勇者刑に処すの二次創作です。
ロケット商会先生のPrivatterにあった鍛冶場に通うライノーの話を元に
鍛冶場の少年と交流するライノーの話です。
オリキャラメインです。

先生のツイートで「ライノーは人間を個別で認識できない」って見てどうしても書きたくて書きました。

※pixiv掲載作品の再掲です※

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懲罰勇者ライノーと関わった、ある罪人の子供の話


勇者よりマシ

俺はザイニンの子らしい。

物心ついた頃からそう言われ育った。ザイニンが罪人だと後に知ったが、知ったところで何も変わらなかった。

両親の顔も名前も知らない。殺しだか、盗みだか、何をしたのかも知らない。

罪人の子である俺は身分の最下層で、底辺で、周りにとって何をしてもいい存在だった。

泥水を啜るような日々を送っている中、親方に拾われた。

親方は鍛冶場を一人で切り盛りしていて、タダ同然の安い賃金で雑用をこなす下働きが欲しかったらしい。

普通鍛冶屋には弟子や奉公人がいるものだが、親方の気性の荒さに耐えかねて皆出ていったんだと

雨風が凌げる家と温かい飯が食えるのに、なんて贅沢な連中だろう、と俺は思う。

確かに親方は俺をよく殴ったが、それは大したことではなかった。ここを追い出されたら行く場所がない。

 

懲罰勇者の話を聞いたのはそんな頃だ。

罪人の中の罪人。処刑よりも恐ろしい懲罰。人権を失い死んでも甦り何百年も戦い続ける。

なんと恐ろしいのか。

俺の両親とやらは処刑されたらしい。つまり懲罰勇者とやらは俺の両親よりも悪いやつなんだ。

そして、もちろん俺よりも。

 

自分よりも下の存在がいる。その事実は俺が罪人の子である事を知った時以上の衝撃だった。

俺は懲罰勇者よりマシ

殴られて、蹴飛ばされ、床にこぼされたスープを啜りながらそう胸の中で唱えた

俺は懲罰勇者よりマシ

そうすると仄暗い喜びが胸に広がるのを感じた。

 

懲罰勇者、ライノーが親方の工房を訪ねてきたのはそんなある日の事だった。

俺の想像していた懲罰勇者とは全然違った。もっと惨めで滑稽で哀れで無様な薄汚れた連中だと思っていたが

ライノーとやらはその真逆だった。

大柄で色の薄い金髪、揃った歯並び、育ちの良さそうな笑顔、傷ひとつない肌

全然違うじゃねぇか、なんだこれ。

親方も俺も首の聖印に気づくまで神官か何かだと思った。

 

そいつは懇切丁寧に挨拶をし、自分の身分を明かした上で、親方に鍛冶場の見学と鍛造技術を学ばせて欲しい、とのたまい、

親方は無言でバケツを手に取りそいつの小綺麗な顔に汚水を浴びせた。

 

整えられていた金髪から灰の混ざった汚水を滴らせている姿を見て俺も胸がすくような思いだった。ざまぁみろ。懲罰勇者如きが

 

しかしそいつは涼しい顔で汚水など気にもしないそぶりだった。つまんねぇな。

「うーん、参ったな…ねぇきみ、何かいい方法はないだろうか」

 

他人に意見を求められるのは初めてだった。

「………いい方法って?」

「僕は仕事や趣味で刃物を使いたいんだが、既製のものではなかなか思うように行かなくて…できれば自分で作れるようになれればと思ってきたんだけれどね。彼はなぜあんなに怒ったんだろうか。何か作法が違っていたのかな。僕としてはぜひ学ばせて欲しいんだけれど」

 

罪人の子、の俺に罵倒以外でこんなに長々と話しかけてきたやつは初めてだった。

気分が良かった。こいつは俺より下だから、俺を頼っているんだ。俺の方が上だ。

上だから、気分がいいから、特別にこいつを助けてやろう

 

「……親方は酒が好きだから、いい酒を持ってきたら機嫌が良くなると思う」

「なるほど!手土産というやつだね。確かに友好の証の贈り物という方法はいい手段だ。ありがとう!」

 

笑顔を、向けられるのも

礼を、言われるのも、それが初めてだった

 

その日は眠れなかった

ありがとう、耳に残るその言葉が消えないよう何度も思い出して、体から出ていかないよう必死にボロ布にくるまった

 

翌日、ライノーは酒を片手にまた訪ねてきた。親方は昨日とは打って変わり、見た目こそ仏頂面だが、いそいそと渡された酒をしまいこんでいた。

来るたびに酒を一本。それで鍛造技術を教える。そういう取り決めになったらしい。

教えると言っても親方の作業を見せるのと、失敗作のクズ鋼を提供して好きに練習させるというだけだ。酒の対価にしてはあまりにもお粗末な「教え」だがライノーは満足そうだった。

 

数日後、疲れ切った親方に呼び出された

「お前がこいつにおしえろ」

なんで俺が?

教えるほどの技術は俺にはない。そもそも親方の弟子ではない。作業は見て知っているがあくまで雑用をこなしながらだ。

しかも俺がライノーの相手をしたら誰が雑用をするのか

「いいから、お前が、おしえろ」

親方は頑なだった

 

親方が俺にライノーを押し付けてきた理由はすぐにわかった。

この男は、とにかく口数が多く質問が多い。しかも細かい。

「火の温度は何度くらいがいいのかな、色味で判断するんだよね?明確にどれくらいの色といった基準はあるんだろうか。鋼の含有量はどれくらいの比率が望ましいんだい?不純物の混入はどれくらいが許容範囲かな。気候によって配合を変えたりもするのかい?雨の日と晴れの日では湿度も変わってくるだろう?」

何を言われているのかよくわからない。

静かに作業をするのを好む親方には耐え難い騒音だったんだろう。

だが、俺は、気分が良かった

俺にものを聞いている。俺に教えをこいている。

罪人の子の、俺に。

 

「んなこともわかんねぇのかよ」

そうやってせせら笑ってもライノーは嫌な顔ひとつしない。

「そうなんだ、ぜひ教えて欲しい」とのたまう

そして俺の言葉を分厚い手帳にせっせと書き込み、興味深そうに手元を覗き込む。

鍛冶屋なんて名乗れるようなもんでもない、俺のつたない一挙一動に感心したように目を輝かせる

 

こんなに気分がいいのは生まれて初めてだった

 

教えと称して雑用を押し付けてもにこやかにこなした。俺よりも手先が器用で力があって飲み込みも早い。

嫌な気もしたが、そういう奴が俺よりも下の立場だと思うとやはり悪い気はしなかった

 

「焼き入れと刃の強度の因果関係は?」

ライノーの初めての作品の出来はあまり良くはなかった。

元々屑鉄が材料な上に火の温度管理もろくにできていなかった。

まぁよくわかっていない俺が知ったかぶりして教えたんだからな。むしろ形になった事に驚きだ。

 

「焼き入れが甘いと刃が柔らかいんだよ。柔らかい刃は研いでも鋭くならずにざらつくんだ。そうすると切れ味が悪くなる。そして切れ味の悪い刃物で切り付けられると死ぬほど痛い上に治りも悪い。」

俺はよく知っている

 

「……ああ、なるほど。本当だね」

「いや、あんた何やってんだよ」

俺の話を聞いたライノーは躊躇なく自分の腕を切りつけた。

ほんとなんなんだこいつ

この頃になると懲罰勇者というよりも、このライノーという男がただひたすら変な奴だって事がわかってきた。

 

親方は俺に少しだけ優しくなった。というよりも同情か

毎日ライノーに付き纏われている俺に対して哀れみのような表情を向けるようになってきていた。

俺としては、俺に暴力を振るわずに話しかけてくる男がいるという環境は、今までと比べようもないくらい心地よかった。

たとえ、どんなに変で気味が悪くて口やかましくても

こいつは俺を罵倒もしないし殴らない。

「君の教えはとてもわかりやすい。心からの感謝を」

礼まで、言ってくる

 

「ふふ、人間は凄いよ。こうやって技術を継承し発展させていく。失敗を繰り返しても諦めない。……本当に素晴らしい」

「んな大層なもんじゃねぇよ」

「素晴らしいよ。一人一人の個体は脆弱なのに、知恵と工夫と絆で発展させていく……君や親方の作る鋼が武器となり人々を守るんだ。もっと誇るべき事だよ」

ライノーの言い回しは俺には難しく何を言ってるのかわからないことが多い

でも俺が教えた事でこいつは武器を作り魔王現象や異形と戦うのだろうか。そして誰かを救うのだろうか

いや、俺は罪人の子。

鍛治仕事は親方のものだ。俺に出来るのは、せいぜいこいつに知ったかぶりをして先輩風をふかすだけ

「ほら、君のおかげで、こんなに素晴らしいナイフもできた」

「いやそれ、ひでぇなまくらじゃねぇかよ」

 

ずっとずっと明日が来るのが恐ろしかった。なんの救いもない惨めな日々が続いていくだけの世界が憎かった。

 

気づけば俺は毎日ライノーが来るのを心待ちにしていた。

眠りに落ちる時、明日は何を教えてやろうと、ワクワクする。

 

ライノーが特殊な形状の鍛造方法を聞いてくるようになった。図面を見せられても何のために使うのかさっぱりわからないが、返しがついた杭のような物や大きめの、くぎ?よくわからない

戦闘で使うのだろうか。知ったかぶりに限界が来たので、もうこっそり親方に聞くしかなかった。

殴られるのを覚悟していたが、親方は意外と俺に教えてくれた

 

「勇者部隊はそろそろ移動するらしい。あいつとの付き合いももうすぐ終わるだろう。そしたらお前にもっとちゃんと教えてやる」

耳を疑う。だって俺はただの下働きで、それは死ぬまでそうで

「お前は、俺の仕事をよく見ている。頭の出来も悪くない。あいつと話しているのを聞いて驚いた。だから、俺の仕事を教えてやってもいい」

 

俺は、俺は罪人の子で、それ以外の人生なんてなくて

「親方、でも俺、俺は」

「師匠、だ。」

 

 

 

 

俺は、罪人の子で

でも懲罰勇者よりマシな程度の人生で 

 

ライノー。ライノー、あいつのおかげだ

あいつのおかげで俺は罪人の子以外の存在になれるのかもしれない。

あいつが来たから、俺の道は開ける。

 

礼を言いたいと思った。

生まれて初めて、へりくだって媚びへつらう為の、殴られないように機嫌を取る為のものではなく

感謝を。心からの感謝を伝えたかった。あいつのように

どうしても今すぐに伝えたかった。

夜遅かったが懲罰勇者の兵舎を目指して夜道を走る。

ああそうだ、いつかあいつのために武器を作ってやろう。あいつが何を欲しているのか今はわからないが、親方から学べば俺が作れるかもしれない。

それであいつが魔王現象を倒したら、俺も、俺だって

考えるほど足取りは軽くなり、何でも出来るような気がした。

そうだ、俺は鍛冶屋になるんだ。

 

しかし月は欠けている上に曇っていて光が少ない。目指していたつもりの場所とは異なる、人気のないところに迷い込んでしまった。

やはり昼間にするべきだったろうか。

そう考え、来た道を戻ろうとした時に物音がして振り返った。

雲の切れ間から差した月明かりで見慣れた金髪と大柄な後ろ姿が見えた。

ライノーだ。良かった、会えた。

安堵して近づき声をかけようとしたが、もう一人別の影がみえた。連れがいるなら話しかけない方がいいかもしれない。

そう思って足を止めると

 

ゴギン 

 

重い音を出して、ライノーの側にいた男の首が回った

 

 

見間違いだと思った。だって今、首が

後退りをしようとし、小枝を踏んだ。

 

「おや」

ライノーが振り返る。

「どうしたんだい、こんな遅い時間に出歩くのは危ないよ。民間人の夜間の外出は推奨されていないと聞いていたんだけれど」

月明かりに照らされたその顔はいつも通りの笑顔で、いつも通り軽快に喋りながら

でも足元に、横たわる兵士は、首が、首の向きが

 

「俺…おれ、見てない。みてないよ」

必死に声を絞り出す

「こちら側は軍の駐屯地だからね、あまり不用意に近付くのは良くない。どこから来たんだい?」

様子がおかしい。俺は、こいつに毎日会ってて、物を教えていて

「え…待てよ、俺、俺だよ…」

ライノーは少し困ったように微笑んで首を傾げた

 

そこで思い至った

 

こいつは、この男は

 

 

これまで、一度も、

俺の名前を聞いてきていない

 

 

 

血の気が引いて恐怖で身動きが取れない俺に数歩で近づきあっさりと対峙する。

もう何を言えばいいのかわからない。喉がカラカラになり張り付いて声も出ない。

震えながら目の前にいる大きな身体を見上げるしかできない。怖い。こいつは、こいつは、こいつはなんだ

 

「あまり同時期に人が減ると怪しまれてしまうけど、見られてしまったからね。少し残して、動物に食べられたようにしておけば大丈夫かな」

 

何か、何か言わなければ、言わないと、俺は

 

大きな手が俺の顔に触れ

 

「ラ   」

 

世界が回っ

 

 

 

 

 

───

 

 

他人のガキを拾ったのは気まぐれだった。

目の色が、死んだ弟に少しだけ似ていた。それだけだ。

すぐに後悔した。雑用させながら部屋の隅に転がしておけばいい程度のつもりだったが

卑屈で人の顔色を窺うような素振りを見ていると苛立ちが募り何度手を上げたかわからない。

泣きもしないで薄ら笑いでへりくだる姿は不快そのものだった。

 

しかし、懲罰勇者の男に物を教える時

俺への態度とは打って変わり妙に得意げだった。人によって態度を変えるのかと思うと嫌悪感すら出てきたが

よくよく話を聞いていると、こいつは俺が教えてもいないような事をペラペラしゃべっていた

俺は言語化ってやつが苦手だ。鍛治仕事ってのはその時々で条件が変わる。勇者野郎に質問攻めにされてうんざりしたのもそのせいだ。

だけどガキは俺の技術を理解していた。人に教えられる程に。

 

そして、ついに俺に直接教えを乞いに来た。

その目は見慣れた卑屈な物ではなく、真剣な眼差しで鍛造技術を知ろうとしていた。

こいつは俺の思ってたようなガキじゃないのかもしれない。

弟子だの跡取りだのとは無縁の人生だと思ったが、ちゃんと仕込めばこいつは変わるのかもしれない。

罪人の子なんか知ったこっちゃねぇ、確実な技術があれば生き延びられる。俺はそうやって生きてきた。

 

夜、物音がしてあいつがこっそり出て行くのに気がついた。

仕方のないやつだ。俺たちの夜間外出は禁止されているというのに。

どこに行くつもりか知らないが、今夜は見逃してやろう。

 

何から教えるべきか、俺は言葉が下手だから上手く伝えられるかわからないが、出来る限りの事は仕込んでやる。

 

寝床の中で顔が綻ぶ

 

そうだ、あいつは俺の弟子なんだから。




お読みいただきありがとうございました。

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