カッ―――!!!
夏―――異世界の迷宮都市オラリオに注ぐ太陽光が地上を照らして熱する最中、金属の鎧を身に包もうがしまいがダンジョンの中なら暑さの苦しみを感じなくなるという思いで、いつもより早足でダンジョンに通じている白亜の摩天楼施設の中へ消える冒険者達の姿が見受けれる。だが、一番熱い思いをしているのは鍛冶師であると断言できよう。
炉の中で燃え盛っている灼熱の火炎に浴びている金属、赤々と溶解する前の塊に力強く、そして鋭く握っている鎚を打ち下ろしてカァン、カァン、カァンと叩き不純物を取り除いて武器の形に整えていく―――。
「何度も作っていくと、どんどんとんでもないステータスになっていくなぁ・・・・・」
「であるな。しかも矢を必要としない弓を拝める日が来るとは思いもしなかったぞ。おまけに弓を振るえば魔剣のような魔法を撃つこともできるときた」
椿に試して使ってもらった感想が以下の通りである。木製と金属を合わせた魔宝石込みの複合性の弓は上々のようだ。
「実際どうだった使い心地」
「魔力のアビリティが低い冒険者は使えんのは確かだ。持っているだけで魔力を吸う弓なのだからな。吸われた分の魔力が矢となって射ることができるが、手前では30分も持つことはできなかった」
それに気付いた時はダンジョンの中で危うく倒れかけたわ、と椿の返答にこの弓の製作者の俺は―――そんな風に作った覚えはないんだが? の感想を抱いた。確かに魔力を矢に生成できたらいいなーと思って作った。それが具現化できたと知った時は思い通りに創れて嬉しかった半面、所有者の魔力を吸う弓だったとは思わず耳を疑った。
「これも魔導士用の武器に成るな」
「うむ、魔力がバカ高い冒険者しか長時間持てぬぞ。イッセイ、お主ならどのぐらい持てるのであろうな?」
「そうだな。確かめてみるとしよう」
ということで検証開始一日目―――。
「寝ている間でも握っていたのか?」
「うん、吸われている感覚はしっかりあるけどまだイケる」
「無理はするなよ」
三日目―――。
「まだ吸わせていたのか。もういいのではないか?」
「せっかくだから吸われなくなるまでどのぐらい掛かるか試したい」
七日目―――。
「まだ掛かるのか。どれだけ魔力を吸うのだこの弓は」
「本当になー」
十二日目―――。
「イッセイ、身体に変化は?」
「特に問題はないな。自覚症状もまだだ」
一ヵ月―――。
「まだ吸われても問題ないみたい」
「ここにバカ魔力がおったわ」
片手に弓を持ったまま椿に報告すれば呆れた口調で言われた。今のところ俺の力のアビリティは0なんだがな。どうなっているんだか。
「試しに射ってみよ」
「一ヵ月分の魔力の矢の威力、想像できないな」
念には念を、知らずに倒してしまったベヒモスの死骸もとい灰だらけとなった砂漠に訪れることにした。これから起こり得るだろう何かがオラリオに影響を物理的に与えることはないだろうから。無人の灰の砂漠を一望できるそらの上に立つ俺達の邪魔をする者はいない。まだ名前を付けていない弓の弦を引っ張れば魔力の矢が具現化した。
「それじゃあ、いくぞ」
コクッと頷く椿の横で魔力の矢を放った。風切りの音もなくあっという間に灰の砂漠に突き刺さった矢の中心地から光が一瞬だけ煌めいた後、核爆発を再現させてしまったと錯覚するほどの大爆発が生じた。迫りくる爆発から生じた爆風に防壁魔法で受け流して一ヵ月分の魔力の威力は―――広大な灰色の砂漠の一部とはいえ、本来の大地の地表にクレーターが出来るほどの爆発力を見て確信した。
「当たり所が良ければリヴァイアサンを一撃で倒せそうだな。それまで一ヵ月も魔力を吸われ続けられる必要があるけど」
「しかし、そんなことするつもりはないのであろう」
「うん、直接俺が戦った方がまだ早いまである」
そして同じ弓はもう二度と作るまい、とも決意する俺だが、倒せる手段は多い方がいいからまた一ヶ月掛けて魔力を弓に蓄え続けるかな、と思ったりする俺の腕に嵌めている腕輪の宝玉が点滅し出した。触れた宝玉から立体映像が浮かびマキシムの顔が窺えた。
「どうした?」
『今何をしている? 家に居ないようだが』
「オラリオから離れて作った武器を試していたところだ」
『そこまで離れないといけないほどか?』
「まーな。自他共に認める規格外な武器を生み出してしまうからな俺」
『相変わらずとてつもない武器を作ったのか。その調子でリヴァイアサン討伐に向けて俺達専用の武器を作ってほしい物だ』
「??? もう作っただろ。グレンデルの牙で作ったアレ」
『・・・・・怒り狂った【女帝】に奪われてしまって手元にないんだ。ザルドのもだ』
何やってんだよどいつもこいつも・・・・・。内心呆れ、オラリオに戻る事を言い残してマキシムとの通信を切って椿と転移魔法で灰色の砂漠を後にした。
「イッセイ、そろそろ昼時であるが何を作ってくれるんじゃ?」
「最初から俺が作る前提かよ。つーか、揃いも揃って集まって当然のように飯を食べに来やがって」
「ええや~ん、イッセイの異世界の料理をたらふく食べたいんウチらにもお裾分けしてぇな~」
俺が家に居れば毎日のように飯を食べにくる1柱の神の物言いに、コイツどうしてくれようかと不穏な考えを過らせながら麺作りをしている俺の隣には、ザルドも真似して麺作りを手伝ってくれている。
「スパゲッティ以外にこういう麺もあるとは面白いな」
「俺の立場からすれば、この異世界にもスパゲッティなんて料理があるとは思わなかったんだがな」
完成した麺を茹でたら氷で冷まし、器に盛って野菜や肉、この世界にはないかもしれない紅しょうがも添えて、異世界ネットスーパーでしか買えない調味料や料理も用意してヘファイストス達に提供した。
「おお~っ、冷たい麺料理など初めて食うわぃ」
「この汁だけでは濃いけれど麺と野菜と一緒に食えば薄まって、この赤い何かも食べれば違った味を楽しめるね」
ゼウスとヘラの感想に同意するかのようにヘファイストス達も麺料理を食べる手を止めなかったどころか、眷族達の方が何回もお代わりを要求するほど美味しかったようだ。しかしだ・・・・・。
「たまには俺も食べる側になりたいんだが。ザルド以外、誰か作ってくれないか?」
「そう言うが、お主の好みがわからんぞ」
「この世界の料理なら不味くて失敗してなければ何でもいい。庶民から高級の料理を食べてみたい」
「ンー、イッセイの世界とこの世界の同じ食材と料理があるみたいだけど、僕達は異世界の料理を知らないからこの世界のどんな料理を作ればいいか迷うよ?」
それもそうか、フィンの言う通り一理あるな。ちょっと待ってろ、と席を外して自室に戻って10分後。
「ほら、これが異世界の料理人が開発した料理のレシピが書かれた本だ」
ドサッ・・・・・!
軽く100冊は超えつ料理本を【異世界買物覧】で購入した。
「多っ!!? 自分の世界の料理人はどんだけ料理を作っとるんや!!」
「美味しさを追求するのに手間暇だけでなく時間も掛けるのが故郷の人間にとって当然の事なんだ。果実の品種の改良をするのに10年以上も費やすことだって珍しくないぞ」
「果物一つに10年も・・・・・?」
早速ザルドが料理本を手に取って異世界の文字が分らないにも拘らず、料理の絵を描かれたページを捲って興味深げに見つめた。
「わざわざ料理の絵を載せてまでレシピを誰にでも作れるように公開しているのか。異世界はこういう本がありふれているならば面白いな」
「ふふ、ミアにも見せたいわね」
「異世界の文字だから何て書かれているのか分からないが、見ているだけで美味そうな料理がたくさん描かれておるのぉ」
「・・・・・この草の葉のような物に包まれたこれは?」
お、リヴェリアはそれに目を付けたか。目の前でその甘味を【異世界買物覧】から買って、具現化した段ボールから取り出して彼女の名を言いながら弧を描くように投げ渡した。食べれない葉っぱを解いて中身を食べてみろ、と促せば逡巡、躊躇しながらもその通りに葉を開けば白い塊を小さく齧ったリヴェリアの反応は次の通りだ。
「・・・・・甘いっ?」
「だろ。それは柏餅と言って甘味、和菓子の部類に入る食べ物だ」
「柏餅? 餅なのか? お主の世界にも餅があるのか?」
椿が意外そうに自分も欲しいと両手を揃えて伸ばしてくる。
「知っているのか椿?」
「うむ、手前は極東出身の母の腹から産まれたから知っておるぞ」
本当に異世界共通の物があるんだなーと思いつつ、椿にもう一つ買った柏餅を投げ渡した。次の旅行が楽しみだよ。だから気になって椿には極東のことについてあれやこれやと訊き出すと、何と花火や祭りまであるというのだから是が非でも参加してみたくなるというものだ。なんならこの季節ならばもう祭りの準備も始めっているかもしれないというのだから、俺が動かない理由はないだろ。
「ところでイッセイ。ダンジョン内で地上と行き来する件、どうかな?」
「全然してないぞ。対リヴァイアサン用の装備が最優先だからな」
「何着か完成しているのか?」
「してはいる。が、俺のスキルは作るたびにステータスが向上するから、出来る限り最高の性能の装備を身につけてもらいたいので作り続けているのが現状だ」
因みに現段階で完成した備わっている防具と武具の総ステータスはもうちょっとで5桁超えそう、と言えば微妙な空気と化した。
「ご、5桁・・・・・?」
「ええ・・・・・絶対に世に出してはいけないし、出したとしても誰にも身につけさせてはいけないほどよ。駆け出しの冒険者がフル装備で固めたら、第一級冒険者並の強さを得ると言っても過言ではないもの」
ジト目でそんな代物を生み出してしまった俺を見るヘファイストスからの視線を受け流す。と、マキシムと目が合った。
「イッセイ、試しに対リヴァイアサンの装備を使わせてくれないか?」
「えー・・・・・うーん・・・・・ぶっつけ本番でやらせるわけにもいかないか」
リヴァイアサン討伐まで破損させたくない思いもあったが口にした通り、ここで渋るのも製作者としてどうだろうかという疑念も抱き、俺専用の保管庫からマキシム用【海の覇王】シリーズの防具と武器を召喚した。
「ほう・・・・・これが生きたリヴァイアサンの素材をお前が作った装備か」
「そ、これにも当然のようにスキルと魔法も備わっているぞ。それは後で教えるとしてこの各装備の総能力値はS~SSSだ」
「各装備? じゃあこの籠手一つだけでもか?」
「籠手だけでも能力値オールS~SSSだ。それが身体に纏う装備が多ければ多いほど強くなれるだろうよ」
・・・・・凄まじいなっ、とどこか興奮を覚えたようなマキシムがマネキン人形から籠手を外して自分の手に装備すると、外部からの力の上乗せを実感したのか目を丸くした後に口角を吊り上げた。
「マキシム、どうだ? イッセイの装備は」
「本物だ。この籠手を着ける前の俺と着けた俺の違いがはっきりと判るほどだ。この感覚がイッセイの世界では当たり前だというなら、俺は今イッセイの異世界の恩恵を受けているような気がするぞザルド」
「そこまで褒め称える程かい? どれ、私にも確かめさせてみな」
異世界の恩恵と聞き、それがどんな感じなのか気になったか【女帝】が席から立ち上がるとザルドも同時に立ち上がってマキシムへ近寄った。
「本当にあの装備はリヴァイアサンや黒竜以外しか使わせちゃダメだからね」
「わかってるって。そもそも討伐したらリヴァイアサンの素材で作った装備は自壊するのが高いってヘファイストスは思っているんだろ? それも高確率で。なら大丈夫だろう」
「素材の部分が消失してもガワが残っておる状態なら、ステータスはどのような変化になるのであろうな」
椿の言う通り、そこがキモなんだよなー。確実なのは弱体化何だがそれでも高い能力値は維持していそうだともヘファイストスの見解だ。ま、それがわかるのはリヴァイアサン討伐後だ。でも、あの巨体でダンジョンから出て来たってことはダンジョンと繋がっている穴があるんだよな? その辺どうにかするつもりなのか、なるのか? ゼウス達に問うと。
「まぁ、リヴァイアサンから得た怪物の宝、ドロップアイテムを利用するしかないで」
「あの巨躯だからリヴァイアサンの骨は確実に手に入るだろうさね。大穴に押し込む大岩に骨を埋めればこれ以上下界の海にダンジョンから出てくる水生モンスターはいない、と私達は確信しているよ」
それはリヴァイアサン討伐後の事で、俺達がリヴァイアサンを倒さなければ実行できない話でもあった。何となく察しているとフレイヤがあっけらかんに言い出した。
「倒したら倒したで、とある海国の子供達が大変でしょうけどね」
「ん?」
「ああ、イッセイは別に気にせんでええで。ある意味、住む場所を間違えた可哀想な子供達の話やからな」
「じゃな。別の場所で暮らしてほしいものを、ちっとも耳を傾けてくれんどころか手伝わんからのあの国は」
「下界の危機より自分達の身の危険の方が大事で、何度もギルドに抗議してくる馬鹿共なんて知っちゃこっちゃないよ!」
・・・・・・何を言っているんだろうか? ヘファイストスも知っているのかと振り向けば「知らなくていいわ」と首を横に振られた。