世界を嫌ってるタイプの特務機関職員が境界を歩く 作:プーリとベルト
現状をまとめる。
今、目が覚めた俺は海に浮かんでいる
理由は何故か、それは龍宮城の一つの境界調査の帰りに職員に配付されていた車が壊れたからだ、コレなら歩いて向かい帰還した方が幾分かマシだった。
「おーい!!大丈夫か兄ちゃん!?」
現地民かさて、何時間ほど俺は気絶していたのかその判別は付かないが人に見つかるということは現在地は浜辺に近いか船の通り道の二択だろうが身体を起こすべきか、いや海に立つのは止めたほうが良いな
「ねぇ、大丈夫かなあの人?」
「ホントに大人の男が浮いてるとはなぁ、良しササッと助けるぞ」
船影が見える、近くに浮き輪が落とされた。丸いフォルムが不愉快だが、この場で待っても角張った救命用具が投げ落とされる訳もないため、仕方無く掴む
「おっ掴んだみたいだよ父ちゃん」
「はいよ、引き上げるぞ」
はぁ、どうしたものか正直、人に見つかった時点で面倒だが此処は理由不明だが溺れていたと装って誤魔化すべきか
「……助かった、溺れていてどうなることかと」
「生きてて良かったなぁ兄ちゃん、ここ鮫とか出るから危険何だぞ」
龍宮城が近くに有るからな、あそこは何かと鮫やら鰐やらと縁が有る近辺の海域なら出るだろう
「ほら、タオル有るから身体吹け、身体冷えやして死んだら元も子もないべ」
「………では、失礼して」
本来なら不要な工程だが仕方無い。今回の件は特に俺の不備は無い遅れて帰還しても問題は無いだろうし、暫くこの親子の言う通りにしておくか
「いい体、してんなアンタ。鍛えてんのかい?」
「少々、剣……道を」
「へぇ俺は水泳なら学校で一番なんだぜ凄いだろ」
興味が無い、この世界の総ての事柄に対して私は遺伝子レベルで好感が持てない。だがここで嫌悪感を剥き出しにするのも問題か、流すしか有るまいな。
「なぁアンタ、どうしてこんなとこで土左衛門になりかけてたんだ?」
「すみません、前後の記憶が曖昧で恐らく車を運転してたと思うのですが」
「ふーんそうか、一旦病院とか行って検査してもらった方が良いかもな、良くない所打ってるかもしれないし」
「はぁ、そうかも知れませんね」
要らない親切だ、だが陸に上がり二人の目線から外れれば後は問題有るまい一番の問題はこの船上が狭いことだ異常を確実に目撃される。
「しっかし最近、変なことばっかなんだよなぁ山に登ったら変な神社見つけたし、海で男の人が浮いてるし」
「だから、あの山には神社何て無いって言ってるだろ。この人は確かに浮いてるのを俺も見たが、その神社見たのはお前だけじゃねぇか」
ここ付近は龍宮城しか境界を確認していないはずだが、嫌な予感がする。コレはどういう巡り合わせだ?
偶々俺を救助しに来た子供が……いや、まだ確定してる訳では無いかとりあえず後で子供の記憶を探る必要が出来たな。
「震えてる様子は無いし、冷えは大丈夫そうだな。後は記憶とかだが、なぁ春田、近くで事故の話なんてあったか?」
「無かったと思うけど」
「じゃあ大分遠くから流れて来てのかもな……えっとアンタそう言えば名前は?言いたくないなら無理にとは言わ無いけどよ」
「……するづの、
「変わった名前だなぁ、するづのさん?」
「その呼び方で構いませんよ」
「なんて書くの?」
「えいかくと書いてするづのと読むんだ」
「へぇ、面白い名前だね」
「……そちらのお名前は?」
「俺は数本春田! こっちは父ちゃんの数本源三!」
「よろしくな、鋭角さん」
父親、源三が片手を上げる。日に焼けた肌、節くれ立った指。漁か、それに近い仕事をしている手だ。
「……どうも」
「そろそろ陸に着くからな、待ってろよ」
ようやくか……一度親子の目線から外れ距離を取った後に子供が一人に成った所を探るか。
船が岸へ近付くにつれ、潮の匂いに土の湿った臭いが混ざり始める。小さな漁港だ。古びた防波堤に波が打ち付けられ、停泊している船の腹を揺らしている。
鋭角猟狗は俯いたまま濡れた髪を掻き上げ、静かに息を吐いた。面倒事が増えた、それだけが確かな事実だった。
船が岸に横付けされると、源三が縄を引っ掛けながら振り返る。
「ほれ、着いたぞ鋭角さん。立てるか?」
「問題ありません」
甲板へ手を付き、軽く身体を起こす。わざと少しだけ動作を鈍らせる。完全に健康そうに振る舞えば不自然だ。だが弱々し過ぎても病院へ連れて行かれる、加減が煩わしい。
「兄ちゃん、ホントに病院行かなくて大丈夫か?」
「少し休めば問題無いでしょう。お気遣い感謝します」
源三は「そうかぁ?」と納得し切れていない顔をしたが、春田の方は既に別へ意識が向いていた。港の端に積まれた浮きを蹴ったり、網を跨いだりしながら落ち着き無く歩き回っている。
子供らしい、だからこそ判断しかねる、山中の神社、この近辺に登録されている境界は龍宮城のみ。未確認領域が発生しているなら放置は出来ない。まして見える者が居るなら尚更だ。
だが、今は此処から離れるのが先決だ。下手に民間人と関わり続けるのは得策ではない。
「では、これで?」
「歩いて戻るのか?車は探さないのか?」
「なぁ兄ちゃん、本当に大丈夫………ってアレ?いねぇや」
陸と海を隔てる人間大の防波堤、二人の死角に入った瞬間にその角度に潜り込んだ、後は春田という子供が一人に成った時に接触しよう、もしくは境界に入り込むか、どちらにせよ業務が一つ増える、面倒だが。
「………井水に連絡しておくか」
電話を手に取る、動作は問題無い、こちらは故障してないようだ。手早く連絡先に繋げる。
「はい、は〜い、井水野朱だよぉ鋭角くん、今回の仕事の結果はどうだったかな?」
「問題無かった、多少の武力行使は行ったが民間人に手を出さないように交渉は済ませたし、特に異常は見つからなかった帰り別だがな」
「それって、私が新しい改造施した境界潜行車に不具合が起きたとかだったりする?」
「知っていたのか」
「既に予見してたよ、フフごめん」
「報告書は貴様が書けよ」
「はい、書きます。けど境界の狭間でどんな体験したか後で記憶覗かせて貰って良い?」
「駄目だと言っても勝手にするだろう」
「うん、するよゴメンね」
「はぁ、それでだ今回の仕事の報告は以上なのだが。少し懸念点を見つけたそれを調査して帰還する」
「残業?珍しいじゃん」
「一日100時間働く、貴様に言われたくない……俺を発見した民間人が未登録の境界を発見している可能性がある」
「ふ~んへぇ、そうなんだ……確かに鋭角くんの近辺にそんな記録は……無いね」
「やはりか、とりあえず真偽を確認して一段落付けば帰還する」
「了解つかまつった、それじゃあガンバ」
……疲れた、多大な労働だ。嫌悪と疲労の大渋滞だ。だがこれも仕事だ調査は続けねばならん。
スーツを整えてから。春田を補足する、現在は家に帰る途中なのか一人だった、近くに父親や他の民間人は居ない接触するなら今だろう。
子供は鼻歌混じりに歩いている。先程まで海で人を拾ったというのに、既に半分ほどは日常へ意識が戻っているらしい。段差を飛び越え、石を蹴り、時折空を見上げている。
平和な生物だ。
だからこそ厄介でもある。こういう手合いは異常を異常と認識しないまま踏み込む。
春田は港を抜け、小さな坂道へ入った。左右に古い民家が並び、洗濯物が風に揺れている。人気は疎らだ。鋭角は電柱の影から一度周囲を確認し、そのまま音も無く距離を詰めた。
「数本春田。山の神社は何処で見た」
「うわぁっ!?」
突然背後から声を掛けられ、春田が飛び上がるように振り返る。持っていたペットボトルが地面へ落ち、乾いた音を立てた。
「す、するづのさん!? ビビらせんなよ!」
「質問に答えろ」
「あ、え? 神社?」
春田の顔から困惑が浮かび、次いであの話かと思い出したように視線が泳ぐ。
「えっと、昨日かな。山ん中で見たんだよ。変な鳥居みたいなの」
「場所は」
「裏山の方。けど父ちゃんは絶対無いって言うんだよなぁ」
「お前以外に見た者は?」
「居ないと思う」
嘘ではないな、少なくとも表層意識に動揺は無い。鋭角は相手の呼吸、瞳孔、筋肉の硬直を観察しながら静かに思考する。
本当に単独視認か、ならば境界認識型か、或いは適性持ちか判別は難しいが
「その神社について覚えている事を話せ」
「えぇ? そんな真面目な感じで聞く?」
「話せ」
圧を乗せると、春田は「はい」と妙に素直な返事をした。人間は格上を察知すると従順になる。便利な性質だ。
「なんか山道歩いてたら急に霧みたいなの出てさ、そしたら赤い鳥居が見えたんだよ。奥に階段あって、神社が……うーん、古い感じ? けど変だった」
「何が」
「静か過ぎた」
その言葉に、鋭角の目が僅かに細まる。
「虫の音とか風の音とか、全然しなくてさ。あと海の匂いも無くなってた。山なのに」
「……成る程」
かなり典型的な境界隔離型境界の特徴だ。外界との音響断絶。空気情報の希薄化。認識阻害、井水の意見も合わせ未登録の境界である可能性が高い。
春田は逆に少し楽しそうな顔をしていた。
「なぁするづのさん、アンタもしかしてあの神社知ってんの?」
「知らん」
「じゃあ何でそんな気になる感じなんだよ」
「仕事だ」
「仕事ォ?」
鋭角は数秒ほど沈黙した。
本来なら民間人へ開示する必要は無い。記憶処理して終わらせるのが最適解だ。だが、この少年は既に一度、向こう側を認識している。今後も視認する可能性が高い。
中途半端に消すと逆に歪む、それもまた面倒だ。
「……人は脆く、弱く、臆病だ。だから己の視界を狭め小さな四次元内の世界に閉じこもった、だが人ならざるものは違う」
「は?」
「山の神社もその類だ。近付くな」
「いや急に怖いこと言うじゃん」
「実際、危険だからだ」
春田は笑い飛ばそうとしていたが、鋭角の声色に冗談の気配が一切無い事を察したのか、徐々に表情を引き締めていく。
「……マジ?」
「マジだ」
「なんなんだよそれ」
「知る必要は無い」
「いや気になるだろ普通!」
当然の反応だ。
鋭角は小さく溜息を吐いた。疲労が酷い。海を漂流し、境界潜行車は壊れ、未登録境界の疑惑まで出てきた。加えて好奇心旺盛な子供の対応、嫌になる。
「場所だけ案内しろ。その後は忘れろ」
「忘れろって言われて忘れられる訳無くね?」
「……そうだな」
春田は怪訝そうにこちらを見る。鋭角は数秒だけ考え、結論を出した、消すか。この場で、人気は少ない。監視も無い。処理自体は数秒で終わる、鋭角の指先が僅かに動いた、その瞬間だった。
ふ、と風が止む、潮の匂いが消えた、春田の顔から血の気が引く。
「……え?」
鋭角も視線を動かす、坂道の先、民家と民家の隙間。そこに、存在するはずの無い朱色の鳥居が立っていた。
先程まで確かに無かった。だが今はある、陽光だけが不自然に薄く、鳥居の奥には仄暗い石段が続いている。
「これは……本格的に不愉快な状況になったな」