異常過ぎるのは間違っているだろうか?   作:ダーク・シリウス

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鍛冶神と鉄の熱と愛

 

ヘファイストスの『醜願』が謎で奇跡のビフォーアフターを遂げて美の女神に劣らない美貌を得たことが神々の間で知れ渡ったようで、茶化しに来る男神、求婚する男神、告白する女神(ん?)がしばらく後を絶たなかった。ゼウスまで交じって来た時にはさすがに純粋100%の満面の笑みでちょーっとお話をしたら、それ以降ぱったりとヘファイストスに群がる神々が来なくなった。

 

しかし神々がそうでも次は身内―――【ヘファイストス・ファミリア】の先輩達だ。眼帯の下の醜顔、醜傷が嘘だったかのように美しい尊顔を晒すようになった理由は定かではないが、とにかく密かに恋焦がれていた想いを晒しに武具店の執務室にまで押し掛ける眷族達の言動にさすがの椿も叱咤を送った。

 

「やかましいわ! 主神様の仕事を邪魔するほど恋しいなら、まずは主神様に認められる作品を持ってくるのが筋であろうが!! 恋現抜かして鍛冶師の腕を鈍らせることあっては、鍛冶師として名乗ることは許されんぞ! そんなこと手前に言わせるな馬鹿共が!!」

 

団長の説教に誰も彼もぐうの音が出ず、落ち込んだ気配を醸し出して肩を落として執務室から出て行く様子を、解放されている隠し工房の中で透明化になって姿を消していながら見ていた。

 

「なんか、ごめん」

 

「謝らなくていいわ。あなた達が抑止力になってくれているから助かってるし」

 

「これも美しくなった主神様の有名税といったところか」

 

「椿の左眼も治せるぞ。それで好きじゃない二つ名が返上できると思う」

 

「本当かっ! 手前の二つ名はモンスターみたいな名で好かんのだ、やってくれ!」

 

左眼を覆う眼帯を外してもらい、青白い天使化の姿に成って椿の左眼を復元したことで、紅い眼が二つに戻った彼女の顔もまた綺麗だなーと他人事のように思った。

 

「おお、治った! 久方振りに見える! ありがとうイッセイ!」

 

嬉しさのあまりか俺を胸の中に抱えて抱きしめる椿。苦しいとタップ、腕を叩いて何とか解放してくれた。―――何故か心底面白くないと不機嫌な顔をしているヘファイストスが俺と椿をべりッと引き剥がす形でな。

 

「しかし、あいつらのあの様ではまーた主神様に言い寄ってくるのではないか?」

 

「その結果、ヘファイストスが認める作品を出来上がらせるならいいんじゃないか? 原動力はちょっと不純な気がしなくもないけど」

 

「元々主神様の尊顔は美の女神にも劣らんからな。顔の傷がなくなれば言い寄る男共がいてもおかしくはない」

 

「美人なのは知っている。顔の傷の有無と関係なくな」

 

「うむ、同感だ」

 

二人してヘファイストスを褒めちぎると、当の主神は照れているのか頬が淡い朱で広がっていた。あ、可愛い。

 

「いっそのことイッセイと主神様が付き合ってはどうなのだ?」

 

「本気で言っているならお前の精神を疑うぞ。人の皮を被ったモンスターだってこと忘れてるのか」

 

「魂や心まで人間なのかお主?」

 

あっけらかんと言ってくれる椿のその問いに、俺は反射的に違うと答えてしまった。

 

「元々人間でドラゴンに転生した件については手前も驚嘆するが、実際にこうして交流してみれば人間と大して変わらん言動をするではないか。もうお主を認めて受け入れている者が多いのだから、自分を卑屈することもなかろう」

 

「卑屈ではなくて線を引いているんだけど。いつか元の世界に帰るから割り切った関係の方が後ろ髪を引かれる思いをせずに済むためにだ。・・・・・それに仮に恋人関係になったら」

 

「なったら?」

 

俺は胸を張って堂々とこう答えた。

 

「ドラゴンは力を引き寄せやすい上に、異性に好かれやすい体質だから、一人だけ愛せずハーレムを築いてしまう自信がある。元の世界にも俺のことが好きな異性が10人以上いるんだ。その内の一人、恋人がいて俺を慕う女性全員と結婚する予定だ。いや、今となってはだった、だな」

 

断言してやれば、案の定吃驚仰天とヘファイストスと椿が驚きの顔を浮かべていた。まぁ、驚いて当然な女関係だ。この世界じゃあそこまでハーレムを築いた男は王族ぐらいだろうよ。

 

「お主、見かけによらず元の世界では色を好んでおったのか」

 

「俺が女狂いに見えるのか? 俺のレベルが9になるほどの修羅場を潜ったのは俺一人じゃないんだ。一緒に異性と戦って行けば何時しか恋が芽生えてしまったんだよ」

 

「そうなのか。手前では計り知れない戦いが異世界で起きているのだな。しかし、複数の女と付き合って諍いが起きないのか?」

 

「お互いライバル視はするし言い合うこともなくはないが、基本的に仲がいいぞ」

 

たまーに家の中で魔力や魔法をブッパして物を壊すことはあったがな。その際、リーラに説教されてしばらく大人しくなることもよくよくあった。俺の家族の中ではリーラを怒らせてはいけない不文律が出来ていたんだよないつの間にかさー(懐かしみ)。

 

「懐が深い者達だな。では、異世界にいる者達と関係なくお主に恋慕を抱く者がこの世界にいたらどうする」

 

なーにを言うんだこの団長は・・・・・。

 

「俺の秘密はオラリオに混乱を招くものだぞ。おいそれと公出来るか。俺がドラゴンであると知っている女以外は断る」

 

「では、お主のことをドラゴンであろうと受け止める覚悟があれば受け入れてくれるのだな?」

 

「・・・・・この世界にいる間、ならな。そんな酔狂な女がいないと断言するがな」

 

だけどこの発言が俺の首を絞めることになるなんて思いもしなかったんだ。

 

「では、手前等が最初の女になろうではないか」

 

「「・・・・・は?」」

 

「スキルの影響で規格外で異常な武具を作るお主を楽しく見るのが手前の日課になった。来年までずっとそうするつもりでいたのだが、イッセイがそういうのであればその考えを覆してみたくなったわ。頑固な考えという金属を熱して形を変えるがごとくな」

 

豊かな胸を支える風に腕を組んでトンデモ爆弾発言を言い出した椿。俺とヘファイストスは言葉を失って・・・・・待て、手前等?

 

「椿、まさか手前等って・・・・・」

 

「当然イッセイを異性として見るようになって乙女心全開な主神様もイッセイを籠絡するのだが?」

 

「ろ、籠っ、あ、あなたっ!?」

 

「ということで、覚悟するのだなイッセイ。一度口にした言葉は言霊となり、決して違えてはならぬぞ。むろん男としてもな」

 

勝手に主神まで巻き込むこんな事態になろうとはっ。勝手な主神も主神なら眷族も眷族もで勝手なのかこんちくしょう!

 

「・・・・・言霊の概念が、この世界にもあったのかっ」

 

「おお、異世界にもあるのか。ならば、色々と通ずるものがありそうだな」

 

親近感が湧くのはいいけど・・・・・マジで言ってるのか? ああ、真剣と書いてマジですかそうですか・・・・・。

 

「では、手前はイッセイの家に引っ越す準備をしてくるぞ」

 

「おい待て! さすがにそこまで許すわけにはいかないぞ!? ゼウス達が黙っちゃいない!」

 

「お主は【ヘファイストス・ファミリア】ではないか。同じ派閥の人間が同じ家に住んで何が困ることでもあるのか?」

 

「そういう事例ができると他の連中も真似するのが困るんだ! 特にフレイヤがそのまま第二の家として俺が違う派閥に改宗しても居座るに決まっている!」

 

「・・・・・とてもあり得るわね」

 

ほらー! ヘファイストスも認める美の女神の自由奔放! たがしかし、椿は正論を突きつけた。

 

「確かに真似はするかもしれぬが、元々あの家はどの派閥にも属さぬ無所属のもの。そこに住む限り誰でも出入りできる無法地帯、イッセイがあの家から手前らのホームに移り住めば居座られることはないのではないか」

 

「ぐぅっ・・・・・!」

 

したくないから拒絶の意を唱えたのに! それこそ複数の【ファミリア】に移籍もとい移動兼引っ越しの行動は本当に盥回しされてる気分を実感、習慣となる現実を突きつけられるのが嫌だからなのに! 結局、ド正論を覆すことはかなわず椿の同居? 同棲? 居候? を許すしかなかった。当然のように巻き込まれるヘファイストスもだ。こうなったら開き直るしかないのか・・・・・?

 

「イッセイ、裸の付き合いをしようぞ!」

 

褐色肌を一切隠さず、堂々と入浴場に入ってきた。俺の女になると言った椿の言動に嘘偽りはないと呆れ混じりのため息を吐いた。ヘファイストスは身体にタオルを巻いて羞恥で紅くなっているが、その反応が間違っていないので助かる。しかも同じベッドまで使って寝るセットだ。二人が俺を挟む形で寝転がり椿は早々に寝やがった。逆にヘファイストスはまだ起きていて居心地が悪そうに丸くしてる背中を向けている。

 

「イッセイ、本当にごめんなさい。こうなるなんて思わなかった・・・・・」

 

「その気持ちは俺も同じだから」

 

「・・・・・こんな生活を送ることになってイヤじゃない?」

 

「もう諦めた。こうなったらとことん、流れに逆らわず流れてやる。それよりヘファイストスは俺の事が好きなのかよ」

 

ビクリ、と背中を震わせた。

 

「永遠に生きる神にまとわりつかれても損と言ったが、俺の場合はモンスターにまとわりつくことになるぞ。椿は人間にしか見えないと言われているが俺の秘密を知った上で受け入れてくれるのか」

 

「・・・・・」

 

窓から差し込む月光も無ければ魔石製品の灯りがない部屋の中は闇に支配された暗闇。背中を向けるから彼女の表情は分からないまま俺の質問を答えた。

 

「右眼を治してくれた時、言ったじゃない。―――ヘファイストスに鍛えられた()の熱は、こんなものじゃ冷めやしないと燃え盛る情熱と熱意で言うのにって」

 

「言いました。心から本音で」

 

「それが嬉しかったの。異世界から来たあなただから言える言葉なのだとしても、だから好きになった。・・・・・でも迷惑な話よね? いつか元の世界に帰るあなたに永遠に生きる私にまとわりつかれたくない―――」

 

ああ、もう、俺が本心から言ったって告白したのにこの女神はっ。と妙な苛立ちとじれったさに駆られてヘファイストスの肩を掴んでこっちに振り返ってもらって俺が彼女の上に覆いかぶさった。

 

「この世界にいる間なら、って言っただろ。元の世界に帰るのに100年かかっても帰れる保証がないんだ。その間、俺にまとわりつきたいなら勝手に俺を眷族にしたようにまとわりつけばいいだろうが」

 

「・・・・・私、面倒よ? あなたが知識として知っていたように浮気したアフロディーテを許さなかったように、私、浮気されたら怒るかもしれないわよ」

 

「申し訳ないけど全力で諦めてほしいのと受け入れてほしい。ドラゴンだと知った上で俺に恋慕を抱いている女は今後も現れて、元の世界に帰るまでの間という条件で受け入れるから。元の世界で一人だけ愛するなんて選択肢や概念がないまま育ったドラゴンだからな」

 

「困った世界ね。・・・・・条件があるわ」

 

苦笑する女神からの条件に「ん?」と反応するとヘファイストスから伸ばされた両腕が俺の首に回された。

 

「イッセイが改宗しても私はこの家に住み続ける。フレイヤの愛を受け入れても私を一番愛してくれるならいい。もちろん椿を蔑ろにしないで」

 

「わかった。必ず行動で条件を守っていると証明し続けるよ」

 

「面倒でごめんなさいね。でも、ありがとう・・・・・大好きよイッセイ」

 

回された腕に無抵抗で引き寄せられると、ヘファイストスと一つに―――盗み聞きしている椿を指摘してあっという間に顔を真っ赤にして枕を掴んで叩く女神とあえて枕に叩かれながらニヤニヤと面白がる鍛冶派閥の団長が目の前で繰り広げられた。

 

それから二人と寝食を共にすることが多くなり、いつしか二人と身体を重ねるまでの時間は長くかからなかった。そして毎日のように愛し合う生活を過ごしていればいつかはバレるものであって(ヘファイストスと椿の同棲が)・・・・・。

 

「イッセイ、ヘファイストス達がこの家に住んでいるなら私も構わないよね?」

 

「ダメだとは言わせないからね。今はヘファイストスが主神だからって贔屓するのは許さないよ」

 

「せやせや、この家はどこの派閥にも属しておらんうちらが気兼ねなく集まれる場所や。ファイたん達が住んでいるならうちらも止まってもええ筈やでー」

 

「今はヘファイストスの眷族だから許しているだけで、主神でもないフレイヤ達まで許すつもりはない。俺の主神になってから出直してきな」

 

「ドケチー! イッセイの心は超狭いー! うちらをもっと敬えー! 崇めろー!」

 

「そうね。懐が深くないと女神に嫌われちゃうわよ」

 

「贔屓するんじゃないと言ったじゃないか! それが将来私の眷族になる者かぁー!!」

 

「―――来年から俺を盥回しする女神共がどの口言ってんだー!!」

 

ロキとフレイヤ、ヘラに怒りの脛蹴りを食らわして悶絶させた。フレイヤに対しての暴力を許さないオッタルからの襲撃には頭を割る勢いで打ち落とした手刀で叩き込んで黙らせたのを見ていたゼウスとヘラの眷属達から。

 

「酔いどれ女神はともかく、美の女神やヘラまで蹴りを入れるとは恐れいるぞ。畏敬の念を抱かせてくれる」

 

「ますます気に入ったよ。ヘラに手を出す男は神でもいないからね」

 

「ザルドの言う通りだ。やはり俺達の【ファミリア】に固定の入団をしてほしいな」

 

等と称賛されたが知ったことではない。しかし、どこから漏れたのかは知らないが「美の女神と恐怖の女神に蹴りを入れた異世界人」として神々の間で知れ渡っていて、何か知らないけどフレイヤに恨みを持っている女神達の「異世界人応援団」なんてファンクラブが結成しているとかしていないとか・・・・・。ヘラに蹴りを入れた異世界人である俺に男神達が「勇者」と尊敬してこれまた「勇者応援団」なるファンクラブが結成しているとかしていないとか・・・・・。

 

「おお、我等が勇者よ! おはよう!」

 

「今日もいい天気だね勇者君!」

 

「勇者君、またいい蹴りを頼んだよ!」

 

・・・・・なお、こんなことを言う男神達はヘラにボロ雑巾された模様。

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