覇王なんてもう辞めたい《覇王“ごっこ”のはずが“本物の覇王”にされそうなんだが?》   作:深海 星

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011 ある日の覇王軍

 ネオトウキョウの外れ。

 地下鉄跡地。かなりの広さを誇るそこは覇王たちの住処となっており、周りからは覇王城(ルナ命名)と呼ばれていた。

 その覇王城のとある一室、そこに11の影があった。

 影は薄暗いその部屋中で、大きな円卓を囲み座っていた。

 皆一様にやる気に満ち溢れ、知らぬ者が見れば思わず逃げてしまうほどの妙な熱気が漂っていた。

 

 その中の一番小さな影が口を開いた。

 

「最近、九条からの圧力が高まっています」

 

 他の影たちが頷く。

 小さな影、ルナは続けた。

 

「今、我々には補給が必要です」

 

 皆の顔を見渡し、更に続ける。

 

「凡そ一月ぶり……ついにこの時が来ました」

 

「おお……!」

「来ました、か!」

「この時を……待っていた……!」

「やります、か!」

 

 他の影、覇王軍隊員たちがざわめき出す。

 ルナが片手をすっ、と上げた。

 すると波がサッと引くように場が静まる。

 

 ルナが立ち上がり、口を開いた。

 

「それではこれより……覇王様クラブによる『覇王様成分シェアの会』を始めます!」

 

 割れんばかりの歓声がその場を包んだ。

 それはルナが両手で静かに、とジェスチャーをするまで続いた。

 静かになったのを見て、ルナが手を叩いた。

 すると机の真ん中にホログラフィックスクリーンが現れた。

 咳を払い、ルナは口を開く。

 

「それでは……まずは赤井からですね」

 

「はいっ!」

 

 赤井と呼ばれた赤髪の男性隊員が立ち上がる。

 

「では、こちらをご覧ください!」

 

 そう言って指を鳴らす。

 少しして映像が流れ始めた。

 それは3Dホログラフィック技術をふんだんに使った立体映像だった。

 映像に映っているのは赤井本人と、3Dグラフィック技術により完全再現された覇王、通称《3D覇王様》だった。

 映像の中の3D覇王様が口を開く。

 

『む……赤井か、いつもご苦労』

 

 その声はルナが玲の声を録音して作った合成AI音声、通称《覇王ロイド》だった。

 すこし機械的な発音ではあるが、よく知らぬ者がその声を聞けば覇王本人だと思うくらいには精巧に作られていた。

 

『はい!覇王様こそお疲れ様です!』

 

『ああ……む、赤井。その靴新しい物だな?よく似合っている……カッコいいな』

 

 覇王の視線は赤井の足元へ向いていた。

 

『は、覇王しゃま……!!』

 

『今度店を教えてくれ……』

 

 覇王がゆっくり赤井へ近づく、そして……赤井の耳元に口を近づけ囁いた。

 

『俺も同じ靴が欲しい……ンハァ』

 

 それは高級ASMRと遜色の無いほどの立体音響で作られていた。更に吐息のおまけ付きである。

 映像はここで終わる。

 いささか願望と妄想が混ざり過ぎている映像だったが、靴を褒められたことだけは本当だった。

 

「どうですか!覇王様が私のおニューの靴を褒めてくださったんですよ!!」

 

 赤井はそう言うとどこからか靴を取り出す、それは透明なぶ厚いケースに覆われていた。

 

「おお!すごい!」

「いいなぁ〜!!」

「こういうのを待ってた」

 

 他の者たちは羨ましそうに靴を眺めている。

 

「は〜い!次は私〜!」

 

 緑髪の女性隊員、緑子(みどりこ)が手を挙げた。

 そして『えいっ!』と可愛らしい声をあげる。少しして映像が再生された。

 

 そこは覇王城内のどこかの廊下。

 

『む、緑子ではないか』

 

『あ〜!覇王様〜!!』

 

『少し顔色が悪いな大丈夫か?』

 

 覇王は緑子の顔を少し覗き込む。

 

『えぇ〜!大丈夫ですよ〜!』

 

 緑子は両手を軽く振り、元気だとアピールする。

 

『無理はするなよ……そうだ、これを飲め』

 

 そう言って覇王は持っていた袋から一本のペットボトルを取り出した。そして赤井の時と同じく、3D覇王様が緑子の耳元で囁く。

 

『ほら、覇王のおいし〜い水だ……ふ〜』

 

 やけにねっとりとした喋り方だった。

 そこで映像が終る。

 何故3D覇王様に息を吹きかけさせたのかは謎である。

 

「覇王様が私にお水をくださったんですよ〜!!」

 

 そう言って緑子はどこからともなくペットボトルを取り出した。勿論ぶ厚いケースに覆われている。

 

「素晴らしい気遣い!」

「流石覇王様!」

「こういうのを待ってた」

 

 自分たちのような一般隊員にも平等に慈悲をかけてくれる、そこがまた……良い!と、皆の心の中は一致していた。

 

「よし!じゃあ次は俺だ!!」

 

 黒髪の男性隊員、黒井が立ち上がった。

 ぱんぱんと執事のような手付きで手を叩くと映像が始まった。

 

『ああ、黒井。いつもすまないね』

 

 そこは居酒屋の前だった。覇王の肩にはクロガネが担がれている。

 「ん?」と誰ともなく疑問の声を上げた。

 映像は続く。

 

『全然大丈夫です!』

 

『じゃあクロガネを頼むよ』

 

 そう言って黒井の持ってきた荷車に、覇王はクロガネを寝かせる。

 映像は何故かクロガネの方を映している。

 

『すやすや……』

 

『ああ、これが俺の幸せなんだなぁ……』

 

 そう言って台車を引く黒井を映し、映像は終わった。

 覇王よりもクロガネが映っている時間の方が長かった。

 

「どうですか?!俺、覇王様をお迎えに行く仲なんすよ!」

 

 目を輝かせて黒井は話す。

 だが、周りの反応は冷ややかだった。

 

「なんか違う……」

「これじゃ無いんだよ……」

「こういうのは待ってない」

 

 思った反応と違い、黒井はたじろぐ。

 だが気を取り直して先の二人のように、自信満々に思い出の品を懐から出した。

 

「ほら!これがその時のクロガネの靴下だ!」

 

 そこにはビニール袋に入った黒い靴下が片方だけ入っていた。

 

「臭そう……」

「捨てなよ……」

「クソ」

 

 散々な評価に黒井は打ちのめされ、ふらふらと席についた。靴下は瞬時にゴミ箱に捨てられた。

 

 そうして各々が自分と覇王様との(誇張された)思い出の映像を流した。

 そしてルナの前、最後の一人の番となる。

 

「……フッ……この時を待っていました」

 

 その男は自身の黒髪を掻き上げ、ゆっくりと立ち上がった。

 覇王様クラブ第十席、会を追放されたクロガネに変わり入った新人。

 覇王軍に入ってから日が浅いにも関わらず、ルナのお眼鏡にかなった新時代の風。

 その名はマテタ・コウ。

 覇王に脳を焼かれた者である。

 

 マテタが舌を鳴らすと映像が始まった。

 

『いらっしゃいませ!お客様』

 

 そこはとあるコンビニの店内。

 そこに威風堂々とした客が入ってきた。

 覇王だった。

 

『やあ、店員よ。すまないが水を貰えるか?』

 

 覇王は髪をかき上げ、キメ顔を作り言葉を続ける。

 

『美味しい水をねぇ……!』

 

『ハッ!かしこまりました』

 

 店員姿のマテタは店の奥から一本のペットボトルを持ってきた。

 

『こちら、最高品質の『覇王様の美味しい水』にございます』

 

『ほぉ〜お?』

 

 覇王が舌を鳴らす。コッ!と小気味良い音が響いた。

 

『ではそれを貰おうか……』

 

 ピッ!と電子音が鳴る。

 

『ンハァ……お会計……88エンでぇす、す……す』

 

 何故かエコーがかかっている。

 

『これで頼む……釣りは……取って、お、き、な……』

 

 覇王は一万エン札を出し、颯爽と店から出て行った。

 そこで映像が終わる。

 きっと玲が映像を見ていたならば悶絶し、のたうち回ったことだろう。

 

「これが……俺と覇王様の出会いです!」

 

 映像が終わった瞬間『おお!』と言う歓声に溢れ、拍手喝采となった。

 赤井と黒井は涙を流して感動している。

 

「すば〜らしぃ!」

「ブラァボ!!」

「ファンタスティック!!」

 

 マテタは懐から一枚の写真を取り出した。

 

「そしてこれが、その時の写真です」

 

 それはあまりにも画質の悪い写真だった。

 それもそのはず、それは監視カメラの映像を無理矢理画像にした物だったからだ。

 だが、かろうじてマテタと玲が握手しているのは認識できた。

 皆はその写真を羨ましそうに見ていた。

 

「俺も覇王様とツーショット撮りてぇ!」

「くそ!ずる過ぎる!!」

「わ〜!いいなぁ〜!!」

 

 もうなんでもありだった。

 ルナがコホン、と咳払いをすると一斉に静かになる。

 

「……じゃあ、私の番」

 

 そう言うとルナの後ろにあった大型モニターの電源が付いた。

 そこに映っていたのは高尾マウンテンの湖畔だった。

 

『よくやったなルナ』

 

『……覇王様』

 

 優しくルナを抱きしめる覇王。それをゆっくりと確かめるように抱き返すルナ。

 それは今までの合成映像とは違う、まごうことなきあの時のものだった。

 二人がそっと離れたところで映像が終わる。

 マテタ以外の全員が生でその場面を見ていたはずだが、皆の目には感動の涙が浮かんでいた。

 

「何度見ても良い」

「尊い……」

「ルナ様可愛い〜!」

 

 皆の反応をむず痒そうに聞いていたルナだったが、その次の瞬間にはしゅんとなり、ぽつりと口を開いた。

 

「……でも、思い出の品は特に無い……私も何か、貰っておけばよかったかな……」

 

 今にも泣き出しそうなルナを見て、その場の全員がルナの元に駆け寄り、言葉をかけた。

 

「大丈夫ですよルナ様!覇王様は言えば絶対何かくれますよ!!」

「そうですよ!!それにこんなに愛情を注がれてるのはルナ様だけです!!」

「大丈夫!自信を持ってください!!」

 

 皆の必死の励ましによって、ルナはなんとか気を取り直した。

 

「うん、ありがとう」

 

 その顔には少しだけ笑みが含まれていた。

 皆の顔にも笑顔が戻る。

 少ししてルナは席を立ち上がる。

 

「それでは……今から次の作戦に関する会議を行います……会議室に移動しますよ」

 

「「「「「ハッ!!!」」」」」

 

 そうしてルナを先頭にして全員がその部屋を後にした。

 部屋の扉には『第二覇王様クラブ室』と書かれていた。




良かったらお気に登録、評価、感想よろしく願います。
まじテンションぶち上げになりますので。

いつも感想、お気に入り登録など、本当にありがとうございます。
恐らく感想がついていなければ7.8話位で投稿を辞めていたので、本当に感謝しています。
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