冴えない五男坊(愛人の子)が隣のクラスの貧弱美少女サイコパス(怪異)と出会って神々のゲーム(これはあまり物語に関係ないかも~)に巻き込まれる話   作:匿名希望爺さん

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#2.それはお互い様だろう(1)

 野球部に退部届を提出して以来、星野朗の放課後はあまりにも長い。

 

 午後の授業が終わると寮に直帰だ。

 こんなときこそ図書室で有意義な時間を過ごせばまた人生の方向も変わってくるのかもしれないが、どうしても気が進まない。読書が嫌いだというわけではない。ただ、南校舎の図書室の窓から野球部が練習している第二グラウンドが丸見えなのだ。どんなに窓を閉め切っても、地を這い谷を越えるような、あの野球部独特の掛け声は星野の脳に響き渡る。特に女子野球部連中の掛け声は苛々するほど甲高い。

 

 放課後の校舎には居場所がない。

 星野は溜め息をつきながら、学校の裏門から私道ひとつ隔てた高等部寮に帰った。

 遠方から就学した高等部生を収容している寮は「筑前三國寮」という。昭和の昔にこの寮を建てた理事長の名を戴いていた。収容人数は最大で三十人、フェンス越しに隣接された中等部寮よりも一回り大きく、蔦の絡まる洋館風で洒落ている。

 世間一般が想像する高校寮とは異なり、部屋は広く充実しており設備も快適。だが見た目のとおり費用がお高いため、数年前からは空室が目立つ。

 子どもの数が減り、生徒の人数も大幅に減った。

 この中高一貫校もかつては全国から受験生が殺到した名門だが、平成のバブル崩壊後は週刊誌が発表する難関大進学ランキングでも中レベルの中堅という微妙なところで落ち着いてしまった。わざわざ都会を離れて地方の中高一貫校に入学する物好きな生徒は少ない。

 ひとあし早く女子寮が閉鎖されたのが五年前のことで、男子寮についても、現在は訳あって都会の実家で暮らしたくない生徒の合法的なシェルターとして機能するに留まっていた。今後の見通しはあまりにも暗い。

 

「ただ今戻りました」

 

 玄関で靴から室内履きに履き替え、寮監室をノックして顔を覗かせる。

 

「お帰りなさい。今日も星野君が一番乗り」

 

 背広姿の老人が立ち上がって振り向き、星野に挨拶を返した。

 寮監の越智さんだ。

 穏やかな風貌の年配男性で本物の執事のように見えるが、実は教職免許も取得している元警察官だ。ゆっくりとした動作で鍵付きの戸棚を開け、その中から部屋の鍵と黒いスマホを取り出すと星野に差し向けた。

 校舎内は私用スマホの持ち込み禁止、学校から貸与されている小型タブレットを携帯するようにと校則で定められているため、寮生は毎朝この寮監室にスマホと自室の鍵を預けなければならない。スマホ禁止なんて今どき地獄のような謎校則だなと地元の他校生たちは目を丸くするが、星野は不便を感じない。中学入学と同時に東京の実家を離れて以来ずっとこの生活だから、スマホでSNSに明け暮れる学園ライフを経験したことがないのだ。それに、学校貸与の小型タブレットPCはハイスペックでアプリも充実しているから普段使いに充分だ。

 

 返却してもらったスマホの電源を入れるが、今日も今日とて、不在中に届いたのは無料ゲームの更新通知ばかりだ。

 寮監室から廊下に出て自室を向かう。

 スマホの通知には気にも留めずポケットに入れようとしたところで、いきなり通話の着信音が響いた。

 液晶を見ると登録外の番号が並んでいた。厭な予感もしたが、スマホを新調した級友からの挨拶か。新学期だしそういうこともあるかもしれない。

 だから星野は躊躇うことなく通話ボタンを押した。

 

「はい、もしもし。誰」

『きみ、何しよん?』

 

 凜とした少女の声だ。しかも怒りに震えている。

 

「え。……誰に電話してるの?」

『二年甲組の星野朗、放課後に校門で待ってろっち言うたやろが!』

 

 言うたやろが! 

 の部分はすでに通話越しの声ではなかった。

 星野が顔を上げると、誰かが階段の上から見おろしていた。細くて小柄な白い少女、狼のような灰色の瞳に流れる黒髪、赤いバンダナリボン。

 瓔珞紅子だ。

 彼女は白銀色のスマホを制服のポケットにしまうと、いきなり星野のもとまで階段を駆け下り、その勢いで飛び跳ね、力強く彼の頭を殴った。間抜けな音が響く。

 

「いでっ」

「私から逃げるつもりやったん?」

「どうやって男子寮内に入ってきたんだ?」

「私は行きたいところには何処にでも行けるんよ」

 

 なんだそれ。星野は呻いた。

 

「なんで逃げたん? 妹の婚約者を連れて帰るっち両親にも言うとるのに! 父さんは仕事を早退して帰ってくるし、母さんは嬉しさ余ってクッキーを焼きよる。きみに選択の余地はないけん」

 

 紅子が人差し指を立てて、星野の額を押そうとする。星野は鞄を投げ捨て両手で額を隠した。紅子に操作された体育教官の姿が脳裏に蘇る。

 

「それやめて!」

「私はもうすぐ死ぬ余命少女やっち何度言えばいいと? 瀕死の余命少女に親切にしてやろうとか、遺言をすみやかに遂行してさしあげようとか、そういう気持ちにはなれんの?」

 

 星野は吐息した。呼吸を乱したら負けると思った。

 

 

 

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