かぐや「かぐやがいない間に、彩葉がかぐやと浮気したー!」 あの子ちゃん「蛇足っす」 作:超かぐや姫!に脳を焼かれた人
※これは二話目です。お気をつけください。
一話目を未読の方は、先に一話目から読むことをおすすめします。
※注意
・このシリーズは、蛇足の中の蛇足にあたる番外編です。
・あの子ちゃん中心のお話です。つまり、オリキャラ要素が強めです。
・彩葉、ダブルかぐや、ヤチヨのイチャイチャは含まれておりません。
・甘々後日談を期待されている方には向かない内容です。
以上を許容できる方のみお読みください。
照会開始。
作業区画の空気が変わった。
月の白と灰色が、さらに薄くなる。
音のないはずの空間で、何かが遠くから軋むような気配がした。
無数の窓が開く。
無数の竹が伸びる。
無数の月が回り、無数の地球が発生し、消え、分岐し、重なり、また離れていく。
それは記録であり、索引であり、目次であり、貸出履歴だった。
根源そのものでもない。
アカシックレコードそのものでもない。
全宇宙記録の直接参照でもない。
かぐやは月人の中でもかなり特殊な個体である。
こっそりと、かぐやの解析を行った前科のあるあの子はそのことをよく理解していた。
いわゆる、『竹取物語のかぐや姫』のような役割を与えられた唯一の個体。
月が『竹取物語イベント』を実行する際に、地球へと送出され、後に地球から回収される。
そういう役割を与えられた月人。
月が一体何のために、地球の御伽噺と酷似した『竹取物語イベント』を実行しているのかは謎だ。
いや、もしかしたら因果が逆なのかもしれない。
月が実行した『竹取物語イベント』を何らかの形で観測した地球人が御伽噺にした、とか。
「今はそこ、どうでもいいっす」
重要なのは、かぐやは特殊で、『かぐや姫』という唯一の役割を持った月人個体であるということ。
つまり、かぐやの並行同位体である月見ヤチヨも同様に『かぐや姫』という役割を持った個体であったと推測できる。
月が参照していた、因果の索引。
そのうち、月と地球、そして『竹取物語イベント』に関係する枝情報だけを、あの子は慎重に拾い上げていく。
「……ッ!? 思ったより多いっすね」
古代日本。
光る竹。
老夫婦。
求婚。
無理難題。
月からの迎え。
帰還。
似たような断片が、無数に並んでいる。
細部は少しずつ違う。けれど、大筋は同じ。
竹から始まる。
地球で育つ。
人と出会う。
人に望まれる。
人を拒む。
月から迎えが来る。
月へ帰る。
出会い、別れ、届かないものが残る。
「ふーむ……」
「原型に近い枝は、前世にもあった昔話の『竹取物語』とか『かぐや姫』に近いものだったみたいっすね……」
あの子は、指先でひとつの枝をつまみ上げる。
そこでは、かぐや姫は竹から見つかっていた。
翁と嫗に育てられ、求婚者たちへ無理難題を突きつけ、帝とのやり取りを経て、最後は月から迎えが来る。
月へ帰る。
地球には残らない。
物語はそこで閉じる。
「なるほど。これが基本形っすか」
あの子は、枝を元の位置へ戻した。
だが、枝は一本ではない。
少し違う枝がある。
翁が違う。
嫗が違う。
求婚者の順番が違う。
帝との距離が違う。
別れ方が違う。
残るものが違う。
それでも、大筋は同じだ。
竹から始まり、月へ帰る。
似た結末。
似た別離。
似た願い。
同じ物語のようで、同じではない。
同じではないのに、よく似ている。
「別枝宇宙。なるほどなるほど」
あの子は頷いた。
「つまり、月は『竹取物語イベント』の処理を、枝宇宙ごとに走らせてるっぽい、と」
多元宇宙論ってやつっすかね?
その説明で大きく外れてはいない。
正確に言えば、枝宇宙ごとに月は独立しており、繋がりはない。
そして、宇宙が一巡する間に、月は一度だけ『竹取物語イベント』を実行している。
「なーるー、宇宙ループ仮説ってやつね」
意外と物知りだな。感心した。
感心されたっす。
こういう無駄だけどカッコよさげな知識だけは持ってるんすよね。
「にしても、無限に別たれた枝宇宙が、それぞれ一定周期で無限にループしてるって、宇宙全体のリソースってやばいっす」
「そのリソース使ってみてー」
一個人には過ぎた願いである。
あの子は索引の奥へと潜る。
竹から始まり、月へ帰る。
その反復。
その差分。
その中で、大きくズレたものを探っていく。
そして。
あの子の目が止まった。
「……ん?」
明らかに、大きくずれた枝がある。
古代日本ではない。
光る竹ではない。
翁でも嫗でもない。
現代日本。
七色に光る電柱。
酒寄彩葉。
かぐや。
「電柱? 七色? ゲーミング?」
あの子は二度見した。
何度見ても、そこに表示されているのは七色に光る電柱だった。
現代日本。
酒寄彩葉。
かぐや。
月からの迎え。
別離。
銀細工の腕輪。
歌。
隕石。
八千年。
ヤチヨ。
ツクヨミ。
断片が並ぶ。
さっきまでの、御伽噺に似た枝とは明らかに違う。
開始地点から違う。
時代が違う。
舞台が違う。
拾い上げる者が違う。
竹はない。
老夫婦はいない。
求婚者もいない。
そこにいるのは、酒寄彩葉だった。
「これが『かぐや姫』ではない『かぐや』の始まりっすか」
あの子は、枝を拡大する。
酒寄彩葉との邂逅。
かぐやという名付け。
月からの迎え。
別離。
そこまでは、まだ竹取物語の変奏として理解できる。
だが、その先。
銀細工の腕輪。
歌。
隕石。
八千年。
月見ヤチヨ。
ツクヨミ。
「ほえぇ……」
『竹取物語イベント』は、かぐや姫個体が月へ帰って終わる、はずだった。
かぐや姫個体自身の履歴も、そこで閉じるはずだった。
少なくとも、原型に近い枝では。
だが、この枝は終わらなかった。
『竹取物語イベント』は終了している。
終了していないのはかぐや姫個体の履歴。
別離のあとに、まだ履歴が続いている。
その履歴の先に、月見ヤチヨと仮想空間ツクヨミがあった。
情報を圧縮して落としているため、全貌までは読めないが。
月見ヤチヨへと至る重要なファクターとなっているのは、
酒寄彩葉との邂逅。
異常値を示す情動反応。
酒寄彩葉に与えられた『かぐや』という名前。
別離し、月に回収された後も消えない、酒寄彩葉との再会欲求。
あの子は、そこまで読み取って、画面を閉じかけた。
閉じられなかった。
「……これ、重たい話になりゅー?」
その通りである。
けれど、ここで調査を打ち止めてしまうには、あの子の好奇心は強すぎた。
あと、百合が絡むと基本的に判断能力が死ぬ。
「判断力が死ぬ?」
「このボクの判断能力が?」
「パピコがあったら、即座に一人で食べる決断を下せる。 このボクの判断能力が死んでるって?」
それはただボッチなだけである。
判断能力は関係ない。
あと、地の文に噛みつかないでほしい。
あの子は、深く息を吸った。
そして、断片をさらに奥へと潜る。
現代日本へ送られたかぐや姫。
酒寄彩葉と出会ったかぐや姫。
酒寄彩葉に名前を与えられたかぐや。
月へ連れ戻されたかぐや。
酒寄彩葉の元へ戻ろうとしたかぐや。
時間跳躍に失敗したかぐや。
そして、八千年。
「……八千年?」
あの子の声が、少しだけ低くなった。
月見ヤチヨ。
かぐやと同じ根を持つ存在。
かぐやと名乗っていないかぐや。
その履歴の先には、八千年という時間が表示されている。
あの子は、しばらく画面を見ていた。
「多元宇宙論やら、並行同位体やら、宇宙ループ仮説やら、大きくずれた枝宇宙やら、八千年やら」
「突き詰めると、なんか重ための百合の検証になりそうな感じっすね」
「こーんな宇宙規模で百合の検証やってるの、たぶん全宇宙でボクだけっすよ」
そう言って、へらりと笑う。
この時点では、あの子はまだ軽口を叩く元気があった。
不穏な締めはやめるっす!