暴君忠長に転生したので、兄上のために日本列島をメンテします 〜SFチートのはずが、田んぼと水路と寺社ノードの保守係なんですが〜   作:パラレル・ゲーマー

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第61話 水神様、客星と千歯扱きに仕事を増やされる

 大坂での戦後処理の道筋をつけ、江戸への帰途についていた俺たち徳川一門は、尾張国と三河国の境に近い宿場に滞在していた。

 

 冷たく澄んだ冬の夜空を見上げていた俺は、端末のAR表示と空を見比べ、小さく声を上げた。

 

「おー……。本当に出た。すごいですね、兄上!」

 

 神仏ノードに新しく追加された『天体観測』の機能が予測した通り、見慣れぬ星──彗星の尾のようなものを引いた客星(かくせい)が、冬の夜空にはっきりと現れていたのだ。

 

『客星観測:確認』

『肉眼観測:可能』

『社会情勢変化:進行中』

『解釈分岐:監視継続』

 

 隣で空を見上げていた竹千代が、呆れたように俺を見た。

 

「……国松。お前、天下を揺るがすかもしれない天変を前にして、妙に平然としているな」

 

「星の(ことわり)そのものは、人間の世の動きとは直接関係ありませんからね。珍しい天体現象ではありますけど、これが出たからって田んぼの米が勝手に増えたり、誰かが急に呪い殺されたりするわけじゃないですから」

 

「そう言われても、不安にはなるな」

 

 竹千代は、眉間にシワを寄せたまま客星を睨む。

 

「まあ、それは分かります。俺も、ただでさえ色々起きてるこの時期に、夜空に急に変な星が出たら、そりゃちょっと怖いですし」

 

 少し離れた縁側で、家康もまた、静かに空を見上げていた。

 

「……うむ。本当に出たな」

 

 その声に驚きはなかった。

 

 事前に俺から「数日中に出る」と知らされていたため、天下人としての冷静な確認作業に近い響きだった。

 

「国松。……星そのものは、人の世と関係ないと言うたな」

 

「はい。直接の因果関係はありません。……ただし、人がそれを『どう受け取るか』は、完全に別問題です」

 

「ならば、事前に話した通り、すぐに手配せよ」

 

 家康は、背後の秀忠に向かって厳命した。

 

「京、江戸、大坂、そして日ノ本中の主だった寺社へ、公儀の名で『天下安寧の祈祷』を依頼するのじゃ」

 

「はっ。公儀として、ただちに手配いたします」

 

 秀忠が、あらかじめ用意させていた書状を早馬で各方面へ飛ばすよう指示を出した。

 

 *

 

 翌日には、公儀からの通達が諸大名と主要な寺社へ向けて発せられた。

 

 その内容は、決して『徳川の大勝の自慢』などではなかった。

 

『此度の客星は、天下の大きな節目に天が示したものである。

 

 公儀はこれを畏れ、決して驕ることなく、天下安寧と万民の安堵のために祈祷を行う。

 

 豊臣家の命も安堵され、大戦が冬の間に収まったことを、天の恵みとしてありがたく受け止める。

 

 ……ゆえに、この星を不用意に凶兆や祟りなどと騒ぎ立てることを、厳に慎むべし』

 

 この通達の書きぶりにより、世間の噂の流れはかなり強力に制御されることになった。

 

 寺社も公儀の意向を受け、「徳川が驕らずに祈っている」「天下が定まった大きな節目だ」「戦が長引かず、血が少なく済んだことへの天の感謝」という方向で、大規模な法要や祈祷を執り行い始めた。

 

 朝廷側も、公儀のこの素早い対応を好意的に受け取った。

 

「徳川が、天変を軽んじることなく、驕らずに自ら祈祷を行う姿勢を見せるならば、それはまこと、よきことである」

 

 俺は、各地から届く報告を聞きながら、この時代の祈祷の意味を再確認していた。

 

「……星を消すための祈祷じゃなく、世間の『不安の受け皿』としての祈祷ですね」

 

「そうだ。人間は不安な時、誰かが正式な形で祈っているという事実があるだけで、いくらか落ち着くものなのだ」

 

 竹千代の言葉に、俺は深く頷いた。

 

「やっぱりこの時代の祈祷って、立派な『医療』であり『政治』なんですね」

 

 *

 

 数日後。

 

 各地からの詳細な噂の報告が、俺たちの元へ集まってきた。

 

「して、民草は、あの星をどう受け取っておる」

 

 家康が問う。

 

「はっ。概ね、『徳川の天下が完全に定まったことを、天が祝っている』と、まこと好意的に受け取られております」

 

 報告役の言葉に、俺は小さくガッツポーズをした。

 

「……おおっ! 悪い方向には転ばなかった!」

 

「ただし」

 

 報告役が、少し困ったような顔で続ける。

 

「少々心配になるくらい、民草が『浮かれすぎている』きらいがございます」

 

 江戸の町人。

 

「徳川様の天下が完全に決まったから、天までご祝儀の星を出したんだとよ!」

 

 農村の百姓。

 

「水神様の米で腹がふくれて、大御所様が戦に勝ち、空にはでっかいご祝儀の星! こりゃあ、来年も間違いなく大豊作じゃ!」

 

 一部の、旧豊臣寄りの者たちでさえ。

 

「豊臣の命が助かったのも、天がこれ以上血を流すことを嫌ったからではないか。徳川がその天意を汲んで命を残したのだから、天がそれを見届けたのだ」

 

 ……という、意外なほど納得のいく解釈に流れていた。

 

「うーん……。悪い方向には転ばなかったのはいいですけど。これ、来年の田んぼの実りへのハードルが、尋常じゃなく上がってますね……」

 

 俺が冷や汗を流していると、家康が容赦なく釘を刺した。

 

「うむ。もし来年の田が悪ければ、せっかく瑞兆となったこの客星も、一転して『やはり凶兆であったか』とひっくり返されかねぬからのう」

 

「国松。怠って田を駄目にし、天下の空気を悪くすることは、絶対に許されぬぞ」

 

 秀忠も、将軍としての圧をかけてくる。

 

「えっ、急に私の肩へのプレッシャーがエベレスト並みに増したんですが!?」

 

「星を完璧な瑞兆として定着させたいのなら、地上の泥臭い努力が絶対に必要だということだ」

 

 竹千代の身も蓋もない正論に、俺は「めちゃくちゃ現実的!」と叫ぶしかなかった。

 

 *

 

 俺が、「じゃあ、来年も気合入れて田んぼを頑張るしかないか……」と前向きになったところで。

 

 KAMI様が、背後にスーッと現れた。

 

『あんた。ちょっと浮かれて忘れてるみたいだから、あえて言うけど』

 

「……嫌な予感しかしない前置きなんですけど」

 

『今年の収穫。表沙汰になってないからみんな喜んでるけど……最後の最後、『脱穀(だっこく)』の作業が、完全に処理能力の限界を超えて、かなりギリギリだったわよ?』

 

「……げぇ」

 

 俺は、一番痛いところを突かれて顔をしかめた。

 

『田法で米の絶対量が増えた。干し場も無理やり増やした。蔵も臨時で増やした。……でもね、最後の最後、干した稲から(もみ)を外す作業で、完全に詰まりかけたのよ』

 

 端末のログが、残酷な事実を表示する。

 

『水土御用・収穫後処理評価』

『稲刈り:対応済』

『乾燥:一部遅延(天候要因)

『脱穀処理:【処理能力限界到達】』

『翌年度作付拡大時:【重大ボトルネック化予測】』

『推奨:脱穀農具の早急な改良』

 

「マジかよ……」

 

『来年、さらに全国規模で田法が広がれば、今の『扱き(こきばし)』や人力作業だけじゃ、確実に詰むわ。米は山ほどあるのに、処理できない。脱穀の処理が遅れて、雨や湿気で蒸れたら、せっかくの豊作の米が全部台無しになるわよ』

 

「……田んぼの収穫量を増やしたせいで、後工程の脱穀がボトルネックになってパンクするとか……。それ、完全にシステム負荷の話じゃん!」

 

『そうよ。田んぼのスループットだけを無理やり上げたのに、後工程の処理性能を全く増やしていない。……典型的な、無能な設計ミスね』

 

「やめて! 元SEの心に直接刺さる言葉選びをやめて!!」

 

 *

 

 俺が一人で青ざめているのを見て、竹千代が訝しげに問うた。

 

「どうした国松。また何かマズいことでも起きたか」

 

「えーと……」

 

 俺は、腹をくくって報告した。

 

「米の『脱穀』の作業が、来年から本格的に追いつかなくなる可能性があります」

 

「脱穀が?」

 

「はい。今年は人海戦術でなんとかギリギリでした。でも、来年さらに田法が全国へ広がれば、人手だけでは完全に詰まります。収穫できても、籾から米を外せない。処理が遅れて雨に濡れたら、せっかくの豊作が全て台無しになります」

 

「……脱穀が追いつかぬほどの米、か」

 

 竹千代が、事の重大さを理解して顔をしかめる。

 

「普通ならば、脱穀など村の民草に任せておけばよい、となるところだがな」

 

 秀忠も、問題の深さに気づく。

 

「それが、追いつかぬほどの量になるというのか」

 

 家康も目を細める。

 

「はい。なので……来年の収穫までに、脱穀するための『新しい農具』を開発して、試験的に導入する必要があります。候補は……『千歯扱き(せんばこき)』のようなものです」

 

「せんばこき?」

 

「鉄や竹の歯を、(くし)のように等間隔に並べて、そこに稲穂を引っ掛けて引き抜くことで籾を落とす道具です。今の手作業より、圧倒的に速くなります」

 

「ほう。米を増やす法を整えたら、次は米を外す道具か」

 

 家康が感心したように頷く。

 

「来年に向けて、今から準備を進めるべきだな」

 

 竹千代が実務の顔になる。

 

「ですよね……。また、仕事が……」

 

「やることが、どんどん重なってきたな」

 

「重なりすぎて、私の机の上の仕事の山が、天体観測ノードの星より高くなってますよ……」

 

 *

 

 千歯扱きの開発は、いきなり完成品を全国にばら撒くような雑なやり方はしない。

 

 俺は、あくまで「水土御用の試験農具」として、慎重な導入方針を整理した。

 

「まずは竹製の試作。次に鉄歯の試作です。歯の間隔を、稲の太さに合わせて調整します。脱穀の速度、籾の損傷率、そして一番大事な『手の怪我』の頻度を記録します」

 

「そして、大量導入の前に、必ず『安全な使い方の手順書』を作ります。……便利な道具ほど、扱いを間違えれば大怪我をしますからね。それと、誰が所有するか。村の共有にするか、名主の管理にするかも決めます」

 

「名主や富農だけが独占すると、小百姓が使えずに確実に村の中で揉めます。あと、鍛冶屋にいきなり大量発注しすぎると、鉄の農具の価格が一気に跳ね上がるので、製造ペースの調整も必要です」

 

「……農具一つを作るだけでも、完全に(まつりごと)じゃな」

 

 家康が、呆れたように、だが頼もしそうに言う。

 

「はい。米に関わるものは、小さな道具一つでも、全部『政』になります」

 

「千歯扱きは、まず公儀の御用農具として、徳川の直轄地で試験する。結果がよければ、水土御用の新しい支援策の一部として広げる」

 

 竹千代が、行政としての枠組みを固める。

 

「鉄の調達と、鍛冶方への手配も必要だな」

 

 秀忠が続けた。

 

 *

 

 脱穀問題の道筋が見えたところで。

 

 家康が、茶をすすりながら、さらりととんでもないことを切り出してきた。

 

「国松、竹千代。……もう一件、よいか」

 

「えっ。なんですか、大御所様……?」

 

 俺は、今度こそ完全に嫌な予感しかしなかった。

 

「うむ。戦国の世は、此度の戦で終わる道へ入った。……ならば。これからは、日ノ本の『道』を整えるべきと思うておる」

 

「道、ですか?」

 

「街道じゃ。大名が戦のために兵を動かす道としてではなく。米を運び、人が行き交い、商いが滑らかに流れる『泰平の道』としてな」

 

 その言葉に、竹千代が即座に政治的な危険を見抜いた。

 

「大御所様。道をあまりに整えすぎれば、攻め入りやすくなります。諸大名は、『公儀が我が国を攻め滅ぼしやすくしようとしている』と警戒するのではありませぬか?」

 

「うむ。間違いなく警戒するじゃろうな」

 

「ならば、どう懐柔されるおつもりですか」

 

 家康は、ニヤリと老獪な笑みを浮かべた。

 

「そこで。国松の『田んぼの(ことわり)』を使う」

 

「……田んぼ?」

 

「国松の水土御用の協力を求める大名は、大坂の湯の件も含め、すでに数え切れぬほど増えておる。ならば……その見返りとして、街道や橋を公儀の定めた基準で整えさせるのじゃ。『田を増やし、国を富ませたいなら、米を運ぶ道も整えよ』とな」

 

「なるほど……!」

 

 俺は、感嘆の声を上げた。

 

 *

 

 家康の構想は、極めて理にかなっていた。

 

 大名に一方的に「街道を整備しろ」と命じれば、警戒と反発を招く。

 

 だが、「水土御用の田法協力」「新田開発支援」「井戸・水脈の相談」の『見返り』として道の整備を求めるならば、大名たちは圧倒的に受け入れやすい。

 

「初年度は、公儀の蔵から銭を出そうと思う」

 

 家康が、さらに衝撃的なことを言った。

 

「道を整える大名には、その分の資金の一部を渡してやる。街道、橋、宿場、水場、荷置き場を整えれば整えるほど、公儀からの銭の支援や、水土の技術提供を受けやすくするのじゃ。……戦国の道ではなく、泰平の商いの道として打ち出す」

 

「なるほど。……つまり、『補助金』ですね」

 

「……ほじょきん?」

 

 家康が首を傾げる。

 

「あっ、後の世の仕組みの言葉です」

 

 俺は慌てて説明した。

 

(おおやけ)が銭を出すことで、やってほしい行いを『しやすく』する制度ですね。例えば、道を整えるのに金がかかるなら、幕府がその一部を出してやる。農具が高いなら、安く手に入るように支援してやる。そうやって、力で脅すのではなく『銭の支援』によって、政策の方向へ人や大名を誘導するんです」

 

 家康の目が、ギラリと光った。

 

「ほう……。命じるのではなく、銭で、望む行いへ『誘導』するか」

 

「命じるだけでなく、得になる形にして従わせるのだな」

 

 秀忠も感心する。

 

「道を整えれば、田法の技術支援が受けやすくなり、さらに公儀から銭も出る。……これならば、大名にとっては拒む理由がない」

 

 竹千代が、完璧な政策だと太鼓判を押す。

 

「補助金。……良いな。その言葉、公儀の政として使うとしよう」

 

(また、未来の言葉が幕府の公式用語に採用されてしまった……!)

 

 *

 

 道の整備内容は、さらに具体化された。

 

 街道の幅を一定以上にする。

 

 泥濘(ぬかるみ)には板敷きや砂利を入れ、排水溝を設ける。

 

 橋の架け替え。

 

 宿場の水場整備。

 

 馬継ぎ・荷継ぎの場所の指定。

 

 あくまで、軍道ではなく「米と人と商いの道」としての整備だ。

 

 だが、竹千代はすぐに、その先にあるもう一つの巨大な目的に気づいた。

 

「……これは、いずれ大名を、定期的に江戸へ来させるための『確かな道』にもなるな」

 

(あっ……!)

 

 俺は心の中で悲鳴を上げた。

 

(それ、『参勤交代』の道路基盤だ! またしても、江戸時代中期の制度が前倒しで始まろうとしてる!)

 

「戦国の世では、道は敵を呼ぶ危ういものであった。だが……これからの泰平の世では、道こそが国を太らせる血管となる」

 

 家康の言葉は、完璧な平和へのビジョンだった。

 

「その考え方は、これからの世を作る上で、ものすごく大事なことです」

 

 俺も、その点だけは強く同意した。

 

 *

 

「旧正月には、徳川の一門だけでなく、諸大名も江戸へ集まる」

 

 家康が、決定事項として宣言した。

 

「年始の挨拶ですね」

 

「うむ。その席で、この『道の整備』と『補助金』の話を、諸大名の前で正式に発表しようと思う」

 

「戦国は、終わった。ならば、次に公儀が示すべきは、いかに天下の血を通わせ、民を富ませるかじゃ」

 

「勝った後、ただ締め付けるだけでなく、道と田を与えるのだな」と秀忠。

 

「そうじゃ。力による締め付けだけでは、怨みが残る。利も与えねば、人は心から動かぬ」

 

(早速、江戸時代前倒しイベントの準備だな……。今回は補助金か。かなり史実からズレてきたけど、悪い方向じゃないから、やるしかないか)

 

 *

 

 俺の視界の隅で、端末のログが容赦なく更新されていく。

 

『客星対策:祈祷・噂制御進行中』

『来年度田法:作付全国拡大準備』

『新規課題:千歯扱き試作』

『新規課題:脱穀安全手順書作成』

『新規課題:農具普及・管理制度策定』

『新規課題:街道整備【補助金】案策定』

『新規課題:旧正月・諸大名向け説明資料作成』

『関連課題:大名警戒度管理・参勤制度前倒しリスク』

 

「……なんで、夜空の客星を見ただけで、脱穀農具と道路政策の仕事まで増えてるんですか?」

 

『星を見ても、結局あんたがやることは『泥と道と米の管理』なのよ。良かったじゃない。水神様らしくて』

 

「全然よくないです!」

 

「国松」

 

 竹千代が、無慈悲に声をかけてきた。

 

「補助金とやらの仕組みの利点を、後でさらに詳しく聞く」

 

「兄上まで!?」

 

「千歯扱きとやらの絵も、大急ぎで描け。わしも早く見てみたい」と家康。

 

「街道整備の基準案も、大至急必要だな」と秀忠。

 

「……みんなして、一気に仕事を積むのやめてください!!」

 

 *

 

 夜。

 

 宿の窓から、客星が冬の空に白く浮かんでいるのが見えた。

 

 民草はそれを見て、徳川の天下の完全なる瑞兆だと無邪気に騒いでいる。

 

 一方で、俺は地上の薄暗い部屋で、ひたすら帳面を見つめていた。

 

 星は、ただ空で光っているだけだ。

 

 だが、その星を本物の瑞兆にするか、それとも凶兆にするかは、結局、地上の人間たちの泥臭い仕事にかかっている。

 

 来年の田を実らせること。

 

 米を無駄に腐らせないための、千歯扱きを作ること。

 

 米と、人と、商いが滑らかに通る『泰平の道』を整えること。

 

 天の星を見上げたはずなのに、俺の仕事は、どんどん地面へと引き戻されていく。

 

 空の異変は、天下の吉凶を勝手に決めてくれるわけではない。

 

 それを見た人間が、地上で何をするかを問うてくるだけだ。

 

 客星は、静かに冬の空で光っていた。

 

 そして俺の机の上には、また新しい帳面が三冊、ドンと積み上げられていた。

 

『千歯扱き・試作記録』

 

『街道整備・補助金制度案』

 

『客星後の民情・噂観察帳』

 

「……星を見ただけなのに、なんでこんなに帳面が増えるんだよ……」

 

 俺の愚痴は、誰にも届かなかった。

 

 水神様の仕事は、どれだけ天を見上げても、結局いつも、泥と米と道へと戻ってくるのだった。

 

 




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