報道っていうのは民衆に真実を正しく伝えるべきだと俺は思う。子どものころからあやふやな情報に振り回される親を見て来た。だから、正しく情報を伝えるようなそんな仕事につきたくて記者を志した。
だが、田舎者がどんなに頑張ったところで大手は門前払い、流れ流れやっと潜り込めたのは三流の中の更に三流。真実かどうかよりも売り上げの為に捏造記事を載せるようなそんなところだった。最悪だ。
なんとかその中でも俺は誠実でありたいと思った。
だからどんな些細な出来事でも入念な取材と裏取りをして記事にした。が、毎回編集長には「つまらねえ」と一笑され投げ捨てられる。
俺の代わりに紙面を飾るのはくだらない陰謀論の捏造、人々の不安を駆り立てるような根も葉もない噂話、うんざりする。
「あー枠がうまんねえな。おい、ベネティム!なんか適当なの!」
俺が一週間かけて必死に仕上げた記事を投げ捨て、当てつけのように編集長は声を張り上げる
「はいはい、今ちょうど書きあがったとこでして」
軽薄な同僚は軽薄な笑顔で手元の原稿を差し出し、編集長は満足そうに笑う。屈辱で脳が沸騰しそうだ
「あんたさ、これちゃんと裏取りしてんのかよ」
ベネティムの記事には"さる情報筋"だの"匿名の情報提供者"だの曖昧な表記が多い、
「こいつらが本当の事言ってるのかちゃんと確認してんのか?」
「ええ、それはもちろん」
絶対嘘だ。そもそも情報提供者すら存在しないのだろう、全部こいつの頭の中で作られてる話だ。
こんな三流新聞を読みたがる客層にはこいつの方が合ってるんだろう。
でも俺がまじめに取り組んで完成させた物よりもこいつの嘘話の方が読ませる力はある。
想像力をかき立て嘘を真実と思いこませる力がある。
嘘まみれのこいつの中でそれだけは事実。それが何よりも悔しい。
「あんた小説家にでもなった方がいいよ」
「そうですね、検討します」
俺の精一杯の嫌味もこいつにはどこ吹く風だ。
こいつの記事には国のお偉いさんの名前も飛び交う。間違いなく許可なんて取ってない、いつかひどい目に合えばいい
「きみ、この出版社の人間かな」
夜まで残業して退社したら変な男に声をかけられた。肯定すると先週発行した記事をみせられる
「この特集を書いている人間をさがしているんだけれど」
はは、あいつ、ついにやらかしやがった。
「ベネティム・レオプールって男ですよ。軽薄な大嘘つき野郎」
吐き捨てると、男は興味深そうにあいつの名前を控えている。ざまあみろ
「ありがとう、助かるよ。もう一つ質問だ」
手元の記事を指し示す。王都の幹部が魔王現象の支持者だとか、そんな与太話が載っている
「きみはこれを信じているかい?」
「信じるわけないでしょうが、そんな陰謀論。まあ、馬鹿な連中は信じてるみたいですけどね」
「そうか。ありがとう」
翌日、憲兵がやってきて編集長が逮捕され新聞ごと取りつぶしになった。
何人か検挙されたが俺は末端過ぎて見向きもされなかった。
数か月後、たまたま街中で会ったベネティムの首にはぐるりと囲むような聖印があった。
「いやあ、しくじっちゃいました」
見慣れた軽薄な笑顔でヘラヘラしていた。
なあ、俺のせいなのか?
あれから俺は別の出版社にいる。もっと平和で安全なところだ。
民衆の不安を煽るようなものではなく、もっと好意的な感情をかき立てる様な、そんな記事を載せているところだ。
最近の流行りは勇者部隊特集。世間的には懲罰勇者に悪感情を持つものが多いが、一部からの支持は厚い。
特に実際に助けられた人々は彼らに好意を抱く。
好意があると、人ってのはもっと知りたいと思うんだ。
「はい、今週の分です」
いつもは郵送でのやり取りだが、任務の都合とかで近くの町にいるそうなので直接原稿を受け取りに来た。
勇者特集、今回は彼らの趣味についてだ。こういうのはウケがいいから助かる。
「自分で言うのもなんですが、これ面白いですか?」
「少なくとも読み手は愉快な気分になるし、あんたらへの好感度も上がる」
「懲罰勇者の好感度をあげてどうするんですか」
「嫌われ者よりはましだろ」
あと、俺の罪悪感がわずかに軽くなる。
「これ、裏取りはしてるのか?」
「ええ、もちろん」
嘘だな。砲兵の趣味が鍛冶なんてそんな訳あるか、相変わらず適当なもの書きやがって
「まあいいさ。与太話の創作小説として受け取るよ。あんたの文章は読みやすいからうちの読者層にも合う。来月分も頼むわ」
俺は今でも嘘は嫌いだ。
でも、恐ろしい真実よりも、愉快な嘘の方が必要な事もある。
とくにこのご時世だ。
「今後もよろしく」
「ええ、引き続き御贔屓に」