お母さんに怒られたのでいつものようにお手伝いをサボってお気に入りの場所に向かう
本当は近づいちゃいけないらしいけど知ったこっちゃない。わたしは今傷ついているから、いやしが必要なのだ。壁の隙間を潜り抜け、空き箱やタルを足場にし城壁を登っていく
むかし、聖騎士さまに見つかったときは「危ない!」って凄く怒られたけど
わたしは木登りも得意だし、今まで一度も落ちたことはないから大丈夫
上まで行くといつもの場所に思ったとおり先客がいた。壁のすきまの鳥の巣のそばに最近いるオバケだ。
変な帽子をかぶり、変な服を着て、ぼんやり座っている。最初はびっくりしたけどピヨ達が逃げなかったのできっといいオバケなんだろう。
「オバケさんこんにちわ」
いつも通り返事はない
ポケットからパンを出してピヨ達のために小さくちぎってばら撒く。自分用のも半分に千切り、オバケに差し出すと受け取って食べ始める。
「食べ方きたないー、お母さんが怒るよー」
口の端からこぼれたパン屑をピヨたちが拾う。みていておもしろい
「ねー聞いてよー、今日もねー、うちのおかあさんがねー」
ここ最近、ピヨとオバケとおしゃべりするのがわたしの日課。オバケはわたしがどんなにおしゃべりしても「うるさい」なんて言わない
暗くなってきたのでそろそろ帰らねばと立ち上がった。
「バイバイオバケさん。また明日ね」
いつも通り声をかけて歩き出そうとした瞬間、足がズルっと滑った
「あ」
ゆっくりと空が回る。落ちる……!
思わず目を瞑ったが、構えた痛みはなく背中に温かい何かを感じおそるおそる目を開く
「オバケさん」
ギョロリ、とした目と目があった。どうやったのかわからないけど、落ちる前にうけとめてくれたみたい。やっぱりオバケなんだ
そのままゆっくり降ろされる。
「オバケさん、ありがとー」
返事もなく、また座ったまま動かなくなってしまった。夢だったのかも。
次の日町の様子がおかしかった。化け物が来るから避難しなきゃいけないらしい。慌てふためく大人達に連れられて町の外に向かうが聖騎士さまが恐ろしいことを言っていた。
化け物が来たら動物たちも化け物になってしまうらしい
ピヨ!
大変だ、ピヨも避難させなくては。巣にいたまだ小さい子たちは空も飛べない
大急ぎで町を走り城壁をよじ登る。オバケいるかな?と思ったけどさすがにいなかった。
「ごめんね、逃げようね」
巣を持ち上げて鞄に入れる。狭いけど我慢してね。
大急ぎで降りて町の外を目指して走る。
そしたら大きなカエルみたいなのが路地から飛び出してきた。気持ち悪い!
逃げようとするがすぐに追いつかれる。怖い助けて。叫びたいけど喉が張り付いて声も出ない。
もうだめだ、と思ったら突然すごい風が吹いた。
真っ黒な風がカエルを吹き飛ばしていく。
なに、何が起きてるの
大きな音が怖くて耳を塞いで丸くなる。やっと静かになったので目を開けるとオバケが立っていた。
大きな斧を持って、カエルたちの汁まみれで、これじゃ本当にオバケだ。
ギョロリ、と目が動いてこちらを見る。
「ヒィッ」
手が伸びてきたので思わず悲鳴を上げるが、頭の上に優しく乗せられただけだった。
「オバケ…さん?」
オバケの腕が動いて路地の反対側を指差す
「あっちに行けばいいの?」
何も答えず腕が下がり、また風が吹いてオバケは消えた
お礼くらい言えばよかった。
震える足をなんとか動かしてオバケが教えてくれた方向を走ると町の外に出た。
お母さんに泣きながら抱きしめられ安心してわたしも声を上げて泣いてしまった。
真っ黒なオバケに助けてもらったと言っても誰も信じてくれなかった。
化け物が退治され、町に戻ったがその後何度行ってもいつもの場所にオバケはいなかった
「ピヨー、オバケさん、いたよね?わたしの夢じゃないよね?」
パンを齧りながら横を向く。
またいつか会えるかもしれない。
そのときはちゃんとお礼を言うんだ