【CERO-Z】P-LUG-MATTER (ぷ らぐ またぁ) 〈ふと気が付いたら、月で出会った少女とその運命を背負い続けることになっちゃった件〉 作:をよよ
「背負い続ける。君と、君との運命を」
それなら「PRAGMATA」じゃなくて「P-LUG-MATTER」じゃね?
と着想を得て書き始めた、PRAGMATA本編(デフォルトエンド)を前提とした再編ストーリーです。
【各種ご注意】
※PRAGMATAロスの方向け
※オリキャラ。完全シリアスです
※CERO-Z相当:極端な暴力・人体損壊・子供トラウマ描写あり
※PRAGMATA本編(デフォルトエンド)を前提とした二次創作
※独自設定・独自解釈多数
※ホラー・SFサスペンス・ボディホラー要素あり
※執筆に当たっては生成AIを活用しています
激しい雨が、ガラス窓を叩く音がしている。
けれど、それは月面を襲った太陽嵐の冷たい金属音なんかじゃない。
乾いた土を潤し、生身の肌を濡らす、本物の地球の雨。
やがて雲の切れ間から、燃えるような夕日が差し込み、世界を圧倒的な色彩で染め上げた。
雨上がりのアスファルトの匂いが立ち込めるベランダへ、成長したレナは裸足のまま一歩を踏み出す。
彼女は耳を澄ませた。
遠くの街の古い時計塔から、夕暮れを告げる教会の鐘の音が、深く、静かに響き始める。
それは、月面基地(クリブ)全体を恐怖で震わせたあの不気味な機械の時報(VLF)なんかじゃない。
人々に一日の終わりと、穏やかな夜の訪れを告げる、生きている世界の優しい合図だった。
見上げた空には、完全な半円を描く、巨大な光の帯が架かっていた。
塵が光を弾く月面の「幻虹」とは違う。大気中の優しい水滴たちが、太陽の光を正しく、あまねく折り曲げて創り出した、約束の景色。
レナはバイザーのない剥き出しの瞳で、その美しさをじっと見つめ、静かに胸元へ手を添えた。
「……ねぇ、パァ」
「……地球の虹はね、本当に地平線に、おっきな丸を描いて現れるんだよ……偽物みたいにすぐ消えたりしないの……」
「あの時のスプリンクラーの水飛沫より、月面で見た朝焼けの光の柱より……」
「……本物は、本当に綺麗だよ……パァ……」
レナは小さく微笑み、夕暮れの空の向こう——東の地平線から静かに昇ってきた、白く冷たい満月を見つめた。
ーーもう帰る場所ではないところ。
そこにはもう、狂った神も、悲しい唄を謡うお姉ちゃんもいない。
ただ静寂があるだけだ。
けれど、彼女の胸の奥底、固く結ばれた安全ベルトの記憶が、今も彼女の生身の身体を確かに支えている。
あの胸の奥から響いていた、油圧モーターの冷たくて優しいビートは、今も消えずにトントンと彼女の魂を叩き続けている。
レナは満月に向かって、そっと右手の親指を立て、真っ直ぐに突き出した。
あの日、ハッチの窓ガラス越しに交わした、親愛のサインをなぞるように。
その仕草は、誰かに教わらなくても自然にできた。
遠い記憶の中の温かな掌と、不器用な優しさが、今も彼女の中で生き続けている。
「……パァ。わたし、ここで、ちゃんと生きてるよ」
かすかな風が、彼女の髪を揺らして吹き抜けていく。
地球の、生きている星の呼吸のなかで、レナの静かな告白は遠い銀の荒野へと、優しく溶けていくのだった。
(『P-LUG-MATTER』—— 完)