調律者ちゃんは個性社会で謳歌する   作:イズモ様 カワ(・∀・)イイ!!

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ある作品に感化されて書きました切れられたら切腹もうす


1話

「エンデヴァーだ!!」

 

 不意とそんな声が聞こえて来る。

 その声のする方に顔を向けると、白いタキシードの履いてないオッサンと、顔から火が出るガチムチタイツが見える。

 おそらくはエンデヴァーと言うのが職業ヒーローであり履いてないオッサンが犯罪者なのだろう、履いてないのがヒーローなのなら司法の敗北が過ぎる。

 

 ただでさえ6月と言う馬鹿みたいに熱い炎天下そんな時に火を吹く、杖振る、音が出る、駅前で暴れるなんてヒーローにも履いてないにも殺意が湧いてくる、こんなに糞忙しい朝っぱらから駅前で暴れるのはマジで勘弁して欲しい所なので、どっちもさっさと去れと、割りと本気で思う。

 

 そしてそんな馬鹿騒ぎをガヤとして眺めている私こそ! 

 なおばりっちょかりねとなんいいける

 一般通過の美少女JCである。

 

 そんなオッサン共を眺めているといつの間にか居た足元のガキンチョに「姉ちゃんもエンデヴァーのファン? かっけーよな!」と話しかけられた。

 

「いいや、ぼうや、エンデヴァーのファンの中に恒星は存在し得ない、もしも居てもそれは一時の過ちというものだ。」

「……? つまりエンデヴァーのファン仲間ってことか!」

「はぁ、むしろあの白いヴィランに激励を送りたいぐらいなのだが」

 

しかしこのガキンチョの勝手な勘違いはどうでもいいがDV男のファンと言われるのは心外である、流石にクソガキに苦言を呈する他あるまい

「でもさ! エンデヴァーめっちゃ強ぇじゃん!」

 

 クソガキはきらきらした目で駅前の炎ゴリラを見上げる。

 その視線の先では顔面から常時キャンプファイヤーを開催している男が、白スーツ相手に火柱をブチ撒けていた。

 暑い。

 視覚情報だけで気温が二度ぐらい上がった気がする。

 

「強い弱い以前に暑苦しい。」

「でもカッコいいだろ!?」

「坊や、ああいった者は、遠くから見る分には面白可笑しいだろう。」

「?」

「しかし太陽は近寄ると汗腺が死ぬ。」

 

 実際もう背中がベタついて来ている。

 六月だぞ六月。

 まだ夏本番ですらないのに何で駅前で業火地獄を味わわねばならんのだ。

 

「強いことと人格が終わってないことは両立するんだよ坊や。暴力団の親分が喧嘩強くても就職したいとは思わんだろう?」

「でもヒーローだぜ!?」

「なお悪質であろう。」

 

 教育の敗北を感じる。

 これが未来を担う若者か、日本沈没も近い。

 

 そんな会話をしている間にも、駅前では火柱がドゴォンだの、白スーツがギャリギャリだの、効果音だけなら少年漫画みたいなバトルが繰り広げられていた。

 なお実際は通勤時間帯に交通機関を麻痺させているため、社会人達の顔は総じて死んでいる。

 

 あ、サラリーマンが泣いた。

 

「おじちゃん頑張れー!!」

「どっちだ」

「エンデヴァー!!」

「私は白スーツを応援する。」

「なんで!?」

 

 クソガキが本気で理解できないと言った顔をする。

 あまりにも眩しい、こいつの脳にはまだ現実という名の煤が付着していない。

 

「見ろ、あの白スーツ。クソ暑い中ちゃんと長袖だぞ。」

「……?」

「対してあの炎ゴリラ、見ろ。火ぃ撒き散らしながら半裸だ。」

「半裸じゃないだろ!?」

「一般市民に熱波を浴びせるタイプの露出狂だぞ。」

「ヒーローだって!!」

 

 その瞬間、

 

『プロミスバーン!!!』

 

 駅前に爆音が響いた。

 

 エンデヴァーが放った炎が暴風みたいに広がり、周囲から悲鳴が上がる。

 熱っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ。

 

「っっっづぁ!? 熱ぁ!?」

「うわぁぁ!? 姉ちゃん髪!!」

 

 クソガキに言われて慌てて前髪を触る。

 セーフ。

 ギリ焦げてない。

 危うくJCブランドの生命線が焼失する所だった。

 

「……坊や。」

「な、なに?」

「今この瞬間、私の中の白スーツへの支持率が7割を超えた。」

「そんな選挙ある!?」

 

 ある。

 今できた。

 

 その時だった。

 

 ドゴン!! という嫌な音と共に、吹き飛ばされた白スーツがこちら側へ一直線に突っ込んで来た。

 

「やぁ、音無、ストリートアーティストになるならば下の汚いブツを仕舞いたまえ、そうすれば、太陽を避ける事は出来よう」

 

「誰の下半身が汚いブツだコラァ!!」

 

 白スーツの男――近くで見るとやはり履いていた。紛らわしいなコイツ――がアスファルトを削りながら怒鳴る。

 なお現在進行形で地面にめり込んでいるので威厳は薄い。

 

「いや、だって履いてないではないか。」

「履いてるわ!!」

「肌色タイツは履いてない判定なのだよ。」

「そんな判定初めて聞いたぞ!?」

 

 クソガキが「たしかに……?」みたいな顔をし始めた。

 教育が終わる音がする。

 

 そんな不毛な会話をしていると、熱風と共に炎ゴリラが着地した。

 

 ドゴォン!!

 

 アスファルトが割れる。

 駅前でやることではない。

 

「一般市民から離れろヴィラン!!」

 

 エンデヴァーが炎を噴きながら白スーツへ怒鳴る。

 近い近い近い。

 暑い暑い暑い。

 

「坊や。」

「なに!?」

「今ならサウナ代を払わず整えるぞ。」

「整いたくねぇよ!!」

 

 私のツッコミを無視し、エンデヴァーは白スーツへと一歩踏み込む。

 

 対して白スーツは杖をクルリと回し、やれやれと肩を竦めた。

 

「全く、近頃のヒーローは風情が無い。路上で火炎放射とは、文明社会に対する挑戦かな?」

「黙れ!!」

 

 ボッッ、と炎が膨れ上がる。

 

 うわ熱っ。

 

 反射的に一歩下がると、隣のクソガキが目を輝かせた。

 

「すげぇぇぇぇ!!」

「坊や。」

「ん?」

「感受性を失う前に避難した方がいい。」

「なんで!?」

「見ろ。」

 

 私が指差した先。

 

 炎の熱で駅前広告の端がメラメラ燃え始めていた。

 

「あ。」

「ほらな見ろ公共物被害。」

「うわぁ……。」

 

 クソガキの目から少しだけ光が消えた。

 良い傾向である。

 

 その瞬間。

 

 白スーツの男が、こちらをチラリと見た。

 

「……む。」

 

「?」

 

「君、中々面白いな。どうだい、将来ヴィランに――」

 

「未成年勧誘は条例違反知っているか?履いてない。」

「履いてる!!」

 

 しかし履いてないオッサンが履いてないか履いてるかなど、正直どうでも良い。

 今問題なのはそこではないのだ。

 

 私は周囲へ熱波公害を撒き散らしている炎ゴリラへ向き直ると、心底嫌そうに深々と溜息を吐いた。

 

「炎司よ、お前も何をしている。」

「……何?」

 

 ボッ、と炎が揺れる。

 

 エンデヴァー――もとい轟炎司がこちらを見た。

 怖。

 目付きが完全に生活指導前の教師である。

 だが残念ながら私は幼少期からこの圧力に晒されて育って来た女だ、今更こんな物で怯むほど可愛げのある性格はしていない。

 

「三日も帰ってないと冷さんが嘆いていたぞ。いい加減クソガキみたいに駄々をこねず、説教を受け入れろ。」

 

 沈黙。

 

 駅前の空気がスン……と死んだ。

 

 いや実際には火柱はゴウゴウ燃えているし野次馬共もザワザワしているので全然静かではないのだが、社会的空気だけが完全に凍結したのである。

 

「…………は?」

 

 炎司が低い声を漏らす。

 

 なお怖い。

 めちゃくちゃ怖い。

 だが昔から焦凍の後ろで見て来たので今更耐性が付いている、慣れとは恐ろしいものだ。

 

 一方履いてないオッサンも「は?」みたいな顔をしていた。

 履いてない癖にリアクションが人間臭い。

 

 すると足元のクソガキが私の制服をクイクイ引っ張った。

 

「姉ちゃん。」

「なんだ。」

「知り合い?」

「腐れ縁だ。」

「マジで!?」

「遺憾ではあるが。」

 

 すると炎司が、信じられない物でも見るような顔でこちらを凝視して来る。

 

「……何故、お前がここに居る。」

「私が電車を利用することに問題が?」

「そういう意味ではない。」

 

 面倒臭い男である。

 

 焦凍のコミュ力が死滅している理由、八割方コイツの遺伝と教育環境だろう。

 残り二割は多分轟家長男。

 

「冷さんから三日前に連絡が来た。」

「……。」

「『炎司さんが帰って来ないんです』とな。」

「…………。」

 

 すると炎司の炎が一瞬だけ弱まった。

 

 あ、効いてる。

 

 効いてる効いてる。

 

「それで?」

「五月蝿いから帰れと言っている。」

「…………。」

「あと夏場に火力を上げるな。迷惑だ。」

 

 正論である。

 

 実際周囲のサラリーマン共が物凄い勢いで頷いている。

 見ろ、あそこのリーマンなんてハンカチで涙を拭っているぞ。

 汗かもしれんが。

 

 履いてないオッサンはそんな空気の中、杖を肩に担ぎながら感心したように口笛を吹いた。

 

「ほう。まさかエンデヴァーに説教する一般JCが存在したとは。」

「黙れ。」

「違うのか?」

「黙れ。」

「成程。」

 

 何が成程なのかは知らんが、履いてないは妙に納得した顔をした。

 やめろ、その“あぁ……”みたいな顔。

 こちらまで不憫枠みたいになるだろうが。

 

 一方炎司は眉間を押さえていた。

 

「……焦凍は。」

「今から会いにゆくのだ。」

「そうか。」

「ああだが昨日『親父また帰ってないのか』と呆れていたが。」

「…………。」

 

 効いてる効いてる。

 火力とは反比例するようにメンタルが削れている。

 

 するとクソガキが私と炎司を交互に見ながら目をキラキラさせた。

 

「えっ!? じゃあ姉ちゃんヒーローの知り合いなの!?」

「不本意ながらな。」

「すげぇぇぇ!!」

「その程度では被害のほうが多くなってしまう。」

 

 むしろ長年の被害者側である。

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