どの結果になっても良いように概ねプロットはできています
「片側推力だけであそこまで飛べるの、おかしくね?」
ミッテルトは瞬きをした。
青年は訓練場を指差している。
「普通なら墜ちるぞ?」
青年は当然のように言った。
ミッテルトは思わず眉をひそめる。
「……だから欠陥って言われるんスよ」
少し刺々しい声になった。
自分でも言いたくなかった言葉だった。
口にすると余計に惨めになる。
だが青年は首を傾げた。
「なんでだ?」
「……なんでって」
「いや、本当に」
本気で分かっていない顔だった。
ミッテルトは言葉に詰まる。
『なんで』
そんなの決まっている──片翼だからだ。
不完全──制御できないからだ。
そう答えようとしてふと気付く。
そのどれも、自分が言われ続けてきた言葉だった。
自分自身が考えたわけではない。
誰かから与えられた評価だった。
「だって普通は……」
「普通は左右に翼がある?」
「……」
「でもお前飛んでるじゃん」
青年は即答した。
その回答にはあまりにも迷いがなかった。
「飛べてないッスよ」
「飛べてる」
「だから制御が」
「いや違う」
また即答だった。
まるで最初から答えを持っているみたいに。
青年は少し考えるように顎へ手を当てた。
「たぶん皆、見方が逆なんだよな」
「……逆?」
「お前の場合」
そう言いながら訓練場の空を見上げる。
「制御できないんじゃなくて出力が高すぎる」
ミッテルトは黙った。
聞いたことのない発想だった。
「普通の堕天使ってさ」
青年は続ける。
「両翼でバランス取って飛ぶだろ?」
「……そうッスね」
「つまり推力を分散できる」
「………はいッス」
「でもお前は違う」
青年の指がミッテルトの左翼を示す。
「全部ここに乗ってる………それで飛行が成立してる時点で異常なんだよ」
──『異常』
その言葉に身体が僅かに強張る。
だが次の言葉は予想と違った。
「才能の方向でな」
呼吸が止まった。
「……は?」
「いや普通におかしいだろ」
青年は笑う。
「片翼だけであの速度だぞ?」
訓練場を見渡す。
「さっき上にいた奴ら全員、お前に直線勝負で負けるだろ」
「……」
「違うか?」
違わない。
それは事実だった。
誰も口にはしないが。
同期の中で最速なのはミッテルトだ。
昔からずっと──ただ、それだけだった。
速いだけ──だから意味がない。
そう言われ続けてきた。
「速いだけじゃ駄目ッス」
気付けば口にしていた。
『制御できなければ意味がない』
何度も聞いた言葉。
何度も自分へ言い聞かせた言葉。
青年は数秒黙る………そして──
「じゃあ制御できるようになれば最強じゃん」
「…………え?」
思考が止まった。
そんな単純な話じゃない、そんな簡単な話では──なのに青年は本気でそう考えている。
ミッテルトを慰めているわけでもない。
励ましているわけでもない。
ただ事実として語っている、それが分かった。
「名前は?」
唐突だった。
ミッテルトは少し戸惑う。
「……ミッテルト」
「ミッテルトか」
青年は頷いた。
まるで大事なことを確認するみたいに。
「俺はイッセー」
その名前を聞いたことはなかった。
最近来た悪魔だろうか。
少なくとも顔に覚えはない。
「よろしく」
「……」
「なんだよ」
「いや」
ミッテルトは困惑した。
普通に挨拶された──それだけなのに妙に調子が狂う。
腫れ物扱いされるのには慣れている。
距離を取られるのにも慣れている。
だがこうして普通に話しかけられる経験がほとんどなかった。
「変な奴ッスね」
「二回目だぞそれ」
イッセーが笑いながら手を差し出す。
その笑い方に悪意はなかった。
本当に欠片も──それが不思議だった。
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