禁書庫は今日も静かだった。
──空間そのものが軋むような低い音
──どこか遠くで勝手に捲れるページ
──浮遊書架の移動音
その全てが、今ではもう日常になっている。プレラーティは床へ寝転がりながら、分厚い魔導書を読んでいた。
今日は少女の姿──だった。長くなった銀髪を適当に束ね、片脚を揺らしながらページを捲る。
「んー……やっぱこの術式、理論は正しいけど効率悪いなぁ」
独り言を零した瞬間、ぱさりと頭の上へ一冊の本が落ちてきた。
「うわっ⁉︎」
慌てて受け止めると黒い革表紙に金属の留め具。妙に冷たく見覚えはない。
プレラーティは首を傾げる。
「……誰?」
本なので当然、返事はない。だが本が微かに震えた。
「えっ」
もう一度震える。それはまるで生き物みたいでプレラーティは恐る恐る本──禁書を開く──瞬間大量の文字が溢れ出した。
通常の魔術師なら、その時点で精神が焼き切れる。
──呪詛
──異界言語
──生きた術式
──封印知識
情報量そのものが毒だがプレラーティは目を輝かせた。
「うわ、なにこれ………めちゃくちゃ面白い」
ページが勝手に捲れ禁書が嬉しそうに脈動する。
プレラーティはその反応にぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「……懐いてる?」
禁書がぱたりと閉じる。それは肯定するみたいだった。
「えぇーっ⁉︎」
プレラーティは飛び起きた。
「なにそれ!そんなことある⁉︎」
禁書を抱き上げる。抵抗は無く、むしろ擦り寄るみたいにページを小さく揺らしている。
「すご!え、ボク気に入られた⁉︎やった!」
完全に喜んでいた。普通の魔術師なら悪い意味で発狂する光景だった。
「それを受け入れれば、お前は戻れなくなる」
静かな声にプレラーティが振り返ると禁書庫の奥ではイッセーが立っていた。
プレラーティは禁書を抱えたまま首を傾げる。
「戻れない?」
「あぁ、現世へ定着できなくなる」
イッセーは静かに続ける。
「その禁書は既にお前を“こちら側”として認識している。受け入れれば存在情報が異界へ固定される人間界の法則から外れるぞ」
禁書がまるで不安そうに小さく震えた。プレラーティはしばらく黙った。
──床へ視線を落とす
──いつもの軽薄さが、少しだけ消える
「……そっかぁ」
ぽつりと呟く。
「じゃあ、もう向こうに戻れないんだ」
イッセーは口を開かない。禁書庫の静寂だけが続く中でプレラーティは禁書の表紙を撫でた。
──冷たい
──でも妙に落ち着く感触だった
「ジル、心配するだろうなぁ」
少しだけ笑う。だがその笑みは、いつもより弱かった。
「せっかく面白いもの見つけたのに、教えに行けないのは残念かも」
禁書が微かに震える。プレラーティは慌てて笑った。
「あっ、違う違う!キミが嫌ってわけじゃないよ⁉︎むしろ最高!こんな懐っこい禁書初めて見たし!」
禁書がぱらぱらとページを捲る。少し機嫌が直ったらしい。
その様子を見ながらイッセーが静かに言った。
「実を言うと方法が一つだけある」
プレラーティが顔を上げる。イッセーは赤い駒を取り出した。
禍々しくも美しい悪魔の転生駒──僧侶の駒だった。
プレラーティの目が丸くなる。
「……なにそれ」
「悪魔への転生駒だ」
イッセーは駒を見せながら続ける。
「悪魔となれば、現世への定着も可能になる。それによって人間界へ行くこともできるぞ………会いたい相手がいるならな」
プレラーティは駒を見る。次に禁書を見る。それから、ゆっくり笑った。
「へぇ………悪魔かぁ」
嫌そうではない。むしろ少し楽しそうだった。
「なんか、思ったより面白そう」
禁書が嬉しそうに震える。
プレラーティは少し考えてから、小さく息を吐いた。
「……じゃあもうちょっと、こっち側見てみようかな」
その言葉と同時に禁書のページが、ふわりと開いた。
──無数の文字が光を帯びる
──新しい家族を歓迎するように
プレラーティは笑う。今日は少女の声だった。
だけどその笑い方だけは、最初から変わらない。
「──嘘だけどね‼︎」
イッセーは静かに駒を握ったまま、小さく返す。
「いや、今のは本音だろ」
プレラーティは数秒止まりそれから吹き出した。
「あははっ」
禁書庫に、笑い声が響いた。
選べ……(某選択肢ラブコメ風)
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青髭の友
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最新話で怒りが表情として初めて出た幼女
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ファーストサーヴァント