時間停止系探索者、ダンジョンの都市伝説となるも我関せず   作:ゴマ醤油

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何もないと思ったのに

 そうしてついに始まった隠し部屋開拓チャレンジ。

 一見ただの採掘でしかないが、実情は真剣に未知へと挑む篝崎君とそのご一行。

 そんな彼らに混ざることなく、背後からのぞき見しながら、時に寄ってくるダンジョン生物共を処理してその時を待ち続けた。

 

 それにしても、それにしてもだ。

 こんなにカンカン大きな音出して掘削してるってのに人が寄りついてこないのは意外だ。ダンジョン生物はいつも通り来るってのに……そういういらないツキは持ってるのかな。実に羨ましいこったね、ええ。

 

 あーあ、まだかなー。あと何時間かかるんだろうなー。……青柳トワの配信、観たかったなぁ。

 

 経過していく時間の中で、推しのライブを見逃すことへ嘆きながら、あまりに暇なのでちょっと軽食でも摂ろうかなと思った矢先だった。

 ガガガッ! という音が突然作業音が変わり、ガラガラと何かが崩れていく音が聞こえてきたのは。

 

「やった、やったぞ! ダンジョンの壁が崩れた! 隠し部屋だっ!!」

 

 疲れの陰る笑いから、徐々に狂気染みた興奮の笑みへと変わる篝崎君。

 賭けに勝ち、ハイタッチをしたり腕を打ち付け合ったりと、それぞれで喜びの声を上げるご一行。

 はいはいみなさま本当にお疲れ様、そして発見おめでとう。というわけでごめんね。──時間(とき)よ、止まれ。

 

 俺の意思に応じて、世界から時の流れは失われる。

 喜びを露わにしながら固まっているご一行。多少の罪悪感から彼らに頭を下げて謝り、開通した穴から部屋へと足を踏み入れる。

 

 別に第一発見者を奪いたいとか、隠し部屋にあるかもしれない宝をがめるなんて目的はない。

 俺がやるべきはぱっと見で危ないものがないか、そして危なそうなものがどこにあるのかの下見。それが済んだら時止めを解除して、後ろから尾行第二回戦の幕開けだ。

 

 断言するが、今俺が飛び出して止めたとて、あいつらは絶対に止まらない。いや止まれない。

 何せあの連中、見かけはウェイウェイな大学生のくせに、予想外なくらいの熱意と覚悟を持って臨んでいるのだ。

 あそこまで今更俺がノコノコ出て説得したとしても聞いてはくれないだろうし、最悪目撃者は消す理論で戦闘になる恐れが生じてしまったりでもしたら大事だ。

 

 無論もちろんそうなった場合、負けるつもりは毛頭ないよ。

 だって時間停止の真骨頂は対ダンジョン生物よりも対人戦。よーいどんで戦う人間なんてどんだけ強くとも急所を突けばそれで終わりなんだから、無駄にでかかったり無駄にグニョグニョだったり無駄に硬かったりするダンジョン生物の一億倍は楽な相手だ。

 

 だって過程はどうであれ、発見したのは紛れもなく彼らなのだ。

 無意味に命を散らさないで欲しいと願うのと同じくらい、第一発見者として正しく名を残してもらいたい気持ちだってある。

 だから隠し部屋を発見して入ったものの、何かで命の危機だけ感じて無事に撤退。そうして発見の栄誉は彼らの手に命は繋ぐ、互いにとっての最適解はこうなはずだ。多分。

 

 ……それに篝崎君が俺に相談してきた、なんて秘密は守らなくちゃいけないからな。シュークリームも二つ、既においしゅうございましたしちゃったから仕方ないんだ。

 

 懐中電灯の明かりを頼りに、隠し部屋の中を探索していく。

 外の赤錆色の壁はそのままだが、奇怪なことに道は石レンガで舗装されており、とても自然のものとは思えない。

 

 そういや第五階層の方もこんな感じの道だったってニュースで言ってたような……ああちくしょう、比較が出来ないのが口惜しい! こんなことなら後回しにせず、我先にと第五階層の隠し部屋の観光もしておくべきだったな。

 

 写真でも撮りたい気持ちに駆られながらも、今は目的優先だと進んでいく。

 幸いなことに隠し部屋はたいして広くなく、一本道に部屋が数個あるだけと下見自体は楽に終わってくれはした。したんだが……なんていうか、ちょっとあまりに不自然というかなんというか。

 

 風呂っぽい部屋、寝室っぽい部屋、更にはトイレっぽい部屋まで。

 何か仏像みたいなでっかい石像が置かれてた大部屋があったり、鍵穴の付いていない真っ白な石の箱がたくさん置かれている謎の部屋もあったが、基本的にはまるで石で出来た居住スペースみたいな……気のせいかな。

 

 ともあれ目立って脅威と思える場所はなく、ひとまず下見は終えて良さそうだと。

 ひとまずの安堵はしつつも、こんな場所で後ろから()けたら流石にバレそうなので石の箱がある部屋に隠れてから時間停止を解除し、あとは成り行きを見守ることにした。

 

 ともあれ暇なので、こんこんと、たまに石の箱を軽く指で叩いてみるもやはり石は石。

 三回叩いても石。五回叩いても石。うんともすんとも言わないし、開いてくれることもない。

 

 ……何なんだろうなこの石は。まあ、俺には関係ないことか。

 

 その後もちょくちょく時間を止めて近づいたり、たまに届く会話から様子を窺っていくが特に問題はなく。

 どうやら命の危険はなさそうで、我ながらいらないお節介だったなと。

 誰にもバレないように止まった時間の中で隠し部屋の入り口まで戻り、心の中で発見を賞賛しながら時間停止を解除し、最後に撮影でもしてから帰ろうとスマホを取り出した。その瞬間だった。

 

 

「キャー!!!」

 

 

 響くは甲高い絶叫。

 耳が捉えた瞬間、最早反応に近い速度で時間を止めながら踵を返し、声の下へと全力で走っていく。

 

 そうして辿り着いた大部屋の中、広がっていた光景はまさに絶体絶命といった場面。

 

 恐らく先ほどの声の主であろう、恐怖に顔を歪めたギャル味のある女。

 何とか動こうとしている者。反応さえ出来ていない者。恐怖で顔を歪めている者。

 そして先頭にいた篝崎君が、先ほどまで両手を合わせて祈るばかりだったでっかい石の像に振り下ろされた手にてあわやペシャンコ寸前と、そんな状況だった。

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