かぐや「かぐやがいない間に、彩葉がかぐやと浮気したー!」 あの子ちゃん「蛇足っす」   作:超かぐや姫!に脳を焼かれた人

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※注意

・このシリーズは、蛇足の中の蛇足にあたる番外編です。
・あの子ちゃん中心のお話です。つまり、オリキャラ要素が強めです。
・彩葉、ダブルかぐや、ヤチヨのイチャイチャは含まれておりません。
・甘々後日談を期待されている方には向かない内容です。

以上を許容できる方のみお読みください。



あの子ちゃん「蛇足の蛇足っす」
蛇足の蛇足01 あの子ちゃん「月見ヤチヨさんの年齢は? 本名は? 彼女はいる? 結婚してる? 出身や年収も調べてみました!……っす」


 

月の白くて灰色で静かな空間の一画、そこだけはやけに散らかっていた。

用途不明のケーブル、半透明の記録媒体、開きっぱなしの演算窓、未完成の業務代行Bot、壊れた趣味の箱、光る板、光らない板、光るべきではないのに光っている板。

 

一体の月人、かぐや呼称によるところの「あの子」は、そんな空間の真ん中に座り込んでいた。

 

壁にもたれ、片膝を立て、やる気のない顔で指を鳴らす。

私物化済み作業区画の端末群が一斉に起動し、画面が開く。

 

「さてさて」

 

青白い光に照らされたあの子は、へらりと笑う。

 

逆之羽衣(サカノハゴロモ)・姫さん仕様の稼働状況でも確認しましょうかね」

 

逆之羽衣(サカノハゴロモ)。それは、あの子が作成した腕輪型デバイスだ。

電子生命体のような存在である月人が、他惑星で環境に適応し、活動するための肉体を構築し付与することができる。

もと光る竹と呼ばれるデバイスに組み込まれている、同様機能を完全に独立させ、コンパクトにした代物である。

酒寄彩葉に再会するために、地球へ向かうかぐやへ貸与したデバイスはこれの系列機である。

 

「姫さん、ちゃんと酒寄彩葉に会えたんすかねぇ……おっと、いけない。ゲフンゲフン」

 

本音が漏れた。

すぐに咳払いで誤魔化す。

 

これは保守作業っすよ。保守。

そんな誰も聞いていない言い訳を口にしながら、あの子は楽しそうにホログラムのキーボードに軽快に指を滑らせる。

 

「んー? 読み込みが遅い。 3G回線っすかー? 機能てんこ盛りの専用ワンオフ品だからデータ量多くなってんすかね」

 

なお、『逆之羽衣(サカノハゴロモ)』の当初の設計思想はシンプル・イズ・ベスト。

『もと光る竹』みたいに一つのデバイスに機能詰め込みすぎるのは良くないよね、とはあの子の言葉である。

 

「え? 設計思想? 一つのデバイスになんでも機能をぶち込みすぎるのは良くないって?  いい言葉っすね、それ。誰の金言っすか? 参考になるっす」

 

あなたの言葉である。

地の文と会話しないでほしい。

 

「おっ、読み込み終わったっすね。どれどれ……」

 

読み込みが完了したログを開く。

あの子の視界に飛び込んできたのは赤字の羅列だった。

 

欠損。欠損。欠損。欠損。欠損。

このデータは破損しています。

エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。

 

「え、ちょっ……!?」

 

フルログの取得不可。

あの子は珍しく慌てた声を上げる。

 

かろうじて、小規模テレメトリや断片ログは取得できている。

あの子は、一旦落ち着くために素数を数えた。

 

取得できたデータを時系列で繋ぎ合わせ、修復し、重ねていく。

あの子製の解析AIまで引っ張り出して、慎重に検証を行った。

結果は、

 

逆之羽衣(サカノハゴロモ)全機能:システム上はオールグリーンと推定。

 

「は? まともにログ取れてないのにシステムオールグリーン推定ってなんすか? 通信系に異常ありでは?」

 

情動反応観測:高、ポジティブ多め。

 

「情動反応の波は常にポジティブ寄りの高め。 常に頭ハッピーハッピーハッピーっすね」

 

接触ログ断片:地球人と思しき個体との接触ログ多め。その他、特異な反応を示す個体との接触が2件。

 

「接触ログ断片から、地球人らしきデータが取れてるんで地球にはいるんすかね? あと、こっちの妙な反応2件って……」

 

音声ログ断片:個体名称と思しきものを取得。酒寄彩葉、かぐや、月見ヤチヨ。

 

「酒寄彩葉には会えてる! ヨシ! あとは他によくログに出てくる名称が…………時系列で並べた時に姫さんの音声ログが重なってるのバグっすか?」

 

逆之羽衣(サカノハゴロモ)』の稼働状態、かぐやの生存、酒寄彩葉との再会。

ひとまず、最低限の状況確認を終えたあの子は深々とため息をついた。

肩の力が抜け、壁にもたれかかる。

よかった、小さな安堵の言葉はため息に混じって消えた。

 

しかし、こうしてはいられない。

逆之羽衣(サカノハゴロモ)』のフルログが取得できない原因を突き止めなければならない。

あの子の技術者として名が廃る。

 

壁から背を離し、いつもは猫背ばかりの背筋をピンと伸ばす。

あの子の目は珍しく真剣だ。

 

まずは、『逆之羽衣(サカノハゴロモ)』の在処だ。

かぐやの持つ逆之羽衣の所在情報を照合する。

 

地球。

地球軌道上。

月。

過去、現在、近未来、いずれの時間軸にも該当なし。

 

ここまでは想定内。

そうでなければ、フルログが取得不可になることなどありえない。

追加で、同一宇宙内の広域座標照合を実施する。

 

太陽系圏内。

過去、現在、近未来、いずれの時間軸にも該当なし。

 

「フゥ……」

 

逆之羽衣(サカノハゴロモ)』は照合不能領域にあることはわかった。

では、その照合不能領域とは一体どこだ?

何故、小規模テレメトリと断片ログは拾えている?

 

「前提が違う……?」

「なにか、忘れてる変数要素が……」

 

空中に新たなウィンドウを開く。

それは、かぐやと過ごした日々の自己参照ログだ。

指を滑らせるように動かしていると、ある記録が目に入った。

 

もと光る竹。

追加機能。

時間跳躍。

 

「あっ」

 

あの子の表情が、ほんの少しだけ引きつった。

 

———姫さんが勝手に『もと光る竹』に組み込んでたタイムトラベル機能っすけど。

———あんまりにもピーキーだったんで、ちゃんとまともに扱えるように改修しときました。

 

「タイムトラベルェ……」

 

あの子はすべてを察した。

 

時間指定を伴う跳躍は、ただの時間移動ではない。

それは、ほぼ世界線の選択を含む。

 

「多元宇宙論とか、時間=空間とか、有名なSF理論じゃないっすか。 なんで失念してたし……」

 

逆之羽衣(サカノハゴロモ)』が現在の照合範囲にいない理由。

フルログが取得できない理由。

小規模テレメトリや断片ログだけが拾えている理由。

 

それらが、ひとつの仮説に寄っていく。

 

逆之羽衣(サカノハゴロモ)並びにかぐやは、あの子がいる宇宙とは別の宇宙にいると推測される。

平たく言えば、並行宇宙とか並行世界と呼ばれるものだ。

ここではあえて、竹取物語にちなんで『別枝宇宙』と呼称しておくことにする。

 

フルログが拾えないのは、おそらくタイムトラベル時に開いた時空の揺らぎ、小さな穴のようなものを通してしか、通信ができていないためだと考えられる。

そのか細い通信経路とて、いつ閉じるかわかったものではないときている。

 

「今夜は寝かせてもらえそうにないっすね……トホホ」

 

言動とは裏腹に実に楽しそうな笑みを浮かべた。

 

☽☽☽☽☽☽☽☽☽

 

「姫さんの居場所については一旦棚上げ。 ぼた餅の横にでも置いとくっす。」

 

そんな軽口をのたまったあの子は、接触ログ断片と音声ログ断片の再検証を行っていた。

 

あの子が気にしたのは酒寄彩葉と目される個体、その次に接触回数の多い二件の特異反応。

そして、音声ログ断片から拾った月見ヤチヨという名称と、かぐやの音声重複だ。

 

接触ログ断片を可能な限り収集し、解析にかける。

 

まず、二件の反応は純粋な生命体反応ではないことが判明した。

 

表層の反応は、逆之羽衣のようなプログラム主体で構築された肉体とは異なっている。

おそらく、地球技術体系由来の外部筐体、人工身体のようなものだ。

 

「ほぇ~、地球の技術力も中々捨てたもんじゃないっすねぇ」

 

次に、もっと深層。

二件の電気信号パターンを詳細解析に回す。

 

この二件の反応について、一度目の解析時点で、あの子には確信していたことがある。

これは月人に由来する反応そのものだ。

数々の月人を捕まえては解析して遊んでいた時期がある、自分すら解析対象にしていた、そんなあの子が見間違えるはずがなかった。

 

「解析完了っす。 あとはこの波形を……」

 

あの子は画面に二つの反応を並べた。

解析された二件の波形を見比べる。

そして、二枚の画面を重ねた。波形はほとんど綺麗に重なった。

 

「なるほど。 ほいではこっちも……」

 

そこに、もう一枚の画面を引っ張ってきて重ねた。

こちらもほとんど重なった。

最後に重ねたのはかぐやの電気信号パターンだった。

 

「おー」

 

ぱちぱちとあの子の拍手の音がむなしく響いた。

己の役割に従事している月人たちは、あの子には目もくれなかった。

 

「ほぼ本人。 これはそっくりさんじゃ済まねぇっすね」

 

音声ログ断片の解析結果から、一件は情動パターンや性格パターン、言動パターンまでかぐやと高い一致率を示している。

こちらの特異反応を今後、仮称、『βかぐや』と呼称することとする。

 

もう一件は、電気信号パターン以外はかぐやとの一致率はそれほど高くない。

しかし、電気信号の起源パターンだけ見れば、βかぐやよりもかぐやに近しい。

こちらは、音声ログ断片から拾った名称である『月見ヤチヨ』で今後は呼称することとする。

 

「つきみ、やちよ?  え?るなみ? ほえー、キラキララストネームっすね」

 

というか、姫さんが三人とか、まじでどういう状況?

あの子は呆れたような、楽しそうな、とても器用な声を上げた。

 

「まあ、別枝宇宙ってんなら、ありえる話っすか……」

「別世界線のもう一人の自分とか、SFモノでもわりかし王道っすもんね」

「ウルトラマンで言うところの、並行同位体ってやつ? 用語は知ってるけど、ギャラファイ見たことないんすよね」

 

あの子は一つの画面に目を向けた。

月見ヤチヨ。推定、かぐやの並行同位体。

かぐやと名乗っていないかぐや。

 

かぐやという名前は酒寄彩葉がくれたものなのだと、嬉しそうに語っていた少女の顔を思い出した。

 

「気になる……」

 

月見ヤチヨは一体どういう履歴を辿った存在なのだろうか。

 

あの子は、とても気になった。

気にはなったが、人にはプライバシーというものがある。

 

月人なんで、プライバシーとかよくわからないっすね。

 

というか、ここで調査を中断しようものなら、モヤモヤして八時間しか眠れないっす。

 

地の文に侵食してこないでほしい。

気にはなっても逆之羽衣のログだけではこれ以上の調査は不可の———

 

方法ならある……っす。

 

より高位の情報源にアクセスすればいい。

根源とか、アカシックレコードとか、そういう名前で呼ばれがちなアレっす。

厨二心がくすぐられるっすね。

まあ、関わるとロクなことにならんすけど。

 

こいつは頭がいかれていた。

人のプライバシーを覗き見るためだけに、宇宙の全情報を管理する領域へアクセスしようというのだから。

 

もちろん、あんなものに直接接続しないっすよ。

自殺志願者じゃないんでね。

 

理解の及ばないものを下手にツンツクツンと刺激して、妙なものを呼び起こしてもやーですし。

 

あくまで先っちょだけ。先っちょだけっす。

月が参照してるインデックスを、ちょーっと横から覗くだけ。

本の貸出履歴を見る感じっす。

 

月見ヤチヨが月人だってんなら、別枝宇宙の月が参照してる因果索引を限定照会すれば見つかるはずっす。

 

さて、鬼が出るか蛇が出るか。

個人的には犬が出てほしいっす。

ワンチャンないっすかね。

ネコチャンでもヨシ!とする。

 

逆之羽衣(サカノハゴロモ)の保守はクローズっす。クローズ。 こっからは———」

「月見ヤチヨさんの年齢は? 本名は? 彼女はいる? 結婚してる? 出身や年収も調べてみました!……っす」

 

あの子は古のカスいネット記事構文めいた軽口を叩き、まるで散歩にでも行くような気軽さで不正アクセスを開始した。

 

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