覇王なんてもう辞めたい《覇王“ごっこ”のはずが“本物の覇王”にされそうなんだが?》   作:深海 星

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013 覇王の悩み

 あのCMが放映されて以来、覇王の存在は世間に一気に知れ渡った。

 これまでは街を歩いていても特段見向きもされなかったのだが、今では――

 

『あ、水の人だ』

 

 と指を差されるようになってしまった。

 今までは“覇王”という言葉だけが独り歩きしていたが、今回の件で覇王の顔が知れ渡ったのだ。

 玲は薄々、『自分は引き返せないところまで来ているのでは?』と感じ始めていた。

 両手を広げても埋めきれないベッドに横たわり、額に手を当て考える。

 それは“あの日”のことと“これから”のこと。

 

(……あの日、ルナに出会った日のことを後悔はしていない)

 

 それだけは間違いなく言い切れた。

 あの日、死にそうに見えた彼女は日に日に活力を取り戻し、今では玲の知らぬところで勝手に走り回っている。

 大変喜ばしいことだ。だが――

 

(俺はこれからどうする?)

 

 自分が与えたもの以上を返してくる少女。少なくとも玲はルナのことをそう思っていた。

 玲はベッドから立ち上がり、寝間着から普段のスーツへと着替える。

 

(考えても仕方ないか)

 

 頭を振るい、部屋の外へと続く扉に手をかけた。

 少なくとも今は、それ以上の結論は出せなかった。

 扉の先では慌ただしく隊員たちが走り回っていた。

 玲を見つけると立ち止まり、声をかける。

 

「あ、覇王様!」

「覇王様俺たち今回もやりますよ!」

「覇王様!おはようございます!!」

 

 玲は覇王の仮面を被り、一人一人丁寧に対応する。

 良い顔をして去っていく隊員たちを見て、玲は彼らとの出会いを思い出していた。

 なんの希望も持てず絶望にくれる者、ただ力を持て余し暴れることで何かを解消しようとしていた者、様々な者がいた。

 そして皆が共通して“楽しそう”では無かった。

 だからつい言ってしまったのだ――

 

『共に来い』

 

 と。

 それは覇王としての演技でもあり、玲個人の本音でもあった。

 今の彼らを見ていると、もう少しこのままでもいいか。と思えてしまう。

 その顔には本人も気づかぬうちに笑みが浮かんでいた。

 

 玲は先程よりも軽い足取りで、宛もなく歩き出した。

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 覇王城地下一階。

 そこにある会議室には30名ほどの隊員たちが集められ、綺麗に配置された三人掛けのテーブルに座っている。

 その最前には、ルナが堂々と立っていた。

 ルナは全員が居るのを確認し、口を開く。

 

「先日、覇王様は言われました」

 

 少し溜めを作り意味もなくゆっくりと歩く。

 

「野菜が欲しい……と!」

 

 『おお!』と隊員たちから感嘆の声が響く。

 多くの者の手は強く握られていた。

 現状、食料は畜産系の企業からの購入が殆どであり、皆新鮮な野菜を食べたくて堪らなかったのだ。

 ルナはその様子を眺め、満足気に大きく頷く。

 

「そこで、我々の次の作戦はこうです!」

 

 ルナが手を叩くとホログラムが起動した。

 そこに映し出されたのは高尾マウンテンだった。

 

「その名も……」

 

 隊員たちがゴクリと唾を飲み込む。

 映像が拡大され湖畔が映し出される。そしてその隣に広がる広大な畑が現れた。

 

「『高尾マウンテン畑化計画』です!」

 

 ルナは腰に手を当て胸を張り声高に宣言した。

 最前列で思案顔をするマテタを除き、隊員たちは立ち上がって涙を流しながら拍手をした。

 

「流石は覇王様や……!」

「野菜が食える……!!」

 

 ルナは皆を落ち着かせ、席につかせる。

 一息置いて口を開いた。

 

「そして覇王様はこうも言われました……」

 

 ざわざわ……

 

「外から敵が来る……と!」

 

「なん……だと!?」

「本当なんですかルナ様!?」

 

「本当です」

 

 ざわめきが広がる。だがそれは悲観的なものでは無く、皆の目には闘志が宿っていた。

 再び手を叩くとホログラムは敵の予想進行ルートを表示した。

 

「そこで今回の作戦は部隊を2つに分けて……」

 

 ルナがそこまで口にした時だった。

 その言葉を遮るように、一人の隊員が自身の黒髪を揺らし、勢いよく立ち上がった。

 マテタだった。

 

「お待ち下さいルナ様」

 

 ルナは眉をピクリと動かす。

 

「なんですかマテタ……まさか覇王様のお言葉に異を唱える気ですか?」

 

 その言葉で空気が張り詰める。だがマテタはそれに怯むことはなかった。

 

「果たして覇王様の意図はそこでしょうか?」

 

「……どういうことです?」

 

「では説明いたします」

 

 マテタは立ち上がり、ルナの元へと歩みを進めた。

 

「まず、今回の二つのお言葉は一見別々の意図がある様に見られます。ですが……」

 

 そしてホログラムの前に立つと、専用のペンで何やら書き込み始める。

 

「ここが戦闘予想区域、そして……」

 

 そのまま少し上の建物でペンが止まった。

 

「ここにヘリックスバイオテック、通称HBT社のバイトプラント跡があります」

 

 おお、と感嘆の声が漏れる。ルナも神妙な面持ちで聞いている。

 

「ここは破棄されたとされていますが、人影を見たとの情報が多くあがっています」

 

「つまり何者かがプラントを動かしている可能性が高い……と?」

 

「その通りです。そして覇王様はきっと、こうおっしゃりたかったのでしょう」

 

 手を広げ芝居がかった動きで声高に叫んだ。

 

「敵を排除しバイオプラントを確保せよ――とね!!」

 

「「「「「おおおおお!!!」」」」」

 

「なるほど……」

 

 ルナは思案する。

 一理ある、と。

 今から畑を耕しても、すぐには収穫は出来ない。だが、既にある破棄されたバイオプラントならば時間を短縮できるかも。

 しかも、現在も稼働状態にあるかもしれないと来た。

 ならば、その案に乗っからない手はなかった。

 

「素晴らしい提案です……で、この作戦に名前はあるのですか?」

 

「勿論です」

 

 マテタはニヤリと笑い、ホログラムに文字を書き込む。

 

「オペレーション・デメテル!!覇王様に神の如き恵みをもたらすのです!!」

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