覇王なんてもう辞めたい《覇王“ごっこ”のはずが本物の覇王にされたんだが?》 作:深海 星
(ここが灰域かぁ〜!テンション上がるなぁ!)
ジャンク品を漁り、作業をする老人。楽しそうに走り回る子供たち。露店を出し商売をする恰幅の良い女性。今にも死にそうな座り込んだ青年。
まさにこの時代を象徴するような場所だ。
玲とルナが並んで歩く。
玲はいつものように覇王の仮面を被っていたが、その雰囲気はどこか浮ついている。
(手品の道具あると良いなぁ……)
「フゥン、なかなか良い物が揃っているな」
「……そうですか?……私にはガラクタばかりに見えますが……」
ルナがため息混じりに返す。
「だからこそ良いのだ。だからこそな」
ルナは玲を見る。間違いなく覇王その人だ。
だが明らかにテンションが高く見える。
ルナは少しだけ目を細めた。
「……覇王様、私から離れないようにしてくださいね?……ここは危険なのですから」
「分かっているとも」
玲の目線はルナではなく露店のガラクタに向いていた。
「……絶対ですよ?」
「ああ」
「……聞いてますか?」
「ああ」
(あれ、ルナがいない)
気が付けば隣を歩いていたはずのルナがいなかった。
(ありゃ、迷子か。困ったな)
自分が迷子になったとはつゆほども思わない。
(まあ、いっか!そのうち見つかるだろ)
思案したのも束の間、玲は露店のガラクタを見る作業に戻る。
(おお!)
そこには様々な用途不明のガラクタが所狭しと置かれていた。
謎の銃型の機械。傘だったであろうもの。電球が大量についた布。
銃型の機械を手に取る。
「これは?」
「これは凄いぞ!音だけ凄い銃だ!カラスを追い払うのにぴったり!」
店主はまるで宝物を自慢するように話す。
「こっちは?」
「これがあれば暗闇でも安心!!ずばり!光る布!!」
店主が布を手に取ると電球がぴかぴかと輝き出す。
玲はその隣の傘の取手のような物を指差す。
「あれは?」
「あれは今日壊れた傘の取手だ」
その他にも用途不明なガラクタが並ぶ中で、玲は一メートル程度の棒を手に取る。棒の手元は様々なスイッチが付いているが、そのほとんどが透明な筒状になっている。
「お、にいちゃんお目が高いねぇ〜!」
店主は目を輝かせ、興奮気味に話す。
「それはライトロッドさ!!このボタンを押すと……」
ブゥン!!!
と、大層な音を立てて透明な部分が発光した。
それだけである。
フォン……フォン……と謎の音も鳴っている。
本当にそれだけなのである。
「フゥン、店主これだけか?」
「ああ、これだけだ」
店主と玲の目が合う。
数秒の沈黙。
同時にニヤリと笑い、次の瞬間どちらともなく二人は硬く握手を交わしていた。
「最高だ!」
「だろう!」
玲は迷わずその棒を購入した。
気をよくした店主はおまけだと言って玲に適当なガラクタを渡す。
幸せいっぱいの彼の頭の中は、既に手品道具のことなどすっかり抜け落ちていた。
(ああ、いい買い物だった)
帰ってから部屋で一人チャンバラごっこをする。それだけが今の彼の全てだった。
口角を上げ、自慢げにライトロッドを持つ玲。
そんな玲を見た子供たちが瞳を輝かせ話しかけてきた。
「うお〜!すっげ〜!!なぁなぁそれ何?!それなに〜!!」
ライトロッドに興味を持った子供たちが玲に群がる。
「フゥン、これの良さが分かるか。やるな」
玲は自慢げにライトロッドのボタンを押した。
ブゥン!!!フォン……フォン……
謎の音が鳴り響く。
「うぉ!すっげー!すっげーすっげー!!」
「かっけぇ〜!!」
「振らせて振らせて〜!!」
子供たちは鼻息を荒くしてせがむ。
「良かろう!全力で遊ぶがいい!!」
「やった〜!!」
「うぉ!かっけぇ!!」
子供たちは大喜びでライトロッドを振り回す。
一人が玲を斬るフリをした。
「ウッ!やられた……」
玲も倒れるフリで応じる。
「やったぜ!悪の首領倒したり!!」
「りっちょんかっこいい〜!!」
玲は立ち上がり、子供たちの元へ近寄る。
「さあ、我は行かねばならん。返してくれるか?」
「えぇ〜!なぁにいちゃんこれくれよぉ!」
「なぁ〜いいだろ?なぁなぁ!」
「ウッ……いやしかし……」
子供たちの純粋な視線が玲を襲った。
玲は思わず一歩後ろに下がる。が、すぐに腕を組み口を開く。
「フゥン、仕方が無いな。ただし!皆で仲良く使うのだぞ?」
「よっしゃキタコレ!」
「やったねりっちょん!」
「りっちょんカッケェ〜!」
子供たちは飛び跳ねて喜び、何度も感謝を伝えた後走り去って行った。
ライトロッドはわずか10分たらずで玲の手を離れた。
(まあいいか。子供たち楽しそうだし)
玲は子供には弱かった。だが、その顔はどこか優しい笑みを携えていた。
歩き出そうと足を動かした時、一人の少女と目が合う。
少女はすっと目を背け、すぐに路地裏へと消えて行った。
「は、覇王様がいない!!!!」
ルナの全身に冷たいものが伝わる。
「覇王様ー!……何処にいらっしゃるんですかー?!」
口に手を添え、彼女なりの大きな声で叫ぶ。
周りが何事かと少し目線を向けるが、それも一瞬のこと。
大声を出し慣れていない彼女の叫びはすぐに雑踏へと消えていく。
ついさっきまで確実に後ろにいたはずなのだ。
それがいない。
ルナの顔がどんどん青ざめていく。
「離れないでくださいって言ったのに……!!」
ルナは慌てて来た道を戻る。
玲が見ていたガラクタ屋。じっと見ていた肉焼きの屋台。果てはゴミ箱の裏まで探した。
「い、いない……!!」
ルナは半分パニックになりながらとにかく走った。
走って走って、走った。
そうして走った先、視線の隅に見覚えのある人影が映った。
(あれは……?)
少し戻り、路地を確認する。
確かにそこに見えた人影は、煙のように消えていた。
(気のせい……?)
もう少し確かめようか。そう足を動かそうとして我に帰る。
(ハッ!今はそんなことより覇王様を……!!)
そうして再び走り出そうとしたその時、路地の先を呑気に歩いている玲が見えた。
「ッ!!覇王様……!!」
爆ぜるような勢いで地面を蹴り、一直線に玲の元へ向かう。
「ん?……ああ、ルナか」
あまりにもいつも通り過ぎる声。
自分だけがこんなに焦っていたのかと、ルナは拍子抜けする。
だが覇王を見つけた安堵、それ以上にルナには気になることがあった。
「あの……手のそれは?」
玲が手に持つもの。
それがルナにはどう見ても傘の取手にしか見えなかった。
「これはおまけの傘の取手だ」
傘の取手だった。
本当にただの傘の取手だった。
だが、敬愛する覇王様がそんなゴミを理由もなく持っているはずが無い。
だが、ルナの忠誠心が悪い方に働き、正常な判断を乱していた。
(傘の取手……?何かの隠語……?)
あるいは灰域の新兵器か……そう思案したところで玲のスーツが汚れている事に気がつく。
「覇王様……服に砂がついてますよ」
精一杯に背を伸ばし、スーツについた砂をかいがいしく払う。
「ほら、これでいいですね……今度は離れずに……ついてきてくださいね?」
ひとしきり汚れを落とし満足したようだ。
ルナはおそるおそる玲に手を伸ばし、意を決したようにその手を握った。
「ああ」
玲も軽く握り返す。
「……ほら行きますよ」
その顔はほんの少しだけ口角が上がっていた。
「ここです覇王様」
二人は寂れた建物の前で止まる。
「ほう、ここか」
玲の手がルナから離れ扉に向かう。
ルナの視線は玲の手を追いかけ、そっと自分の手を確かめるように握った。そこにはまだ温もりが残っているような気がした。
扉を開けた先には所狭しとガラクタが置かれていた。使えそうな物から明らかにゴミだとわかる物、挙げ句の果てにはバナナの皮まで置いてある。
床にはよくわからない工具やネジなどが散乱していた。
「フゥン、なかなかの場所だな」
それを見た玲はどこか楽しそうだった。反面ルナは顔をしかめる。
玲が適当にガラクタを手にした時だった。
「ほお?あんたなかなか見る目があるな」
奥から男の声がした。
ボサボサの髪を掻きながら白髪の男が歩いてくる。
目の下に出来たクマをこすり、ぶっきらぼうに玲を見る。
玲が手に持つガラクタを見て、先程とは打って変わった少年のような笑みを浮かべた。
「これなんていいだろう?音がでかいだけの銃だ」
そう言って持ち上げたのはどこかで見た銃だった。
「貴様が作ったのか?」
「そうだ。ああ、こっちもいいぞ」
丁寧に銃を置くと、今度は四角い機械を手にした。
「つまようじ削り機だ!自分好みにつまようじを作れる優れもの」
「……素晴らしいな」
玲は真剣な表情で頷く。
「これは炭酸分解装置、ペットボトルをおけば穴を開けて炭酸を外に逃す」
男は冷蔵庫からペットボトルを取り出して機械にセットした。
次の瞬間『プシュッ』という音が部屋に鳴り響いた。
男はどうだと言わんばかりのドヤ顔を決めている。
「最高だな」
「なかなか話が分かるようだな」
玲の反応に気をよくしたのか、爽やかな笑みで手を差し出した。
「クロガネだ、あんたは?」
玲も口角を上げその手を取る。
「俺か?俺は覇王だ」
「あんたが?あの今噂になってる覇王なのか?」
「多分、その覇王だ」
ふーん、とクロガネは意外そうな顔をして、玲をジロジロと見る。
すると先程まで苦い顔で成り行きを見ていたルナが玲の隣に立った。
「クロガネでしたね……覇王様はお前をお望みです」
「えっ」
「へぇ」
思わず玲は素を漏らしたが、小さい声だったからか二人とも気が付いていない。
クロガネが玲を見る目が鋭くなる。
「あんたの噂はここまで聞こえてくるよ、あることないことね……」
椅子の上のガラクタを丁寧にどかして座る。
「その上で聞きたい。あんたは何故覇王を名乗る?」
鋭い眼差しで玲を見る。
だが玲は気にした様子もなくすぐに答えを口にした。
「楽しいからだ」
クロガネは目を見開いた。
数秒の沈黙。
玲とクロガネの視線が交錯する。
ルナは成り行きを黙って見届けることしか出来なかった。
やがてクロガネは口角を上げると、愉快そうに笑いだした。
「ははっ!楽しいから?バカじゃねえのか?狂ってるぜあんた」
「貴様ッ!覇王様に向かって……!」
ルナの言葉を玲が手で制止する。
ルナは不満そうにしているが、覇王の意思ならばと引き下がる。
一通り笑った後クロガネが口を開いた。
「いいだろう覇王サマ、軍門に降ってやる」
クロガネはただしと付け加える。
「楽しくなかったら、すぐに辞めてやるからな」
「ふん、構わん、好きにしろ」
クロガネは改めて手を差し出す。
「じゃよろしくな、覇王サマ」
「ああ」
玲も手を握り返す。
二人の間には今日出会った者同士とは思えぬ奇妙な空気が漂っていた。
ルナはそんな二人の様子を不満げに見ていた。
その不満をそのままに、ガラクタを手に取り少し不機嫌そうに疑問を口にした。
「貴方は情報ではかなりの技術屋と聞いてましたが……こんなガラクタばかり……」
ガラクタを丁寧に元の場所へと戻して続けた。
「あなた……本当に覇王様の役に立つのですか?」
そんなルナの様子を気にもとめず、クロガネは軽い調子で答えた。
「ああ、まあこっちが本職だがな。武器も一応、趣味で作ってる」
「しゅみ……?いちおう……?」
普通は逆ではないかと、ルナは疑問符を浮かべる。
「まあ、ついてこいや」
クロガネは奥へと歩き出す。二人も、その後に続いた。
少し歩くと地下へ続く階段が見えた。階段を下ったその先、そこには重厚な扉があった。
扉の前で足を止め、クロガネがパスコードを入力する。
少しして扉が音を立ててスライドした。
「これはッ……!」
「ほぉ……!」
そこにはありとあらゆる銃火器が揃えられていた。
――――――――――
『覇王の暗殺に失敗した……?』
乱雑に服が置かれた室内。
男はソファーに腰掛け、机の上の端末から聞こえてくる声に耳を傾ける。
『ふざけているのか?大した怪我を負った様子もない、なのに失敗した?』
「……そうだ」
端末の先の声は不機嫌さを増していく。
『……まあ良いでしょう』
ため息を一つ吐き続ける。
『次の任務だ。旧工場地帯に“ネズミ”が住み着いている、それを始末しろ』
その声には『それぐらい出来るだろう?』と言った言外の圧があった。
「……了解」
それだけ答えて男は通信を切る。
「……覇王」
男の目は僅かに揺れていた。
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2話と3話を加筆修正しました。
大筋は変えてません。主に玲の内心描写を補足しました。