マルバス家当主   作:紫道麻璃也

5 / 5
片翼の堕天使は、最速の騎士となる(4)

「皆と同じ飛び方しようとしてないか?」

「……」

 

 言葉が喉に刺さった。

 思わず返事ができない。

 図星だったからだ。

 ミッテルトは視線を逸らした。

 訓練場の空では今日も同期たちが飛んでいる。

 

──左右に広げた二枚の翼

──均衡の取れた姿勢

──教本通りの加速

──教官が理想とする飛び方

 

 そして自分だけが違う──片翼

 どう足掻いても同じにはなれない。

 

「左右均等の飛行」

「………それが普通ッスから」

 

 少しだけ尖った声になった。

 言われなくても分かっている──そんなことは何度も考えた。

 普通に飛べないから苦労しているのだ。

 皆と同じように飛べれば悩む必要なんてない。

 

「でもミッテルトは普通じゃないだろ」

「……」

 

 否定できなかった。

 腹は立たない。

 ただ事実だった。

 生まれつき片翼。

 堕天使としては明らかに異端。

 訓練でも劣等生。

 周囲に追いつくため人一倍努力しても、飛行だけはどうにもならなかった。

 だからこそ余計に普通になろうとした。

 

──普通に飛びたい

──普通に認められたい

──普通に空を翔けたい

 

 その一心でここまで来た。

 

「片翼なんだから片翼の飛び方すればいいじゃん」

 

 あまりにも簡単そうに言われた。

 まるで当然のことみたいに──だがミッテルトにとっては衝撃だった。

 頭の中が一瞬真っ白になる。

 

──普通に合わせる

──普通になろうとする

──それが正しいと思っていた

──そうしなければ認められないと思っていた

 

 だから教本を読み込み、同期の飛び方を真似し、何度も失敗してきた。

 

なのに──普通じゃない飛び方。

 

 そんな発想は一度もしたことがなかった。

 

「例えば?」

 

 気付けば問い返していた。

 イッセーは少しだけ笑う。

 その笑顔は待ってましたと言わんばかりだった。

 

「例えば──低空」

「低空?」

「ミッテルトは高度取ると姿勢制御難しいだろ?」

「……まあ」

 

 認めるしかない。

 高く飛べば飛ぶほど身体が不安定になる。

 片翼ゆえに揚力が偏り小さな乱気流でも姿勢が崩れる。

 修正しようとしてさらに崩れる──それの繰り返しだ。

 

「なら地面を使えばいい」

「地面?」

 

 意味が分からなかった。

 

『飛ぶのに地面を使う?』

 

 イッセーは石畳を指差した。

 

「目印が近い方が距離感掴みやすいだろ」

「……」

「落ちてもすぐ立て直せる」

 

確かに──高空では感覚が狂うことがある。

 だが地面が近ければ位置を把握しやすい。

 

「そして壁を使え」

「壁?」

「建物を使え」

「建物ッスか?」

「空だけ飛ぶ必要あるか?」

 

 その言葉にミッテルトは黙った。

 考えたこともなかった。

 空戦だから空を飛ぶ──それが当たり前だった。

──教本にもそう書いてある

──教官もそう教える

──誰もがそう飛ぶ

──だから疑問すら持たなかった

 

 だが言われてみれば、地面を使ってはいけない理由はない。壁を蹴ってはいけない理由もない。

 建物の陰を利用してはいけない理由もない。空だけを戦場にする必要はない。

 片翼だからこそ利用できる環境があるのかもしれない。

 

「……変な発想ッスね」

「おっ、それは褒め言葉か?」

「半分くらいッス」

「じゃあ褒め言葉だな」

 

 イッセーは満足そうに笑う。

 その自信満々な顔が少しだけ可笑しくて、ミッテルトは鼻を鳴らした。

 

 

 

 翌日、ミッテルトは訓練場に立っていた。

 空は晴れて風も弱い。

 飛行訓練にはちょうどいい日だった。

 

 そして今日は少しだけ違う──教本通りには飛ばない

 

 イッセーの助言を試してみる。

 本当に上手くいくかは分からない──けれど試す価値はあった。

 

 深呼吸──翼を広げる。

 そして飛び上がった。

 高度は取らない──地上数メートル

 

 石畳がすぐ下に見える距離。

 教官の眉が露骨にひそめられた。

 

「何をしている!」

 

 怒声が飛ぶ──危険な飛び方だと思われたのだろう。

 だがミッテルトは無視した。

 

 加速──風が弾ける

 

 身体が前へ飛び出す。

 景色が一気に流れ始める。

 いつもと同じ速度──だが感覚が違った。

 

──地面が近い

──目標も近い

──距離感が掴みやすい

 

 視界の端で石畳の流れが見える。

 速度が直感的に分かる。

 空だけを見ていた時よりずっと把握しやすい。

 

「……あれ」

 

 思わず声が漏れた。

 

──身体が安定している

──無理にバランスを取ろうとしなくてもいい

 

 少し傾く──旋回

 石畳を蹴る──反動で方向転換

 再加速──失速しない

 身体が流れるように動く──さらに壁際へ

 建物を掠める──風向きが変わる

 

 その勢いを利用して向きを変える。

 

 速い──今までよりずっと

 

 まるで空を飛ぶというより街を駆け抜けているようだった。

 高空では感じなかった自由さがある。

 

──片翼でも動ける

──片翼だからこそ動ける

──そんな感覚だった

 

 気付けば訓練場を一周していた。

 呼吸が少し荒く心臓も高鳴っている。

 だが苦しさではない──高揚感だった。

 今までより明らかに飛びやすい。

 それだけは確信できた。

 

「どうだった?」

 

 振り返るといつの間にかイッセーがいた。

 柵にもたれながらこちらを見ている。

 まるで最初から結果を知っていたような顔だった。

 ミッテルトは少しだけ迷う。

 認めるのは悔しい。

 けれど嘘もつけない。

 だから本当に少しだけ──ほんの少しだけ口元を緩めた。

 

「……悪くなかったッス」

 

 その言葉を聞いた瞬間、イッセーは自分のことのように嬉しそうな顔をした。

 

「だろ?」

 

 得意げに笑う。

 その表情を見た瞬間──ミッテルトの胸の奥で何かが小さく揺れた。

 ぽっと灯るような温かさ──嫌ではない不思議な感覚──むしろ心地よかった。

 それが何なのかまだミッテルト自身にも分からない。

 ただ一つだけ確かなのは──イッセーと話していると、少しだけ世界が広がる気がした──

次の過去編 誰が見たい?

  • お狐様
  • 『僕』
  • 夫婦
  • 天災兎
  • 因習村
  • スナイパー
  • 重瞳
  • キャスター
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

破壊の黒炎(作者:ぐちロイド)(原作:ハイスクールD×D)

平凡な暮らしをしていた暁連が突如殺され目を覚ますと冥界の主イザナミの前にいて天使と悪魔のハーフとしてハイスクールD×Dの世界に転生する


総合評価:154/評価:-.--/完結:43話/更新日時:2026年03月24日(火) 00:10 小説情報

争いは他所でやってくれ!最後は平穏無事に過ごしたい(作者:大気圏突破)(原作:ハイスクールD×D)

 サービス残業・休日出勤・パワハラで疲弊していたサラリーマンはデスクワーク勤務中に心臓の鼓動が止まり亡くなってしまった。憐れんだ神は第2の人生として彼を『リリカルなのは』の世界に送るつもりだったが書類の手違いで『ハイスクールD×D』の世界に送ってしまった▼ 神は送る直前に間違いに気付き彼に与えた力の他に原作主人公の能力を奪って付与させた。赤龍帝になってしまっ…


総合評価:1125/評価:6.07/連載:38話/更新日時:2026年06月11日(木) 22:26 小説情報

知るかバカ!そんなことより侵略だ!(作者:ブラッキオ)(原作:ハイスクールD×D)

色々あって転生することになった男・大地。転生先は『ハイスクールD×D』。えげつない速度でパワーインフレをするし、払わないといけないツケはホーガン・ブラスターもビックリな踏み倒しをすることに定評のあるラノベ。そんな世界でただの一般甘ちゃんは生きていけるのだろうか。▼〇前書き▼初めましての方は初めまして。前作『ハイスクールD×D×R~禁断の使徒が頑張るRe:ライ…


総合評価:244/評価:-.--/連載:94話/更新日時:2026年06月09日(火) 20:30 小説情報

ハイスクールD×D 明日を掴む超獣使い(作者:毘沙死狂騒曲)(原作:ハイスクールD×D)

突如として死んだ少年が神の手によってデュエルマスターズのクリーチャーや呪文、クロスギアやドラグハートといったものを使用する能力を持ち、ハイスクールD×Dの世界に転生する物語。▼コメントいただけると作者が泣いて喜ぶのでよろしくお願いいたします。


総合評価:109/評価:2.2/連載:18話/更新日時:2026年06月08日(月) 02:40 小説情報

転生したらスキマ妖怪だった件について(作者:デスゴッド)(原作:転生したらスライムだった件)

『転生したらルーミアだった!?』とは別の世界線の転スラ×東方Project のクロスオーバーです。▼こっちではクロスオーバーする作品を極力東方のみに搾る予定です。▼また、式神や陰陽道に関してはご都合解釈なのを了承して下さると幸いです(・・;)▼それではどうぞ。


総合評価:503/評価:8.14/連載:42話/更新日時:2026年06月09日(火) 17:24 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>