「こんにちは、レクイエム。今日はどうしたの?」
「こんにちは……鑑定士。今日は……ご飯を……食べに来た」
「ご飯って……やっぱりトマトゼリー?」
「ううん……ハンバーガー……」
珍しい返答に少し驚きつつも、鑑定士は微笑んだ。
「そっか。なら、今日もご一緒してもいいかな?」
「うん……鑑定士と……一緒に食べる」
ファストフード店に入り、注文した品を待ちながら他愛のない会話を交わす。
「鑑定士……今日は……休み……?」
「うん。エイポンもずっと忙しいわけじゃないから、今日はおやすみだよ」
「そっか……。私は……翳に休めって……言われた……」
「(トマトデビルの件が終わった直後だからかな?)そうなんだ。あ、レクイエムの番だよ」
トレイを受け取り、日当たりの良い窓際の席に腰を下ろす。
「いただきます」
手を合わせてから、鑑定士は向かいに座るレクイエムをちらりと見た。彼女の手元にあるのは、いつか見た光景と同じ――バンズの間にトマトだけを分厚く挟み、その上からたっぷりとケチャップをかけた特製バーガーだった。
「レクイエム、それ本当に好きだよね」
「うん……トマトたくさん……好き。……鑑定士……食べる?」
「ふふ、なら一口もらうね」
差し出されたバーガーの端を、小さくかじる。
「うん、美味しい。ありがとう、レクイエム」
「鑑定士……助けてくれた……お礼」
そう言って、レクイエムはバーガーを口に運ぶ。
――それは見事に、たった今、鑑定士が口をつけたのと全く同じ場所だった。
(ごくり……っ)
無邪気に頬張るその無防備な姿に、鑑定士は思わず喉を鳴らした。変な意味はないと分かっていても、どうしても意識してしまう。
「?……鑑定士……お腹……空いてない……?」
「あ、ちがっ、違うの! そうだね、私もいただきますっ」
動揺を誤魔化すように、鑑定士は急いで自分のハンバーガーをパクパクと口に運んだ。
やがて二人とも食べ終わり、食後の穏やかな時間が流れる。
客も少なく、窓から差し込む午後の太陽がひだまりを作っていた。ぽかぽかとした暖かさに誘われたのか、レクイエムはいつの間にかコウモリの姿になり、鑑定士の膝の上で丸まって寝息を立てていた。
「ふふ……可愛い……」
小さな羽を優しく撫でているうち、鑑定士のまぶたも次第に重くなっていく。
一時間ほど経った頃。
ぽふっ、と小さな音がして、膝の上のコウモリが人間の姿に戻った。
「ふわぁ……」
目をこすりながら見上げると、すぐ目の前に鑑定士の寝顔があった。
「……鑑定士……寝てる?」
「すぅ……すぅ……」
穏やかな寝息。レクイエムは少し首を傾げた。
「ん……白蔵が言ってた……寝てる人は……起こしちゃダメって。前に……休んでた翳を起こして……翳が白蔵に怒ってた……」
ふとテーブルを見ると、気を利かせた店員がすでに空のトレイを下げてくれていた。窓の外はまだ明るく、日向の席は毛布のように暖かい。
しかし、レクイエムには一つ問題があった。人間の姿に戻ったはいいものの、鑑定士に「膝枕」された状態になってしまい、身動きが取れなくなっていたのだ。
「鑑定士……起こせない……。このままだと……」
うーんと悩んでいると、眠っていた鑑定士の頭が、こくり、とゆっくり落ちてきた。
「……鑑定……士……?」
――こつん。
柔らかい唇が、見上げるレクイエムの額にそっと触れた。
「…………」
おでこにキスをされたままの体勢で、静かに時間が過ぎていく。
数秒、数十秒。
(……あ。コウモリになれば、抜け出せる……?)
レクイエムがその単純すぎる解決策にようやく気づいたのと、鑑定士がゆっくりと目を覚ましたのは、ほぼ同時だった。
「……ん……レクイエム……? あ……ごめんっ……寝ちゃってたね……」
まだ少し寝ぼけた声で、鑑定士が慌てて顔を上げる。
「鑑定士……おはよう……」
「うん……おはよう、レクイエム。……あ、そうだ、早くトレイを下げなきゃって……あれ、下げられてる?」
「うん……店員さんが……下げてくれた……」
「そっか……」
ホッと一息ついて、鑑定士は優しく微笑んだ。
「なら、そろそろいこっか」
「うん……今日はありがとう……鑑定士……。また……一緒に……食べる」
「うん、こちらこそ、またね。レクイエム」
お店を出て、鑑定士と別れた帰り道。
午後が過ぎ、夜になり、やがてベッドに入る時間になる。
静かな部屋の中、レクイエムは今日あったことを思い返していた。
額に残る、ほんの少しの温もり。
「…………」
無意識のうちに自分の額にそっと触れ、レクイエムは少しだけ口角を上げる。ほんのりと頬を染めながら、彼女は温かい眠りにつくのだった。
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