覇王なんてもう辞めたい《覇王“ごっこ”のはずが“本物の覇王”にされそうなんだが?》   作:深海 星

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012 覇王の求めるモノ

「何故だ!?何故殺せない!!!」

 

 九条インダストリアル本社、その最上階の社長室。

 相変わらず大きな机と一つの椅子しかない、殺風景な部屋だった。

 そこにグレーのスーツを身に纏った細身の男、九条祐一が一人怒りに震えていた。

 祐一は怒り任せに机を叩いた。

 幾度となく刺客を送り込んでいるにも関わらず、その尽くが失敗に終わる。

 

「まさかゴノレ豪までしくじるとは……!!」

 

 ゴノレ豪は裏社会に名を轟かせる実力者だ。

 今の時代に単独で活動するなど並大抵の人間に出来る芸当ではなかった。

 そのゴノレ豪が失敗した。しかも連絡が一切取れないのだ。

 覇王を暗殺しようとして逆に自分が殺された。そんな噂が流れるのも無理はなかった。

 

「クソッ!クソッ!!クソォーーーー!!!!」

 

 何度も何度も感情任せに机を叩く。

 その反動で机の上に置かれていたものが倒れ、祐一の元へと転がった。

 

「おまけにこれは何なんだよォーー!!」

 

 それは一本のペットボトルだった。

 ラベルには『覇王様の美味しい水』と書かれている。

 

「意味わかんねぇだろ!こんな物売ってんじゃねぇ!!!」

 

 祐一はボトルを思いっきり床に叩きつけた。

 ボトルは何度か跳ねたあとコロコロと、虚しく転がった。

 激しく乱れた息をなんとか整える。

 乱れた襟を正し、椅子に腰掛けた。

 

「まあ、いいだろう」

 

 髪を乱雑に掻き上げる。

 掻き上げた後の手には、自身の黒い髪が張り付いていた。

 不快感を顕にしながら髪の毛をその場に捨てる。

 

「クソッ……ふぅ、だが奴らもここまでだ……!」

 

 抜けた毛を見て新たに湧き上がった怒りを、なんとか抑える。

 椅子から立ち上がり、ガラス張りの窓へと歩いた。

 ネオトウキョウを一望しながら不敵に笑う。そうしないと自分を保てそうになかったからだ。

 

「今度こそ!終わりだ覇王……!《黒狼》と《鵺》の同時攻撃だ……!!」

 

 両手を広げ、高笑いをあげる。

 

「ハーハッハ!!しかも灰域からの奇襲だ……!!避けられる訳がない!!!」

 

 祐一は勝ち誇った笑みで高笑いを続ける。

 だが、その目には光が宿っていなかった。

 

 

 

 ――――――――

 

 

 

 

 覇王城。

 その一室。

 そこにはありとあらゆる高級品が置かれていた。

 革のソファー、キングサイズのベッド、巨大なテレビ、etc……

 玲は部屋の奥に置かれた、高価そうな椅子に腰掛けている。ルナが持ってきた料理をつつきながら、のんびりと食事を楽しんでいた。

 ルナ当人は玲の膝の上で体を預けている。その姿は完全にリラックスしており、うつらうつらと舟を漕いでいた。

 

 テレビからは出演者たちの笑い声が聞こえてくる。

 このような時代でも人類はしっかりとバラエティ番組を作っていた。

 

「……覇王様……美味しい?」

 

 その声は優しく、呟くようなものだった。

 

「ああ、美味しいよ」

 

 玲は頭を優しく撫でながら答えた。

 ルナはそれを気持ちよさそうに受け入れ、目を細めていた。

 

(まあ美味しいことは美味しいんだけど……)

 

 玲は手元の料理を見る。

 そこに並んでいたのは肉、肉、肉。

 後は揚げポテト。

 

(流石にこれは胃もたれしそうだ……)

 

 せめて米が欲しい、玲は切実にそう思った。

 

「野菜が……いるな」

 

 思わずポツリと漏らす。

 その言葉にルナはピクリと眉を動かした。

 

「野菜……ですか?」

 

「そうだ、野菜だ」

 

 玲は箸を動かし、肉を一切れ掴むとルナの口に運ぶ。

 ルナは小さな口で端っこだけを食べた。その残りは当然のように玲の口へ運ばれた。

 もぐもぐと口を動かし、飲み込んでからルナは口を開いた。

 

「……分かりました覇王様」

 

「分かったかルナ」

 

「はい……必ず……野菜を手に入れます……」

 

 眠そうな目をこしこしと擦り、膝の上から降りると立ち上がり伸びをした。

 その目は幾分かいつもの鋭さを取り戻す。

 その時、部屋の反対で猫が目を覚ました。前にルナが拾ってきた白い猫だ。猫はルナと同じように伸びをして、部屋の外へと向かい出す。

 

「動き出したか……」

 

 玲はそわそわしながら猫を見ていた。撫でたくて堪らなかったのだ。

 

「動き出した……ですか?」

 

「ああ、外へ向かうようだ……」

 

「外……ですか……なるほど遂に奴らが」

 

 猫は扉の隙間からするりと部屋の外へ歩いていった。

 その様子を見ていた玲は残念そうに肩を落とし、ルナに目線を向ける。

 そこに居たのは完全にいつもの鋭さを取り戻したルナだった。

 

「分かりました覇王様!必ずや野菜を……そして奴らも片付けてきます!」

 

「あ、うん。よろしく……奴ら?」

 

 玲の言葉を最後まで聞くことなく、ルナは足早に部屋を去っていった。

 

(まあ、いいか。いつものことだし)

 

 気を取り直し、食事に戻る。

 すると丁度テレビもCMに入ったようだった。

 そこには美しい湖畔が映し出されている。

 

(あれ、なんか悪寒が……)

 

 体をぶるりと震わせる。

 次の瞬間よく知った顔が映し出された。

 自分の顔だった。

 

(は?)

 

 こんなものを撮られた覚えは無かった。

 いや、よく見ればそれは精巧に作られた3Dモデルだと分かる。なら良いか。とは流石の玲でも思わなかった。

 そして画面の中の玲が仰々しくポーズを決め口を開く。

 

『我が名は覇王!愚民どもしっかり水を飲んでいるか!?』

 

 間違いなく自分の声だ。謎技術の登場に玲は頭を抱えた。

 そんな玲のことなどお構い無しに、3D覇王は手を前に突き出す。

 

『喉が乾いたら『覇王様の美味しい水』だ!』

 

 どこからともなくペットボトルが出現し、くるくると勢いよく回る。バーンと水滴のエフェクトがこれでもかと出ていた。

 

『覇王も認めたこの味わい!』

 

 3D覇王がそのボトルを手に取り、ゴクゴクと酒を煽るように飲み干した。

 そしてポケットから1枚の円形の紙のような物を取り出した。

 

『今なら覇王様シールも貰えるぞ!!』

 

 そこで画面は白くなり、デカデカと文字を映し出した。

 【覇王様】【H.L〜ハイドロ・ロジクス】

 玲は目眩を覚え、目元を抑えた。

 

「覇王は企業名じゃねぇだろ……!!」

 

 それは約15秒の拷問だった。

 

「覇王……もう辞めたいぃ」

 

 その言葉は虚しく部屋の中に響いた。

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