時間停止系探索者、ダンジョンの都市伝説となるも我関せず   作:ゴマ醤油

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何故せっかくの宿で悩まされるのか

 途中テンプレ染みたナンパこそあったものの、何だかんだで海水浴を楽しんだ後、日が落ちる前には宿へと戻った。

 夕食にはまだ時間があったので、海を一望出来る露天風呂にて景色を楽しみながら疲れを取り。

 その後何たらの間的な大部屋を俺達六人のみで、食材から皿までの全てが庶民が想像する贅沢の数段上なお食事を楽しませてもらった。

 

 流石は高級旅館。何から何まで一級品過ぎて、むしろ怖い。

 ここまで至れり尽くせりだと、最早生半可な称賛の言葉を贈ることさえ失礼に思えてしまうくらいだ。

 こんな所に二泊もしていいとか、都会に帰った後元の日常へ戻れるか不安になってしまう。

 それともそんな都合のいい話はなく、帰宅後に請求書が送られてくるとか悪質なドッキリだったする。そしたらあの人を師匠って呼ぶの止めよう、うん。

 

 全員が満足そうに食事を終えて、それからは各自で自由行動だと。

 星川(ほしかわ)さんが卓球をしたいというので、篝崎(かがりざき)君と夏江(なつえ)さんがそちらへ付いていくことになり。

 そして残ったダン考メンバー三名は、この旅館にあるという昔ながらのゲームコーナーへと趣こうとした。

 

「……ねえ佐藤、ちょっとだけ話いい?」

 

 そんな俺を呼び止めて、少し話せないかと言ってきたのは何と一番遠い間柄な夏江さんであった。

 

 あの一件以降、何故か俺を佐藤と呼ぶようになった夏江さん。

 彼女の親指で校舎裏を指すかのような手振りは、例え浴衣姿を考慮しても、ギャルというよりはヤンキーのそれに近いと思えてしまえるもので。

 何か気に障ることでもしてしまったかと、今日一日を省みながら彼女の背についていき、人気ない通路の適当なベンチに腰掛けさせられ、じっと鋭い目つきで見下ろされてしまう。

 

 な、何だろう。もしかして、愛の告白? まさか俺、またなにかやっちゃいました?

 

「……あーもう! 佐藤、あんたリナのことどう思ってる?」

「リナって、星川さん?」

「そ。答えて、嘘偽りなく」

 

 しばらくの沈黙の後、耐えられなくなったのか頭を掻いてからそんなことを質問してくる。

 人気のない場所に、浴衣の男女が二人。だというのにロマンチックのロの字もない、まるで尋問みたいな尋ね方。

 

 ……ああ、もしかして俺、星川さんを狙ってると思われてる感じか?

 

「同じ学部の可愛い女性……かな。友達だと思われてたら嬉しいけどね」

「はあっ?」

 

 昼間のチンピラ共より数段勝る迫力としか思えない、恐るべき眼光で射貫かれてしまい、思わず姿勢を正してしまいながらも素直に、そして簡潔に答えを出す。

 

 星川さんかぁ。

 マイペースで、独特のテンションで、いつも地雷系の服着てて、ギャンブル強そうな合法ロリ。

 確かどっか一浪って言ってた気がするから一つ歳上なはず。うちの大学、可もなく不可もない程度の偏差値だけど浪人してまで入る意味ってあったのかな。まあ細かいことはいいか。

 

 ともかく、とても不思議な魅力のある人だと思う。あと、競馬で負けなさそうで羨ましいな。

 

「……つまり下心はないわけ? 口説きたいとか、彼女にしたいとか」

「ああうん、今のところはないかな。そもそも大学でしか会わない程度の関係だしね」

 

 夏江さんが怪訝な表情で問い詰めてきたので、思わずたじろぎながらも首を縦に振る。

 

 そりゃ可愛いなとか、彼女に出来たらいいなとか、水着や浴衣がえっちだなとか。

 みんな忘れがちだが俺とて一応性欲ある成人男性ではあるので、あのレベルの美少女がいたらそりゃ意識することはあるが、それとこれとは別の話だろう。

 

 あなたたち三人、もっと言えばこの前十五階層のいた五人と俺は違う。

 たまに飲みに行ったりする篝崎君はともかく、星川さんは同じ学部の他人よりはちょっとだけ近い程度の仲でしかない。

 今回だって男手として誘った篝崎君の提案を受け入れただけに過ぎず、俺個人としては星川さんや夏江さんを誘うつもりなんて一切なかったほど。どこまでいっても、所詮はその程度の関係だ。

 

 ……でもまあ、友達にくらいは思われてたら嬉しいなぁ。同年代の女友達って憧れる響きだからなぁ。

 

「……そっ、ならいい。そんだけ、じゃ」

 

 夏江さんは一瞬、何か言いたげに口を開こうとしたが、喉元辺りで呑み込み背を向けてしまう。

 

「あ、待って夏江さん。俺からも一つだけ、ちょっと失礼かもだけど……訊いていい?」

「……普通失礼だと思ったら訊かないんじゃないでしょ。あんた馬鹿なの?」

 

 嫌そうなしかめっ面ながら、それでも振り向いてくれた夏江さんにあははと苦笑いを返す他ない。

 

 うーん返す言葉もなし。なんとまあ、実にごもっともなご意見なことで。

 

「夏江さんってさ、篝崎君のこと好きなの?」

「……はあっ!?」

「いや夏江さんってさ、篝崎君のこと好きなのかなって?」

「聞こえてるわよ!? あんた馬鹿ぁ!? 馬鹿なんでしょ!?」

 

 一つ踏み込まれたのなら、一つ踏み込み返しても文句は言われないだろうと。

 多少の罪悪感は抱きつつも、それより疑問が勝ったので尋ねてみれば、夏江さんは触れられたくなかったのか顔を真っ赤にしながら声を荒げてしまう。

 

「……別にあんたに言う義理ないでしょ。デリカシーなさ過ぎてむかつくから、今日はもう話しかけてこないで。馬鹿佐藤」

 

 冷静さを取り戻した夏江さんは、そのまま軽く鼻息を鳴らしてどこかへ去ってしまう。

 

 ……結構無神経だったと思うんだけど、それでも一日だけなんだ。やっぱり優しいよな、あの人。

 

 ぽつりと数秒立ち尽くしていた後。

 ポリポリと頭を掻き、俺も先輩達の下へ向かいながら考えるのは、夏江さんが質問してきた意図について。

 

 夏江さんが篝崎君を好きなら、星川さんは恋敵ということになる。

 だからあんなにも露骨とはいえ、確認として篝崎君の心情を訊いてくるならまだ分かる。俺が彼女の立場だったとしても、どこかで探りを入れたくなるだろう。

 

 だが、俺の気持ちが知りたい意味がまったくもって分からない。

 だって意味がないからだ。仮に恋の大三角形があったとしても、俺は線を動く点Pでもなければ新たな恋敵にさえならない。俺には同性愛のケなんて欠片もない、完全無欠のノーマルなのだから。

 

 もしかして恋敵排除のために、俺を星川さんへ宛がおうとしている?

 それとも俺が篝崎君の恋の成就の手助けを頼まれたことを察して、牽制しようとしている?

 

 ……でもなあ、なんかそういうのはしっくりこないんだよなぁ。

 行きの車でも星川さんと仲良さそうだったし、そこそこ重労働だったのに弱音一つなく真面目にこなしていたし、焼きそば代とかちゃんと返してくれたり。

 たった一日で何が分かるんだって話ではあるが、そんな真っ当な人が自分の恋愛のためなら好き勝手やるとは思えないんだよな。

 

 ……一応部屋戻ったら、篝崎君に夏江さんのことを訊いてみようかな。

 でもなぁ。俺が夏江さんのこと知ろうとしたら、あの男絶対勘違いするだろうしなぁ。

 

「さかさんさかさん! このパチンコ全然上手くいかないんすけど!」

「パチンコじゃない、スマートボールだ。そしてこれは中々コツがあってな……おお、遅かったなとめる。美人に誘われたとは思えないほど渋い顔だが……さてはあの青春集団に痴情のもつれでも起きたか?」

「……そんなとこっす。あと、先輩達がいつも通りで嬉しいなーって」

 

 ぐるぐると思考を巡らせている内に、足はいつの間にか目的地まで辿り着いてしまっていたようで。

 古いデパートの屋上にありそうなパチンコのような、ピンボールのような台で盛り上がる二人に、

 

 そうそうこういうの、こういうのだよ。

 恋や何だなんか一切考えず、こういうたわいもない一時を楽しみたかったんだよ。

 

「とめるとめるー、あっちのホッケーやろうぜー。負けたら罰ゲームでモノマネな!」

 

 この先輩の大体の場面でいつも通りな所に安心感を覚えつつ。

 生憎持ちネタなんてないので、場合によっては時間停止で完封してやろうと息巻きながら、ホッケー台へと向かい出す。

 

「ところでとめる。どうしてあの娘は、お前を佐藤と呼んだんだ?」

「……あー、中身が甘っちょろいからじゃないですかね。あと夏の日差しで溶けてそうだから……とか?」

 

 俺も知りたい。そんなにツボに入ることだったかな、偽名佐藤。

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