「ココちゃん! 新しくバイク買ったの!? すごぉい! 私も乗せて!!」
「うん、いいよ。後ろに乗って、腰にしっかり掴まってね、ミント」
「わぁい! ココちゃんってばぁ、優しい〜!」
心地よいエンジン音と共に、二人の乗ったバイクが走り出す。風を切る感覚が心地よく、背中にぴったりと密着するミントの体温が温かい。
「風が気持ちいいね〜!」
「ふふ、喜んでくれたみたいで嬉しいよ」
「あ〜……ココちゃんの匂いがする……すんすん……はぁ……」
「ん? ミント、どうかした?」
「えっ? あ、ううん! なんでなもないよ! それよりココちゃん! 前見て前! 危ないよ!」
「あ、ごめんミント。気をつけるね」
(ああ……ココちゃんは優しくて、少し鈍感で……わたしがいないと、だめなんだから♡)
目的地に着き、バイクを降りたミントは名残惜しそうに鑑定士を見つめた。
「じゃあ、ミント。またね」
「うん! またね、ココちゃん」
そう言って、ミントは力強く鑑定士を抱きしめた。自分の匂いを、その身体にしっかりと擦り付けるように。
「ふふっ……くすぐったいよ、ミント」
「えへへ。じゃあ、またね! ココちゃん! 次は映画とか一緒に見に行こうね!」
無邪気に手を振るミントを見送り、鑑定士は帰路についた。
翌日。
「はぁ……ココちゃんに会いたいな……。あれ、ココちゃん?」
遠くから見慣れた姿を見つけ、ミントの顔がぱっと明るくなる。しかし、その足はすぐに止まった。
「あそこにいるのは……レクイエム先輩? こんな僻地で何して……え?」
木漏れ日の中、木の麓で二つの影が重なっていた。
「なんで……肩を寄せあって……寝てるの……?」
「すぅ……すぅ……」
穏やかな寝息を立てて、レクイエムと並んで眠る鑑定士。ミントは息を殺して近づき、その首元に顔を近づけた。
「すんすん……わたしがつけた匂い……上書きされてる……。トマトの匂い……?」
ギリッ、と奥歯を噛み締める。
ミントの瞳から、光がスッと消え失せた。
「だめ……許さない。ココちゃんは……私の、私の……私のものなのに」
さらに翌日。
「ココちゃん! おはよう!」
「おはよう、ミント」
「ねえココちゃん。昨日、何してたの?」
いつもの明るい声。しかし、鑑定士はなぜか背筋に冷たいものを感じた。
「え? 昨日は特訓を……」
「嘘つかないで」
地を這うような、低い声だった。
見上げたミントの目は、どす黒く淀んでいる。
「えっ? ミント……?」
「ココちゃん、どうして嘘つくの? 昨日、レクイエム先輩と木の麓で寝てたよね??」
「ミント、聞いて? 昨日は本当に特訓をしていて、それで疲れて……」
「すんすん……。今度は、香水の匂い……。ココちゃん、今日は何してたの?」
「え、今日は……」
「ううん、聞かなくてもわかる。他の女の所に行ってたんだ」
ミントの瞳の淀みが、さらに深く、暗く沈んでいく。
「ミ、ミント? 聞いて、私は——」
「うん、分かってるよ。ココちゃん」
不意に、ミントの目つきが和らぎ、声もいつもの甘いトーンに戻った。
「ココちゃんは何も悪くない。何も変なことはしてない、でしょ?」
「え? ど、どうしたの? ミント? 今日、なんだか変だよ……?」
「ねえココちゃん。ぎゅーって、していい?」
「えっ? うん、いいけど……」
ミントが鑑定士の身体をきつく、痛いほどに抱きしめる。
直後——ドンッ、と首筋に鋭い衝撃が走り、鑑定士の意識は暗転した。
「ふふ……心配しないで、ココちゃん。大丈夫、大丈夫だからね」
「ん……ここは……ミントは……」
重い瞼を開けると、見知らぬ天井があった。
身体を動かそうとして、手首に冷たい感触と重みがあることに気づく。鎖だ。いつも身につけている武器も見当たらない。
「おはよう、ココちゃん!」
「! ミント! ここはどこなの!?」
「あっ、ココちゃん、動いたらだめっ。痛いよ? ここは私の部屋。お腹、減ったよね!」
鎖に繋がれた異常な状況下で、ミントはいつも通りの、いや、いつも以上に明るい笑顔を浮かべていた。手には湯気を立てるお皿が握られている。
「ココちゃんと私は食べるものが違うから、頑張って勉強したんだ! はい! これ!」
見せられたのは、手作りの野菜炒めだった。
「それより手錠を外して、ミント!」
その言葉を聞いた瞬間、ミントの瞳から再び光が消えた。
「だめだよ、ココちゃん」
「え……」
「外の世界には、ココちゃんを誑かす『雌』が沢山いるんだから……。私と……ここでずっと一緒に暮らそう?」
「だめだよ、ミント。私はやらなきゃいけないことがある。それに、エイボンのみんなだってきっと心配して……!」
「はぁ……ココちゃんは洗脳されてるんだよ。だって、私の知ってるココちゃんなら、私の事拒んだりしないもん」
虚ろな目で呟きながら、ミントは一口分の野菜炒めを掬い、鑑定士の口元へ運ぶ。
「ねえ……ココちゃん、口開けて? ココちゃんのために、苦手なお料理の勉強も頑張ってしたんだよ? ほら……あーん」
「ミ、ミント……っ」
「あーん」
逃げ場のないベッドの上。有無を言わさぬ圧力に負け、鑑定士は震える口を開いた。
「美味しい?」
「うん……美味しいよ。だけど、こんな事してる場合じゃ……はむっ!? んぐ……っ、もぐ……っ」
「ココちゃんの洗脳をとかなきゃ……。ほら……沢山食べて?」
言葉を遮るように、次々と食事が口に押し込まれる。息が詰まりそうになりながら、鑑定士は必死にそれを飲み込んだ。
「食べたら……きっと洗脳もとけて、いつものココちゃんになってくれるよね……」
「けほっ……けほっ……はぁ……はぁ……ミン……ト……」
咳き込みながら、恐怖に怯えた目でミントを見上げる鑑定士。
その震える身体を、ミントは愛おしそうに、きつく抱きしめた。
「ココちゃん……ぎゅーっ……」
「…………っ」
「大丈夫……大丈夫だよ。きっとわたしが、ココちゃんのこと、直してあげるから……。そしたら……また、みんなの所に一緒にいこうね……?」
身動きの取れない鑑定士の耳元で、ミントは甘く、ひどく歪んだ声で囁いた。
「大好きだよ……」
pixivにも載せています。
NTE面白いですよね!やってみたことのない方も作品を見て興味を持ってくれたら嬉しいです!