時間停止系探索者、ダンジョンの都市伝説となるも我関せず   作:ゴマ醤油

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ぐぐれフェス

 昨日の夜のおかげで寝る時間が遅かったせいか、それとも良い具合に眠りが深かったせいか。

 ともかく寝起きはすこぶる悪く、篝崎君にモーニングコールされたおかげでどうにか朝食なしを免れることが出来た。

 せっかく旅館でご用意された、お高そうな朝食バイキングを寝惚けながらさくっと済ませる羽目になり、着替えを済ませても集合場所である会議室に着いてもまだ眠気は残っていた。

 

「……なあとめる?」

「うおぉびっくりした。心臓破裂しちゃうから、急に声掛けるなって」

「?? ああ、わ、悪かった。けど、そんなに驚くことないだろ?」

 

 スマホに映る一枚の画像。

 昨夜の一瞬が夢ではなかった証拠をぽやっと眺めていると、突然隣に座る篝崎君に肩を叩かれ、つい体が跳ねさせながらスマホを消しながら勢い付けて彼の方を向いてしまう。

 

 あーびっくりした。

 おかげでちょっと目が覚めたけど、やっぱり心臓に悪い。……画像見られなかったかな。

 

「それでとめる。今日のこと、覚えてるよな?」

「分かってる分かってる、夜だろ夜。一応配慮はするけどさ、ぶっちゃけそこまでしてやれることないよ?」

「それでも頼むぜ、まじで。今日に俺の大学生活がかかってるだからさ」

 

 あんまりにも驚いてしまったせいで一瞬訝しげな顔をするも、すぐに両手を合わせ、一生の頼みでもしてくるみたいに頭を下げてくる篝崎君。

 

 もちろん覚えてはいるとも。

 だけど実際、俺が手を貸せることなんて二人きりにしてやるくらいしかないんだよね。

 

 フェスが終わった後に打ち上げに誘われてとんでも長引くとかでない限り、二人きりにする手伝いなんて場の流れでふわっと誘導すればどうにでもなってしまう。

 まあ一応気をつける点があるとすれば、内心の読めない夏江(なつえ)さんと不慮の事故を誘発してくる外野くらいで、それも必要に応じて時間を止めて移動させてしまえばどうにでもなる。あんまりにも簡単すぎて、何かしらサプライズでもやりたくなるほどだ。

 

 ……あ、そうだ。

 せっかくだし、コンビニで打ち上げ花火でも買って成功したらあげる……いや、なんかキスシーンとか台無しにしそうだからやめておこう。余計な茶々、駄目、絶対。

 

 

「ごめんね待たせちゃって~。ちょっとごたごたしちゃってさ~」

 

 

 適当なことを考えながら、大丈夫だと篝崎くんに手振りを送っていたときだった。

 がちゃんと部屋の扉が開き、聞き覚えるのあるハニーボイスで謝りながら入室してきたのは、俺が今回ボランティアーになったきっかけ、相変わらずのふわふわとした雰囲気な白鳥沢さんだった。

 

「あ、お久しぶりです白鳥沢(しらとりざわ)さん。この前は本当にありがとうございました」

「お~お弟子君やっほやっほ~! いや~今年は一段と暑いね~。都会よりはマシでもくらくらしちゃうよね~」

 

 でっか、と誰かの声が聞こえたのは無視しつつ。

 突然の再会に驚きで立ち上がってしまい、そのまま頭を下げながら挨拶と共にこの前のお礼をする。

 そんな俺に白鳥沢さんは笑顔を浮かべながら手を振り、そのあとで席に座るよう指示してきた。

 

「ではでは改めまして~、白鳥沢なとりで~す。昨日付いていた火村に代わり~、本日みなさんの担当をさせてもらいますので~、何か困ったことがあったら遠慮なく相談してくれると嬉しいです~♡」

 

 雰囲気こそゆるゆるしていても、流石は大手の社員というべきか。

 淀みなく、そして簡潔にまとまった説明や注意、最終確認が終わりそのまま会議室を後にする。

 

「そういえば白鳥沢さん、火村(ひむら)さん見ませんでした? 一言くらい挨拶しておきたいんですけど」

(あかね)ちゃん~? ……あ~、あっちは今日忙しそうだから顔出せないと思うな~。あ、でも明日君達がチェックアウトする頃には顔出すって言ってたから~、気にせずお仕事頑張って欲しいかな~って♡」

 

 説明が終わり、旅館を出て会場へと向かう最中で白鳥沢さんに尋ねてみると、少し考えた後に今日は会えないだろうと教えてくれる。

 一瞬だけ、けれど確かにあった逡巡を疑問に思ってしまいながらも、そう言われては引き下がる他ないと素直に引っ込む他ない。

 

 ま、忙しいのなら仕方がない。

 何せ火村さんは俺達ボランティアーと違って社員、つまり正規で働く立場の人間だ。

 顔が見られないのは残念だが、帰る前に会えるのなら問題はない。さっさと切り替えて、忙しそうな今日一日に集中しないとな。

 

 そうして会場へ着いた俺達は、指示された場所に向かいスタッフの指示に従って仕事を始めていく。

 

 ぐぐれビーチフェスのメインステージは十一時に開始して、ラストステージの十七時まで続く長丁場。

 どんだけ人に予算をかけたんだってくらい昼間から夕方にかけて騒ぎ倒す、無駄に規模の大きなフェスなのだ。

 

 とはいえ、メインステージの賑わいなど客以下の木っ端ボランティアーには関係のない話。

 覗く時間さえないだろうなと思いながら、与えられた仕事をこなすのみだ。

 

「いらっしゃいませー。こちら一枚三千円……あーSサイズ? 申し訳ないですがサイズの方は固定で、はい。申し訳ございません」

 

 坂又部長と叶先輩。

 篝崎君と星川さん。

 そして俺と夏江さんという三ペアに分けられ、それぞれの仕事を振られることになった。

 

 俺達が手伝うのは物販、つまりフェスで販売しているグッズやドリンクを売る仕事の手伝い。

 慣れているとばかりに客を捌く夏江さんはともかく、どう考えても接客経験のない俺より適任がいるだろうと心の中で不平不満をぶちまけつつ。

 わらわら押し寄せる客にてんてこまいになりながらも、慣れる慣れないを気にする余裕もないほどひたすら

 

 ……ほんと、なんでこのクソ暑い時期にやるんだろうな。

 確かにビルばっかりな都会や形から不利な盆地と比べれば、海辺は風も通るし海もあるしで涼しくはある。

 だけどそれも所詮は誤差レベル。こんな豪華なメンツを揃えられるのならどうせ人来るんだし、そこまで暑くもない五~六月にでもやればいいのに。暑いからこそみたいな考えもあるけど、熱中症出たら色々問題だろうしさ。

 

 まあでも、だからこそって部分はあるのだろう。

 夏の暑さなんてのは派手に騒いで乗り越えるのが一番。多少のデメリットを二の次にしてでも、盛り上がってなんぼというものか。

 

『みんな盛り上がってるかーい! 夏の太陽に、負けちゃってないかーい! こんな日だからこそ、しっかり水分取ってるかーい!』

「いえーい!」

『今日の司会をMCを務めるのはこの私! 開幕から一曲やることになってる忙しさ最高潮、自称太陽よりも熱い炎の探索者のホムラだよー! みんなー、最後まで楽しんでいこうねー!』

 

 メインステージの方から聞こえてくるのは、砂浜全体に響いていそうなほど大きな歓声。

 

 配信でお馴染みなダンジョン用の装備を着た赤い髪と瞳の美人探索者、ホムラ。

 服以外の何もかもが昨日の夜に砂浜で見たままの、いやそれ以上に輝くステージ上の姿を想像していると、今朝スマホに写真が残っているのを確認したというのに、昨日の一件が夢でしかなかったと思えてしまう。

 歓声を受けながら、笑顔で手を振り返すその姿はみんなのアイドルそのもの。

 そんな彼女がたった一人で夜の砂浜に現れ、たまたまそこにいた一般人とイチャコラするなんて、どこの童貞の妄想なんだか。きっとあの写真を見せながら語っても、信じてくれる人はほとんどいないだろうさ。

 

 ……それにしても、そんな自称は初めて聞いた。

 正直な話、ホムラの配信もおすすめに上がったときに覗くくらいでそこまで詳しく追ってないから断言は出来ないが、確かホムラに特有の二つ名はなかったはず。

 その名がシンプル且つ得意を表している故、公式の二つ名なんてないのがホムラの特徴でもあるのだが、実はどっかの配信で付けられてたりするのかな。

 

「申し訳ございませんがお客様、後の方のご迷惑ですので──」

「いいじゃんかよー。仕事終わったら一杯奢らせて、な? な?」

 

 はいはい面倒なナンパはお断り。

 夏江さんにはもちろんのこと、後ろで並んでいる人にも迷惑だから時間を止めて、マッチョの方の前に移動させて一丁上がりっと。

 

 せっかくフェスに来てくれたのに、ごめんなさいねマッチョの人。

 押しつけちゃったお詫びとか出来ないけど、まあ一人の女性を助けたってことでどうか今回は水に流してください。

 

「ちょっと、いいかげん……ってえ、え?」

「夏江さん、次々」

「え、ああうん。……お次のお客様、大変お待たせいたしました!」

 

 そうして身を粉にして働く傍らで、ぐぐれビーチフェスは恙なく進行していく。

 残念ながらステージの方を見に行く余裕はないけれど、聞こえてくる音だけで十分。

 ステージに輝くホムラやスター達とそれを支える俺達スタッフ。それがホムラと俺のふさわしい距離だと、少し調子に乗りかけた自分を強く律せるのだから。

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