かぐや「かぐやがいない間に、彩葉がかぐやと浮気したー!」 あの子ちゃん「蛇足っす」   作:超かぐや姫!に脳を焼かれた人

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※これは三話目です。お気をつけください。
一話目、二話目を未読の方は、先にそちらから読むことをおすすめします。

※注意

・このシリーズは、蛇足の中の蛇足にあたる番外編です。
・あの子ちゃん中心のお話です。つまり、オリキャラ要素が強めです。
・彩葉、ダブルかぐや、ヤチヨのイチャイチャは含まれておりません。
・甘々後日談を期待されている方には向かない内容です。

以上を許容できる方のみお読みください。



蛇足の蛇足03 あの子ちゃん「『信じて送り出したかぐや姫が、限界苦学生スパダリ女子に完堕ちさせられたんだが』……ってやつっすね」

 

次の履歴を開く。

あの子は、空中に浮かぶ演算窓を見た。

 

月見ヤチヨへ至る枝。

大きくずれた枝宇宙。

現代日本、七色に光る電柱、酒寄彩葉、かぐや。

 

その先に表示されていた、八千年という時間。

 

索引は、その八千年へ至る手前から、履歴を展開し始めた。

 

まず表示されたのは、竹取物語イベントの基本処理だった。

 

送出。

滞在。

迎え。

回収。

終了。

 

それだけ。

 

ひとつの宇宙が一巡する間に、一度だけ実行される月の定型処理。

月がかぐや姫個体を地球へ送り、一定期間滞在させ、月から迎えを出し、回収し、イベントを閉じる。

 

多少の差分はある。

けれど、大筋は同じだ。

 

月の記録上、かぐや姫個体はイベントを成立させるための中核端末として扱われていた。

 

会話する。

笑う。

怒る。

拒む。

別れを惜しむ。

 

そうした振る舞いは存在する。

けれど、それは竹取物語イベントを進行させるための応答系として処理されていた。

 

個体固有の情動履歴としては評価されていない。

未練も、涙も、想いも、月の処理上ではイベント出力の一部でしかない。

 

だが、月見ヤチヨへ至る枝では違った。

 

まず、初期異常。

月の送出時代指定ミス。

 

本来、かぐや姫個体は古代日本へ送出されるはずだった。

竹取物語イベントを成立させるための舞台。

イベントの構造が成立する時代へ、送られるはずだった。

 

けれど、その枝でかぐや姫個体が到達したのは、2030年の地球だった。

 

光る竹はない。

老夫婦はいない。

求婚者もいない。

帝もいない。

 

予定された舞台が、どこにもない。

 

イベントは開始されている。

けれど、次に何をすればいいのかを示す参照先がない。

 

月へ帰るための姫。

物語を終わらせるための端末。

イベント処理によって回収される個体。

 

そう定義された存在が、その定義だけを保持したまま、演目の外へ放り出された。

 

あの子には、その状態が迷子の子供のように思えた。

 

誰にも見つけられない。

誰にも呼ばれない。

演目の役割も遂行できない。

 

完全な孤立無縁。

しかも、赤子の姿で。

 

「……うわ」

 

あの子は、接触履歴へ視線を移す。

 

そこに、酒寄彩葉がいた。

 

酒寄彩葉が赤子を拾い上げた。

紆余曲折はあれど赤子を育てた。

赤子はすぐに美しい少女になった。

 

酒寄彩葉は、かぐや姫個体がどういう存在であるのかを関知しない。

 

かぐや姫個体も、己の役割を事細かに誰かに伝達するようにはできていない。

ただ、どこから来たのか、という酒寄彩葉の問いに、かぐや姫個体は短く月とだけ答えた。

酒寄彩葉は何とも言えない顔をして、「かぐや姫」のようだとこぼした。

かぐや姫個体はその単語に少しだけ反応を示した。

 

何も知らないまま、酒寄彩葉は目の前の少女を見た。

 

役割ではなく。

物語ではなく。

月の端末ではなく。

 

ただの女の子として。

 

そして、名前をつける。

 

かぐや、と。

 

あの子は、その履歴をしばらく見つめた。

 

識別名として見れば、何ら特別なものではない。

月から来た。

かぐや姫みたいだ。

だから、かぐやと呼ぶことにした。

ただ、それだけだ。

 

しかし、その後のかぐや姫個体の応答履歴は段々と変化している。

 

最初の反応は、まだ通常の感情出力と区別がつかない程度の差異だった。

 

笑う。

怒る。

拗ねる。

喜ぶ。

甘える。

 

竹取物語イベント内に用意された、対人応答用の感情表現。

少なくとも、表面上はそう見える。

 

けれど、酒寄彩葉との接触が継続するにつれて、出力の扱いが変わっていく。

 

食事。

会話。

呼称。

叱責。

失敗。

逸脱。

継続接触。

 

それらが、一回きりの応答として破棄されていない。

徐々に、次の反応に参照されるようになっていく。

 

食事は、空腹を満たす処理ではなくなっている。

酒寄彩葉と同じ時間を過ごした履歴として保存されている。

 

会話は、入力に対する応答ではなくなっている。

酒寄彩葉の声を受け取り、それに自分の言葉を返した履歴として保存されている。

 

名前は、個体を区別する符号ではなくなっている。

酒寄彩葉に呼ばれた自分を示す履歴として保存されている。

 

失敗も、逸脱も、わがままも、ただ修正されるべきエラーとして処理されていない。

酒寄彩葉との関係の中に残る履歴として蓄積されている。

 

昨日の記録が残る。

今日の応答が、昨日の記録に影響される。

 

呼ばれたこと。

食事をしたこと。

笑ったこと。

怒られたこと。

一緒にいたこと。

 

そのすべてが、次の反応を少しずつ変化させている。

 

出力だったものが、履歴になっている。

履歴になったものが、次の判断を変えている。

判断が変わるたびに、酒寄彩葉への反応負荷が増えている。

 

情動反応は明らかに異常値を示していた。

 

好き。

楽しい。

一緒にいたい。

離れたくない。

 

対象は、酒寄彩葉。

 

「うぉ……」

「急に高濃度の百合で殴り掛かってくんなっす……」

 

画面上では、ただの情動履歴に過ぎない。

それでも、あの子には、それがもう竹取物語イベントを進行させるための疑似感情には見えなかった。

 

理屈ではない。

設計通りでもない。

本来のイベント進行に含まれていた処理でもない。

 

酒寄彩葉との接触以後、かぐや姫個体の周辺環境に対する意味付けは変化していた。

 

地球は、イベントを処理するための舞台ではなくなっている。

酒寄彩葉がいる場所になっている。

 

時間は、迎えを待つための残量ではなくなっている。

酒寄彩葉と過ごすものになっている。

 

対人応答は、イベントを進行させるための出力ではなくなっている。

酒寄彩葉との関係を維持し、更新するための反応になっている。

 

竹取物語イベントを進行させるためのかぐや姫個体。

その定義は消えていない。

けれど、その上に別の履歴が重なっている。

 

酒寄彩葉に「かぐや」と呼ばれた履歴。

酒寄彩葉と過ごした履歴。

好き。

楽しい。

離れたくない。

 

プログラムされた感情表現が、本物の感情に変わっていく。

そう言い切るのは、観測者であるあの子の願望が入りすぎているだろうか。

 

確かに、その枝では、かぐや姫個体は変わり始めていた。

 

月の姫であるだけではいられなくなった。

物語を終わらせるための端末であるだけではいられなくなった。

イベント処理によって回収される個体であるだけではいられなくなった。

 

酒寄彩葉に名前を呼ばれた。

酒寄彩葉と共に過ごした。

酒寄彩葉と出会ったことで、かぐや姫個体の見る世界は彩づいていった。

 

「月のかぐや姫は、酒寄彩葉に名前を呼ばれ、共に過ごす中で本物の感情を獲得し、ただの「かぐや」になった、と」

「酒寄彩葉……いや、酒寄彩葉"様"、まじパネェっす」

 

あの子は、半ば呆然と呟いた。

 

「『信じて送り出したかぐや姫が、限界苦学生スパダリ女子に完堕ちさせられたんだが』……ってやつっすね」

 

月の立場に立てば、だいたいそういうことになる。

言い方は最悪だが。

 

「ここで竹取物語のジャンルが御伽噺から百合ラノベに転向したんすね」

 

まあ、それで大体合っている。

言い方は最悪だが。

 

とある枝宇宙で、酒寄彩葉と出会い、かぐや姫からただの「かぐや」となった存在。

呼び分けのために今後は仮称、「原初かぐや」と呼称する。

 

☽☽☽☽☽☽☽☽☽

 

月の送出異常、原初かぐやの情動異常を抱えたまま、竹取物語イベントは形式上は終了した。

 

月からの迎えによって、原初かぐやは月に回収された。

原初かぐやの地球滞在記録は閉じられ、イベントは完了扱いになった。

 

物語は終わった。

月の記録上は。

 

「送出する時代は間違えても、回収だけはきっちりやるんすね……」

 

あの子の声には、呆れが滲んでいた。

 

あの子は、帰還後ログを開いた。

 

原初かぐやが酒寄彩葉に向ける強い情動履歴は、月への帰還後も破棄されていなかった。

むしろ、酒寄彩葉と切り離されたことで、悪化しているといっていい。

 

酒寄彩葉に会いたい。

もう一度、あの時間を取り戻したい。

酒寄彩葉の元へ戻りたい。

 

そして、そんな原初かぐやへ地球側から信号が届く。

 

月由来の銀細工の腕輪。

原初かぐやが別れ際に酒寄彩葉へ譲渡したそれが、送信機の役割を果たし、とある音声信号を月へと届けた。

 

それは、酒寄彩葉の歌声だった。

 

歌が届いた。

ただ、それだけで、原初かぐやの情動反応が跳ねている。

 

もう一度、酒寄彩葉に会いたい。

 

「最高。スタンディングオベーションものっすよ」

 

あの子は、誰に向けたものでもない声で呟いた。

 

原初かぐやが行動に移るまでは早かった。

 

使用されたのは、もと光る竹。

月由来のタケノコ型デバイス。

 

かぐや姫個体の送出、維持、回収に関わる中核デバイスだ。

その内部機能に、原初かぐや自身の手で、時間跳躍機能が追加されていた。

 

「あー、うん。ここで出てくるんすね」

 

あの子は、改造履歴を見て眉を寄せた。

 

「あのピーキーなタイムトラベル機能……」

 

目的地は、地球。

目的時刻は、酒寄彩葉との別離直後。

 

竹取物語イベントによる月の送出ではない。

原初かぐや自身の情動を起点とする、自発的な地球再到達の試行。

 

失った場所へ。

失った時間へ。

失いたくなかった相手のもとへ。

 

酒寄彩葉と別れた、あの日の直後へ。

もう一度、ただのかぐやになるために。

酒寄彩葉のかぐやに戻るために。

 

「あー、既視感っす」

 

あの子は、ぽつりと言った。

 

「酒寄彩葉と出会う。月へ帰される。酒寄彩葉に会うために地球へ戻ろうとする」

 

ただし、姫さんにはあの子がいた。

 

「そう、ボクがいたんで! タイムトラベル機能も改修したし、保険だっていっぱい持たせた」

 

過保護が過ぎるのではないだろうか。

 

「我ながら入れ込んでる自覚はあるっす。 知らない仲じゃなし。 百合成分も提供してくれたんでね」

 

しかし、あの子が介入したことで、姫さんことかぐやが酒寄彩葉と無事に再会する枝宇宙が観測された。

そして、本来どこかの枝宇宙で月見ヤチヨへ繋がるはずだったルートが、ひとつ消えた可能性がある。

その枝宇宙の酒寄彩葉は、月見ヤチヨに出会えないかもしれない。

 

「耳に痛いっす。 まあ、観測してない枝の話をしても仕方ないっすけどね」

「可能性の話なんて始めたら、枝宇宙は無限にあるわけですし」

 

理論上は存在するかもしれないけど、それは観測も干渉もできなければ、存在していないのと完全に同義。

エヴェレットの多世界解釈って、たしかこんな感じじゃなかったっすか?知らんけど。

 

そこで、あの子はふと首を傾げた。

 

「あれ? じゃあ、今ボクがいる宇宙の地球って、どうなってるんすかね?」

 

姫さんが月へ戻ってから、地球時間では八十年ほど経っている。

人間の寿命で考えれば、酒寄彩葉は大往生していてもおかしくない時間だ。

 

いつか、調査してみるのもありっすかね。

この宇宙の地球について。

酒寄彩葉について。

 

閑話休題《話がそれたっす》。

 

あの子は再び、ログへと意識を戻した。

時間跳躍のログが、途中で大きく乱れている。

 

「……ん?」

 

あの子は画面に顔を近づける。

 

もと光る竹が、時間跳躍中に何かと接触したようだ。

 

索引が、より詳細な情報を展開する。

 

「隕石?」

 

あの子は二度見した。

 

時間跳躍中に、もと光る竹は隕石と接触していた。

その衝突により、タイムトラベル機能の制御が完全に失われている。

 

時代指定、異常。

機体損傷、重大。

 

原初かぐやは、酒寄彩葉との別離直後の地球には戻れなかった。

 

到達先は、別枝宇宙の地球。

時刻は、本来の目的時刻から、およそ八千年前。

 

「なるほど、隕石との衝突事故で八千年前の地球に漂流したっすか」

 

八千年前。

酒寄彩葉は、当然生まれていない。

 

さらに、最悪なことに、もと光る竹は酷く損傷していた。

 

肉体の構築機能は、正常に動作していない。

原初かぐやの情報体を、そのまま人型として再構築することはできなかった。

 

破損したもと光る竹が選択したのは、完全な身体ではない。

地球環境で情報体を維持するための、最低限の器。

 

小型海棲生物に近い形態。

分類するなら、ウミウシに近い。

 

あの子は、そこで一度ログを止めた。

軽口を叩こうとして、やめた。

 

八千年前の地球。

壊れたもと光る竹。

人型ですらない、最低限の器。

 

そんな状態で、原初かぐやはたった一人放り出された。

 

あの子は、しばらく画面を見ていた。

 

「これは、ちょっと」

 

声が小さくなる。

 

「茶化せないっすわ」

 

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