特になにも考えず一時間くらいで書いた話

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第1話

 

 

 

 ある時の空について──

 と言われた貴方は、なにを思い浮かべるだろうか。

 曇り空か。雨空か。

 真っ青な空。ぽつぽつと雲のある空。

 雪が降っていたり。台風だったり。

 入道雲だったり。いわし雲だったり。

 

 その空から聴こえてくる音は、なんだろうか。

 セミの鳴き声。予鈴。誰かの笑い声。誰かの泣き声。

 歌だろうか。雑踏だろうか。

 

 それは、貴方の観た景色なのだろうか。

 夢か。アニメか。ドラマか。映画か。

 漫画かも。小説かも。詩かもしれない。

 

 私には、思い出に残る空と言われても、思い浮かぶものがない。

 自分から問うているくせに、何事かと思うかもしれない。

 しかし、無いからこそ貴方に問いたいのだ。

 

 思い出とは、何だろう。

 人は思い出は素晴らしいものと言いたがるものだけど、自分にとって良くないことも、それはまた思い出なのだろうと私は思う。

 若気の至りとは、また違う。

 鬱々とした思い出。

 自殺未遂。引きこもり。不登校。いじめ。家出。

 様々だが、それは私の今を形作る思い出。

 プラスにもマイナスにもとらえる必要は無いのでは、と私は思う。それは起きたことだから。もう、私の関与するところに無いのだ。

 

 後悔を否定しようとは思わない。

 過去を美化することを否定しようとも思わない。

 貴方の中にそれがあり、私の中にそれがあるだけ。

 それを語るのは貴方の口であり、私の口だ。

 

 さて、空についての話だったか。

 空とは、得てして心境表現に使われることの多い舞台装置だ。

 失恋すれば、雨が降るか雪が降るか。寒空の下、キャラクターの心情を代弁するものだ。

 しかし、貴方は違う。

 貴方は作品の中にはいない。

 その世界の天候を操るのは、神ではない。物理現象だ。

 では、同じ景色も違って見えるはずだ。

 雨にばかり良い思い出のある貴方も居れば、晴れにばかり良い思い出のある貴方も居るだろう。

 それは、貴方が物語の主役でないからだ。

 貴方は、貴方にこそ物語を植え付けることの出来る存在だ。

 主役などではなく、作家であることの証明だ。

 

 故にこそ、貴方に問いたい。

 あの時の空について──貴方は、どう思うだろうか。

 

 

 

 あの時の空は──どう、だっただろう。

 空を気にして生きているようなこと、僕にはありはしなかった。

 僕が生まれた日。

 僕が初めて歩いた日。

 僕が幼稚園に入った日。

 僕がランドセルを貰った日。

 僕が小学校に入った日。

 僕が中学校に入った日。

 僕が高校に入った日。

 

 もっと色々あると思うけど、どうだっただろう。

 晴れてたような。雨だったような。

 覚えていない。でも、写真を見れば直ぐに分かることだらけ。

 なんだか、それでは物悲しいのではないか。

 写真に残すことは、なんだか、怠けているような。きっと、そんなことはないはずだけど。でも、なんとなくそんな感じがして、あまり好きではない。

 

 だから、自分でも写真を撮ろうと思えたのに、びっくりした。

 撮りたいと思った。

 それは、思い出に残したいからじゃなく、何度でも、それを見たいと思ったから。多分そうだと思う。

 今も、ふと見返したくなる。

 それは、寂しいからなのか。幸せになれるからなのか。僕にも判別がつかなくて。

 きっと、一生分からないんだろう。

 

 この写真の空は──雨。

 でも、雨に良い思い出を抱くのは無理だった。

 雨は湿気るし、濡れるし、滑るし、転ぶし、それに──

 

 写真を仕舞う。

 そんなこと、考えても無駄だ。

 だってもう、過ぎたことだから。

 

 雨の日は好きだ。

 晴れの日も好きだ。

 曇り空も、雪空も。

 

 でも、同じくらい嫌いだ。

 

 つまり、空に意味なんて無いんだ。

 所詮、背景。所詮、物理現象。

 空は空でしかない。それ以上も以下もない。

 ただの、現象に意味を見出だして、あれこれ論ずるなんてバカのすることだ。

 僕のコントロール下には無いし。

 僕も空にコントロールされるつもりもない。

 けれど、実情はコントロールされていると言っても良いんだろう。

 

 ざーざー、と窓を叩く音。

 ごろごろ。ぴかぴか。

 

 雷様におへそを取られてしまうとか。

 どうでもいいことを考えてしまうくらいには、僕も参っているようだった。

 頬を撫でる風に身震いして、クーラーの温度を少し上げる。

 こうして人間は、天候なんかに操作されずになったのだと、今さらに実感する。

 

 あー、ありがたや。先人の皆様よー。

 

 心の中で拝んでおこう。誰ともしれぬ、皆様よ。

 

 こんこん、とノックの音。

 

 気分では無いのだ。こんな天気だ。少しでも開けたら雷様の魔の手が迫ってくるだろう。

 南無三と唱え、布団を被る。

 

 がちゃり。不思議なことに、扉が勝手に開いてしまう。

 警戒を強めざるを得ない。

 

「……そろそろ、決心はついたか」

 

 父親のようだった。普段よりも、ノックが優しくて気付かなかった。

 擬態の術と言うやつか。

 

「辛いかもしれないが……お前が来てくれた方が──」

 

「──父さん、喋ることは無いんだよ」

 

「それは……そうだが……」

 

 いつもよりも、弱々しいように聞こえる声。

 気を遣ってるのか。どちらが。

 

「──行くよ」

 

「──そうか!じゃあ着替えて──」

 

「大丈夫」

 

「大丈夫ってお前……そんな格好で寝てたのか……!?」

 

「うん」

 

 初めて着た──喪服。

 父親の顔には、嬉しいのか悲しいのか分からない、くしゃりとした笑みが貼り付いていた。

 

 今日の空は──

 覚えて──いられるだろうか。

 

 

 


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