かぐや「かぐやがいない間に、彩葉がかぐやと浮気したー!」 あの子ちゃん「蛇足っす」   作:超かぐや姫!に脳を焼かれた人

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※これは四話目です。お気をつけください。
一話目から三話目を未読の方は、先にそちらから読むことをおすすめします。

※注意

・このシリーズは、蛇足の中の蛇足にあたる番外編です。
・あの子ちゃん中心のお話です。つまり、オリキャラ要素が強めです。
・彩葉、ダブルかぐや、ヤチヨのイチャイチャは含まれておりません。
・甘々後日談を期待されている方には向かない内容です。

以上を許容できる方のみお読みください。



蛇足の蛇足04 あの子ちゃん「ま、本人たちが幸せならそれでOKっすかね」

 

演算窓の奥で、原初かぐやの八千年分の履歴が展開されていく。

 

朝が来る。

夜が来る。

季節が変わる。

海が変わる。

陸が変わる。

人が増える。

言葉が生まれる。

国ができる。

文明が変わる。

星の見方が変わる。

 

それでも、酒寄彩葉は現れない。

酒寄彩葉は、まだ生まれていない。

 

原初かぐやが戻りたかった時間は、そこにはない。

 

あるのは、壊れたもと光る竹。

地球環境で情報体を維持するためだけの、ウミウシに近い器。

ほとんど何もできない身体。

 

そして、酒寄彩葉に会いたいという強い情動だけだった。

 

あの子は、ログの時系列を少しずつ進める。

 

最初は、ただの残留だった。

 

もう一度時間を越える手段もない。

自由に動ける人型の身体もない。

月への帰還経路もない。

 

しかし、八千年という長い時間は原初かぐやの存在を蝕んだ。

 

忘れていく。

失っていく。

削れていく。

薄れていく。

剥がれていく。

 

けれど、消えないものがあった。

 

酒寄彩葉に会いたい。

その情動だけが残り、原初かぐやの唯一の行動原理になる。

 

ただ待つだけでは、酒寄彩葉には会えない。

ならば、酒寄彩葉が生まれる未来まで、自分という存在を残さなければならない。

 

人型の身体が作れないなら、別の身体を用意する。

現実に自分の足で立てないなら、仮想の世界を用意する。

未来の酒寄彩葉との接続点を作る。

 

もと光る竹をリソースとする。

ウミウシの小さな身体で築いた人脈をフルで活用する。

 

通信。

演算。

拡張現実。

仮想空間。

アバター技術。

 

散らばった技術の断片が、ひとつの方向へ向かって収束していく。

 

仮想空間ツクヨミ。

 

それは最初から、社会基盤として生まれたものではなかった。

 

酒寄彩葉がいつか来るかもしれない場所。

酒寄彩葉が辿り着けるかもしれない未来。

 

酒寄彩葉との待合室であり。

酒寄彩葉のための灯台であり。

酒寄彩葉への祈りにも等しい。

 

「たった一人と再会するためだけに、電子の世界を一つ作っちゃった……」

「これ、いくら技術力があっても一人じゃ無理っすよ。人を巻き込んで、技術を育てて、時間をかけて社会に浸透させ、インフラになるまで押し上げた」

 

ウミウシのような器しか持たない存在が、八千年かけて世界に大きな影響を与えた。

 

「相当な人たらしっすよ、これ」

 

あの子は、少しだけ口元を緩めた。

 

「まあ、姫さんにもその気はありましたし。 妥当っちゃ妥当っすかね」

 

仮想空間ツクヨミへの道程の途中で、原初かぐやの名称断片は変化していた。

 

かぐや姫ではない。

かぐやでもない。

 

月見ヤチヨ。

 

あの子は、その名前を画面中央に固定した。

 

「月見……」

 

月への帰属意識からの脱却。

月の地を踏む者ではなく、地球から月を見上げる者へ。

 

「ヤチヨ」

 

八千年を越えて、酒寄彩葉へ会いに行く者へ。

 

洒落た名前っすね。

だけんど、その覚悟はまったく洒落になっていないっすよ。

 

「かぐやって名前、酒寄彩葉とのほとんど唯一の繋がりだったはずなんすよね」

 

酒寄彩葉に会いたかった。

酒寄彩葉の「かぐや」に戻りたかった。

けれど、そのために伸ばした手は届かなかった。

 

だから、酒寄彩葉の「かぐや」に戻ることを諦めた。

酒寄彩葉に会うことだけに目を向けた。

たとえ、酒寄彩葉に「かぐや」と呼ばれなくてもよかった。

ただ、再会だけを望んだ。

再会するために、八千年先の未来へ自分を繋いだ。

 

少なくとも、あの子はそう解釈した。

 

「かぐや姫」という役割を削り落とした。

 

「かぐや」という名前も、削り落とすことを許容した。

それは、酒寄彩葉から受け取った名前だった。

酒寄彩葉との繋がりを示す、原初かぐやに残された、ほとんど唯一のものだった。

 

それでも、酒寄彩葉に再会する者として、自己の再定義を行った。

それが、最初の月見ヤチヨだった。

 

あの子は、しばらく黙っていた。

 

「ボク知ってるっすよ」

 

小さく、呟く。

 

「これ、絶対に酒寄彩葉に辿り着く手前で燃え尽きるか、へたれるやつっす」

 

かぐやでなくなった自分が酒寄彩葉に会っていいのか。

かぐやでなくなった自分に、酒寄彩葉は気づいてくれるのか。

 

最終的に、一目見れただけで満足とか言い出すやつっすよこれ。

 

そんな未来が、容易に想像できてしまう。

 

「重い女って、土壇場で妙に自己評価低くなるんすよね。 偏見っすけど」

 

このログを読んで、出てくる感想がそれなのは最高に終わってる。

 

☽☽☽☽☽☽☽☽☽

 

月見ヤチヨが仮想空間ツクヨミを作り上げた枝宇宙。

 

そこでも、月の竹取物語イベントの処理は通常通り実行された。

その枝の月でも、当然かぐや姫個体は生まれた。

 

しかし、別枝宇宙から落ちてきた月見ヤチヨが地球に介入した影響であろうか。

 

かぐや姫個体は最初からプログラムの振る舞いではない、情動反応を持って生まれた。

そして、2030年の日本へ送出された。

酒寄彩葉に拾われた。

かぐやという名前を与えられた。

強い情動反応が酒寄彩葉に向けられた。

 

その枝宇宙の酒寄彩葉は、月見ヤチヨのファンガ――ファンガールになっていた。

月見ヤチヨの再会の祈りが酒寄彩葉に届いていた。

それは、長い時を越えて届いた酒寄彩葉への返歌だった。

 

仮想空間ツクヨミを舞台に、酒寄彩葉とかぐやの絆は育まれた。

そして、かぐやは月に回収された。

酒寄彩葉は月へ向かって歌を贈った。

 

酒寄彩葉は自身が月へと贈った歌と、月見ヤチヨの返歌の関係性に気づいた。

そして、月見ヤチヨの正体に辿り着く。

 

酒寄彩葉が月へと贈った歌。

かぐやの残した銀細工の腕輪は、月のかぐやへ歌を届けたのだろう。

かぐやは地球へ向かい、隕石と衝突して、別枝宇宙の八千年前の地球に落ちることになるのだろう。

そして、次の月見ヤチヨへ至る。

 

繰り返す。

因果は巡る。

枝から枝へ。

 

月見ヤチヨと仮想空間ツクヨミが存在する枝宇宙が無数に広がっていく。

すべての枝がまったく同じ過程を辿らないだろう。

 

細部は揺れる。

 

だが、かぐやが月見ヤチヨへ至る流れは、ほとんど固定されている。

あの子のような例外的な外部要因がなければ。

 

「……なんか、もう竹取物語じゃないっすねこれ」

 

あの子は、ぽつりと呟いた。

 

「かぐや姫でもない」

 

スーパーかぐや姫、と口にしかけて、すぐに首を振る。

 

「ダサいっすね」

 

そこで、ふと別の言葉が浮かんだ。

 

「超かぐや姫」

 

あの子は、少しだけ目を細める。

 

「……超かぐや姫!」

 

うん、と頷く。

 

「なんかこれがしっくりくるっすね」

 

映画館で上映したら、興行収入二十五億円くらい行きそうっす。

一週間限定上映が大ヒットしてロングラン上映しそう。

クラファンやったら目標金額の5003%行きそう。

 

☽☽☽☽☽☽☽☽☽

 

「……ボク、何してたんでしたっけ?」

 

軽口だった。

けれど、本人も笑えなかった。

 

あの子は、散らかった作業区画の中央でしばらく固まっていた。

演算窓には、並べられた枝宇宙の履歴が浮かんでいる。

 

原初かぐや。

月見ヤチヨ。

仮想空間ツクヨミ。

別枝宇宙で生まれる後続のかぐや姫たち。

酒寄彩葉と出会い、月見ヤチヨへ至る固定因果。

 

それらが、青白い光の線で繋がっている。

 

「あー……」

 

あの子は、片手で顔を覆った。

 

「逆之羽衣の保守っすね。そうっすね。ボクは最初、姫さんに貸した腕輪の稼働状況を見てただけだったはずなんすよね……」

 

そのはずだった。

 

本来なら、簡単な保守作業のはずだった。

せいぜい、姫さんが酒寄彩葉と無事に再会できたかどうかを、保守作業にかこつけてちょーっと覗き見させてもらおうと。

 

少しだけ。

先っちょだけ。

 

あの子は、気まずそうに咳払いをした。

そして、逆之羽衣の小規模テレメトリとログ断片から修復・解析したデータを並べる。

 

姫さんの周辺にある二つの近似反応。

 

一体は、仮称、βかぐや。

もう一体は、月見ヤチヨ。

地球側技術体系によって構築された外部筐体、および人工身体。

 

そして、竹取物語イベントを終えた姫さん。

 

あの子は、表示された項目をひとつずつ指でなぞる。

 

姫さん。

酒寄彩葉。

月見ヤチヨ。

βかぐや。

仮想空間ツクヨミ。

犬DOGEに相当する因子。

 

原型に近い竹取物語イベントには、どれも存在しない。

 

これらは単独の偶発的異常ではない。

 

一度の送出時代指定ミスだけでは、ここまで揃わない。

一度の時間跳躍事故だけでも、ここまで育たない。

最初の月見ヤチヨが八千年かけてツクヨミを作っただけでも、すべては揃わない。

 

何度もずれた。

差分が生まれた。

 

差分が、次の枝に混じって条件になった。

条件が、次の枝の前提になった。

前提が、次の枝のかぐや姫を変えていった。

 

月見ヤチヨは、かぐやと同一起源を持つ並行同位体であり、酒寄彩葉と出会ったかぐや姫個体の成れの果て。

言い方が悪いっす。あと、姫さんは例外になりそう。

 

βかぐやは、解析結果を見るに、月見ヤチヨの中に残っていた「かぐやとしての記録」を、地球側の筐体に載せた存在という表現が一番近しい。

これ、最初まじで理解できなかった。業が深いっす。

 

何はともあれ、これにて、姫さんの近似存在に関する調査はクローズっす。

 

かぐやが三人いる。

正直、この異常な枝が成立したことが良いことだったのか、悪いことだったのか。

あの子には、判断がつかない。

 

だが、姫さんは、酒寄彩葉に会えた。

それは間違いなく良いことだ。

 

しかし、この枝の酒寄彩葉からすれば———

 

「並行同位体との邂逅を、はたして再会と呼んでいいのか」

 

あの子は、ぽつりと呟いた。

 

構造だけ見れば、姫さんも、月見ヤチヨも、同じ根を持つ別履歴存在ということになる。

 

それを、再会と呼んでいいのか。

それとも、別人との邂逅と呼ぶべきなのか。

 

「そんなこと考えちゃうのは、野暮ってやつなんすかねぇ……」

 

答えは出ない。

 

あの子は、姫さんたちのいる枝の構造をもう一度眺めた。

 

「ま、本人たちが幸せならそれでOKっすかね」

 

これ以上を望むのは、きっと強欲だ。

 

☽☽☽☽☽☽☽☽☽

 

逆之羽衣のフルログは、相変わらず取得できない。

小規模テレメトリと断片ログも、いつ取得できなくなるかわからない。

だから、月見ヤチヨのログを追う裏で、あの子はすでに次の手を打っていた。

 

「おっ、終わった終わった」

 

裏でフル稼働させていたデータ解析が完了した。

 

「同一宇宙にはない。そして、か細いながらも、別枝宇宙との通信経路は実在している」

「これだけ材料が揃ってれば、姫さんのいる別枝宇宙を特定することくらいわけないっす」

 

あとは、特定した別枝宇宙へ移動する手段を確立するだけっすね。

世界と時間を移動するデバイス。

 

もと光る竹じゃ味気ないし、なんか、こう、マゼンタカラーの二眼レフ トイカメラみたいな形状にして。

銀幕のオーロラみたいなの発生させたいっす。

 

「気ままに別枝宇宙を通りすがってみるのも楽しそうっすねぇ」

「姫さんの様子もそのうち見に行くっす。 もちろん、遠くから見守るに留めるけど」

 

多元宇宙論、並行同位体、宇宙ループ仮説。

あの子は新しいおもちゃを与えられた子供のように、次のお遊びに興じ始めた。

 





ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

蛇足の蛇足と言いながら、気づけば四話分。
しかも内容はほぼ説明回ということで、正直「これを出していいのか……?」とはかなり迷いました。

ただ、あの子ちゃんという存在を通して、この世界の裏側や、かぐや/ヤチヨ周りのあれこれを書いておきたい気持ちが強かったので、最終的には公開することにしました。

彩葉、ダブルかぐや、ヤチヨのイチャイチャが求められていることも、もちろん理解しております。
そちらも今後、別作品と並行しつつ鋭意執筆予定です。

ここまで、あの子ちゃんの話にお付き合いくださりありがとうございました。
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