暴君忠長に転生したので、兄上のために日本列島をメンテします 〜SFチートのはずが、田んぼと水路と寺社ノードの保守係なんですが〜   作:パラレル・ゲーマー

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第121話 水神様、ローマの光る石を奇跡ではなく石の理に戻す

 元和五年。

 

 先日の江戸の密室で決められた『経済改革の五本柱』が、江戸、大坂、長崎の一部で試験的に動き始め、商人たちが新たな時代の「信用の匂い」を敏感に嗅ぎ取り始めていた頃。

 

 俺のいる御異物改方には、全く別の方向から、またしても厄介極まりない知らせが届いていた。

 

「……ローマより。水鏡会談の要請です」

 

 俺は、報告を持ってきた正純からその言葉を聞いた瞬間、反射的に胃の辺りを押さえて呻いた。

 

(……この時代の世界、地雷多すぎない?)

 

 欧州では、すでに三十年戦争の地獄が始まっている。

 

 北東の地では、ヌルハチが七大恨を掲げて明との戦争になだれ込み、後世の明清交替という巨大な火薬庫に火がついた。

 

 天には大彗星が現れて民心を揺さぶり、国内では巨大な経済と信用のシステムを構築しなければならない。

 

 そして、この時期の欧州の裏側では、天文学者のケプラーが『宇宙の調和』へ向けて、絶賛、とんでもない地動説関連の特大爆弾を仕上げている真っ最中のはずなのだ。

 

(戦争。宗教。天文学。彗星。明清交替。貨幣と信用。奇物。……もう、どこを一歩踏み出しても爆発しそうな地雷原のど真ん中じゃないか!)

 

 俺は、白目を剥きそうになりながら、水鏡の石室へと向かった。

 

 *

 

 江戸城の奥、水鏡の間。

 

 日本側の参加者は、俺、天海、本多正純、そして今回は土井利勝も同席している。

 

 家康や秀忠、家光は、今回の議題が実務的であるため、後ほどの報告で済ませることになっていた。

 

 KAMI様は、いつものように俺の視界の端でふわりと浮いている。

 

 水鏡の向こうには、ローマ教皇・パウロ五世、数名の枢機卿、学識ある聖職者、そして教皇庁の宝物庫・聖遺物庫の管理者たちが顔を揃えていた。

 

 最初の議題は、やはり欧州の戦乱、三十年戦争の現状についてだった。

 

「……ボヘミアでの反乱は、依然として続いている。皇帝側とプロテスタント側の対立は日増しに深まり、諸侯たちは互いにどちらへつくべきかを探り合っておる。……各地で、兵の雇い入れ、莫大な金の移動、そして武器の算段が始まっているという。だが。……まだ、初戦としての決定的な動きはない。我らも、これがどこまで広がるかは、見極めきれておらぬ」

 

 ローマ側の空気は、張り詰めてはいるものの、この時点ではまだ、「欧州全土を三十年も焼き尽くす、途方もない大戦争になる」とまでは、誰も見切れていなかった。

 

 大きな戦にはなるかもしれぬ。

 

 だが、今ならば、まだ局地の騒乱で収まる可能性もあるのではないか。

 

 そんな、一縷の甘い期待が、彼らの言葉の端々に残っているのが俺には分かった。

 

 そして、その不安定な空気に、さらなる『不吉な影』を落としているものがあった。

 

「……昨年の冬に現れた、あの『大いなる彗星』」

 

 一人の枢機卿が、十字を切りながら重い声で言った。

 

「あれは。……天が、この戦が長く悲惨なものになることを告げた、『神の怒りのしるし』ではないかと。……民草の間だけでなく、聖職者たちの中にも、そのような恐ろしい噂が広がりつつありまする」

 

 俺は、黙って聞いていた。

 

(……やっぱり。大彗星は、欧州では『戦争の始まりを告げる不吉な前兆』として語られているんだな)

 

 俺は知っている。

 

 その戦争が、本当に彼らの想像を絶する長さで続くことを。

 

 だが、「あなたの予想通り、三十年続きますよ」「大彗星が戦争を告げたのも同じです」などと、ここで軽々しく言うわけにはいかない。

 

 大彗星と戦争を直接結びつけることは、ただでさえ混乱している彼らの心に、絶望の呪いをかけるだけだからだ。

 

「……天の光と、人の起こす戦を。……軽々しく、一つの線で結びつけることは、極めて危ういことかと存じます」

 

 俺は、慎重に、静かに言葉を返した。

 

「ただ。……人々がそのように信じ、不安を募らせて暴走するならば。……その『不安そのもの』は、明確に政と教会の管理すべき対象になります」

 

 俺は、先日の日本での大彗星の対応を伝えた。

 

「我らの国でも、天変そのものより、それに怯えて揺れる『人の心』の方が遥かに危険でした。……戦の行方という『結果』と、戦が来るという『恐れ』は、全く別の火です。ですが、どちらも放置すれば、必ず燃え広がります」

 

 パウロ五世は、俺のその「戦争の勝敗そのものを予言せず、ただ人心の管理と記録を重視する」という冷徹な姿勢に、深く、安堵したように頷いた。

 

 *

 

 だが、俺の安堵は長くは続かなかった。

 

 ローマ側の学識ある聖職者が、ふと、天文学者たちの議論に触れたのだ。

 

「……大彗星の観測につきましては、欧州各地の学者たちも激しく議論を戦わせております。ドイツの方面では。……ケプラーなる人物もまた、天の星々の運行について、いよいよ『新たな考え』を深めていると聞き及びますが……」

 

 俺は、水鏡の前で、完全に全身が硬直した。

 

(来た。来やがった!! 超絶特大の、科学史と宗教史の地雷名が!!)

 

『やっほー。ケプラーさん、絶賛【宇宙の調和】に向けて、特大爆弾の製造真っ最中ね』

 

(やめてくださいKAMI様! それ、絶対に、今ここで言えないやつです!!)

 

 俺は心の中で絶叫した。

 

 ケプラーの研究は、後世から見れば天文学の偉大な土台だ。

 

 だが、この時代の、しかも三十年戦争という極限状態の宗教対立の中で、不用意にその情報をローマ側に「予言」として出せば、彼の周囲に余計な疑惑と火種を生み、歴史が完全にぶっ壊れる。

 

 俺は、顔の筋肉を総動員して平然とした表情を作り、無難の極みのような返答を絞り出した。

 

「……星を見る者たちが、観測と計算を地道に重ねることは、大切でございます。ただ、天の理を論じる時は、必ず、人の信仰や政治の火種にも深く触れることになります。……何事も、急ぎすぎず、ただひたすらに『記録』を積み上げるべきかと存じます」

 

 ローマ側は、「この東の童は、またしても肝心な未来の核心を言わずに逃げたな」という顔をした。

 

 だが、こればかりは、絶対に譲れなかった。

 

 *

 

 戦争と彗星、そして俺の胃痛の話が一段落したところで。

 

 教皇庁の宝物庫の管理者が、おもむろに一つの小さな古びた箱を持ち出してきた。

 

「……実は。もう一つ、貴国にご相談したき『奇妙な品』がございまして」

 

 箱が開けられる。

 

 中に安置されていたのは、手のひらに乗るほどの大きさの、淡い緑色、あるいは白濁した半透明の、滑らかな『石』だった。

 

 管理者が説明する。

 

「由来は、いささか曖昧にございます。古い教会の宝物庫の整理中に見つかったものですが……かつて、高位の聖人の『遺物』のすぐ近くに保管されておりました。また、明やペルシアを経由して持ち込まれた、東方の『夜光る珠』ではないか、という商人の古い記録も残されております」

 

 宝物庫の管理者は、水鏡の前で、実演を始めた。

 

 まず、その石を、明るい燭台の火に近づけて、しばらくの間じっと照らす。

 

 そして、石室の照明を、一気に暗く落とした。

 

「おお……」

 

 日本側からも、声が漏れた。

 

 暗闇の中で。

 

 その石は、ほんの数秒から十数秒ほどの間、ぼんやりと、青白く、あるいは淡い緑色に、自ら発光していたのだ。

 

 ローマ側が、ざわめき立つ。

 

「暗闇の中で、自ら光を放つなど……尋常の石ではありませぬ!」

 

「やはり、これは奇跡ではないか?」

 

「聖人の遺骨のそばにあったのだ! 神のしるしに違いない!」

 

「大彗星の後に現れた、光の石……! この戦乱の闇を照らす、天の意味が込められているのでは……!」

 

 俺も、一瞬「おっ」と身を乗り出したが、冷静に見ると、実用品としてはかなり微妙だった。

 

 光は弱く、何より発光時間が短すぎる。

 

 暗闇で本を読んだり、戦場で照明代わりに使ったりすることは絶対に不可能なレベルだ。

 

 だが、だからこそ、『宗教的な神秘の演出』としては、この上なく危険な代物でもあった。

 

 日本側で、じっと石の様子を見ていた天海が、目を細めて言った。

 

「……ほう。これはもしや。……明国の伝説に語られる、『夜明珠(やめいじゅ)』の類ではございませぬか」

 

「夜明珠?」

 

 俺は聞き返した。

 

「はい。明の珍宝譚に、暗夜に自ら光を放つ珠の話がございます。宮殿や王侯の宝として語られる、国宝級の珍品にございますな」

 

 天海は完全に信じ切っているわけではないが、東方の知識としてそれを引っ張り出してきた。

 

「……へー、なにこれ? KAMI様、解説お願いします!」

 

 俺は心の中で助けを求めた。

 

『夜明珠とか蓄光石とか、あなたが詳しいわけないものね。仕方ないわね』

 

「知りませんよ! そんなパワーストーン寄りのオカルト知識!」

 

『令和の頃の言い方で近いものを出すなら、【ルミナスストーン】ね。……まあ、現代でよく見るものは、人工的に作られた蓄光材や加工品が多いけれど』

 

「ルミナスストーン……ああ! 子供の頃にガチャガチャの景品とか、おまけのシールでよくあった、暗いところで光るプラスチックみたいなやつの石版ですか!」

 

『身も蓋もない言い方ね。……仕組みとしては、光のエネルギーを吸収して一時的に内部に蓄え、周囲が暗くなると、ゆっくりとそのエネルギーを放出して光るのよ。人間の目には、緑色や青白い光として見えることが多いわ』

 

 KAMI様は、淡々と続けた。

 

『鉱物にも、蛍光や燐光を示すものは自然界に存在するわ。ダイヤモンドの一部、蛍石、方解石、長石など色々ね。どれかは現物を分析しないと断定できないけれど……少なくとも、「暗闇で少しの間だけ光る石」自体は、神の奇跡と断じる必要は全くないわ』

 

「つまり。……【石の理】として、完全に説明できる範囲の現象ってことですね?」

 

『そう。……ただし。言い方を間違えると、宗教戦争真っ只中でピリピリしているローマ側の地雷を完璧に踏み抜くわよ。「ただの石です、奇跡じゃありません」って頭ごなしに殴るんじゃなくて。……「まず、石の理として扱うべきです」って、上手に逃げ道を作りながら言いなさい』

 

「了解です」

 

 *

 

 俺は、水鏡越しにローマ側へ、いくつかの『実験』を依頼した。

 

 一つ。明るい灯火に近づける時間を変えてみる。

 

 短く照らした場合と、長く照らした場合で、暗くした時の光り方に差があるか。

 

 二つ。完全に箱の中に入れてしばらく置き、光が消えるか。

 

 その後、再び灯火に当てると光が戻るか。

 

 三つ。石の半分だけを厚い布で覆って光を当てる。

 

 暗くした時に、光を当てた部分だけが光るか。

 

 四つ。聖遺物から完全に遠ざけ、一切の祈祷を行わずに試す。

 

 ローマ側の聖職者たちは、最初、ひどく緊張した。

 

 聖なる奇跡の品かもしれぬものを、そのように、まるで物理の実験台のように扱うなど。

 

 そうした抵抗感だ。

 

 しかし、教皇・パウロ五世が、静かに許可を出した。

 

「……神が、完璧なる『理』をもってこの世界を造り給うたのであれば。……その理を人の手で確かめることは、決して神への侮りではない」

 

(……この法王、やっぱり根本の知性が高すぎる)

 

 俺は、深く感心した。

 

 実験の結果。

 

 灯火に長く当てるほど、暗くした時の光は少し強くなった。

 

 箱にしまっておくと光らなくなり、再び光に当てるとまた光った。

 

 布で覆った部分は、全く光らなかった。

 

 そして、祈っても、祈らなくても。

 

 条件が同じであれば、全く同じように光った。

 

 *

 

 俺は、慎重に、極めて丁寧に言葉を選んで説明した。

 

「……聖下。これが、高名な聖人の『奇跡』であるか否かを、遠く離れた私が勝手に裁くような真似は、決してできませぬ」

 

 俺はまず、彼らの信仰を絶対に否定しないという前提を置いた。

 

「ただ。……この石には、『石そのものが持つ性質』として。……【光を受け、それをしばし内部に留め、暗きところでそれを吐き出す】という、一つの『理』があるように見えます」

 

 ローマの聖職者たちが、息を呑んで聞き入る。

 

「人が祈ったから、光るのではございません。……『光を受けたから、光る』のです」

 

「ゆえに。……これをすぐに奇跡だと断定するのではなく。まずは、『光を蓄える石』として、冷静に帳面に記すべきかと存じます」

 

 ローマ側は、静まり返った。

 

 俺は、「神の御業ではない」と頭ごなしに否定してはいない。

 

「石の理として説明できる」と言ったのだ。

 

 これなら、教皇も受け入れやすい。

 

「なるほど」

 

 天海も深く頷く。

 

「明国で夜明珠と呼ばれし国宝の類も。……神仏の加護ではなく、石そのものの『理』によって光るものなのかもしれませぬな」

 

「場所によっては、国宝級の珍品として扱われるでしょうね」

 

 俺のその一言に、ローマ側がピクリと反応した。

 

「ほう。……それほど価値のあるものですか」

 

「はい。珍しい石であることは間違いありません。……ただし。灯りとして使うには光が弱すぎ、発光時間も短すぎます。戦場の夜襲や、都市を照らす実用的な道具にはなりえません」

 

 俺は、そこで一度言葉を区切った。

 

「ですが。宝物庫の珍品として、また『鉱物の理を学ぶための品』としては、大変貴重なものにございます」

 

 ローマ側の宝物庫管理者は、ほっと安堵の息を吐いた。

 

「それは良い。……では、貴重な宝として、引き続き厳重に保管いたしましょう」

 

 *

 

 だが、俺はそこで、最も重要な『釘』を刺した。

 

「……ただし。これを、公の場に『奇跡の石』として広めることは。……今は、絶対にお控えください」

 

 三十年戦争の勃発。

 

 大彗星による民衆の不安。

 

 そんな極限状態で、「ローマに暗闇で光る奇跡の石がある」などという噂が広まればどうなるか。

 

「光る石は、一見すると人を安心させるかもしれません。……ですが、同時に。人を煽り立て、狂わせるための『戦の旗』にも、極めて簡単になり得るのです」

 

「ある者は、我らカトリックの勝利のしるしだと見るでしょう。ある者は、世界の終末のしるしだと見るでしょう。……ある者は、異端の敵を討ち滅ぼせという、神意だと見るでしょう」

 

 俺は、教皇の目を見て言った。

 

「石は。ただ、受けた光をそのまま返しているだけなのに。……人は、それを勝手に『狂気の旗』に仕立て上げてしまうのです」

 

 パウロ五世は、俺の言葉の真意を痛いほど理解し、深く、重く頷いた。

 

「……また、旗か」

 

 先日、北の大地でヌルハチが掲げた「七大恨」という恨みの旗。

 

 恨みも旗になる。

 

 奇跡も旗になる。

 

 光も旗になる。

 

(……この時代。人間は、何でもかんでも、自分の都合のいいように意味を詰め込んで『旗』にして、戦争を始めたがるんだな……)

 

 *

 

 俺は、ローマ側へ『蓄光石』の管理方針を提案した。

 

 一つ。名称は慎重に。

 

『奇跡の石』ではなく、『夜光石』または『光留め石』として記録する。

 

 二つ。実験条件を詳細に帳面に残す。

 

 光を当てた時間、光った時間、色、強さ、石の大きさ、重さ、祈祷の有無などを全て記録。

 

 三つ。聖遺物とは別管理。

 

 聖遺物庫に入れると奇跡扱いが加速するため、宝物庫の鉱物として管理する。

 

 四つ。絶対に一般公開しない。

 

 戦争の士気高揚や、異端批判の道具にされるのを防ぐ。

 

 五つ。詐欺対策。

 

「光に当ててから暗くすると光る」という性質を悪用し、夜光石と称する偽物を売りつける詐欺商人が出る可能性を警戒する。

 

 パウロ五世は、全ての提案を受け入れた。

 

「これは、奇跡としては決して広めぬ。……ただし、価値ある珍石として保管し、その性質は厳密に記録する。……決して、無用な『戦の旗』にはせぬ」

 

 ローマ側の帳面の記録名は、『暗所にて光を返す石に関する控』。

 

 日本側の記録名は、『夜光石検分控』。

 

「……また、管理する帳面が増えた……」

 

 俺は、自室に戻ってから、机に突っ伏した。

 

『いいじゃない。今回は、奇物の実用性は弱かったけれど……。人が未知の現象を「奇跡」と呼んで暴走する前に、条件を揃えて冷静に「確かめる」という、科学の検証手順の素晴らしい練習になったわ』

 

 KAMI様は、涼しい顔で言った。

 

『つまり、これは鉱物というより、検証手順の「教材」ね』

 

「……本当に、面倒な教材ですね」

 

 俺は、縁側に出て、冷たい冬の夜空を見上げた。

 

 あの大彗星は、もう見えない。

 

 だが、遠い欧州では、人々がまだその星の意味を恐れ、三十年戦争の炎が燃え広がっている。

 

 北の地では、後金と明のどろどろの火種が燃え上がっている。

 

 そしてローマでは、たった一つの小さな石の光すら、下手をすれば、人々の血みどろの旗にされてしまう。

 

(……光って、怖いな)

 

 俺がぽつりと呟くと、KAMI様が答えた。

 

『光そのものは、ただの物理現象よ。……本当に怖いのは。人間が、そこに勝手に「自分に都合のいい意味」を詰め込みすぎることよ』

 

 俺は、机に戻り、今日の帳面に最後の一文を書き加えた。

 

『夜光石、光を受けて後、暗所にて淡く光る。祈祷の有無にかかわらず、条件同じならば光り方おおむね同じ。まず石の理として扱うべし。……戦乱の世において、これを奇跡の旗として用いること、厳に慎むべし』

 

 戦乱の世に、人は光を求める。

 

 暗闇を照らす光。

 

 不安を消し去る光。

 

 そして、敵を討ち殺す「理由」をくれる光。

 

 だが、その小さな石が暗闇で返していたのは、天の意思でも、神の奇跡でも、勝利の約束でもなかった。

 

 ただ、受けた光を、ほんの少しだけ遅れて返すという、石の、静かで冷徹な『理』であった。

 

 俺は、知った。

 

 この時代において。

 

 本当に恐ろしいのは、何も見えない暗闇ではないのだと。

 

 人が、小さな石の光にまで、勝手に都合のよい意味を与え、人を殺すための『旗』として高く掲げてしまうことこそが、最も恐ろしいのだと。




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