時間停止系探索者、ダンジョンの都市伝説となるも我関せず   作:ゴマ醤油

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時間停止系探索者のお節介
時田とめる、三級探索者


 ダンジョン。

 それは今より三十年くらい前に突如世界中に出現した、世界の常識を覆してしまった建築物である。

 

 ダンジョンの中からもたらされる、既存の課題を容易く解決してしまえる資源。

 ダンジョンが現れた影響か、一部の人々に宿った超人的な身体能力や魔法なんてファンタジー。

 

 まるで創作の中から飛び出してきたとしか思えないそれらの影響は、人類にとって計り知れないほどの変革であり、かつては世界に第三の戦争さえもたらしかけるほどの混乱を招いたがそれも昔の話。

 何やかんやあった現代ではすっかり日常へ定着し、最近では『ダンジョン探索者』を夢のある職業だと憧れる子供さえ当たり前のように存在するようになった。

 

 そして俺こと時田(ときた)とめるもまた、そんなダンジョンに挑む一人の探索者と呼ばれる人種である。

 ただし底辺。子供が夢見るそれが天井だとすれば、俺は地の底で石ころ漁りをするだけの凡夫だけどね。

 

「ふうっ!」

 

 人気のない第五階層の隅でスマホから流れる音をBGMにしながら、一人黙々カンカンとツルハシで掘り続けてしばらく。

 ついにポトリと転がってくれた、野球ボールくらいの鉱石ちゃんを拾い上げ、満足だと背中の鞄へと投げ入れる。

 

 魔動石(まどうせき)

 中に魔力を溜め込んでいる石であり、売りに出せば純度や大きさに応じて相応の価格で買い取ってもらえる資源だ。

 表層でこのサイズなら大当たり。恐らくだが、三千円くらいはいってくれるのではないだろうか。

 

 当たりでお一つ三千円。夢があるようでないが、一般ダンジョン探索者の現実なんてこんなもの。

 子供が夢見るのはトップ層であり、底辺は現実的な数字で一喜一憂するしか出来ないのはどんな職業でも同じこと。探索者なんてのはその中で、夢が見られるだけましな肉体労働だ。

 

 まあ自分を卑下してはいるが、実際これでもやれている方だとは思ってる。

 

 何せダンジョンの中では『ダンジョン生物』と区分される、ダンジョン特有の生き物に襲われ、それを狩っていかなければならない。

 ダンジョンの外は平和なこの国で育った人間の中で、命の取り合いなんて出来るやつは限られてくる。多くの者が一攫千金を夢見て資格を取りこそするものの、ダンジョン探索者として二日目を迎えられるのは一割のみなんてのは有名な話だ。

 

『はーい。そんじゃあ今日の配信はここまで! ばいばーい!』

 

 ちょうど流していた配信が終わろうとしていたので、乙とコメントを残してから電源を切る。

 

 見ていたというより垂れ流していたのは、推しである『ダンジョン配信者(ライバー)』のライブだ。

 ダンジョン配信者(ライバー)。読んで書いて字の如く、ダンジョンの中で配信をする者達のことを人はそう呼んだ。

 

 ダンジョン生物の討伐や生態解説。

 ダンジョンの中の解説や美景、危険スポットなどの紹介。

 中には攻略をそのまま流すなんてことをしながら、ダンジョンの中という環境を活かして配信し、人々へエンターテイメントとして届けるのだ。

 

 俺は配信なんてしない。

 別にダンジョンに潜る人全てが配信をするわけではない。むしろ硬派な探索者ほど配信なんてせず、己が手にした情報を秘匿し、時に有償で公開しながら己が利益にしていくものと研修時に担当してくれた先生が教えてくれたからだ。

 

 ……ここだけの話、実は一月だけ、俺もと思って生配信に挑戦してみたことはある。

 

 魅せを意識しながらゴブリンを倒してみたり、小粋(自称)なトークで配信を繋いでみたり色々と。

 目指せ配信者ドリーム。夢はみんなの人気者、承認欲求を満たしまくりでウッハウハ。人脈を広げていき、いずれは美人で相性バッチリな彼女をゲット……なんて、誰でもベッドの上で考えそうな夢を掲げたものだ。

 

 けれど結果は惨敗。

 自分なりにそこそこ頑張ってみたのだが、あまりに伸びなさすぎたので、一ヶ月くらいで思い出へと封印してなかったことにした。

 

 あの頃は酷く落ち込んだが、今となってはいい思い出だと納得している。

 端麗な容姿や語彙豊富なトーク力、そして映像映えする派手な戦闘。

 それらを駆使して視聴者に楽しませながら、中層や深層へ潜る人気ダンジョン配信者と自分を比べてしまえばあまりに華がなさすぎる。むしろあれで伸びたら怖いくらいだ。

 

 今日も適当に探索を終えて、そろそろ帰ろうとか思った所だった。

 突如階層内へと響いた轟き。直後、ドカンドカンと尋常ならざる衝突音がこの階層を揺らし続けている。

 初心者向けの第六階層では起きるはずのない、戦闘の音や揺れの連続。

 逃げるのが最善だと思いながらも、何の騒ぎか気になる心を抑えきれず、音の方向へと慎重に歩を進めていく。

 

 ──進んだ先で目にしたのは、この世のものとは思えない光景だった。

 

 目の前にいる赤い皮膚の超生物は、人が小粒にさえ思えるほどの圧倒的巨躯。

 黄金の瞳。ダンジョンの石壁さえ爛れさせる炎を吐く口。空気を裂く爪に薙ぎ払われるごん太の尾。

 どう考えてもこの階層に出てくるミニゴブリン、ミニコボルト、ミニスライムではないそいつの名を俺の記憶から挙げるのなら一つ。

 

 ドラゴン。

 創作における最強格。ダンジョンの下層にさえ存在すると聞いたことのない怪物がそこにはいた。

 

 それにもう一人、

 撮影スタッフであろう多くの人間が倒れる中、必死に炎を斬るも弾かれてしまう美女。

 

 温かみのある炎のような赤の長髪におっきな胸。そして真っ赤な刀身な剣と黒いインナーの上に赤いライトアーマーが特徴的な彼女には見覚えがあった。

 

 あの人どっかで……そうだ思い出した、確かダンジョン系配信者の『ホムラ』だ。

 

 チャンネル登録者百万以上の人気配信者。

 明るい赤の長髪を最大の特徴とした容姿や装備。通常時は穏やかで聞き心地のいいダンジョントークで視聴者を楽しませ、けれどいざ戦闘になれば冷静に、そして炎を纏った剣で華麗に強敵を打倒して湧き上がらせる美女。

 

 確か有名な少年漫画家が、彼女をモデルにしたと公言したキャラを出して話題となったなんて話もあったはず。

 漫画から飛びだしてきたのではなく、漫画の中へと飛び込んでいった系のヒロイン。ダンジョン配信界隈でも屈指の実力者であり人気者である彼女だが、何故かこんな低層で、今まさに絶体絶命な状況を迎えてしまっていた。

 

 

 このままじゃまずい。──時間(とき)よ、止まれ。

 

 

 こんな低層ではまず見られない場面に、驚愕や恐怖よりも困惑が勝りつつ。

 それでも考えるよりも早くに俺が願ったその瞬間、世界はピタリと動きを、音を、生命の気配を失わせる。

 これで世界は停止した。何てことはない、俺が時間を止めた。それだけだ。

 

 時間停止に目覚めたのは一年ほど前、ダンジョンなんて関係なく、何の前触れもなく突然目覚めた力だ。

 この時間停止に理屈なんて存在しないし、細かいルールがあるだけで面倒な制約や制限時間はない。

 止めたいだけ時間を止められるし、解除したければ心のまま元の世界へと戻せる。どう考えても人が持つには大きすぎる力だ。

 

 この能力でダンジョン無双……なんて試してみたことはあるが、中層をちょっとチャレンジしてすぐに無理だと諦めた。

 時間が止められるのはすごいことだが、それで何かが解決することなんて実は少ないし、時間を止められてもどうにもならないことが世の中にはいっぱいある。

 

 ダンジョンは中層に足を踏み入れた途端、本性を出したとばかりに難度を変える。

 本体の凡スペックを一切考慮せず、チート能力だわっしょいと中層へと挑み、己の無謀っぷりを身を以て体感させられてしまってから、すっかり野心やら成り上がり精神やらが燃え尽きてしまったのだ。

 

 それに仮に無双を果たせたとして、結果を出せたとしても事後処理が面倒臭すぎる。

 高額な資源を買い取ってもらう際に必要な手続きや税金。

 特別鍛えているわけでもないし、配信をしているわけでもないので、どうやって手に入れたかなどの説明やそれに要する時間を考えると億劫でしかない。

 

 そしてそもそも、中層以上に入るには第二級探索者の資格を取らなければならない。

 

 時間停止があれば筆記も実技もクリア出来るだろうけど、中級までいくと色々と目立つ要因が増えてしまう。

 注目を浴びれば悪い虫だって寄りつくだろうし、いつか絶対ボロが出て人生急転落が容易に想像出来てしまう。それに中層以上はパーティを組むことが前提で、かつて高校の授業ですら二人組を組めなかった俺にとっては難しすぎる試練なのだ。

 

 そういうのを考えた今では、低層でバイト代わりに小銭稼ぎをしていた方が分相応だなと。

 適当に小遣いや家賃を稼ぎながら大学へ通う日々を送っていたのだが、まさかこんなとんでもハプニングに出くわすとはおもわなんだ。

 

「まあいいや。……よしっ、始めるか」

 

 細かい事情に興味はないが、このまま放置すれば彼女を見捨てることになり、ダンジョンも緊急封鎖されてしばらくお金を稼げなくなりそうだと。

 ペシペシと頬を数度叩き、退勤の気持ちを切り替えてから、ドラゴンの解体作業を始めていく。 

 

 一方的すぎるから絵にならないが、これも命の奪い合いだから仕方ない。

 今にも殺されそうなホムラにとってドラゴンが死神なように、ドラゴンにとって俺が死神だった。それで諦めて欲しいかな。

 

 しかし硬い、硬すぎる。

 鱗だけじゃなくて皮膚や肉の全てが硬い。おまけに単純にでかすぎてきついを通り越して無理。

 

 どうしよう。俺の装備である安物のピッケルと短剣では、このドラゴンにまったく歯が立ちそうにない……あ、短剣折れた。

 どうしよう、一旦帰って調達するのも面倒だし……おっ、そうだ。あるじゃん、ちょうどそこにさ。

 

 わっせわっせと一度ドラゴンの体から降りて。

 倒れているホムラに近寄り、えっちなお胸を拝んでから一礼し、手に取ったのは彼女が持っていた赤い刀身の剣。

 

 まるで滾る炎がそのまま刃になったみたいな一振り。

 いつか見た配信で紹介していたが、何かどっかの会社の最新モデルで一本云百万ほどしたはずだ。

 

 これが一本云百万の重み……こんなのを消耗上等で振り回して、ダンジョンへ潜るとは恐れ入る。

 流石は下層にまで届くと言われた、配信界では最上位と呼ばれる一流探索者様。目立つとか嫌だし税金関係も面倒だしで、探索一回で日給バイト一回分くらい稼げればそれでいいな、なんて適当な思考で生きている俺とは金銭のスケールが段違いだ。

 

 おおすごい。俺のナマクラじゃあんなに苦労したってのに、感覚ないってくらいには刃が通ってくれる。

 これが一本云百万の力。俺もこういうのあれば作業効率上がるんだろうなぁ、羨ましいなぁ。

 

 そんなわけで、途中何度も休憩を挟みながら、ひたすら作業をこなしていく。

 最初は尻尾から始まった作業はついに頭まで辿り着き、ついに最後の角を切り終えて解体が終了した。

 

 前足、後ろ足、尻尾、首、角、口、エトセトラ。

 思いつく限り、生存に必要場所を切断されたドラゴンの姿は、まさに壮観と言わざるを得ない。

 

 ドラゴンの未だ黄金の瞳には生気に満ちているが、それはあくまで時間を止めているからに過ぎない。

 俺が停止を解除した瞬間、ドラゴンは自らの状態に追いついて絶命する。文字通り、最期の輝きというやつだ。

 

 あー疲れた。時計がないからどれくらいかかったかは知らないが、本当に、もう駄目ってくらいへとへとだ。

 こんなに大きくて硬いドラゴンの解体なんて、ダンジョンでは間違いなく一番の大仕事だった。

 それにしても、まさかこんな浅い層にドラゴンが出るとはな。いやー、ダンジョンって何が起きるか分からなくて怖いわ。

 

 感無量とも言える達成感の中で一息つき、落ち着いてからゆっくりと立ち上がる。

 ホムラのおっきなお胸を再び拝んでから、お世話になった剣をお返しして、痕跡は残さないように足跡を消しながら現場を退散していく。

 

 えっほえっほと歩き、ダンジョンの出入り口の近く、監視カメラのない一角で時間停止を解除。

 気配が、音が、動きが世界へ帰ってくる。

 肌に伝わる空気が元の心地に戻ったことを知覚し、ようやく一仕事が終わったと、大きく深呼吸を繰り返す。

 

「ふう疲れた。こりゃ明日は筋肉痛だな」

 

 体を解している最中、明日の苦痛を想像してしまい、ついつい嫌な気持ちが顔に出てしまう。

 

 時間を止めているのが俺なのだから、当然時間停止の影響を受けないが、それでも停止中に動いた分の疲労は当然貯まってしまう。よって明日は筋肉痛間違いなし、憂鬱だ。

 

 若干へこみながらも、くすねたドラゴンの鱗の破片を見て満足しながら帰路につく。

 鉱石や雑魚敵で小銭を稼ぎ、たまにこんな風に巻き込まれながら大物を解体する。それが俺の──時田とめるの、地味だけど退屈しないダンジョン生活だ。

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