過ごしたいというだけじゃない。

 今日あったこと、昨日見たもの、言葉にしきれない不安も喜びも、全部ミレーヌと分け合いたかった。

 隣にいてほしい。

 そう思う相手がいることが、こんなにも心を揺らすのだと僕は初めて知った。

 

 「お、おお~……お姉さん、少年が素直すぎてこっちまで照れちまうよ」

 

 そう言ってセシルさんは僕の肩を掴み、くるりと後ろを向かせた。

 

 そこにはミレーヌが立っていた。

 長袖の水色のシャツ姿で、頬を赤くして、もじもじと僕を見ている。

 指先で袖をつまんで、落ち着かないように身体を揺らしていた。

 いつもの快活なミレーヌとは少し違う。

 僕と同じくらい、緊張しているのかもしれない。

 

 僕は思わず見つめてしまう。

 昨日までと同じミレーヌなのに、今はどこか違って見えた。

 特別な女の子として、もっと近くに感じてしまう。

 

 「……あ、これはその」

 

 「ユキナのえっち♪」

 

 そう言うミレーヌは、けれどどこか嬉しそうだった。

 恥ずかしそうに視線を泳がせながらも、逃げようとはしない。

 その顔を見た瞬間、僕の悩みは杞憂だったのだとわかった。

 ミレーヌもまた、僕と一緒にいたいと思ってくれていたのだ。

 

 「ほらユキナ。しっかりしな!!」

 

 どん、と背中を押される。

 セシルさんは、ちゃんと言えと言っているのだ。

 

 「ミレーヌ。僕はミレーヌが好きだ。だから今夜は一緒にいたい」

 

 「ユキナは、ボクだけがいいって本気で思ってるの?」

 

 「うん。僕はミレーヌと一緒にいたい」

 

 ミレーヌは少しだけ唇を噛んで、それから小さく息を吐いた。

 まるで、胸の中に抱えていたものをようやく外へ出したみたいに。

 揺れていた瞳がまっすぐ僕を見上げる。

 

 「わかった。ボク、部屋を引き払うね」

 

 そう言ってミレーヌが宿の主人のところへ行こうとすると、

 

 「ああ、それならあたいがもう話を通しておいたよ」

 

 とセシルさんが言った。

 

 最初からこうなることがわかっていたのだろうか。

 僕はもう、何も言えなかった。

 

 「ほらほら、お二人さん。廊下にずっと立ってても仕方ないだろ。早く部屋に入りなよ」

 

 そう言ってセシルさんが、僕の部屋の扉を指さす。

 僕とミレーヌはお互いの顔もまともに見られないくらい恥ずかしくなりながら、部屋の中へ入っていった。

 すれ違いざま、そっと指先が触れた。

 それだけのことなのに、胸の奥がまた熱くなる。

 僕たちは言葉も少ないまま扉を閉めたけれど、不思議と気まずさはなかった。

 ようやく同じ場所へ辿り着けたのだと、そんな気持ちのほうが強かった。

 

 ◆◆◆

 

 そんな僕達を見送ったセシルさんに、廊下の角に立っていたシグレさんが呆れたように言った。

 

 「……まったく、お節介な奴だ」

 

 「お節介なくらいが丁度いいんだよ。じゃなきゃ、あの二人は全然進まないだろ」

 

 そう言ってセシルさんは肩をすくめる。

 シグレさんは小さくため息をついた。

 

 「だからといって、お前が部屋の手配まで済ませておく必要はなかっただろう」

 

 「しょうがないじゃないか。ミレーヌのほうだって、どうしていいかわからなくなってたんだからさ」

 

 「……話したのか?」

 

 「話したよ。ユキナに告白された、ボクも好きだけど、なんて言えばいいのかわからないってね。あの子、あれで案外臆病だからさ」

 

 セシルさんはそう言って、さっきまでミレーヌが立っていた場所を見る。

 そこにはもう誰もいない。

 けれど、緊張して袖を握っていたミレーヌの姿が、まだそこに残っているような気がした。

 

 「さっきだって、あそこに立ったままずっと震えてたよ。行きたいくせに、もしユキナに迷惑だと思われたらどうしようって顔してた。ほんと、似た者同士だよ」

 

 「ユキナもユキナで、顔を真っ赤にして廊下をうろうろしてたしね。あの二人、両方とも同じことで悩んでるくせに、肝心なひと言が出ないんだから」

 

 「若いな」

 

 「若いねえ。けど、ああいうの嫌いじゃないよ。生きてるって実感がないと、冒険者なんてやってらんないって」

 

 そう言ってセシルさんがけらけらと笑うと、シグレさんは呆れたようにもう一度ため息をついた。

 けれど、その口元はほんの少しだけ緩んでいた。

 

 「……まあ、二人とも少しは肩の力が抜けるといいがな」

 

 「大丈夫さ。あの二人なら、ちゃんとやっていくよ」

 

 セシルさんの言葉に、シグレさんは返事をしなかった。

 ただ静かに、閉まった扉のほうへ視線を向けていた。

 その目は厳しくもあり、どこか優しくもあった。

 自分たちもまた、昔どこかで似たような夜を過ごしたのかもしれない。

 そんな事を思わせる沈黙のあと、二人は何も言わずに並んで廊下を歩き去っていった。

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