マルバス家当主   作:紫道麻璃也

12 / 12
最後にアンケートを用意しています
ご協力よろしくお願いいたします


“私”と“妾”の九尾様(1)

山の空気は、妙に静かだった。

 静か──というより【死んでいる】

 青年は足を止め耳を澄ます。

 風の音、木々の葉が擦れる音もある。

 だが、それだけ──鳥の囀りが虫の羽音、獣の気配もない。

 生き物の気配だけが、綺麗さっぱり消えている。

 

「……気味悪ぃな」

 

 ぽつりと吐き出した声が妙に大きく聞こえた。

 

 人間界──平安京近郊

 

 古くから妖や物の怪が跋扈する土地。

 そんな中でも、この山は最近になって急激に噂が広がっていた。

 妖怪が消え退魔師が戻らない。

 そして山へ入った者が二度と出てこない。

 

──原因不明

──正体不明。

 

『だから調査してほしいんだよ』

 

 それが少し前にサーゼクスに依頼したことへの見返りだった。

 

「絶対それだけじゃねぇだろ……」

 

 青年──イッセーは頭を掻く。

 経験上こういう依頼は碌なことにならない。

 原因不明というのは、大抵の場合『調べた連中が全員死んだから分からない』という意味だ。

 そして今、この山の空気はその予感を全力で肯定していた。

 ふと視線を巡らせる。

 すると木の根元に何か白いものが転がっている。

 

「骨……?」

 

 それは獣の骨だった。

 だが違和感を感じた。

 

 【噛み砕かれた痕跡がない】

  【肉を食われた様子もない】

 

 まるで──【その場で突然死んだような】

 

 さらに歩けば似たような骨がいくつも見つかった。

 

──狐

──鹿

──猪

 

 

 どれも逃げる途中で倒れたような姿勢だった。

 

「……なんだこれ」

 

 思わず眉を顰める。

 殺されたのではない。捕食されたのでもない。

 ただ恐怖から逃げ続け、そのまま死んだようなそんな痕跡。

 ぞくり、と背筋が冷えた。

 嫌な想像が脳裏をよぎる。

 もしこれが本当に恐怖だけで死んだ結果なら。

 この山には、それほどの存在がいることになる。

 

「ミッテルトとマシュは何してるんだろな──帰りたいな……」

 

 小さく呟く。

 だがもちろん帰らない。帰れるなら最初から来ていない。

 だけど愚痴くらい言わせてほしい。

 そう思いながら足を進める。

 進むほどに空気が重くなる。

 濃いが感じられる気配の種類は妖気──いや、妖気という表現ですら正しいのか怪しかった。

 

──もっと古い

──もっと根源的な何か

──理解できる枠組みの外側にあるような異質さ

 

 本能が警鐘を鳴らしている。

 

──危険だ

──近づくな

──逃げろ

 

 だが同時に、奇妙な感覚もあった。

 

──何かに呼ばれているような。

──導かれているような

──そんな感覚を

 

「……気のせいだよな?」

 

 誰にともなく問いかける。

 返事はない──当然だ。

 だが──その時だった。

 

 ふわり

 

 風が吹いた──花の香り。春の夜を思わせる甘い香り。

 山の中には不釣り合いなほど優しい匂い。

 イッセーは顔を上げた──そして見つける。

 

 木々の向こう──ひっそりと佇む古い社

 

 人の手入れなど何百年もされていないはずなのに、不思議と崩れていない。

 そしてその縁側に一人の女が座っていた。

 

──夕陽に染まる横顔

──漆黒の髪

──薄紅の着物

──白磁のような肌

 

 それはまるで絵巻物から抜け出した姫君。

 

──現実感がない

──あまりにも美しい

──あまりにも完成されている

 

 だからこそその瞬間──イッセーの全身を悪寒が貫いた。

 理解してしまったからだ。

 

──あれは人ではない

──人の形をしているだけだ

──もっと古い

──もっと深い

──もっと恐ろしい

 

 視線を向けられたわけでもない。敵意を感じたわけでもない。

 それなのに──『逃げろ‼︎』と本能が絶叫していた。

 

──近づいてはいけない

──触れてはいけない

──知ってはいけない

 

 それは人が触れていい領域の外にある。

 

──災厄

──神秘

──深淵

 

 そんな言葉が頭をよぎる。

次の過去編 誰が見たい?

  • お狐様
  • 『僕』
  • 夫婦
  • 天災兎
  • 因習村
  • スナイパー
  • 重瞳
  • キャスター
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【完結】争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい(作者:大気圏突破)(原作:ハイスクールD×D)

 サービス残業・休日出勤・パワハラで疲弊していたサラリーマンはデスクワーク勤務中に心臓の鼓動が止まり亡くなってしまった。憐れんだ神は第2の人生として彼を『リリカルなのは』の世界に送るつもりだったが書類の手違いで『ハイスクールD×D』の世界に送ってしまった▼ 神は送る直前に間違いに気付き彼に与えた力の他に原作主人公の能力を奪って付与させた。赤龍帝になってしまっ…


総合評価:2186/評価:6.54/完結:86話/更新日時:2026年08月08日(土) 15:14 小説情報

知るかバカ!そんなことより侵略だ!(作者:ブラッキオ)(原作:ハイスクールD×D)

色々あって転生することになった男・大地。転生先は『ハイスクールD×D』。えげつない速度でパワーインフレをするし、払わないといけないツケはホーガン・ブラスターもビックリな踏み倒しをすることに定評のあるラノベ。そんな世界でただの一般甘ちゃんは生きていけるのだろうか。▼〇前書き▼初めましての方は初めまして。前作『ハイスクールD×D×R~禁断の使徒が頑張るRe:ライ…


総合評価:398/評価:6.6/連載:130話/更新日時:2026年08月24日(月) 21:00 小説情報

ハイスクールDxD-月下水月の剣士-(作者:水の柱)(原作:ハイスクールD×D)

前世を思い出し、大切なものを失った少年は魔法少女に憧れる魔王に手を差し伸べられ新たな運命を歩み始める、今度こそ大切なものを守るために。


総合評価:308/評価:6.75/連載:14話/更新日時:2026年07月09日(木) 22:57 小説情報

ハイスクールEvolution(作者:アイリエッタ・ゼロス)(原作:ハイスクールD×D)

彼は生きる。ただ自由に、自分がやりたいように▼


総合評価:1511/評価:5.85/連載:50話/更新日時:2024年03月07日(木) 03:00 小説情報

魔王の裁刃と呼ばれた魔人の正体は堕天総督の息子で、制服フェチの厨二病持ちです。(作者:戦魔王ゼロ)(原作:ハイスクールD×D)

魔王少女の眷属となった制服フェチの厨二病持ちの青年、麻羽魁人。▼アザゼルの血を引く半堕天使(ネフィリム)にして魔王眷属となった青年は、魔王の裁刃(サタン・パニッシャー)として様々な悪意に立ち向かっていく。


総合評価:41/評価:-.--/連載:8話/更新日時:2026年08月19日(水) 11:40 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>