暴君忠長に転生したので、兄上のために日本列島をメンテします 〜SFチートのはずが、田んぼと水路と寺社ノードの保守係なんですが〜   作:パラレル・ゲーマー

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第26話 水神様、兄上附きの役目をもらう

 慶長十八年、旧暦正月。

 

 江戸城は、新年を寿ぐ重厚で華やかな空気に包まれていた。

 

 早朝から、徳川の一門衆、重代の家臣、旗本たちが、威儀を正した礼服に身を包み、新年の御礼と贈答のために次々と城へ登城してくる。

 

 奥向きもまた、挨拶回りや宴の支度で、蜂の巣をつついたような騒ぎであった。

 

 格式、作法、血筋、そして主従の序列。

 

 江戸幕府という巨大な権力機構が、その威容を内外に誇示し、互いの立ち位置を再確認するための、一年で最も気を抜けない時期である。

 

 そんな張り詰めた空気の中、豪華な絹の小袖を着せられ、長時間窮屈な姿勢を強いられている俺は、自室の隅でぐったりと壁にもたれかかっていた。

 

「……もう嫌だ。田んぼで冷たい泥水に足突っ込んでる方が、百倍マシだ……」

 

 七歳の身体には、分厚い絹の着物はただ重いだけである。

 

 何より、次々とやってくる偉い大人たちの前で、ひたすら愛想笑いを浮かべて頭を下げるだけの「儀礼的な作業」が、俺の精神力をゴリゴリと削り取っていた。

 

 少し離れた場所で、小栗半兵衛が小筆を走らせる音がシャシャッと響いた。

 

「半兵衛、お前は正月早々、何をそんなに熱心に書いているんだ」

 

 俺が恨めしそうに睨むと、半兵衛は目を輝かせて帳面を読み上げた。

 

「はっ。『水神様、数多の年賀の御礼にも御顔色を変えず、静かに耐え給う。その御姿、まこと威風堂々であらせられる』……と!」

 

「頼むから、耐え給うとか書くな! 単に愛想笑いで顔の筋肉が引き攣って、疲労困憊で動けなくなっているだけだ!」

 

「おお、神仏の御使いであられても、人の身の疲れを感じてくださるとは。まこと慈悲深き御方……」

 

「解釈の方向性がおかしい! 正月くらい、記録係を休め!」

 

 俺は頭を抱えた。

 

 年が明けても、周囲の俺を見る目は変わらない。いや、むしろ年末の港の騒動を経て、さらに妙な信仰心が城内にも浸透しつつあった。

 

     *

 

 その頃。

 

 江戸城の奥深い一室で、春日局は静かに、だが深い憂慮を抱いて庭の冬木立を見つめていた。

 

 竹千代の乳母であり、奥向きの実質的な取り仕切り役でもある彼女の耳には、国松に関するありとあらゆる噂が届いていた。

 

『国松様が、泥田の法を改め、御料地の米を二割以上も増やされた』

 

『枯れた村で、水脈を言い当て、井戸を湧かせた』

 

『天海僧正様すら恐れ入る、古き神仏の理を体現されている』

 

『果ては、冬でも温かき奇跡の石まで手懐けておられるとか……』

 

 春日局は、国松という童を個人的に憎んでいるわけではない。

 

 むしろ、竹千代に純粋に従い、自ら泥を被って政の役に立とうとするその姿勢には、ある種の評価すら下していた。

 

 だが、問題は、国松の御名が、あまりにも異常な形で、そして強烈な熱量を持って、城外へと広がりすぎていることだった。

 

(あの御方は、ただの「利発な次男」の枠を、とうに超えてしまわれた。民は水を呼ぶ神仏と崇め、下の役人や商人たちは、その神異の影に新たな利権の匂いを嗅ぎ取っている)

 

 このまま放っておけばどうなるか。

 

 竹千代の世を望まぬ者、あるいは徳川の内にあって新たな権力を欲する野心家たちが、必ず「国松」という巨大な神輿を担ごうとするだろう。

 

(国松様ご自身に野心がなくとも、周囲が黙ってはおりませぬ。竹千代様のためにも、徳川の天下のためにも……そして、国松様ご自身を戦の火種にせぬためにも、今のうちに楔を打たねばならぬ)

 

 春日局は決意を固め、大御所・徳川家康の御前へと進み出た。

 

「大御所様。恐れながら、申し上げたき儀がございます」

 

 家康は、手元の書状から目を離さず、短く応じた。

 

「申してみよ」

 

「国松様のお取り扱いについて、早々に明確な定めを置くべきかと存じます。国松様の御名と神異の噂は、もはや江戸の町人や近隣の村々にまで、深く根を下ろしつつございます。このままでは……」

 

 春日局は、言葉を区切り、覚悟を決めて言った。

 

「国松様を、良からぬ神輿に担ごうとする輩が出かねませぬ」

 

 座敷に、張り詰めた沈黙が下りた。

 

 家康の逆鱗に触れたかもしれない。春日局は、冷や汗が背中を伝うのを感じながら、深く頭を下げたまま動かなかった。

 

 やがて。

 

「国松を担ぐ者が出る、か」

 

 家康は、静かに書状を置き、春日局を見下ろした。

 

 その顔には、怒りも驚きもなく、ただ深い思索の色だけが浮かんでいた。

 

 春日局は言葉を継げず、沈黙を守る。

 

「よい。……儂も、全く同じことを考えておったところじゃ」

 

 その予想外の言葉に、春日局は思わず顔を上げた。

 

「大御所様も、同じ危惧を……?」

 

「あの小童は、賢すぎる。そして、妙なところで人を惹きつける。あれを単なる『将軍の弟』として野に放てば、いかに本人が逃げ回ろうとも、欲深き者たちが放ってはおかぬじゃろうな」

 

 家康は、顎髭を撫でながら、老獪な天下人の目を細めた。

 

「ならば、どうなさいますか。いっそ、江戸より遠き地へ……」

 

「いや。外へ出せば、かえって目の届かぬところで信仰の拠り所となる。かといって、城の奥に閉じ込めて才能を腐らせるには、あまりにも惜しい」

 

 家康は、はっきりとした声で方針を告げた。

 

「国松は、竹千代の側に置く」

 

「……国松様を、竹千代様の御側に、でございますか?」

 

 春日局は戸惑った。

 

 危険な火種を、最も守るべき次期将軍のすぐ横に置くというのだ。

 

「そうだ。あれの持つ異能と知識を、竹千代の統制の下に組み込む。国松が見聞きしたことは全て竹千代へ上げさせ、竹千代の言葉として裁かせる。国松は、天下を取る器ではない。だが、天下の綻びを直す、世にも稀なる器じゃ。ならば、竹千代がその器を使いこなせばよい」

 

 そこで初めて、春日局は家康の描く深謀遠慮を理解した。

 

 排除するのではない。独立した神輿にさせないのでもない。

 

 次期将軍の「強固な手足」として、公儀の枠組みの中に完全に固定してしまうのだ。

 

「……なるほど。竹千代様ご自身の手で、国松様をお使いになられると。それならば、野心家が付け入る隙もございませぬな」

 

「そういうことじゃ。竹千代の政の重石として、あれほど頼りになる弟はおるまい」

 

 春日局は、深い安堵とともに、畳に額をこすりつけた。

 

「竹千代様の御ため、そして徳川の安泰のため。……大御所様の深い御思慮に、伏して恐れ入りまする」

 

     *

 

 その数日後。

 

 俺は、江戸城の奥深く、極秘の家族会議の場へと呼び出されていた。

 

 出席者は、大御所・家康、秀忠父上、竹千代兄上、そして俺。

 

(正月早々、このメンツでの密室会議……。俺、また何か無自覚に爆弾を踏み抜いたか!? 年末に港の火事を止めたくらいしか、目立った行動はしてないはずだけど!)

 

 俺がガチガチに緊張して座敷に平伏すると、家康たちは呆れたような、面白がるような目でこちらを見ていた。

 

「え、あの……。私、また何か、言ってはならない口を滑らせましたでしょうか……?」

 

 俺が恐る恐る探りを入れると、隣に座っていた竹千代が、スッと冷たい視線を向けてきた。

 

「お前は、口を滑らせていない日の方が少ないだろう」

 

「……反論の余地がございません」

 

 秀忠が、苦笑混じりにため息をついた。

 

「安心しろ、国松。今日はそなたを罰するために呼んだのではない。むしろ、その逆だ」

 

「逆?」

 

 家康が、姿勢を正し、重々しい声で告げた。

 

「国松よ。新年を迎えたことじゃ。そなたに、内々の役目を与えようと思う」

 

(役目……? 俺、まだ数えの七歳だぞ。お飾りの名誉職か何かか?)

 

 俺が少しばかり身構えていると、家康は驚くべき役職名を口にした。

 

「今日よりそなたを、『竹千代附・水土異物御用見習』に任ずる」

 

「……」

 

 俺は、思わず黙り込んだ。

 

「……長いですね」

 

「そこに突っ込むな」

 

 秀忠から即座に叱責が飛んできた。

 

 俺は慌てて平伏し直す。

 

「も、申し訳ございませぬ! しかし、水土異物御用見習とは……?」

 

 家康が、静かにその役目の意味を解き明かした。

 

「水土とは、そなたがこれまで泥にまみれて見てきた、水、田、道、そして祠のことじゃ。異物とは、先日の永冷石のような、神仏とも呪具ともつかぬ、天下を揺るがす恐るべき品々のこと」

 

 家康の目が、俺を真っ直ぐに射抜く。

 

「それらをそなたの目で探し、見定めた時は、いかなる小さなことでも全て竹千代へ報告せよ。そして、どう扱うかは竹千代の裁きを受けるのだ。……そなたの持つ力と知識を、竹千代の政の内に完全に置く、という証じゃ」

 

(なるほど……。俺が勝手に単独で動いて、変な勢力に担ぎ上げられないようにするための、強力な首輪ってことだな)

 

 家康の意図を察した俺は、心の中で素早く計算を走らせた。

 

 これまでは、俺の個人的な「御試み」として動いていたため、全ての責任と注目が俺個人に集まりがちだった。

 

 だが、正式に「竹千代の部下」という肩書きがつけば、俺の行動はすべて「次期将軍の意向」として処理される。俺への異常な神格化も、少しは緩和されるはずだ。

 

 俺は顔を上げ、あっけらかんと言った。

 

「今とやっていることが変わらないなら、それでいいッス」

 

 座敷の空気が、一瞬だけ固まった。

 

「……軽いな」

 

 秀忠が、頭を抱えるようにして言った。

 

「いや、だって今までも、危ない知識や重要な案件は、基本的には全部兄上にご相談してから動いておりましたし」

 

 俺は素直な本心を述べた。

 

「むしろ、正式に『兄上の指示で動く役目』という形になるなら、外から変な横槍も入りにくくなりますし、後から大御所様に怒られる確率も減るかなって思いまして」

 

「怒るべき時は、容赦なく怒るぞ」

 

 竹千代が、すかさず冷ややかに釘を刺す。

 

「ですよね。知ってました」

 

     *

 

 家康は、苦笑を噛み殺しながら、竹千代へと視線を移した。

 

「竹千代。国松はこう申しておるが、お前はどう見る。この厄介な弟を、己の側に置く覚悟はあるか」

 

 竹千代は、一瞬の躊躇もなく、静かに、だが確固たる声で答えた。

 

「これまでと、何も変えるつもりはございませぬ。国松は、私の側に置きます」

 

 その言葉には、次期天下人としての強い自負が満ちていた。

 

 もしこの場に春日局が控えていたならば、竹千代のその迷いのない決断に、ハッと息を呑んだに違いない。

 

「国松を遠ざければ、力ある者が必ず神輿に担ぎ上げようとします。かといって放置すれば、民が勝手に水神として祭り上げ、厄介な火種となります」

 

 竹千代は、俺を見据えて言った。

 

「ならば、私のすぐ側に置く。国松が何を知り、何を見つけたか、私が最初に聞き、危うきものは私が止め、天下の益となるものは、私が責任を持って使う」

 

「兄上……『使う』って言い方が、ちょっと怖いです。道具扱いですか」

 

 俺がビビって身を縮めると、竹千代は表情を崩さずに返した。

 

「使われたくなければ、まずその軽口を滑らせるのをやめることだな」

 

「……無理では?」

 

「分かっている。だから、私の目の届く側に置くのだ」

 

(兄上、完全に猛獣使いの目をしてる……! 俺、完全に管理対象としてロックオンされてるじゃないか!)

 

     *

 

 俺が自身の自由のなさに少しだけ絶望していると、竹千代が思い出したように付け加えた。

 

「国松。まだ幼きゆえの『見習い』という仮の役目ではあるが、これで公にお前を手伝う者を増やすことができる。……今後は、お前の手足となる記録係、護衛、現場の掃除や修繕を手配する者、そして見つけた異物を安全に運ぶ者を、正式に付けよう」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の絶望は一瞬で吹き飛んだ。

 

「おおっ! 部下が増やせるんですか!!」

 

 俺は、今日一番の輝く笑顔で身を乗り出した。

 

「それは本当に、心底ありがたいです! 正直、私と半兵衛と与平の数人だけで、田んぼの記録も、水路の確認も、祠の掃除も、港の荷の整理も、全部回すのは物理的に無理だと思っていたんですよ!」

 

(ブラック企業の過労死寸前の平社員に、ようやく直属のアシスタントチームが配属された気分だ! 最高!!)

 

 秀忠が、ひどく呆れたような顔をした。

 

「……そなた、そこだけは本当に素直に喜ぶのだな」

 

「はい! 現場の負担が減って楽になるなら、大歓迎にございます!」

 

 家康は、たまらずといった様子で腹を抱えて笑い出した。

 

「ふはははは! 大層な役目を与えられても逃げ腰のくせに、実務の仕事が減るとなれば目を輝かせる。まこと、逃げずにどう仕事を減らすかばかり考えておるあたり、お前らしいわ!」

 

「仕事は減らぬぞ、国松」

 

 竹千代が、スッと冷水を浴びせた。

 

「人が増える分だけ、お前が差配し、確認すべき範囲が広がる。手足が増えても、頭の仕事は分担できぬのだからな」

 

「……それでも! 泥まみれの物理作業を分担できるだけでも、十分すぎるほどありがたいです!」

 

     *

 

 家康は、満足そうに頷いた。

 

「では、この方針でゆこう。秀忠、異存はないな」

 

「はい。竹千代の直属とするならば、公儀の筋も通ります。国松を独立した権力の神輿にせぬためにも、それが最も安全な道かと存じます」

 

 秀忠も、ほっとしたように深く頷いた。

 

「うむ」

 

 家康は、老獪な目を再び光らせた。

 

「年始の儀礼、一門と重臣どもが集まる場で、このことを内々に示すとしよう。徳川の次を担うは竹千代。そして国松は、その側で水土と異物を扱う特命の見習いである、と。……これで、国松に妙な野心を吹き込もうとする者どもも、すっぱりと諦めがつこう」

 

(大御所様、正月の親戚の集まりを利用して、俺の立ち位置を家中全体に知らしめる気か。政治的アピールが巧みすぎる)

 

     *

 

 そして数日後。

 

 江戸城の大広間にて、徳川一門、譜代の重臣たちが居並ぶ中、新年の厳かな儀礼が執り行われていた。

 

 家康は、上座から睥睨し、場を完全に支配する声で宣言した。

 

「皆の者、よく聞け。徳川の次代の天下を担うは、ここにおる竹千代である」

 

 ただの一言。

 

 だが、天下人によるその明言は、座敷の空気をさらに一段と重く引き締めた。

 

 その上で、家康は言葉を継いだ。

 

「そして、国松。前へ出よ」

 

 俺は、冷や汗をかきながら、竹千代の少し後ろへと進み出た。

 

「国松は、これより竹千代附として、水土・寺社・異物に関わる見聞を助ける役目とする。いまだ幼きゆえ『見習い』ではあるが……以後、国松が見聞きした天下の事象は全て竹千代へ上げ、竹千代がこれを裁くものとする」

 

 全国への大々的な布告ではない。

 

 あくまで、徳川家中と近しい重臣たちに向けた「内示」であった。

 

 だが、居並ぶ重臣たちは、この言葉の真意を正確に悟っていた。

 

(国松様は、やはり別格の異能の御方。……だが、上に立つおつもりはない。竹千代様を生涯支える手足として、大御所様が完全に紐付けなされたのだ)

 

 国松の神異は認める。

 

 だが、独立勢力にはさせない。

 

 その明確な宣言により、一部の野心家たちの目論見は、この瞬間に完全に封じられたのである。

 

     *

 

「国松。皆の前で、一言申し述べよ」

 

 家康からの突然の振りに、俺は内心で盛大に焦った。

 

「え、私、ここで何か言うんですか!?」

 

 隣の竹千代が、すかさず小声で鋭く釘を刺す。

 

「余計なことを言うなよ」

 

「……無難にします」

 

 俺は深く息を吸い込み、居並ぶ重臣たちに向かって、精一杯の「無害な七歳児」を演じながら頭を下げた。

 

「私はまだ幼く、田んぼの泥の深さも、水の流れも、祠のことも、ようやく少しばかり分かり始めた程度にございます。……これからも、必ず兄上に報告し、兄上の御指図を受けてのみ動きます。勝手なことは……なるべく、いたしませぬ」

 

 竹千代が、眉をピクリと動かした。

 

「なるべく、だと?」

 

「……善処いたします」

 

 俺が冷や汗交じりに答えると、重苦しかった座敷の空気が、ふっと和らいだ。

 

 重臣たちの顔に、微笑ましい兄弟のやり取りを見るような安堵が広がる。

 

 言葉は軽い。

 

 だが、そこにいる誰の目にも、国松が本気で竹千代を畏れ、立て、絶対服従の姿勢を貫いていることだけは、疑いようのない事実として伝わっていた。

 

     *

 

 その日の夜。

 

 儀式の疲れでクタクタになった俺は、自室の布団の中で端末を開いた。

 

 画面には、一連の政治的確定事項が、無機質な青白い文字で羅列されていた。

 

『役目登録:竹千代附・水土異物御用見習』

 

『報告経路:竹千代経由に固定』

 

『神輿化リスク:大幅低下』

 

『独立派閥形成リスク:低下』

 

『補助人員:増員可能』

 

「お、神輿化リスクが低下してる。よかった。これで俺の平和な老後計画も少しは前進したな」

 

 俺がほっと息を吐いた直後。

 

 画面の一番下に、ひときわ目立つ文字が表示された。

 

『事務負荷予測:極大上昇』

 

「……最後の一行、絶対に要らないだろ!!」

 

 俺が絶叫すると、すかさずKAMI様からのポップアップが飛んできた。

 

『KAMI:必要な真実よ。目を逸らさないの』

 

「部下が増えるのに、どうして俺の事務負荷が極大に上昇するんだよ!」

 

『KAMI:部下が増えれば、その部下に的確な指示を出し、上がってきた報告を精査し、次の計画を立てる『中間管理職』としての仕事が爆発的に増えるの。組織化って、そういうものでしょ?』

 

「……聞きたくなかった」

 

 俺は、布団を頭から深くかぶった。

 

 将軍の神輿に担がれる危険は回避できた。

 

 だが、その代償として手に入れたのは、「天下のメンテ係」を組織で回すための、終わりの見えない書類仕事と管理業務の山だった。

 

「……竹千代兄上。直属になったんですから、助けてください……」

 

 江戸の冷たい冬の夜。

 

 俺の悲痛な叫びは、誰にも届くことなく、ただ空しく闇に溶けていった。




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