冴えない五男坊(愛人の子)が隣のクラスの貧弱美少女サイコパス(怪異)と出会って神々のゲーム(これはあまり物語に関係ないかも~)に巻き込まれる話   作:匿名希望爺さん

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#2.それはお互い様だろう(4)

 星野は目を閉じた。

 目を閉じたのに、目の前には白い風景が広がっている。

 ここは何処だろう。

 

 ――おれの意識の中だ、と直感した。

 

『ふーむふむ。素晴らしき素質、これは名機。さすが二つ名を持つ増幅者、濤の増幅者』

 

 薙刀を手にした老婆が、しゃがれた声を出しながら星野に笑いかけている。時代劇のような着物姿に白いハチマキ、もちろん白髪は和風に結っている。

 落城のいくさでひとり敵将に抵抗する老婦人の出で立ちだ。

 

『お婆さん、誰』

『試煉の鷲ですぞ。今は詳しい話をするときではない、いざ、参る』

 

 鷲の老婆が差し出した小さな手を、星野は握った。

 

 同化は落雷の衝撃だ。

 声は出ないが意識は残っている。視界は白く、手足が熱い。重力が逆転して浮遊した。頭を真下にして空気の中で溺れている。星野は両手で空を掻いた。もがけばもがくほど頭が奇妙な位置に歪む。

 骨が軋む。

 痛い。

 

「頭が上! 両手両足で突っ張るんよ!」

 

 遠いところから女が怒鳴る。誰だ。――ああ、瓔珞姉妹の母親だ。

 星野は目を開けた。

 渾身の力を込めて頭を持ち上げると、視界が定まって思う方向に体勢が整う。両手と両足を突っ張って大の字になろうとする。

 そして星野は気づいた。腕がない。

 両腕は巨大な鷲の翼だった。そして両足は鋭い爪を持つ猛禽類の足だった。

 引きちぎられそうな苦痛に叫んだ声は鳥類のものだ。

 星野は鷲だった。

 白い影の鷲をその躰に受け入れ、同調し、増幅し、彼自身の肉体が気高き鷲に変身した。

 

「わが下僕、試煉の鷲よ飛べ!」

 

 紅子が星野に命じる。

 その声を星野の本能が待っていた。彼は理性を捨てて舞い上がる。

 階段の上には、女の子がいた。

 中等部の制服を着ているが見た目はまだ小学生だ。両足を踏ん張って星野を睨みつけている。長く美しい髪は逆巻き、白い頬は鮮やかに紅潮していた。

 少女は桜色の唇をぎゅっと噛み、一歩後ずさる。

 

「わっ、わたしに触ったら、ゆ、許さないから!」

 

 幼く軽やかだが気高き姫君の声だった。

 幼い声を制するように紅子の叫びが聞こえる。

 

「鷲よ聞け、そのお転婆なクソガキが私の妹、翠子だ。ここに連れてこい」

 

 星野は躊躇した。翠子と呼ばれた少女の瞳があまりにも強くきらめいていたからだ。

 

「翠子を掴んで私のもとに連れてこい、これは命令である!」

 

 紅子の命令は容赦ない。

 その声で意識が締め付けられた。命令違反を絶対に許さない支配者の鞭だ。

 

「こっちにこんで! お姉ちゃんもママも好かん、あなたも好かん! 大嫌い!」

 

 翠子は両目に涙を溜めて抵抗したが、星野は紅子の命令を拒めない。鋭い爪で翠子の華奢な躰を掴み上げて飛んだ。翠子は暴れたがどうしようもない。

 鷲の姿に変身した星野は紅子の前に翠子を降ろした。紅子は腰に手を当て翠子を睨んでいる。

 

「わかったやろうが、翠子、この増幅者が私たち瓔珞家の新しい家族なんちゃ。瓔珞家の血にはこの男が必要なんよ。あんたはこの男の射手(ひきがね)として、この男と結婚して血を残すのが使命なんよ」

 

 紅子の強い言葉に、翠子はとうとう泣き出した。

 

「いやや、お姉ちゃんが死んじゃうのもやだ、ママとパパのように苦しみながら戦うのもやだ、好きでもないひとと結婚するなんて、ぜったいに、やだ! スイは大きくなったらアイドルと女優と女子アナになって日本人メジャーリーガーと結婚するっちゃ!」

 

 鷲はついに声を出した。

 

「ぴい」

 

 だが喋れなかった。

 

「星野、ご苦労。初めてにしては上出来だ、やっぱり私の目に狂いはなかった。痛かったやろ、もういいけん、試煉の鷲を解いてよかよ」

 

 いやいやいやいや。

 もういいよと言われましても。

 

「ぴ、ぴろぴろ……」

 

 どうすれば元に戻れるのかわからないのだ。それを紅子に尋ねたいのに、固い嘴では人間の言葉を紡げない。身振りで伝えようとしても、彼の両翼では意志を示せない。

 そこに、意外なほどのんびりした声が降ってきた。

 

「へえ、予備訓練なしに完全増幅とは驚いた。そりゃ元に戻れなくても仕方ないさ」

 

 男の声だ。

 その場の全員が振り返ると、眼鏡をかけた中年男が淡々とした所作でスーツの上着を脱いでいるところだった。

 

「父さん……」

 

 紅子が小さな声で呟く。これから叱咤されることを覚悟している蒼白な表情だった。

 

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